少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2017/03/14(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は246〜 今日の気分次回更新は28日(火)予定です




 あの事件――父が母を処罰したあの日から、ミレットの中でこのラッハタの町で過ごした記憶はあやふやなのだ。
 母と過ごした楽しい日々も、父に怒られた懐かしい思い出も、屋敷に住んでいた女の子と遊んでいた記憶も。
 思い出そうとしても靄がかかってしまい、思い出す事が出来なくなった。無理に思い出そうとすると胸が苦しくなり、涙が出て来て頭痛がしてくる。
 精神的なものであり、無理に思い出そうとする必要はないと医者に言われ、それ以降ミレットの中で家族の記憶は、故郷の記憶は殆ど無くなってしまったのだ。



 だが、ミレットはそれを苦だと思っていない。
 かつてはそう思っていた時期もあったが、アサと出会い療養のためシマ村で暮らして。新しい楽しい思い出が、記憶と家族が出来て。
 ミレットはそれで充分だった。
 だから、ミレットにとっての故郷はシマ村であり、ラッハタという東方都市ではないのだ。



「タイートのアマゾナイト養成学校に入ってから何も連絡してなかったし…だからしなくちゃなって思ってはいたけど…」

 そう呟くミレットは父の顔を思い返し、無意識に指先を震えさせる。
 父がミレットに何かしたわけではない。
 そう、何もしていない。
 どうして母が罪を犯したのか、それがどんな罪だったのか。
 どうしてその母を父が打たなければならなかったのか。
 父は何も話してくれない。教えてくれなかった。
 それ故にミレットは父に会うことを躊躇うようになった。苦痛に思うようになった。怖がるようになった。

「…わかってる。俺も一緒に行っておじさん会ってやるからさ」

 震えるミレットの手をそっと握りしめて、彼は優しく微笑む。
 ミレットはいつの間にか強張っていた体が、張り詰めていた何かがほぐれていくのを感じ。
 彼の笑顔に癒されて、感謝に微笑み返した。

「―――うん。ありがとう、アサ」

 そう言ってミレットは彼の―――アサの掌を緩く握り返した。

「で、報告が終わったら水祭。だな」
「うん。っていうかそれがメインで来たんだしね」

 じゃなきゃこんな長旅しないって。と、ぼやくアサを見つめながらミレットは頷き笑みを零す。
 時刻深夜から夜明けへと。
 目的地はラッハタの都市部へと向かっている。
 それは、ミレットが15歳の頃のことだった。








2017/03/14(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は245〜











 エナバに揺られること丸一日。
 途中休憩のために通過点の村へ立ち寄ったり、直行便ではなかったため他の停留所を経由しながらだったりと予定より長旅であったが。
 やっと見えてきた大河が目の前にまで迫って来るとミレットは走行中であることも気にせず、エナバの窓を開けて身を乗り出した。

「ほら見て、大河だよ!本当はケモチ川って言う名称があるんだけど今はみんな大河って呼んだりラッハタ川なんて呼んだりもしてね…」

 道路の真横を流れる大河を眺めながらうんちくを披露するミレット。
 上機嫌で話す彼女であったが。突如その腕を強引に引っ張られることとなる。
 引っ張られた勢いによりバランスを崩してしまった彼女は、思わず腕を引いてきたその相手へと突撃するように倒れ込んだ。

「きゃ!もう、何するの?」
 

 倒れ込んだミレットはその相手が拍子に後頭部をぶつけているということもお構いなしに唇を尖らせる。
 そんな浮かれ気分の彼女を見遣り、彼は堪らずため息を付きながら言った。

「生まれ故郷が近いからってエナバの中ではしゃぐなって。他の乗車客の迷惑だろ?」

 と、そこでようやくミレットは周囲の――エナバに同乗する客達の視線が此方へ一点に集まっていることに気付いた。
 苦笑交じりに見過ごしてくれているが、現在深夜の時刻。本来なら怒声を上げられても仕方がないところだった。

