るい栞愛

しあわせになれ

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交換日記レンタル - nikkijam

2017/04/19(水) るい
タイトル 5-11 親切な危険人物(2) 今日の気分終わります


「…栞愛、なに考えてんの?」
「え?」
「珍しく難しい顔したまんまだから」
「え、珍しく、ってなんか失礼じゃない?」
「普段わりと考えてることわかりやすいのにな、って」
「うん、そこで失礼な発言重ねてくるあたり、るいらしくて安心するよね」
「安心?……ふうん、安心、か」

こんなとき、つくづく自分は子どもなんだと思う。
「るい?」
視界の端にスマホが見えている。
そのさらに向こうに、所在なさげな栞愛の手。
るいはもう一度、意識して笑った。
「だからさ。…前も言ったけど、あんまり俺を安全だと思うなって」
「え?」
「もう忘れてるの?そんなに時間たってないでしょ?」
しかも場所だってまさにこの部屋だ。
ただ、同時にるいにだってわかってる。栞愛の発言や行動の裏に打算的な考えなんてない。彼女は、たぶんその瞬間の自分の気持ちが赴くままに選択して、動いているのだ。るいに言わせると、それが、余計に危なっかしいのだけど。

「あのさ、弟と妹の違い、わかる?弟は男で妹は女なんだよ。ついでに、弟と義弟の違いは?」
答えなんて聞くつもりはないから、るいは唖然としている栞愛にそのままたたみかける。
「血がつながってるかどうか。このあいだも確認したと思うけど、俺は弟で、しかも義理。意味わかる?」
「ちょ、ちょっと待って。一体なんの話をして、」
「泊める相手はちゃんと吟味しろって話でしょ。そんときの、相手がちょっと可哀想とかそういう感情で決めちゃだめだよ。そもそも俺は一回未遂起こしてるんだから、その気がないなら余計に警戒しろって言いたいの。わかる?」

正確にいえば、るいが彼女に手を出したのは二回で、一回目――キスのほうは未遂じゃなかった。…あのときは、るい自身ほとんど何も考えていなかったのだけど。

いつの間にか栞愛の視線は下に落ちていた。
さすがに言い過ぎたと気づいたものの、いまさら大したフォロー浮かばない。というより、これ以上何か言っても、自分がいかに下心がある危険人物かを上塗りするだけになる可能性の方が高い。

「…あー…と、なんかすっごい一気に話しちゃったけど、…とりあえず、そういうことだから、栞愛が持ってる鍵、かしてくれる?」

スマホは相変わらず視界の端に入ってる。
だけど、もう、誰かに連絡をする気にはなれなかった。

2017/04/19(水) るい
タイトル 5-11 親切な危険人物(1) 今日の気分続きます


”予想外の展開に焦ってます”
るいが栞愛の表情から読み取れたのはそれだけだ。

「あ、あの、」
「冗談だよ」
「え、冗談なの!?」
「あ、冗談じゃない方がよかった?」
ひとつひとつの過剰反応が面白くて、ついそんな風に言ってしまったのだけど、栞愛が複雑な表情をしたので、るいは笑うのをやめて眉間をかいた。

手元のスマホに表示した友人とのトーク画面。
そこに『今夜泊めて』でも『夜通し付き合え』でも、とにかく何か送ってみれば、おそらく誰かはつかまえられるだろう。
…ただ、それをするのがなんとなくもったいない気がして、るいはさっきから短い文章を送信するのをためらっている。送ってしまえば、返事がきた時点ですぐにこの場を辞さないといけないだろうから。

どうしようかな、とるいが迷っているあいだに栞愛が意を決したように座りなおしたのが視界の端に見えた。
顔をあげる。やけに真面目な表情の彼女と目が合う。

「ねえ、るい。あのね、もし本当にるいがうちに泊ま――」
「待って」
先に続く言葉に気づいて、るいは栞愛を遮る。
中途半端に開いた唇。そこから目をそらして、一旦スマホをテーブルにおいた。
「…あのさ、俺が前に言ったこと、覚えてる?」
「え?」
「発言に気をつけろ、って言ったでしょ?」
ついこのあいだなのだから、さすがに忘れてはいないと思いたい。
困ったように眉を寄せ、「でも、」という栞愛に首を振った。

