---リュージアアルフラクレス言葉そのかけら

旅は道連れ 世は情け
でこぼこ三人組のほのぼの冒険談!(多分)

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交換日記レンタル - nikkijam

2017/05/11(木) ---
タイトル 削除防止


削除防止です。

2015/10/17(土) ラクレス
タイトル 130:過去がくれる温度


 夜が明けて、朝早くにイルゼが病室を訪ねてくれた。

「アタシさ、もうテオパルドに発たなきゃいけないんだ。だから挨拶に来たってわけ」
「そうなんですね。イルゼさんには本当に感謝してます。俺も命がなかったかもしれないし」
「いいんだ。でっかい男と女の子が砂漠のど真ん中で右往左往しててさ、女の子なんか青い顔してんだもん。こりゃ普通じゃない、って思ったんだよ」
「あの……俺たちを助けるためにここまで引き返してくれて、イルゼさんの迷惑に――」
「いいんだって。仕事と誰かの命を助けるの、比べてどっちが大事なんだってこと。アタシはあんたたちを助けなきゃいけないと思った。それだけだから」

 屈託なくイルゼは笑う。さて、と言いながら彼女は立ち上がった。

「また旅が終わって落ち着いたら、旅の話を聞かせてよ」
「はい」
「かわい子ちゃんと仲良くね」

 悪戯っぽくイルゼは笑う。これにははい、と答えられなかった。じゃあね、と手をひらひらと振りながらイルゼは去っていった。まるでタイミングを計ったかのように、入れ替わりで医者が入ってきた。
 早く旅に出たい、とラクレスは思った。自分が負傷したことで、足止めをさせてしまった。この村を出ればラグシオーネだ。三つ目の宝石を手に入れれば、ひとまずの目的は達成できる。
 簡単な診察をして、問題なしという太鼓判が押された。驚くぐらいの回復力だというお墨付きをもらった。
 それからしばらくして、リュージアがやってきた。今日は馬車が借りられないか当たってみるのと、いい文献がないか調べるつもりらしい。

「あとは宿屋、安いところがあるといいんだけどな」
「宿屋?」
「イルゼさんが出かけちゃったでしょ。いなくても泊まっていけばいいよって言ってくれたけど、さすがにそこまで甘えられなくって」
「そうか……リュージアはしっかりしてるな」
「そんなことないよ。宿、決まったらラクレスにも教えるね」

 行ってきます、と言って出かけていくリュージアの後ろ姿を見送る。何もできない自分が少しだけ歯がゆかった。無防備に体重を預けてきたリュージアの温もりを、少しだけ思い出していた。

2015/10/17(土) アルフ
タイトル 129:過ぎ行く月日を振り返り #3


「ごめん、迷惑をかけて」
「思っていたより元気そうだな」
「うん。歩けるし、先生ももう一日様子を見て大丈夫そうなら問題ないって」

 夕方になって、アルフはもう一度医療院に顔を出した。リュージアはイルゼの家に戻り、夕飯の支度を手伝っているらしい。
 きっと、命に関わるような毒ではなかったのだろうと医者が言っていた。刺されたのが肩を掠めた程度だったのも幸いだった、と。

「……御者の人には気の毒だったな。助けられなかった」
「仕方ないさ。俺たちも、逃げるので精いっぱいだった」
「そう割り切っていいものなのかな」
「俺は、お前の命があるだけで十分だと思っている」

 アルフらしいね、とラクレスは苦笑いした。それを言うなら、ほんの少し旅を共にしただけである御者の男に心を痛めることができるラクレスも、彼らしいとアルフは思った。

「無事でよかった。お前も、リュージアも」
「……ありがとう、アルフ」
「お前の場合は、あいつの祈りが通じたのかもな」

 アルフが静かな声でそう言うと、ラクレスはわずかに頬を赤くした。アルフは、ラクレスの頭の上に手を置いた。

「今はゆっくり休め」
「うん、ありがとう」

 病室を後にして、アルフはイルゼの家に戻った。アンネローゼに滞在している間はうちに泊まればいいよ、とイルゼは言っていた。イルゼは明日には仕事に出てしまうらしい。思えば、自分たちが足止めをしてしまった形なのだ。戸締りさえしてくれれば使っていい、とも言っていたが、さすがにそこまで甘えるのはリュージアも気が咎めることだろう。
 そろそろ夕飯ができた頃だろうか。リュージアが手伝うつもりで邪魔をしていないか、それが少し気がかりだった。

