少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

2017年06月の交換日記

2017/06/27(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は266〜 今日の気分次回更新は7月4日(火)予定です







 ミレットとタルクスの二人はパイロープの襲撃から、命辛々脱することに成功していた。
 キエ対キエという異能者同士の戦いであるものの、彼女の狙いがミレットである以上、タルクスは彼女を守りながら戦わなければならなかった。
 だが、そもそも二対一という戦況でもあったため、戦闘はパイロープが不利な状況へと次第に追い込んでいった。
 彼女の『熱』を発する力と、触れたものを『爆発』出来る力。
 その能力には大きな欠点があったことも、この戦況を変える要因となった。
 それは至近距離からでなければ攻撃出来ない、ということだ。
 彼女に近付きさえしなければ灼熱を浴びることも爆発を喰らう事もない。
 片やタルクスの生み出す『竜巻』は遠方にまで威力が及ぶ。
 結果、パイロープはタルクスの一方的な竜巻攻撃を受けることとなり、成す術もなく撤退していったのだった。

『私は絶対に許さない…何があってもバーンズの血を引く者を…!』

 そんな負け台詞を残して。





 その後、ミレットとタルクスは再度の襲撃を念のため警戒しつつ、徒歩で近くの村へ移動した。
 タイート直行便のエナバに乗り込み、こうして現在に至るというわけだった。

「直行便が満車続きだったときはどうなるかと思ったけど、こうしてエナバに乗る事も出来たし…歩き続きになるよりは良かっただろう?」

 タルクスはそう言って微笑み掛けるが、完全に拗ねてしまったらしくミレットは返事すらせず窓の外へ視線を向ける。

「そんなに怒らなくても…」

 寝顔を見たくらいで、とタルクスは言いたいところであったが、年頃の女性ならばそこは気にするのも当然かと思い直しため息を洩らす。
 窓の外は夜明けによって淡い暁の空が広がっている。

(彼が合流していて順調に進んでいたならば、もう東方支部には着いているか…)

 と、そんな事を考えながらタルクスは人知れず欠伸を洩らす。
 先ほどぼやいていたミレットの言葉ではないが、確かに丸一日この姿勢で揺られ続けているというのは、それはそれで窮屈であり、退屈な旅であった。

(彼が上手い事やってくれてると信じて…しょうがないからもうひと眠りしとくかな)

 タルクスはそう決めると背凭れに頭を寄せ、静かに瞼を閉じた。
 
 






2017/06/20(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は265〜 今日の気分次回更新は27日(火)予定です






「って言うか…お前シマ村まで付いてくる気かよ?」
「うん、まだ学校の休み期間も残ってるし…もう一度だけシマ村にお邪魔しようかなって」

 東都市タイートのアマゾナイト養成学校から最南の山村であるシマ村まではエナバを利用しても二、三の日は掛かる距離である。
 そのためミレットは養成学校で学んでいる間は寮生活をしている。
 現在は長期休校機期間であり、それで彼女はその期間を利用してシマ村やラッハタへ戻って来ていたのだった。
 予定外の惨事があったものの、休校期間終了まであと十の日まである。

「……アマゾナイトの養成学校って。やっぱ辛いのか?」
「え?どうしたのいきなり?」
「いや、まあちょっとな……村に着いたら話す」

 その時のミレットはアサの言葉にどんな意味があって、そう尋ねたのかなど、深くは考えていなかった。
 彼がこの後、アマゾナイト入隊を志願するなど、これまで一度も考えたこともなかったからだ。
 彼は故郷の宿を継ぐのだと、思い込んでいた。
 二人はそれぞれの思いと決意を胸に秘めたまま、長いエナバの旅に揺られていった。









 ミレットは静かに目を開ける。
 どうやらエナバが大きく揺れた拍子に目が覚めてしまったらしい。
 窓から外を見ると景色はまだ暗かった。

「まるまる一の日間エナバだと身体が痛くなっちゃうよ…」

 と、そんな独り言をぼやきながら、彼女は瞼を擦る。
 それから一つ欠伸を洩らしたが、途中でそれを止める。
 隣の席から、視線を感じたからだ。

「お目覚めのようで、ミレット嬢」

 口角を吊り上げている表情は暗がりのエナバでもよくわかる程で。
 思わずミレットは顔を紅くさせながら彼の頭を叩いた。

「も、もう!見ないでください!」

 即座に顔を背け、ミレットは乱れていただろう髪や顔を指先で直していく。
 だがかれこれもう2日近く彼と行動を共にしており、乱れた姿など既にもう何度も見られている。今に始まったことではない。
 しかし、それでも赤の他人――ましてや男性にそんな素顔を見られたくはないと思うのが乙女心。

(こんな顔アサにだって見せてない…と、思うのに……最悪)

