少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。〜外伝〜
『第四幕間 紺桔梗に咲く火の華』〜仮面の裏の素顔〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2017/03/14(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華166〜 今日の気分次回更新は28日(火)予定です







「それと、さ……俺の生まれた地方の言葉で『泥中の蓮』っていうのがあるんだけさ。蓮――ロートスの花っていうのは、泥の中で美しい花を咲かせる。だから『どんなに汚れた環境の中でも影響されず、清らかに美しさを失わずに保っている』ことを例える時に使うんだ」

 そう言ってからリックはアーディの肩口から掌へと、自身の手を移す。
 彼女は一瞬強張ってみせたものの、抵抗もなく受け入れてくれた。
 冷たくか細い、涙に濡れた指先。

「君はまさにその言葉の通りだって思うんだ。君は穢れきってなんかいない。罪を犯して大切なものを全て失ったかもしれないけど、心まで失ったわけじゃないだろ。どんなことがあったって、アーディはアーディだよ。強くて真っ直ぐで、美しく咲き誇っている花と同じだ」

 この部屋で再会してからも、彼女が何一つ変わっていないのがその証拠だ。
 彼女は何もかも失ってなどいない。
 その心には、いつも見せてくれていた――芯の通った気高い彼女がちゃんと残っている。



「―――俺にとって君は、ずっとずっと尊敬するアニキのままっすよ」

 リックはそう言うと白い歯を見せて笑った。
 彼の見せた気さくな笑顔に、アーディの張り詰めていた何かがゆっくりと崩れていく。
 だがそれはとても暖かく、心地良い光が射し込んで来たような感覚だった。

「って………俺が言うには柄でもない台詞だったかな…?」
「ううん…ありが、とう。リック…」

 笑顔で返そうと無理に笑ってみせたが、大粒の涙がそれを邪魔してしまう。
 再びこぼれ落ちていく涙によって彼女は笑みを解き、そのまま泣き崩れた。
 
(―――そうか。私はまだ、全てを失ってしまったわけじゃなかったんだな)

 やがて、子供のように泣きじゃくり始めるアーディ。
 彼女の頭を、リックは見守るように優しく撫でる。

(こんなにも想ってくれる理解者が――仲間たちが、私にはいたじゃないか)

 俯き、泣き続ける彼女の涙はその手を、リーリエの花を、まるで溶かしていくかのように濡らしていく。
 アーディはそのまま暫く、リックの前で大声を上げて泣いた。
 微笑み見つめていたリックはいつの間にか表情を変え、苦笑いを浮かべながら思う。

(……これでいいっすよね、ロゼさん)









2017/03/14(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華165〜










「―――だから、私は大好きな花のような…母様のような気高く素敵な淑女になりたかった」

 擦れ、震え始めるアーディの声。
 と、リックは彼女の瞳から光る物を見つける。
 溢れ出るそれは随分と前から流れ続けていたため、アーディにとっては大したことではない。
 そのため抑えられることはなく、涙はこぼれ落ち続けていく。

「でも…でも…もう、母様との約束は、果たせない…」

 静寂とした室内に、彼女のすすり泣く声が響く。

「私はこの手を随分と穢してしまった…父様の教えてくれた騎士の誇りも捨てて、母様との約束も破ってしまって、それでも兄様の笑顔を取り戻そうとして…自分の持っているもの全てを捨てたんだ…」

 徐々に彼女の声量が上がっていく。
 こぼれ落ちる涙はその掌や布団を濡らしていく。

「だけど――結局兄様は戻って来なかった…信じていた兄様までも最後には失ってしまった…!」

 涙で顔を紅くする彼女へ、リックは何も出来ず、ただただ眉を顰め見つめ続ける。
 彼女が奥底に隠していた素顔を全て曝け出すまで。
 膿んでしまったままの傷を全て吐き出すまで。
 沈黙し、見守り続ける。

「私にはもう何もかも残っていない…罪人として穢れきったこの手しか…苦痛の記憶しかもうないんだ…もう私は…私は…ッ!」

 止め処なく溢れ出る涙。
 と、それを無理やり止めるべくアーディは突如両手で目元を擦り始めた。
 強く拭われた顔は、更に紅く腫れてしまっている。
 リックは顰めた顔で深く息を吐き、瞼を伏せる。
 そして口元に笑みを浮かべ、穏やかな顔と変えてから彼女を見つめ直した。