2015/10/17(土) アルフ
タイトル 128:過ぎ行く月日を振り返り #2


「あんたも、気苦労が絶えないね」

 苦笑交じりの声にアルフは思わずはっとした。振り向くとイルゼが立っていた。アルフは緩く首を振る。

「勘繰るな。俺とあいつは、そういう関係じゃない」
「まあ、どっちかって言うとあの子たちの保護者みたいだもんね」

 アルフは軽口を叩く彼女を睨み付ける。
 きっと、ラクレスに今寄り添うことができるのはリュージアしかいないのだろう。イルゼは二人の姿を見ると表情を緩ませて、来た道を引き返そうと歩き出す。アルフは何も言わずに彼女の後に続いた。

「よかったね、お兄さんの意識が戻って。受け答えもしっかりしてたから、きっともう大丈夫だよ」
「ああ」
「少しゆっくりしたら、また馬車を手配すればいいよ。ラグシオーネはそんなに遠くないからね」

 アルフは心持ち頷く。送ってあげてもいいんだけどアタシも仕事があるからね、とイルゼは言う。イルゼは様々な品物を運ぶ仕事をしているのだと言った。元々の出身はテオパルドで、彼女も盗賊同士のごたごたでテオパルドを離れた町民の一人のようだった。
 アンネローゼはテオパルドのような砂漠ならではという町並みではなく、今まで通り過ぎた村や町に似ていた。のどかで、盗賊がいないところが気に入っているのだとイルゼは言った。

「あんたたちは、フランテールの方から砂漠を抜けてきたんだろう?野蛮な盗賊がいなかった?」
「ああ。テオパルドに着く前に絡まれたな」
「そうか――それってもしかして、ヴィルフリートって奴じゃない?」

 何故ヴィルフリートの名を知っているのだろう、とアルフは眉をしかめた。ふふ、とイルゼが含み笑いに似た声を漏らす。

「そうなんだね」
「……ああ」
「テオパルドに住んでたときからの腐れ縁なんだ。今でも、たまに顔を合わせるけど」
「幼なじみみたいなものか?」
「かな。ヴィルは悪い奴じゃないよ。ちょっと素直じゃないだけで」

 何かを思い出すように、振り返るように、イルゼは瞳を閉じる。アルフは少しだけ研究所で暮らしていた頃のことを思い出した。研究所を出た頃、それよりももっと前、リュージアがもっと幼かった頃――
 リュージアは随分身長が伸びた。少しずつ大人になりつつあるのだ。

2015/10/17(土) アルフ
タイトル 127:過ぎ行く月日を振り返り #1


 まだアルフとリュージアが研究所にいた頃、今から数年前の話だ。当時まだ幼かったリュージアに、研究員たちが合間を見ては簡単な勉強を教えていた。彼女にとって研究員らは、ちょっとした先生代わりだったのだ。
 その時間が終わっては、毎日のようにアルフの持ち場へとやってくるようになっていた。幼い少女の単なる暇つぶしだろうと最初は受け流していたが、いつだったか、妙に真面目な顔で彼女は言っていた。

「どうして、博士たちはあたしやアルフに外に出ちゃいけないって言うのかな。外に出たら、何かよくないことがあるのかな」

 “あたしたちではなくて、博士やみんなにとって――”リュージアは、そう続けた。まだ幼かった少女は、聡明な子どもだったのだ。
 大人に囲まれて生活をしているのだから、どこか背伸びをしたがるのは当然だろう。しかし、それは身の丈に合わない背伸びなどではなかった。
 彼女は、幼いなりに自分の境遇に疑問を持っていた。それでも外に出られないことに対しての不満を漏らすことが滅多になかったのは、リュージアにとって研究員たちが家族同然の存在だったからだろう。

 アルフはそのとき思ったのだ。こいつは、俺と一緒だと。
 外にも出られず、この研究所の中に閉じ込められている、鳥籠に住まう鳥のようなものだと。
 しかしながら、リュージアとアルフには決定的に違うところがあった。

 いつもと同じように何気ない談笑をする二人に、一人の男が近づいてくる。優しげな微笑を浮かべた、若い青年だ。
 その姿を認めたリュージアの表情が、ぱっと花が開いたように明るいものになった。