 ミレットは隣に居るタルクスには見つからないように、こっそりとため息を吐いた。






2017/06/20(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は264〜









 7の日間が経過すると祭はいつの間にか終了となっており、あの大事故についても何事もなかったかのように事態は収束していった。
 未だ川に流されたまま行方不明となっている者もいるという噂を聞くが、大橋の周辺は不思議を通り越して恐ろしい程に静まり返っていた。
 人々の心身に大きな傷跡を残した大事故はこうして事故があったという事実だけが歴史に刻まれることとなり、その実態は如何様だったかまでは語られることもないのだろう。
 何処かの新聞の記事にそんな文面が書かれてあったと、ミレットは不意に思い出した。




「ミレット様…本当に旦那様とお会いせずお戻りになられるのですか?」
「うん。今回の事故できっと更に忙しくなってるだろうし…」

 眉尻を下げるアシュレイを後目にミレットは笑みを浮かべながらそう答える。
 元よりそこまで父親に会いたいとは思っていなかったのだ。彼女にとってはその方が都合良いと言えた。
 それに、ミレットは少しでも早く養成学校へと戻って、今は一刻も早く学力と実力を付けたかった。
 今回、この事故において殆ど何も出来なかった自分の無力さを補いたかったのだ。

(少しでも自分に力があれば…もっと多くの人を救えたはず。ルーノ家の人間としてではなく、一人のミレットとしてアマゾナイトで力をつけなくちゃ……アサだって助けてあげられない)

 ミレットはそう決意を固め、帰路に立つこととなった。

「ミレット様、お体にはお気をつけて」
「うん、アシュレイさんもお元気で」
「アサ様もミレット様のことよろしくお願いします」
「あ、ああ」

 事故の後から、アサがどこか上の空であることはミレットも薄々感じていた。
 あのような惨劇が目の前で起こったのだ。その衝撃に心を病む者も当然いる。
 アサもまた、そのような状態になったのではないかと、内心ミレットは彼を案じていた。
 しかし、尋ねてもアサは「平気だ」と言って返すのみ。
 そのためシマ村へと一度戻った際に彼の姉であるユウに事情を説明しておこうと思っていた。









2017/06/13(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は263〜 今日の気分次回更新は20日(火)予定です




 それを『奇跡』という者もいれば、単なる『偶然』と切り捨てる者もいることだろう。
 しかし、アサにとってあの現象は自分の価値を自然によって肯定されたような――あの奇跡に選ばれた者なのではと思わずにはいられないものになっていった。
 それだけではない。
 アサをそうした考えへ、感情へと大きく揺るがした一言があった。

『ありがとう』

 単なる偶然で助けた少女だったかもしれないが、彼女から受けた感謝の一言がアサの心をこれまでにない方向へと突き動かした。
 誰かを助けると言うことへの快感―――自分が必要とされている実感というものへと。
 あの少女を助けた時、そしてミレットを救った時。アサは思ったのだ。
 自分は選ばれた人間ではないのかと。
 歴史に名を残すことは出来なくても、自身の祖先がそうであったように救った誰かが言い伝えてくれるような人にはなれるかもしれない。
 かつて父親が話してくれた“あの人”のようになれるかもしれない。
 アサは次第にそんな淡い思いを馳せるようになっていた。
 そして、その思いはやがてアマゾナイト入隊希望へと繋がっていくこととなる。







2017/06/13(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は262〜






 一方でアサもまた、自分なりに大事故について調べていた。
 ミレットが寝ている状態の間、アシュレイの集めた新聞を読んだり病院や事故現場にまでも足を運んだりした。
 結局大した情報は得られなかったが、そうまでしてアサは調べたい事があった。
 それは事故の遭ったあの日、あの大河で起こった現象についてだった。
 ミレットを助けようとしたあの時、生き物のように水の流れがうねり、ミレットへと導いてくれた。
 そして、まるで大河自体が助けようとしてくれているかのように、アサとミレットの周囲の水が引いたあの一連の現象。
 何と説明して良いのやらアサ自身も良く理解出来ていなかったためアマゾナイトや国王騎士隊には報告しなかったのだが、それでも同じような現象を体験した。もしくは目撃した者がいないか探してみたかったのだ。
 しかし誰もそんな神がかり的な現象を体験した者などいなかった。
 唯一聞いたのが大河の岸から目撃していたという男性の話し。

「大河に溺れている人を救出している最中見たんだ。突然、川の真ん中辺りに穴が開いたのを。穴は直ぐに塞がれたから水流が急激に変化したか何かだろうと思うんだが…その穴が開いた場所からすぐに沢山の人が顔を出してきてよ…きっとあの周辺に居た奴らはその水流によって救われたんじゃないかって思うよ」

 当然その救われた者達の中にアサとミレットも含まれているのだろうが、驚いたのは他にもあの水流の変化によって救われた人たちがいたということだった。
 だがあの現象について語る者は誰もいない。

(あれはもしかして俺たちしか見ていなかったのか…?)