「大丈夫だよ。頼めば泊めてくれそうなヤツならちゃんといるから」
心配をかけないように言ったつもりだったのに、栞愛の眉間の皺が深くなっているのに気づいて、るいは一度しゃべるのをやめる。
沈黙の時間はほんの数秒だ。そのあいだにるいはアイスティーをひとくち飲んで、それから、努力して口元を笑ませた。

「それに、ほら、あのシールのセキュリティ会社に頼めば、カギくらいあくんじゃない?…いや、その前に木村さんに頼んでカギ借りにいくとか………あれ、っていうか、そもそも栞愛もカギ持ってるんじゃ、」
一気に話してしまったあとで、るいはようやく眉を寄せたままのの栞愛に気づく。

2017/03/26(日) 栞愛
タイトル 5-10 父からの電話(3) 今日の気分終わります


えー、と栞愛は目をぱちぱちさせた。そんなことってあるのだろうか。信じられなかった。鍵を持っていないというのは、置いてきたという意味とも違う。
再婚が決まったとき、るいは合い鍵を持たされなかったのだろうか。だとしたらひどすぎる。誰にも言えないところでるいは傷ついていたのではないか。家政婦の木村でさえ持っているというのに。

「だいぶまえに『合い鍵を作らないとね』ってとうさんが言ってたんだよ。『じゃあ私が』ってかあさんが返事して……さすがかあさんクオリティ。きれいさっぱり抜けてるし。今まで気にしなかった俺もたいがいだけど」
ウケる、とるいはまだクスクス笑っている。

栞愛はしばらく思案した。木村の家は自宅から近いところにあるから鍵を借りにいくこともできなくはないが、それよりも栞愛の持っている鍵をこの場で渡すほうが話が早い。そう言おうとしたところで、るいからの視線に気がついた。笑みは引っ込んでいた。
なに、と問いかけると間髪入れずにるいが言った。
「泊めて」
「!」
「……って言ったら、どうする?」

危うくスマートフォンを落とすところだった。

2017/03/26(日) 栞愛
タイトル 5-10 父からの電話(2) 今日の気分つづきます


るいの指摘を受けてきりっとした表情を作りかけた栞愛だったが、結局は肩の力を抜き、正直な感想を述べるに至った。
「離ればなれよりずっといい。近くにいるほうがいいに決まってる」
家を出ている人間の言うことではないけれど、出たからこそわかることがある。同じ家に暮らせたのは、あたりまえに毎日顔を合わせられたのは、しあわせなことだった、と。
「そばにいたいよ」
栞愛が言ったとき、無情にもるいのスマートフォンが鳴った。


電話は誠人からだった。父からともなればるいが出ないわけにもいかず、栞愛は恨みのこもった目をるいのスマートフォンに向けた。短い返事をしていたるいだったが、一瞬声が跳ね上がったときがあった。
「今日ですか? ……あ、いや、なんでもない。平気です」
通話を終えたるいが壁の時計を見ている。帰りの心配をしているのでは、と途端に栞愛は不安になった。まだ20時にもなっていない。るいにもっといてほしかった。

「パパ、なにか言ってた?」
スマートフォンをまえに構えたまま、るいは思案顔をしている。ちらりと栞愛のほうを向き、また手元に目を落とした。
「急な不幸があったとかで、今空港にいるって」
「親戚だったら私も行かなきゃなのかな」
栞愛も慌てて席を立った。そういうことなら栞愛のところにも誠人から連絡がくるかもしれない。ベッドサイドに放ってある自分のスマートフォンを取りにいく。飛行機移動をしなければならないほどの遠方に親戚がいるという話は聞いたことがなかった。
「それは大丈夫らしいよ。昔お世話になった人だって言ってた」
安心というのとも違うが、栞愛はとりあえず押さえていた息を大きく吐いた。それならば先ほどのるいの反応はなんだったのだろう、と今度は別のことが気になりだした。

木村さんが風邪気味で、とるいは脈絡のない話をはじめた。
「もう二週間近くになるか。なかなか完治しないみたいでさ。たまには早く帰って休んでくださいって、俺が家を出るときに言ってきたんだよね。だから家の鍵は木村さんかとうさんがかけているはずで」
ちらっとるいが思わせぶりにこちらに目線をくれる。
「俺はあの家の鍵を持っていないんだよね」
閉め出されちゃった、と自分で言ってるいは笑った。
「ひとり忘れてるでしょ。お義母さんは?」
「泊まりがけで同窓会。明日帰ってくる」