「博士っ!」

 駆け寄ってきた少女を、男は軽々と抱き上げた。アルフは目を反らす。

「お仕事終わったの?博士」
「一段落ついたってところかな。でも、今日はもう終わり」

 博士の言葉にリュージアは無邪気に笑った。その仕草は、父親に甘える子どもそのものだった。
 彼はずっと彼女を手塩にかけて育ててきたのだと、研究員らが以前話していた。研究所の責任者となってますます忙しくなっても、合間を見てはなるべくリュージアと一緒に過ごそうとしている。その思いは、確実にリュージアにも届いているだろう。

「君も、ごめんね。仕事中なのに」

 アルフは返事をせず、そのまま持ち場に戻った。

2015/04/18(土) リュージア
タイトル 126:あなたが目覚めぬ夜明けを待って


まずリュージアが感じたのは、地面に対して自分が水平になっているという感覚だった。おかしい、自分はラクレスの目が覚めるのを待っていたはずなのに、と考えるのと同時に、リュージアはがばっと跳ね起きた。
自分が寝かされていたのは、清潔な白いシーツがかけられたベッドの上だった。医薬品の独特な匂いがする。ラクレスの姿がどこにも見えなくて、胸がざわざわと騒いだ。
どうやら、ラクレスの意識が戻るのを待っている間に眠ってしまったらしい。そして、誰かが気を遣って空いている部屋に運んでくれたのだ。

リュージアは、そろそろと部屋を出た。医療院に足を運んだときは夜も遅い時間だったが、部屋の位置は何となく覚えている。ラクレスが運ばれた部屋は、玄関から三つ目の扉。

ノックをしてから、そっと扉を開ける。ざわざわとした予感は、まだ続いていた。
だが――そこには、上半身を起こしたラクレスが穏やかな表情で目を閉じていた。

「ラク、レス……」

リュージアが震える声で投げかけると、ラクレスはそっと瞳を開けた。それから、表情をほころばせた。
不安な一夜を過ごし、ラクレスが目覚めるのをずっと待っていたリュージアは、安堵で思わずラクレスに飛びついていた。涙が後から後から出てきた。安堵したのと、謝罪の気持ちで、胸がいっぱいだった。
ラクレスは、そっと背中に腕を回してくれた。リュージアは、ラクレスの顔に胸をうずめてただ泣くことしかできなかった。

「……ごめん、リュージア。」

どうしてラクレスが謝るんだろうと思いながら、リュージアは首を横に振った。

「心配をかけた。たくさん、不安な思いをさせてしまった。」
「――あたしが、悪いんだもの。ラクレスが謝らないで。」
「いいんだよ。俺が庇いたくてそうしたんだから。もし死んだとしても、それは俺のせいだ。」
「冗談でも、そんなこと言わないで。」

ごめん、ともう一度ラクレスは謝った。
もしラクレスを失ったら、と思うと恐ろしかった。月明かりが照らす部屋の中、ただ静かに眠り続けているラクレスを見て、恐ろしい妄想を膨らませていた。
ラクレスの意識が戻ってよかった。
また、ラクレスが自分に笑いかけてくれる。話ができる。頭を撫でてくれる。
そんな何気ないことが、どんなに幸せなことか。

2014/10/13(月) ラクレス
タイトル 125:苦しみと悲しみの差 #2


まず目に映ったのは、白い天井だった。窓から差し込んでくる光が眩しく、既に日が昇ってから大分時間が経っていることがうかがえた。
もう正午も過ぎた頃かもしれない。
薬品の独特な匂いがするこの場所は、どこかの医療施設なのだろう。
しかし、どうして自分はこんなところにいるのだろうか。
起き上がろうとするが、体にうまいこと力が入らない。恐る恐る、慎重に上半身を起こす。
そこでラクレスは、ますます目を疑うような光景を目にした。

――ベッドに突っ伏すようにして、リュージアが眠っていたのだ。

「リュージ、……いてて、」

手を伸ばそうとすると肩に痛みを感じた。そこでようやく、ラクレスははっきりと思い出した。
大きな蠍と対峙して、肩を刺されたことを。

(そうか……俺、アンネローゼの村に向かう途中で意識を失って、そのまま――)