 目撃者が他にいない以上考えていても埒が明かないため、アサはその不思議な現象について推測する事は止めた。
 が、ただ一つあの現象を目の当たりにして彼が思った事は、あれは自分を生かすべくして起こったものなのではという感覚だった。





2017/06/06(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は261〜 今日の気分次回更新は13日(火)予定です








「取り上げられているのってこれだけなの?もっと具体的な被害者の人数とか、救助された人とか…大橋が崩落した原因だって書かれてないよ?」
「申し訳ございません、ミレット様。ですが国中の出版されている新聞は全て買い集めたはずですが…これだけしか取り上げられておりません」

 更に驚くべきは今日発行された新聞では、もう既にこの大事故については小さな記事でしか取り扱われていないということだった。
 どうやら一部の記事によると、歴史上でも類を見ない大事故に国民たちの心身的なストレスをこれ以上与えないために、国王が情報公開を遮断すると方々に勅命したとのことだった。

「国王様が直々に動いて大事故の対処に当たっているってこと…?」

 そこでまた一つ謎が増える。
 アドレーヌ国の現国王ティバン・メー・リンクスは24歳という若さにして大病により床に伏せていると聞いていた。
 そんな彼が先陣立って事故の指揮が出来るとは思えない。
 そもそも、王族・貴族を含めた上界民と呼ばれていた一族たちは近年短命続きなのだ。
 先代国王も25歳という若さで原因不明の病によって亡くなっており、現国王ティバンも国王になってまだ4年という年月しか経っていない。
 どうやら王族たちは遺伝性の大病に侵されているせいだと王国側はそう説明しているが、今問題なのはその謎についてではない。

「国王様の名を使わないといけない程の大事故だったってこと…もしかして、事故じゃなかった…とか…」

 その瞬間、ミレットは深く暗い底の見えない穴に片足を突っ込むような、そんな感覚に襲われた。
 おそらくこの事故には深い深い闇の様な真実がある。
 だが、その真実に触れられるのはほんの一握りの人間だけであり、自分はその人間ではない。
 悔しい話だが父のような選ばれたものでなければ知る事の許されない―――そんな事故なのだと、ミレットは実感した。
 自分は選ばれた人間ではない。
 だから、これ以上の領域には踏み入れられない。
 今現在の自分の無力さを思い知らされた瞬間だった。









2017/06/06(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は260〜








 目が覚めたとき、ミレットは自宅のベッドで寝ていた。
 特に外傷はなかったものの、随分と疲弊していたらしく丸一日寝ていたと、後に駆けつけてきたアシュレイによって聞かされる。
 本来ならば入院して容体を診るべきであったのだが、あいにく病院は先の事故の被害者たちで満室となっているため、自宅療養という処置になったそうだった。

「ですがもし目を覚まさなかったら…私は…もうどうしたら良いものかと…」

 子供のように泣きじゃくるアシュレイがミレットへと抱きつき、拒絶するわけもなくミレットは彼女の背を優しく撫でた。

「アサ…」
「大丈夫なのか?」
「うん、平気」

 いつもと変わらない素振りを見せつつも、心配そうであるアサを見つけ、ミレットは笑みを浮かべた。
 気を失う寸前の記憶は残念ながら曖昧で、幻覚か夢物語の光景だったのかもしれない。
 しかし、それでも最後の最後に、川の底へと沈んだ自分をアサは助けに来てくれた。
 ミレットはそう信じており、それだけで十分満足だった。
 仮に助けに来たという事実はなかったとしても、アサは自分を見捨てて助けなかったわけじゃないとも確信していた。
 だから彼女は、アサに自分を助けてくれたのかと、尋ねはしなかった。
 代わりに笑顔を見せて礼を言うだけだった。

「ありがとう、アサ」




 目覚めた時こそ空腹と虚脱感で具合は良くなかったが、それも治まるとミレットは何事もなかったかのようにいつもの調子へと戻った。
 体調も特別問題はなく、医師からも健康体であると言われた。
 本調子だと実感するなり、ミレットは早速水祭の事故についての情報を集めた。
 これは生まれ故郷で起こった大事故を知りたい、というよりはアマゾナイトに入隊する一人の人間として知っておきたいと思ったからだった。

「―――事故による死傷者は多数。だがそれ以上の行方不明者が出ている模様で、現在アマゾナイト軍、国王騎士隊が調査中……って…?」

 ミレットは驚き、事故直後から配られたという他の新聞も片っ端から読み上げていく。
 しかし、アシュレイがかき集めた新聞はどの社も同じ内容でしか書かれていなかった。







新着順1 - 7 記録件数 7
●1回の表示で 10 件を越える場合、[次のページ]ボタンを押すことで表示されます.