少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

2017年09月の交換日記

2017/09/26(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は289〜 今日の気分次回更新は10月3日(火)予定です







「うーん…アドレーヌが言うなら…」
「ありがとう!」

 唸り声を上げながらもやむを得ず了承してしまったミレット。
 喜びに更なる笑顔を浮かべ、アドレーヌはミレットの手を掴んだ。


 これでもっと、皆と近付ける。
 仲良くできる。
 二人の間にも入っていける。


 無意識に彼女の脳裏では、東方支部での光景が浮かぶ。
 再会するなりミレットを抱きしめていたアサ。
 涙を浮かべながらアサに抱きついていたミレット。

(…え、どうして―――?)

 アドレーヌは思わず困惑する。
 何故、一瞬二人のそんな光景を思い出してしまったのか。
 どうして思い出して、こんなにも複雑な気分になってしまったのか。
 だが、それを言葉に出す事はせず、すぐさま胸の奥にしまう。
 今の感情は出してしまってはいけないものではないか。出してしまったら後戻りの出来ないものではないか。
 そんな直感が働いたのだ。
 彼女は今の事を忘れるべく、人知れずかぶりを振ってそれを終わりにした。


「…えっと、改めてよろし、く。タルクスさん」
「呼び捨てで構わないって。ミレット嬢」
「…ミレット嬢って呼ぶのを止めてくれたら考える」

 自身の手を差し出すタルクスへ、ムスッとした顔で返すミレット。
 彼は「これは俺のポリシーだからなー」とヘラヘラとした笑いを浮かべながら、強引にミレットの手を掴んで握手を交えた。

「それは強引だろ、不謹慎だな。タルクス」
「そうね、不埒だわ。タルクスは」

 二人の握手を見つめていたアサとアドレーヌは、感情のない言葉でそう言ってタルクスを見やる。
 言葉と裏腹につり上がっている口端を見れば、二人がふざけているのだということが直ぐにわかる。
 更には二人がある人物の真似をしていることも直ぐに察しがついたため、タルクスは眉を顰めながら唇を尖らせた。

「いや二人共リュシカちゃんの真似しなくても良いって」

 彼がそう言った直後、三人は同時に笑みを零す。
 早速ふざけて見せる彼らの姿にミレットは目を何度も瞬かせつつも、釣られて思わず笑ってしまった。





2017/09/19(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は288〜 今日の気分次回更新は26日(火)予定です。




 「そう言えばタルクスさんもこうしたお屋敷で暮らしているんですか?」

 するとタルクスは肩を竦めながらかぶりを振って見せる。

「残念ながら。知っているかもしれないけど俺は遠方のド田舎出身だし『若獅子の再来』なんて呼ぶ人間もいるけど結局は異端児呼ばわりされているからね。中々良い思いはさせて貰えてないよ」

 つまりは他の軍人と何ら変わらない生活だ。と、いう話だ。
 彼は今でも軍の寮にて暮らしているとのことだった。
 確かに彼には威厳と栄誉あるあらゆる肩書きがある一方で、目上も目下も分け隔てなく接する気さくさがある。
 彼のそうした性格は彼自身の出生に恐らくあるのだろうと、アサはふと思った。
 


「―――それよりもさ、そろそろ皆、敬語使うとか遠慮とか止めない?」

  すると突然、タルクスは続けてそんなことを言い出した。
 室内の装飾品に目を向けていたアサたちは彼へと視線を移す。
 彼はもう一度肩を竦めさせて言う。

「前から考えていたんだよね。今は任務上とは言え支部から離れているわけだし、敬語とかは止めにしようかってね。俺としてもそういうのは面倒だし」
「ですが私にとっては上司なわけですし…」
「直接的な関係ってわけでもないし、気にすることないよ」

 そう言って気さくに笑う彼に対し、ミレットはそれでも「ですが…」と言って戸惑っていた。
 それはアサにとってもそうだった。
 仮にも目上である相手に敬語を使わないのは失礼ではないのかと、思わず悩んでしまう。
 と、そんな中。パンとアドレーヌが両手を合わせてみせると微笑みを見せながら言った。

「分かったわ、これからは皆敬語はなし」
「わかってくれるねー、アドレーヌ嬢は」
「私も思っていたの。此処まで一緒である二人に他人行儀は失礼だって。だからアサもミレットも…ね?」