「ご、ごめんなさい!」

 ミレットは急速に顔を紅くさせ、客達に向けて何度も頭を下げていく。
 体をこれでもかという位に小さくさせると、彼女は隠れるように彼の隣へと座った。

「…ったく、そんなにラッハタに帰るのが嬉しいのかよ?」
「だ、だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!」

 未だ紅い顔のまま、ミレットは先ほどよりも小声で隣の彼を睨みつける。
 ミレットにとって故郷など、あって無いようなものだと思っていた。



2017/03/03(金) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は244〜 今日の気分次回更新は14日(火)予定です






 囁くような陛下のその横顔は、先ほどまで見せていたあどけなさとは打って変わって、恐ろしい程に冷たい目をしていた。
 水晶体に呑み込まれ“哀しき礎”となった者達を見下すような、しかし何処か羨望しているようにも見える眼差し。
 まるで人を人を見ていないような、一つの柱としか見ていないような。そしてそれをカッコイイと思ってしまっているような。
 ゼノタイムは陛下が見せた異様な双眸に恐怖にも近い感情を抱き、人知れず息を呑み込んだ。

 
「あーあ、僕もゼノタイムみたいな力が良かったな。僕の能力じゃ人を結晶化出来ないもん」
「陛下。とにかく、これ以上侍女を減らしては陛下が困る事になるのです。御自重下さい」
「わかってるってば」

 後頭部に腕を回しながらそう言うと陛下はそのマントを翻し、歩き出していく。
 その様子では理解はしてくれていても納得はしていない、と言った具合で。
 ゼノタイムとしては更に強く言い付け、しっかりと釘を刺しておきたいのだが、これ以上言って本当に機嫌を損ねられては厄介なため、閉口するしかなかった。

「そう言えばグラファイトもキエなんでしょ?どんな能力なの?」
「私など大した能力ではありません。土塊を生き物のように動かす程度です」
「確かに、つまんなそ」



 去って行く二人の背を見やり、ゼノタイムは小さくため息をつく。
 
「これだから子供の御守が苦労する…」

 そんな独り言を呟くと、彼は踵を返し、人のいなくなった通路を一人歩いていく。
 
(だが…その先にこそ、この国のありし未来が待っている―――)

 と、足を止め、彼は徐に窓を見上げる。
 暮れなずむ――茜とも闇とも青空とも言えない曖昧な空の色を眺めながら、彼は呟いた。

「それこそが私の……ウォナの野望なのだ」


 
 
 


2017/03/03(金) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は243〜




「グラファイト」

 その声に気付き、黒衣に身を包んでいる男は静かに顔をその方へ向けた。
 振り返った先にいたのは自身とは対照的な白服に身を包んだ、仮面の男。

「どうした、ゼノタイム」
「どうした、ではない…」

 恍けたような返答に苛立ちを隠せない様子の白服の男―――ゼノタイムは大きな足音を立ててグラファイトの背後へと回り込む。
 そして、そこに居た彼へ見つけるなり片膝をついた。

「陛下!」
「あれ、どうしたのゼノタイム?」

 同じく恍けたような口振りをする少年。
 しかし彼の場合は本当に何も理解出来ていないため、達が悪い。

「あの中庭へ侍女を連れ込んではいけないと、あれほど言ったはずです!」
「だ、だけど国の礎に“あれ”は必要なんだってグラファイトが言ったから…」

 グラファイトを睨みつけるゼノタイムであるが、当人は素知らぬ素振りで顔を背ける。
 だが陛下の全てを彼に一任しているため、これ以上彼を強く叱責することもゼノタイムには出来ない。
 何せ外見は立派な国王とは言え、心は幼い子供のまま成長してしまった少年だ。
 そんな彼の教育をグラファイトが担っているからこそ、陛下は傀儡と化し、この国は現在イイヌが掌握しているも同然の状況になったのだ。
 これも全てはこの国の未来を願う『タトミ計画』がためにしたことではあるが。