「そんなことはないよ」

 優しい言葉を投げかけ、彼は自由の利く方の掌で、彼女の肩にそっと触れる。

「君の中の記憶全てが苦痛のものだったなんてことはないだろ?さっき話してくれたような母親との温かい思い出だって、兄さんとの楽しい思い出だってある。俺たちと過ごした日々だって、君にとっては苦痛だったかな…」

 リックの言葉に、アーディは静かに首を左右に振る。
 いつもとは違う穏やかな笑みで見つめるリック。
 彼を見つめ返している彼女の瞳には、徐々に輝きが増していく。光が取り戻されていく。





2017/03/14(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華164〜










「この花は母様が大好きな花なんだ。私も大好きで昔、母様に尋ねたことがあるんだ。どうして兄様の名前は花から付けられているのに私には花の名から付けてくれなかったのか、とね…」

 遠い日の思い出を語るアーディ。
 リックはベッドの隅へと腰掛け、彼女の言葉に耳を傾ける。

「すると、母様は私を宥めながら言ったんだ―――」







『彼にはローゼンの花のように情熱と愛に満ちた子になってほしいと思って、ローゼンナハトという名前にしたのよ』

『じゃあ私にお花の名前入れてくれなかったのはなんで?お花みたいな子になって欲しくなかったからなの?』

『…ううん。貴女には貴女に相応しい、貴女がなりたいと思う花のようになって欲しいと思って…だから敢えて花の名から付けなかったのよ』

『私がなりたいと思う花…?』

『そう、ローゼンの花でもゾンネンの花でもリーリエの花でも良い。私は貴女にぴったりな花を見つけて、そういう子になって欲しいのよ。アーデルハイト』

『ううぅ…ん……?』

『ちょっと難しかったかしら―――そうね、お母さんは、リーリエの花が好き。アーデルハイトはどんな花が好き?』

『私もリーリエが好き。でもローゼンもネルケも好きだよ。でもでもやっぱり一番はリーリエかな』

『それじゃあ、アーデルハイトにはリーリエの花のように純心で、でもローゼンのように情熱的でネルケのように愛に満ちた素敵な女性になって欲しいわ』

『そっか。うん、わかった。私、お母様の言ったような素敵な女性になるね!』

『ふふ、楽しみにしているわ』











2017/03/03(金) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華163〜 今日の気分次回更新は14日(火)予定です







 そのときから既にローゼンナハトは、妹の言葉を受け付けなくなっていた。
 狂気に侵食されていき、自我を失ったように変貌していく兄。
 そんな兄の変化に対し妹が恐怖を抱いていることさえ、彼は気付かなかった。
 彼は最早以前の彼ではなくなってしまっていたのだ。

「――でもこの作戦さえ成功すればまた優しかったあの頃に戻ってくれると思って…そう信じ続けて私はどんな命令も悪行も遂行した。自身が罪人となる覚悟もあった上で、だ。だから兄様だけを悪として責めることなど出来ないんだよ…」


 俯く彼女は更に強く、布団の裾を握り締める。
 震えている拳を見やり、リックの胸は更に締め付けられていく。
 咄嗟に話題をすり替えるべく、彼は持っていた手提げ袋からあるものを取り出した。
 丁寧に取り出して見せたそれはアーディにとって馴染みあるものだった。



「それは…」
「返さなきゃと思って持ってきたんだ。気を失っても握り続けてたみたいで、ちょっと皺が出来ちゃったんだけど…」

 申し訳なさげにリックはそう言ってそれを彼女へと手渡す。
 紺桔梗色の鍔広帽子。彼の言う通り鍔の一部に皺があったものの、ちゃんとリーリエも――彼がロゼから預かったチグリジアも挿してあった。

「ちゃんと持っていてくれたんだ。嬉しいよ、ありがとう」

 そう言ってアーディは微笑みを浮かべてみせるが、その目元に笑みはなく虚ろげだ。
 彼女は白く咲き誇る大輪の花を暫し眺める。
 その花に余程の思い入れがあることは、これまでの付き合いで察していた。が、どのような思い出があるのかまでは聞いた事がなかった。
 すると、リックの視線の先を察した彼女は帽子へと目線を向けたまま、静かに口を開いた。