 彼女はそう言うとアサとミレットを一瞥していく。
 アドレーヌも実のところ、前々から違和感を抱いていたのだ。
 アサとは随分と打ち解けている中で、未だミレットには敬語で話していることに。
 二人に対して“さん付け”であることに。







2017/09/19(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は287〜







 日が傾いて数の刻が経つも、まだ暮れなずむ空の中。
 アサたちはようやくミレットの実家――もとい、ルーノ邸へと到着した。
 二年前と変わらずの佇まいにアサは息を呑む。

「ミレットさんはかなりのお嬢様だったのね」
「まあ、ルーノと言えば嘗ての英雄なんでね。今や王族貴族に継ぐ富と名声を持っているって言われてるんだよ」

 開きっぱなしの口を押さえながらポツリと呟くアドレーヌに対しタルクスがそう答える。
 するとミレットが顔を顰め、「そんなことない」とかぶりを振った。

「英雄なんて過去の栄光に過ぎません。今はその脛をかじっている成り下がりです」

 そう言い放つと彼女は慣れた様子で門前に飾られている装飾品の一つである犬の置物の隠し戸から鍵を取り出し、目の前の檻を開ける。
 檻が開かれ中へと入っていく彼女は、迷うことなく中へ進んでいく。
 何処か苛立っているようにも見えた彼女の態度を見やり、タルクスはぼそりと洩らした。
 
「自分の家系にあそこまで言わなくても…ね?」

 と、耳打ちされたアサは薄ら笑いを浮かべるしか出来ず、父に対して相当御立腹のようだと思わずにはいられない。

「よっぽどさっきのルーノ総隊長の態度が嫌だったみたいですね」

 これがいわゆる反抗期なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、アサたちもまた彼女の後を追うように屋敷の中へと足を運んでいった。


 綺麗に手入れされている庭園を突き進み、その先にはオシャレな木製扉が見えてくる。
 その扉を開けると、奥には煌びやかな大理石の床とシャンデリアのある玄関ホールが出迎えてくれる。
 相変わらずの豪邸内っぷりに、思わずアサは初見ではないはずなのに屋内の光景を眺めてしまう。
 と、そんな彼の隣にいたアドレーヌが、不意にタルクスへ質問をした。

2017/09/12(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は286〜 今日の気分次回更新は19日(火)予定です









「あー、ちょっと質問なんだけど。話に聞くところによるとルーノ邸ってかなりの豪邸なんだよね?なのに従者はアシュレイさんて人一人なの?」

 彼の言う通り、確かにルーノ邸はここ東方都市ラッハタでも指折りの、絵に描いたような豪邸だ。
 広さとしてはアサのバイト先であったガーレット、ジストのパン屋アメリアを足しても足りないくらいだったと、アサは記憶している。
 そんな大きな屋敷を従者一人で切り盛りしているというのは、確かに大変な話だろう。
 しかし、それについてはそれなりの理由がある。

「…それは、過去の事件で当時メイドだった人たちが次々と辞めてしまって。それでアシュレイさん一人になってしまったんです。ですが元より父も多忙で、自宅に帰らないことが多いらしいですし、彼女一人でも何とかなるみたいです」

 確かに彼女のてきぱきとした動きは相当なもので、完璧な侍女と言わざるを得ない。
 だからこそバーンズ・ルーノもアシュレイ一人に留守を任せられるのだろうとも思えた。

「ふーん、なるほど」

 と、そう言ってタルクスは納得して何度も頷いていた。
 どういった意図でそんな質問をしたのかと思う半面、彼なら何でも疑問は口にしそうだからなと解釈しながらアサは歩を進めていく。






2017/09/12(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は285〜









 アマゾナイト軍東方支部を出たアサたちはそこから徒歩でミレットの実家であるルーノ邸を目指した。
 本来ならば乗り物にでも乗って楽をしたい所であったが。
 あいにくとタルクスとミレットの乗って来た馬車も、アサとアドレーヌが乗って来た馬車も破壊されてしまい手元にはなく。
 アマゾナイト軍からも現在空いているエナ車も馬車も無いとの理由で貸して貰えず。
 念のため路銀を温存するためにもと、結果歩いて向かうことになったのだ。