2017/03/26(日) 栞愛
タイトル 5-10 父からの電話(1) 今日の気分つづきます


「行きたいです。一緒に行こ?」
「じゃ、決まりね」
るいがさっさとチケットをしまう一方で、栞愛は改めて手元に目を落とした。遊園地の入場券と乗り物乗り放題パスポートがセットになっているものだった。
「ここ行ったことある?」
ない、と栞愛は答えた。数年前にできた施設だった。オープン直後の混雑が落ち着いたころに行こうと思い、それっきりになっていた。
「遊園地といえば、幼稚園の卒園遠足の目的地だったなあ。楽しみにしすぎて、当日に熱を出して行きそびれた苦い過去を思い出すよ」
「そのころから栞愛は栞愛だったんだ」
るいの声にからかいの響きを感じ取った栞愛は、いいじゃない、と下から睨むようにして抗議する。
「なにごとも楽しめるのはひとつの才能だよ」

食事をしながら日程を詰めた。来月頭に栞愛の出向先が変わることから調整日が発生し、休みが取れそうだった。四月の、るいの入学式前の平日に行くことにした。

「仕事変わるの?」
「作業場所と内容がちょっとね」
それはるいにとって鎌かけでもなんでもない、他意のない質問だった。距離は遠くないけれど乗り換えが二回になる、と栞愛はすでにその面倒がはじまっているかのように気だるげに話す。
るいは再度尋ねた。
「場所どこ?」
栞愛が駅名を告げると、るいは軽く笑った。当然、栞愛にはその理由がわからない。
「そこ、その駅。俺が通う大学の最寄り」
「えっ?」
「朝とかばったり会ったりしてね」
「えっ? えっ? そうなの?」
やった、と声に出す栞愛。さっきまで煩わしいだけだった通勤ルートが、急に価値あるものに思えてくる。
「あー、そういえばなんか大学あった気がするけど、学校名までは把握してなかった。でもるいの大学ってもっと都会寄りじゃなかったっけ。潰れたの? お金ないの?」
「一、二年はこっちらしいよ。学部にもよるけど」

アイスティーのグラスを口まで運んでから空だったことに気づく。なにも言わずともるいがお代わりを注いでくれた。
「ニヤケてる」
「そんなこと……なくもないし」

2017/02/11(土) るい
タイトル 5-09 紙袋の中身(2) 今日の気分終わります


「チケット?」
「他のものにみえる?」
「見えない」
「そう」
心臓がばくばくいっているけれど、平静を装ってるいはいつも以上に平坦に話す。
「二枚、あるけど」
「そりゃあ、ひとりで行くようなもんじゃないから、」
チケット越しに視線が重なった。

「…さっき、俺から全然誘わないって言ってたけど、」
わざとらしく非難がましい口調にはしてみたものの、もちろん、先ほどの栞愛の言葉を見越してプレゼントを準備したわけではない。というより、ペアチケットを使って誘う相手は栞愛が決めればいいと思ってた。ある意味、非常に受け身の賭けのつもりで。

だけど、あんな発言されて引き下がれるものか。

「それ」
栞愛が手にしているチケットを指さす。
「え、うん、」
「一枚俺にちょうだい。俺、今日誕生日だから、」
「え!?るいの誕生日今日なの!?」
「嘘に決まってるじゃん」
驚いた顔のまま動きがとまった栞愛から、チケットを一枚取り上げる。
「いつが都合いいの?日にち、そっちに合わせる」
「あ、あの、それって、」
「それって?」
「いや、えっと、このチケットを私にくれて一枚をるいが、」
「ああ、それね」
「え?」
「栞愛の”それって?”の意味。いま理解した」
「う、うん」
「要するに、俺と行かない?って誘ってるつもりなんだけど、」
手にしたチケットを揺らしてみせる。
視線をはずすタイミングを逃したせいで、ほとんど見つめ合う形だ。

栞愛はこの期におよんで「るいと行くのはいやだ」なんて言うタイプじゃない…たぶん。ただ、頭でいくらそんなことを考えてみても、栞愛の反応は予想がつかない上、るいの予想の斜め上に飛ぶことが多すぎるから。