「確かにそうですが…その礎については私たちにお任せ下さい。陛下のご助力は必要ないのです」
「む〜…僕は邪魔ってことなんでしょ?」

 頬を膨らませて見せるその様子はまさに子供のそれ、そのもの。
 しかし後で山盛りの菓子を見せれば機嫌も直ぐに良くなるためゼノタイムはさして気に留めず。
 と、そう思っていたときだ。

「―――それに…あの水晶の中に入ってるとさ、ちっぽけだった人たちがすごく輝いて見えるんだ。すごくすごく輝いてる礎の欠片…」




2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は242〜 今日の気分次回更新は28日(火)予定です







「ふふん、相変わらずゼノタイムのキエの力はえげつないよ。触れた者を結晶に包み込むなんてさ」
「かの女神アドレーヌも水晶に閉じ込められ眠りについていたと言う…女神と同じ経験が最期に味わえるならば本望だろう」
 
 そう言うとゼノタイムは何事もなかったかのように中庭を後にし、通路へと戻って来る。

「しかしあの侍女は“アドレーヌ”ではなく“アドレーヌに準ずる礎”でもなかった。計画に害をなすと判断した故に仕方なく礎となったまでのこと。我らは不用意に人々を犠牲にしたいわけではないのだ。本来の目的を忘れるな、わかったな」

 ゼノタイムはビオ=ランを一瞥し、そう釘を刺すと静かに立ち去っていった。
 残されたビオ=ランは遠くに消えて行く彼の背を見やりながら軽く舌を出して見せる。

「ったく、言われなくってもわかってるっての」

 叱られた後の悪ガキのようにそう呟く。
 と、そんな彼を横切り、プレナイトは静かに踵を返す。

「あっれぇ、何処行くのさ。注意されたばかりなのに」
「それはお前に対してだけだろ。さっさと元の任務地に帰れ」
「ははっ、ひっどい言いようだね…」

 此処でいつもなら青筋一つ浮かばせているビオ=ランであった。
 が、彼が苦し紛れに遠吠えでもしているのだろうと解釈し、余裕のある笑みを浮かべていた。
 そのため、さっさと立ち去っていくプレナイトの後ろ姿を見ては思わず勝者の快感に酔いしれるほど。



 しかしビオ=ランがどう思おうと、プレナイトには関係のないことだった。
 むしろそうして手配犯を始末したと優越感に浸ってくれていた方が、彼にとって都合が良い。
 彼が少なからず悔しさに憤りを抱いていたのは、ビオ=ランに対してではなかったのだ。
 プレナイトはもう一度だけ、中庭の方へと一瞥する。
 いくつも連なる水晶体。
 其処に眠る侍女や兵士たちは誰も、女神のように安らかには眠っていない。
 自分の運命を悟り絶望し、驚き、悲しみに涙した顔ばかりであった。
 プレナイトは視線を元の方へ戻し、そしてその場所を去って行く。







2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は241〜







 嘗て、侍女と言えばそれは同じアドレーヌ城に住まう貴族の役職であった。
 しかし昨今、原因不明の病により貴族や王族たちは次々と命を落としており、王城内は最早誰も居ない状況となっていた。
 それ故人手不足を補うべく王城外からも人を雇うようになったのだ。
 白の内部で一体何が起こっているのか、全く知らない民を。





「すみませんすみません!ここが立入禁止なのはわかっていたんですが王がどうしてもこの辺りでかくれんぼをしたいと仰りまして…!!」

 両手を合わせ、何度も首を垂れるその様子は命乞い以外のなにものでもない。

「私は何も聞いてません何も聞いてません。だからお願いしますお願いします!」
「……だから言っている。度の過ぎた戯れは毒でしかないと」

 ゼノタイムはため息交じりにそう言うと下していたその手をゆっくりと、蹲っている彼女の頭部へ向けた。
 その瞬間プレナイトは思わず顔を僅かに背ける。
 直後、彼女が悲鳴を上げるよりも先に彼の掌が光った。