2017/03/03(金) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華162〜








 自分がアマゾナイトの人間であり、アーディの正体を知った上で近付き監視をしていたこと。
 そして決行当日、アーディを実行犯として捕える任務が与えられていたこと。
 それらの事実は、セイランが既に彼女へ説明しているとリックは聞いていた。
 だからリックは彼女に恨まれ憎まれているだろうと思っていた。そう思ってはいたが、それでも会って話して、騙していたことを謝罪したいと思い、彼は此処を訪れたのだ。
 するとアーディは静かにかぶりを振って答えた。


「騙されたとは確かに思ったが、騙していたのは私も同じだ。それに傭兵部隊は互いの身の上や素性について詮索・干渉してはいけないのが暗黙の規則。騙す騙されるもつまりは許容範囲というわけだ。故に君が気にすることじゃない」

 そう言ってから彼女は「むしろ罪人である私の方が罵りを受けるべきだ」と、小さく呟く。
 語末の微かな震えを察し、思わずリックは声を上げる。

「君は首謀者である兄の命令に仕方なく従ったまでで、真の罪人と言うわけじゃ―――」
「そんなことはない」

 だが、アーディは擁護するリックの言葉を遮る。
 掛けられている布団を無意識に強く握り締める。
 俯きながら、囁くような声で静かに彼女は語り始めた。

「以前の兄様は優しくて聡明な人だった……いつも泣き言をいう私に対し『いつか必ず母様と共に城へ帰ろう』と強く励まし続けてくれた」

 そんな兄を慕い続け、アーディは強く逞しく気高く生きてきた。
 全ては兄ローゼンナハトのおかげ。そう信じていたからこそ、彼女は兄の言葉を全て受け入れられた。時として漏れる苦言でさえ苦と思わなかった。
 それだけ彼女にとって大好きな兄だった。

「だが…兄様は徐々にマスナートへの復讐に憑りつかれていった。そして人が変わったように作戦遂行に執心していった…」








2017/03/03(金) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華161〜







 天井に飾られるエナ製の照明によって照らされる室内。
 室内に唯一置かれているベッドに座り、彼女はそこから窓の景色を眺めていた。
 本来ならば他の同士と同様に即刻牢獄行きであっただろうが、実兄の死で錯乱状態にあるとして、彼女はこの簡素な医務室へと運ばれたのだった。
 おそらくは“彼ら”の共通の知り合いである“かの英雄の息子”の計らいと思われた。
 と、半分放心状態であった彼女の耳に、突如会話が聞こえてきた。
 それは閉め切られている扉の向こうから聞こえてくるものだった。

「面会の許可はルーノ補佐官から出ていますが、手短にお願いします。それと…本当に大丈夫なんですか?」

 そう話す心配そうな女性と思われる声。
 一方で笑って「平気平気」と答える声には聞き覚えがあった。
 自然とその声に彼女の瞳は生気を宿し、徐々に大きくなっていく。
 間もなくしてノック音が聞こえ、それからゆっくりと扉が開かれた。

「アーデルハイト・リリイ・リンクス。貴方に面会人です」

 顔を見せたアマゾナイトの女性に続けてひょっこりと顔を覗かせたのは、案の定彼女の見知っている顔であった。

「リック…」

 思わず漏れ出た彼の名。
 それを聞き、リックは複雑そうに笑って見せた。



 女性軍人は直ぐに扉の向こうへと戻っていき、室内にはリックとアーディ二人だけとなる。
 アーディは不意に彼の身体へと視線を向ける。
 松葉杖を付く彼は兄から受けた怪我によって全身に包帯が巻かれており、骨折した腕にはギプス包帯が取りつけられている。
 痛々しいそんな姿に彼女が眉を顰めると、リックは苦笑を浮かべながら言った。

「大丈夫、思った程痛くはないから」

 当然それはリックの強がりであったが、彼女はその言葉に安心したのか胸を撫で下ろし「そうか」とだけ呟く。
 そんな落ち着いた様子が胸に突き刺さり、今度はリックが僅かに顔を顰めた。