「ごめんね、アシュレイさんエナ車も馬車も操れなくて」
「ミレットが謝る必要ないだろ」

 軽く頭を下げるミレットへ、アサはそう告げる。
 アシュレイさんにはアマゾナイトの東方支部から『エナ伝』と呼ばれるエナを使用した伝達機器を使って連絡を入れている。
 伝話越しの彼女は久しぶりのミレットと彼女たちがこれから訪ねてくるという状況にかなり興奮気味のようだった。
 おそらく今頃は大急ぎで町まで買い物に行き、あの豪勢過ぎる手料理に手を掛けるところだろう。
 と、過去の想像に胃を押さえているアサの後ろにいたタルクスがおもむろに挙手しながら尋ねる。







2017/09/05(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は284〜 今日の気分次回更新は12日(火)予定です





「あの、良かったら…私の家に来ませんか?」

 それは可能性として考えてはいたものの、彼女の口から出たことに驚きを隠せない言葉であった。
 僅かに目を見開くアサの一方で、タルクスが即座に尋ね返す。

「ミレット嬢の家にお邪魔するという事は、また君の父であるルーノ将軍と顔を合わせるかもしれないということだけどいいのかい?」

 目に見えて解るくらい、彼女は実の父親に会いたくなさそうであった。
 提案している彼女の表情が、複雑な、顰めた顔をしていたからだ。
 アサとしても先ほどのことを考えれば、無理をして同じ屋根の下で寝るよりも、今は距離を取って宿に泊まる方が良いと思った。

「宿探しをする手間は省けるとしても、さっきの今で顔を合わすのは嫌じゃないのか?お前が無理する必要はないんだぞ?」

 アサはミレットへと歩み寄り、優しく肩に触れながらそう諭す。
 しかし、アサを見つめ返す彼女の双眸は迷いのない真っ直ぐなそれであり、いつも見せていたあの実直な彼女の眼差しであった。

「ううん。さっきも言った通り、私は大丈夫だから。それに…久しぶりにアシュレイさんにも会いたいから」

 笑顔を向けながらそう言うミレット。
 こうなっては何が何でも自分の意見を曲げることはない。
 仕方なくアサが折れ、諦めの吐息を洩らすしかなかった

(本当に、我慢強いと言うべきか単純と言うべきか…)

 そう内心考えつつも、アサの中でミレットの性格は既に判り切っている。
 彼女は父親譲りの気丈で頑固者なのだ。







2017/09/05(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は283〜









「さて、そうなると次は今晩の宿を探してこないと…」
「え?此処で泊めさせてはくれないんですか?」

 ため息交じりにそう口を開いたタルクスに、アサは目を丸くさせながら尋ねる。
 てっきり北方支部のときのように仮眠室なりを貸してくれるのだと思っていたのだ。
 するとタルクスは眉尻を下げながら「いやいやいや」と両手を腰に添え、答える。

「あの時は君を極秘裏に保護しておかないといけなかったわけだし、特例だよ。本来は緊急時でない限り一般民に宿泊場所を提供はしないから」

 確かに北方支部ではアサたちが指名手配故に、匿って貰う形として宿泊を提供して貰った。
 しかし今やその手配も解除され一般民へと戻る事の出来たアサに、軍内部にベッドを用意はできない。というわけだ。
 同じアマゾナイトの軍人であるタルクスとミレットならば出張者用の仮眠室で宿泊する事も出来るのだが。

「アサ君とアドレーヌ嬢二人だけ何処かの旅館で泊まって来て、なんて言うのは申し訳ないしね」

 そう言うとタルクスは颯爽と歩き出し、部屋のドアノブに手を掛ける。

「となれば早速宿を探しに行こうか。これ以上此処に居てもやることもないわけだしね」

 振り返りアサたちを一瞥していきながら彼はそう言って、そのドアを開けた。
 確かに時刻は正午過ぎ。空腹に腹部が鳴り始める刻だ。
 宿を探すついでに昼食を取り、今後の算段を話し合いたいところであった。

「それじゃあとりあえず近くのレストランにでも入ってから――」

 と、アサが提案しようとした時だ。
 彼の言葉を遮るように突然、ミレットが口を開いた。




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