今いるのは見覚えのない建物の中だが、無事に村まで辿り着くことはできたのだろうか。
よくよく見ると、リュージアには一切ケガなどがないようで、そのことに無性にほっとした。
経緯は分からないが、アルフが無事に連れてきてくれたのだろう。

(アルフは……大丈夫かな。ケガとかしてないといいけど。)

そのとき、扉が開けられて若い女性が入ってきた。ラクレスの姿を見ると目を丸くしたが、その表情はすぐに柔らかいものに変わり、ゆっくりと近づいてきた。

「よかった、意識が戻ったんだね。」
「……えっと、あなたは――」
「大丈夫。アタシは怪しい女じゃないよ。砂漠で右往左往してるあんたたちを連れてきたの。」

気風のいい女性だな、とラクレスは思った。テオパルドの辺りには、こういったサバサバした感じの女性が多いような気がする。命の恩人である彼女に礼を言い、眠ったままのリュージアに視線をさまよわせる。

「起こさないであげてね。お兄さんのことを、夜通しずっと心配してたんだよ。」
「……。」
「すぐ先生を呼んでくるから待っといで。その様子だと、随分よさそうだけどね。」

もう一度、ラクレスは礼を言った。女性の後姿を見送ってから、リュージアに視線を移した。
意識を失っている間、夢を見ていたような気がする。
夢の中で、リュージアが自分を呼んでいた。まるで自分を導くかのように。

2014/10/13(月) ラクレス
タイトル 124:苦しみと悲しみの差 #1


いつからだっただろう。
あれは、サーシャの病気が判った頃だろうか。

ラクレスは時折、ふいに冷たい感情に駆られる。
もちろん彼は妹の病気を治してやりたいと思っているし、その気持ちは今でも変わらない。だからこそ生まれ故郷の村を出て、旅に出る決意をしたのだ。
しかしそれでもたまに思うのだ。どうせ妹は、自分よりも先に死んでしまうだろう、と。
――まるで、悪魔が自分に囁くかのように。
きっとその悪魔は、ラクレス自身なのだ。自分の心の弱さが、そんな風に時折囁いてくるのだ。

先立つ妹を見送るときに、自分が負わないといけない痛み。いわばそれは“苦しみ”だ。
仮に自分が旅の最中に命を落としたとして、そのときに残された家族――父や妹は、嘆き悲しみ、あるいは自分を責めるかもしれない。
自分が負わないといけないものと、反対に大切な人たちに背負わせてしまうもの。
双方を比べたとき、重いのはどちらなのだろう。
ラクレスは、自分の中で答えを出しかねていた。そんなものはいくら考えてみても分からないし、実際にそのときになってみないと分からない。
妹だけではなく、きっと父だってラクレスよりも早く亡くなるはずだ。それはこの世に生を受けた以上、当然の摂理なのだ。後に生まれた者は、先に生まれた者を見送らないといけない。
かつて、母を看取ったときのように。

「……ラクレス、」

誰かが自分を呼んでいる。
そのとき、ラクレスの頭に浮かんだのは旅を共にする少女の姿だった。そうだ、これはリュージアの声だ、とはっきり結び付く。
そうだ、今の自分にとって、大切な存在は家族だけではない。
ひょんなことから、一緒に旅をすることになった仲間たち。
リュージアだけではなく、アルフだってラクレスにとって大切な仲間だ。

自分は、目的を果たさないまま、むやみに仲間たちに悲しみや痛みを押し付けるのだろうか。
ここから逃げ出すことは簡単だ。
でも――そんなことは、したくない。大切な仲間を、いや、リュージアを悲しませたくない。

「ラクレスを見てるとね、太陽みたいな人だなぁって思うの。」
「別に俺は、そんなんじゃないよ。」
「いつもニコニコしてるし、誰にでも優しいでしょ?それってすごいことだと思うよ。」

違う。俺をいつも照らしてくれているのは――

2013/05/28(火) アルフ
タイトル 123:世界に落とす涙ひとつぶ


テオパルドに向かう途中の馬車が捕まったのは、アルフがラクレスを背負って歩いている途中のことだった。事情を話すと、馬車の持ち主は三人を乗せてアンネローゼまで引き返してくれた。
馬車を引いていたのは、サバサバとした若い女性だった。褐色に近い肌に、金糸の髪をしている。