「そして―――我らが計画を知ってしまった民は、如何なる理由であれ“哀れな礎”とする。これが『タトミ計画』の鉄則だ」

 掌の輝きは侍女を一瞬にして包み込んでいく。
 それと同時にゼノタイムが触れていた箇所――侍女の頭部からゆっくりと水晶体が生み出されていく。
 突如として彼女の体から生え出てきた結晶体は彼女の全身を包み込んでいき、やがて彼女はまるで氷漬けのような、水晶漬けとなってしまった。
 
「残念だが、お前はこの場所に足を運んでしまった時点で“哀れな礎”となったのだ」

 花壇に突然出来た、侍女を包み込んだ立方体状の水晶体。
 しかしそれはこの一体だけ、ではなかった。
 その水晶体の背後には、所狭しと水晶体が作られており、その中には同じような侍女たちの姿があったのだ。





2017/02/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は240〜 今日の気分次回更新は13日(月)予定です








「特にお前は以前も同じように度が過ぎた戯れの結果、組織の毒を生んだ…それを忘れたか」
「…忘れてないよ」

 先ほどまでの態度とは打って変わって。俯きながらそっぽを向いてビオ=ランは答える。
 その様はまるで親に叱られている子供のようにも見える。

「我らイイヌの目的はあくまでも国の安寧。そのための犠牲は仕方なしとしても、それ以外の余計な犠牲は許さない」

 ゼノタイムはそう言うと自身の手を出し、それをビオ=ランへと向ける。
 掌を向けられ慌ててビオ=ランは飛び退き、まるで隠れるようにプレナイトの背後へと回った。

「違うって、ボクはただプレナイトの代わりに尻拭いをしたんだよ。僕たちに関わってしまった“哀れな礎”を庇ってるみたいだったからね」

 僕たちの秘密に近づいた者は“哀れな礎”となるしかない。それはゼノタイムが言った言葉だ。
 ビオ=ランはプレナイトの後ろでそう叫ぶ。
 するとゼノタイムは静かにその手を下し、小さく呟く様に言う。

「我が国の願望…『タトミ計画』のためにも我らは『アドレーヌ』を探し出さねばならない。それがアドレーヌでなくとも、それに準ずる可能性を秘めた者は礎とする」

 と、ゼノタイムは突如歩き出し、ビオ=ランたちをすり抜けていく。
 彼は通路の横手にあった中庭へ入っていくと、その一角にあった花壇の前で立ち止まった。
 花壇の花々が咲くその中に、身を潜めるよう屈みながら紛れていた人影があった。

「ひっ!!」

 近付いてきたゼノタイムに見つかり、観念したのだろう。
 恐る恐る顔を上げるなり、彼女は涙を流しながら懇願した。
 どうやら彼女は入りたての侍女のようだった。








2017/01/31(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は239〜 今日の気分次回更新は2月7日(火)予定です








 アドレーヌ国、王城内。
 冷たく張り詰めるような重い空気。
 静寂としたその通路を歩く一人の男。
 その男は名前を呼ばれ、足を止める。
 嫌と言う程響き渡る声に呼ばれた男は深いため息を一つ零し、その白い制服を翻す。

「プレナイト、遅かったじゃないか。大方例の男を探していたんだろうけど…今頃ご帰還かい?」
「今はお前に構っている暇はない、ビオ=ラン」

 名を呼ばれ返されたビオ=ランは相変わらず冷静な態度を見せるプレナイトに口を僅かに曲げるものの、それでも機嫌よく鼻息を荒くさせる。

「フン、そんな態度を取ってて良いのかなあ…君が探していた手配犯の奴はこのボクが始末してやったってのにさ」

 プレナイトは彼の言葉に反応して見せる。
 その様子を見たビオ=ランは更に気分を良くし、両手を腰に当てながら口端を吊り上げた。

「関係ないとか追う必要ないとか言っときながらホントは探してたんだろ?でも残念だったねー。そいつはボクがこの手で葬ってしまったよ」

 無言を貫くプレナイトにビオ=ランは満足だった。
 ようやくと彼を出し抜けた。一本取ってやったと、いう優越感で自然と笑みも零れていく。
 彼は歩き出すと軽い足取りでプレナイトを通り越していく。