「返事」
催促するみたいに付け足した代わりに、視線はそらさない。

2017/02/11(土) るい
タイトル 5-09 紙袋の中身(1) 今日の気分続きます


冷蔵庫でしっかり冷やされた紙袋は、冷たくて軽い。
中身は別に、冷やしておく必要もないものだったのだけど。

冷蔵庫から袋を取り出して、「ついでに」と、プレゼントに視線を奪われている栞愛に向かって口を開く。
「ひとりぐらしについては、とうさんたちには事前に相談したからね。…栞愛は、家にいなかったから」
最後に付け加えたのはただの恨み言だ。だけど、いまはるいのひそかな八つ当たりに彼女を付き合わせるときではない。
だから、るいの真意を測るように向けられた視線を正面から受け止めて、笑ってみせた。
「はい。誕生日おめでとう」
「…あ、それやっぱりまだ言うんだね」
栞愛は一瞬苦笑いを浮かべたけれど、すぐに差し出された紙袋を受けとった。袋の重量以上に、プレゼントを栞愛に渡すという行為の重さから解放されて、るいはそっと息を吐く。

「これっていま開けてもいいの?」
「ダメって言ったら俺が帰る前で待つ?」
「え!…んー、るいがダメっていうなら待つけど、あと三回くらいは聞いてみるかも」
「なにそれ」
「だって気になるじゃない」
店の名前も何も書いていない紙袋から得られるヒントは、たぶん少ない。
るいと目が合うと、彼女はもう一度「開けていい?」と首を傾けてくる。
「それ、1回目?」
「やっぱりそうなるよね」
栞愛が笑った。
大切そうに胸に抱かれた紙袋を見て、るいは彼女から視線を逸らす。
「いいよ」
「え?」
「それ、あけていいよ。でもとりあえずメシ食いながらにしよう」
言い残す形でテーブルに戻った。
いい加減冷めてそうだなと意識を逸らしたところで、栞愛も元の場所に座る。

「じゃあ、いただきます」
「あ、うん!いただきます、」
まるでいつもの食卓のようにふたりで手を合わせて、るいはアイスティーを飲む。
「えっと、ありがとう」
「なに?」
「プレゼントと、料理」
「あけてから言った方がいいかも」
るいの言葉に彼女は嬉しそうに頷いて、それから、紙袋を開く。
「通販のダンボールは全然あけないのに」
小声で呟いてみたら、一瞬だけ栞愛の瞳がるいに戻った。
「……だって、通販は自分で買ったから中身わかってるし、」
言葉の終わりより先に、彼女の指が包装されていた封筒をとりだす。
るいにとっては見覚えのある封筒。
彼女は不思議そうにさらに封筒を開いて、中を見て、顔をあげた。もちろん視線の先は、るいだ。

2016/11/10(木) 栞愛
タイトル 5-08 そこそこの(2) 今日の気分おわります


るいが近づいてきたので、栞愛は反射的にぶたれるかと警戒した。が、そのまま脇をすり抜けて、るいはキッチンへ移動する。
「でもさ、バイトしてプレゼントを用意する高校生なら普通にいると思わない?」
栞愛の反応を待つより早く、るいは冷蔵庫を開ける。ケーキが入っていると思しき紙の箱、の隣に見覚えのない紙袋があった。

「えっ」
「そこそこの優しさ、かあ。栞愛の彼氏になる人って、栞愛を相当甘やかす人でないとダメってことか」
るいがなにか言っているが、栞愛の耳には入ってこない。


「嘘、なにそれ、いつから入ってんの。わかんなかったよ」
栞愛が駆け寄ってるいに飛びつく。いや、るいと、あと半分は冷蔵庫にだ。
「さっき俺、ケーキ見たか聞いただろ」
「そんなのケーキのことだとしか思わないじゃん。思うわけないじゃん、こんなの」
こんな、と言いながら、栞愛は目をきらきらさせている。

2016/11/10(木) 栞愛
タイトル 5-08 そこそこの(1) 今日の気分つづきます


聞き捨てならないことをいっぺんに言われ、栞愛は混乱した。
「それ、いつの話? 決まったって……だいたい、引っ越し費用をバイトでねん出する高校生がどこにいるのよ。親や家族、頼んなさいよ」
違う。言いたいことはそんなことではない。
「こぼれるから」
乾杯をするまえの中途半端にあげたグラスをるいに取りあげられた。自分のと栞愛のと、ふたつのグラスをテーブルに置く動作を見送る。るいはここにいるのに、グラスを手渡しできる距離にあるのに、まるで別次元の話を聞かされた気がして、頭がくらくらした。自分のあずかり知らないところでるいの生活が動いているなんて今にはじまったことではないのに、なぜそれを今知ったように驚いているのか。