イルゼと名乗った女性は、村に着くなりラクレスを医療院に連れていき、手当てが一通り終わるとリュージアとアルフを家に招いてくれた。

「あんたたちも災難だったね。でも、できるだけの処置は先生がしてくれたよ。あとは――」

医者が言うには、傷自体は肩を掠めただけでそんなにひどくないようだ。問題は毒の方で、血清を投与し、確かにできるだけのことはもう済んだのだろう。
一旦区切り、イルゼはリュージアとアルフの顔を見る。

「あのお兄さんの、生命力を信じてあげることだよ。」
「……ん、」
「そう暗い顔をしなさんなって!あんたがそんなシケた面をしていたら、助かるものも助からなくなっちまう。」

アンネローゼに辿り着いた頃、既に日は傾いていて、今は夜の帳に包まれている。馬車が通りかかったのは不幸中の幸いだった。あのまま徒歩でこの村に向かっていたら、確実に手遅れだっただろう。
リュージアは、まるで自分が深い傷でも負ったような、生気のない表情をしている。

「――あたしが、悪いの。」
「あんた……」
「あたし、目が覚めるまでずっと待ってる。ラクレスのそばで。」

そう言うとリュージアは立ち上がり、アルフが止める間もないまま、出ていってしまった。

「可愛いねぇ。あんな、今にも泣き出しそうな顔しちゃってさ。」
「……馬鹿なだけだ、あいつは。」
「あの子、ひょっとしてあんたのコレかい?」

下卑た口調でそう言いながらイルゼが立てたのは小指で、アルフは冷たい目で彼女を睨んだ。

「冗談だよ。どっちかって言うと、あっちのお兄さんの方のコレだろ?」
「その話はもういい。」
「……助かるといいね。素人目じゃ分からないから、あの子の前では迂闊なことを言えなかったけど。」

今頃、リュージアは泣いているかもしれない。
広い大地が、彼女の涙をそっと受け止めてくれればいい、と思った。

2013/05/28(火) リュージア
タイトル 122:彩り鮮やかにして色を失くす


ラクレスが自分を庇ったのも、化け物の尾の先が彼の肩辺りを掠めたのも、そしてラクレスが崩れ落ちるように倒れていくのも、リュージアの目にはまるでスローモーションのようにゆっくりと映った。
鮮やかな色彩を持っていたはずの景色は、その瞬間、まるで色を失ったようになってしまった。

そのときのリュージアの胸にあったのは、悲しみではなく、“怒り”だった。目の前にいる化け物に対してではない、弱くて、何もできない自分自身に対しての怒りだ。
その感情は、彼女を強く揺さぶった。そして、魔法を発動させようとしなくても、手の平がじわりと熱くなるような感覚を覚えた。

ふいに思い出したのは、あの緋竜の森で、狼と遭遇したときのことだった。
あのときはラクレスが襲われそうで、それを助けるために思わず魔法を使ってしまったのだった。

――ごめんね、ラクレス。

リュージアは手の平に集まった魔法のエネルギーを繰り出した。それは、あの森で使ったときとは比べものにならないぐらいの赤い閃光を放った。みるみるうちに、化け物に炎が燃え移る。
ひるんだ化け物に、アルフが切りかかった。断末魔の声を上げると、ぴくりとも動かなくなった。

「……リュー、ジア、」
「ラクレス!」
「無事、か?」

毒が回ってきているのだろう、苦しそうな様子のラクレスが、じっとリュージアを見つめる。
そして、いつものように優しく微笑んだ。

「よかっ、た。」

それだけを言うと、眠りに落ちるようにラクレスはそっと目を閉じた。アルフが駆け寄ってくる。

「まずいな。早く処置をしないと、手遅れになるかもしれない。」
「どうしよう……どうしよう、あたしのせいで、ラクレス……」

リュージアは、思わず涙が出そうだった。自分自身に対する怒りも、悔しさも、情けなさも、全部ぶちまけてしまいたかった。
そのとき、ぴしゃりと乾いた音がした。アルフがリュージアの頬を軽く叩いた音だった。

「お前が動じてどうする。お前が冷静にならなければ、ラクレスは助からないぞ。」

頬に手を添えたまま、アルフがリュージアの頭を撫でる。リュージアは、力強く頷いた。