「ハハハ、それじゃ―――」

 と、勝者の一言を残して立ち去ろうとしたときだ。
 二人は同時に“とある気配”を察知し、同時にその方向へと振り向く。
 その方向―――通路の奥から姿を現したのは彼らと同じく仮面を付けた組織の人間。

「…ゼノタイム」

 そう言ってビオ=ランが無意識にたじろぐ。
 無理もない。ゆっくりと歩み近付いてくる彼は、これまでにない程の気――殺気を放っていた。
 表情を仮面で隠しているとしても、彼の怒り心頭の様は嫌でも伝わってくる。

「多少の戯れや休息も時には必要なことであり結構なことだ。だが…その戯れも度が過ぎては毒となる」

 低く、静かな口調で彼は歩み寄り、ビオ=ランの前に立った。
 目線は隠されているとも睨むように対峙するビオ=ラン。
 彼は人知れず小さく息を呑んだ。



2017/01/23(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は238〜 今日の気分次回更新は31日(火)予定です





「何か、あったの…?」

 そう聞かずともその表情は『何かがあった』と物語っていた。
 だが尋ねずにはいられなかったし、アサも聞いてほしいと言っているような気がして、思わず口が動いていた。
 と、アサは小さく頷き、それから視線を対面の窓向こうの景色へと移す。
 
「あの先に…前はもっと大きくて立派な橋があったんだ」

 アサの言葉を聞きアドレーヌは視線を同じ方へ向ける。
 しかし、その先には彼の言う大きな橋はなく。
 大河の遠くには微かにその痕跡らしき、川から顔を出す人工の石柱が見える。

「あったってことは…なくなってしまったの?」

 アサは無言で頷く。

「…二年前、大事故が起こったんだ。世間じゃ『ラッハタ水祭の大橋崩落事故』なんて呼ばれている」

 今思い出しても胸の奥が締め付けられ、そして熱く焦れる。
 それはアサにとって思い出したくはない、彼がこうなった切っ掛けの事件。





2017/01/23(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は237〜





 アサとアドレーヌは目的地を東方支部とし、進むことにした。
 最終便のエナバに乗り込み、東方支部のラッハタに向かう。
 エナバは一直線に続く路を進み、町を抜けると間もなくして大河へと辿り着いた。

「これは…?」

 窓の外から見える景色を眺め、驚いた表情のアドレーヌが尋ねる。
 アサも同じく覗き、答える。

「川だよ。ここまで大きい川は王城周辺かここくらいだけだから驚くのも無理はないけど」

 そう言うとアサは視線を再度エナバの中へと移す。
 その横顔は顰められていて、何処か哀しげにも見える。
 アドレーヌはそんな彼を気に掛けつつも初めて見る大河を眺め続ける。
 それからバスは大河を真っ直ぐと、貫くように伸びている橋へと入っていく。


 石造りの橋はエナバがギリギリ通る程の幅であるが、見た目よりも強固であり振動はほどんど感じられずエナバの通過を許す。
 大きく緩やかな流れの大河の水は澄み切っており、快晴もあってか絶景を生み出していた。
 と、橋の中間地点に差し掛かったところでおもむろにアサが口を開いた。

「こんな形で此処に来るとは思わなかったな…」

 独り言のように呟かれた言葉。
 しかし隣にいたアドレーヌの耳にはきちんと届いており、自然と彼女はアサへと視線を向ける。
 アドレーヌから見る彼の顔は何とも言えない複雑な顔をしていた。