「…困ったな。罵倒される覚悟はして来たんだけどな」






2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華160〜 今日の気分次回更新は28日(火)予定です






 彼の言葉にはロゼも同意見だった。
 あれが偽っていた仮面の姿であったとしても、アーディには少なからず騎士としての誇りがあった。元王族という意地と自尊心が彼女の中に残っているのだろう。
 そんな気高き彼女が作戦のため――慕っていた兄からの命令とは言え、自分より下位であった男共へおもねるのはさぞかし苦痛だったに違いない。



「私だったら作戦とはいえ、絶対に御免被るわね」

 ロゼの脳裏に以前涙を流していた彼女の姿が蘇る。
 あの時の彼女は、この作戦への苦悩の末見せた姿―――素顔であったのだろうと、今ならば理解できた。
 その時に全てを彼女から聞き、思惑の全容を知ることが出来たならば、事件の何もかもが未然に防ぐことが出来た。
 尚且つ彼女も兄を失うことはなかったのかもしれない。
 と、思うところもあるが、それは今となっては絵に描いた餅に過ぎない。
 そんなことを考え眉間に皺を作るロゼへ、セイランは口を開いた。

「何だったら彼女へ会いに行くかい?今なら面会も可能だと思うけど」

 その言葉に目を大きくさせるロゼだったが、直ぐに彼は瞼を伏せ、口元に笑みを浮かばせた。

「愚問ね。私に無粋な真似させる気?」

 そう言うと肩を竦めながら、ロゼは瞼をもう一度開き、視線をセイランの背後で輝く夜空の月へと移した。

「此処から先は私が出る幕じゃない…今の彼なら、ちゃんと彼女を抱き留められるはずなんだから」

 セイランはロゼの言葉に賛同するように軽く頷き、呟いた。

「そうだね」








2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華159〜








 女の色香を使ったとしても、彼女はまだあどけなさも残る少女だ。
 騎士たちが早々簡単に引っかかるものなのか。ロゼは疑問符を浮かべる。
 と、そんな彼の疑問を察したのか。セイランはしばらくの沈黙の後、おもむろに口を開いた。


「彼女が諜報工作に適任だった理由の一つとして、彼女が『下界落ち』だったことが一番大きいだろうね」

 ロゼはセイランの方へと顔を向ける。
 上界民(王族・貴族)が下界民(平民)となったことの俗称。下界落ち。
 その単語が何故ここで出てくるのか。
 そう言った顔でセイランを見つめると、彼はその頬杖をついた体勢のままで話を続ける。

「上界民たちにとって下界落ちするということは、生き方を絶たれる絶望そのもの――と、言われているんだよ」

 それは上界民たちの尾ひれがついた噂によって出来上がった偏見であるのだが、それでも彼らはその話を信じ込み、下界落ちに戦々恐々としているのだ。
 
「だから下界落ちになる者たちは上界民に留まりたくて…上界行きになりたくて学者や雑務係、従者でも何でも良いからと、必死に志願しようと思う。という話だよ」

 上界民もまた、そんな必死の者たちへ蔑みや同情を内心織り交ぜつつ、快く雇うのだという。
 ロゼも元上界民であるが、その事実については初耳であった。
 そのことをセイランに言うと、彼は苦笑を浮かべながら「君の場合全てが特別枠だからね」と漏らす。

「…まあつまり上界民である騎士様からすれば、下界落ちしたアーデルハイト嬢は同情したくなるような相手だったというわけだよ。彼女が“純潔な乙女”であったなら尚更に、ね」

 だから国王騎士隊は疑う事なく彼女の偽情報を信じた。
 上界行きになりたくて必死に手に入れてきただろう情報を、自分へ媚び諂うために持ってきた捧げ物だと思い込んで。
 セイランはロゼに気付かれぬようひっそりと眉を顰める。

「彼女に苦悩があったのだとすれば、多分そのことの方だったのかもしれないね。同情心で騎士たちを惑わすと言っても容易なことではない…望まない媚びを売ったり要求を呑んだりもしたことだろうからね」