「驚いた?」
それまでと同じ調子で聞くるいに腹が立ってくる。返事をしようとして、栞愛は自分の唇の震えに気がつき、言葉を飲み込んだ。片手で口元を覆い、顔を背ける。驚いた、と答えたくなかった。驚きはある。あるけれど、これはるいの想像するものじゃない。別の驚きだ。
涙声にならないように咳ばらいをひとつ入れて、だいじょうぶだと確かめてから、栞愛は言った。
「るいが、いまだに私や家族を頼ってくれなくて、ひとりでどんどん決めちゃって、それが私を淋しくさせてるってまだ気づかないことに、驚いてるの」
ぽつりぽつりと、できるだけ自分の気持ちに真に沿う言いまわしを丁寧に選びながら。
「誕生日という割にパパが騒がないのはおかしいって、そこまで気がつく人なのにね。ううん、るいがそこまで気がまわるから、そういう人だから、私は知らず知らずのうちに期待しちゃったのかも。もっともっとって求めちゃっていたのかも」
正面に向き直り、両ひざに手を置く。ただ、るいの顔は見られない。
「でもさ、一緒にやろうってこっちから求めるばかりで、るいってば全然誘ってくれないじゃん。それなりの優しさはくれるけど、それってそこそこの優しさじゃん。だから、私もそろそろ、そこそこの優しさしかもらえない事実を認めなければならないのかなって」
茶化すように自嘲の笑いをくっつけて、さらに場の空気を持ち上げるべく『なんてね』と明るく言い放つ。同時に勇気を出した。逃れに逃れていたるいの目を見た。
「……言うね」
るいが短く言って立ち上がった。

2016/09/24(土) るい
タイトル 5-07 きっとささやかな駆け引き(2) 今日の気分終わります


「ひきつってる」
「…そりゃあ、ひきつるよね」
肩を落としてそう言った彼女が唇を尖らせた。
「いつから?」
「なにが?」
「いつから嘘だって気づいてたの?」
「最初に言われたときから、かなあ」
るいの答えに栞愛が「ええ」と驚いたような声をあげるから、思わず笑ってしまう。
「だってほら、そのタイミングで栞愛の誕生日がくるなら、とうさんが騒がないわけないじゃん」
なんなら一か月以上前から騒ぎそうなタイプ、と付け加えると、彼女は頭を抱えた。
「あー…パパかあ。それは盲点だった…」

アイスティーを注ぎ、ひとつを栞愛の前に置く。
「…しまった」
「ん?」
るいが黙ってると彼女はアイスティーをまじまじと眺めて瞳を瞬かせる。
「なに、どうしたの?注ぐグラスを間違えたとか、輪切りのレモンがはいってないとか、そういうのだったら私、全然気にしな、」
「"栞愛の誕生日、俺が知らないわけないじゃん"って答えればよかったなって」
フォローの言葉を並べていた彼女は、1秒程度の間をおいて大げさにのけぞった。
「なにその少女漫画みたいなセリフ!」
「べたなの好きな相手にはちょうどいいでしょ」
「は…いや、そういうことじゃないような、」
「そう?まあ、いいから食べよ」
冷めるから、と付け足して栞愛にグラスをもつように促す。

「ええと…誕生日おめでとう、じゃなくなったから…」
「ねえ、それ、やっぱり何度も言うんだよね」
「言うね。だまされてるの知っててこれだけ料理準備してきたからね」
「オーケー、わかった。さすがに返す言葉がないから、乾杯の挨拶はるいに任せる」
「ん。じゃあ、」
どこかうらみがましくグラスをあげた彼女にあわせて、るいもグラスをあげる。

「俺のひとりぐらし決定に、」
「え!?」
「なに、あ、ごめん。キミの瞳に、が良かった?」
「古っ。ってそっちじゃなくて、いま、なんて?」
「大学も決まったから、ひとりぐらしすることにしたんだ。三学期、バイトがっつりはいったおかげで、春休みまでに引っ越し費用もためられそうだし」