2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華158〜







「シュヴァルツが過激な襲撃行動を繰り返すようになったのも、組織の目的が国王への怨恨だと思わせあの警告文の信憑性を上げるため…そして、王城襲撃という本来の目的を予測されないため。というわけだったみたいだね」

 そう説明するセイラン。
 すると、ロゼは不意に浮かんだ疑問を投げかける。

「けど随分と回りくどいっていうか、めんどくさい計画にも見えるわね。上手く事が運んだようだから良かったというべきなんだろうけど…」

 彼の疑問にセイランは内心「確かに」と思いながら、この計画の根底に眠っている危うさ――潜んでいたいい加減さに顔を顰める。
 だが、彼はそれをロゼへ告げることはなく、咳払いを洩らすと苦笑してみせた。

「ま、回り道でも最良の道だったんだろうね。そんな計画において、最も要となったのが彼女…アーデルハイト嬢だったんだよ」



 セイランの言葉を聞き、ロゼの眉が僅かに反応を示す。
 彼女があの場所(傭兵部隊)でどんな役割を持っていたのか。余計な詮索はしないと明言していたものの、今考えればある程度の予想はつく。
 ロゼはソファの背凭れに寄りかかるとその指先を踊らせる。

「潜入させていた仲間への指揮と、国王騎士隊を当日かく乱させるために情報操作していたってところでしょうね」

 セイランは口角を上げたまま「その通り」と答える。
 首謀者の妹が、潜入している仲間への指揮を担うは妥当な選択と思えた。
 実直な彼女の性格ならば言い逃れや虚偽の報告もしない。となれば兄や周囲からの信頼もあったことだろう。
 だが、それと同時に国王騎士隊を騙すために偽情報を流すという任務は、彼女の性格では中々苦痛だったと思われる。
 流石のロゼも心中察し、同情の意を抱かずにはいられない。

「あの性格で情報操作なんてよくやったわね。相当辛かったでしょうに」

 しかし、そんな彼女だからこそ、この作戦に対し疑問に思う点も残っている。
 自尊心の塊とも言える国王騎士隊が、何故彼女の言葉を全て鵜呑みにしてしまったのかという点が、ロゼには腑に落ちなかった。





2017/02/21(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華157〜










「元々アーデルハイト嬢は家族と共に王族として王城で暮らしていた。だがある時、彼女の父ダーナン・モンドール・リンクスが謂れのない罪を着せられたことで全てが一変したという…」

 無実の罪でダーナンは捕えられ、弁明の機会すら与えられず彼は国外追放の流刑となってしまう。

「無実の罪ってまさか…」

 被せた人間にロゼは心当たりがあった。
 彼の読みを察したセイランは肯定に首を振り、言う。

「間違いなくマスナート・クー・リンクスの陰謀だろうね。彼女たちも彼に謀られたと確信していたみたいだよ」

 ローゼンナハトは執拗にマスナートを憎んでいるようであった。それはつまり、こういう事情が裏にあったからなのだろうとロゼは推測する。
 自身の王位を確実とするべく暗躍したマスナート。
 その毒牙はアーディ一家にも向けられ、彼女たちの幸せな日常を壊していた。
 自然とロゼの表情は曇り、その眉間に皺が寄る。

「国外追放となった父親と同じく彼女たちも王城追放となり、下界落ちとなった」

 その後、アーディ家族は国境近辺の小さな村に流れ着き細々と暮らしていたが、間もなくして母が病気で他界。
 兄妹はまだ幼いにも関わらず、たった二人きりで路頭に迷うこととなってしまった。

「それから二人は泥水を啜るような生活を送っていたらしい。いつかまた城に帰る日を夢見て、あらゆる研鑽を積みながらね」

 そんなとき出会ったのが、ローゼンナハトの言った『あの方』であったという。

「彼女自身、『あの方』に直接会った事はないらしい。けどローゼンナハトは彼を慕い、『あの方』の助言通りに行動するようになった」

 適当な反乱組織に入り、首謀核にまで上り詰め組織を掌握すること。
 その組織を利用し、同じくマスナートを恨む下界落ちの同胞を集め、襲撃計画を企てたこと。
 襲撃計画の内容や采配、更にはエナ兵器の組み立て方に至るまで全て『あの方』の助言があったとアーディはセイランへ打ち明けた。