少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。〜外伝〜
『第四幕間 紺桔梗に咲く火の華』〜仮面の裏の素顔〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2017/05/10(水) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華187〜







 小声でそう話し合う侍女たち。
 聞こえないよう配慮しているつもりなのだろうが、生憎ロゼの耳には届いていた。
 更に顔を顰めるロゼはわざとらしくため息を吐き出し、本から目線を侍女たちへと移し。
 そして告げた。

「私の美しさに見惚れるのは判るけど…目を向けるのは私にじゃなくて花たちに、でしょ?」
「は、はあ……」
「そ、そうですね…」

 曖昧な返答をする侍女たち。
 彼女たちはロゼの言葉に閉口すると自然に花壇へ視線を戻し、何事もなかったかのように水やりを再開した。
 そこには先ほどまでの怯えた様子は全くなく。
 手入れも徐々に本腰を入れていく。



 これまで誰にも目を向けられることのなかった花壇の花々は、美しく誇らしく輝いていた。
 それも全て、以前までこの花壇の手入れをしていた少女のお陰だ。
 でなければこの花たちは雑草に埋もれ汚れたまま、いずれは朽ちてしまっていたはずなのだ。
 そしてこれからは、今度は侍女たちの手によって、この花たちは変わらずに強く咲き誇り続けられることだろう。
 久々の水を受け何処かご満悦とも見える花々の姿を見やり、ロゼは微笑を洩らすと再度読書へと戻った。
 ちなみに彼が今読んでいる本の題名は『花〜花言葉とまめ知識集〜』だ。

(…クラストの花言葉は『安眠』そしてもう一つが『貴方の悲しみを癒す』―――故に死者の冥福を祈る花として知られる、か…)

 脳内に知識として記憶するべく、真剣に見つめながら彼はまた一枚と頁を捲る。



 と、心地良い穏やかな風が、頬を撫でるようにロゼへと吹いた。
 髪を靡かせ木々の葉を揺らしたそれは、散った白い花びらたちを巻き込み、上空へと舞い上がっていく。
 輝く太陽の下、空の彼方で白い花びらたちは儚くも美しく踊っているようであった。






 第四幕間 〜紺桔梗に咲く火の華〜  完





2017/05/10(水) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華186〜









(まあ、私の存在に気付いていない時点でその警戒も徒労だがな…)

 青年―――ロゼは心の中でそう思い、人知れず吐息を洩らした。
 彼女たちが何故、此処に怯えながらも足を運んだのか。おおよその見当はついている。

「その人なんだか傭兵部隊を止めたみたいなのよ…だから私たちが代わりに水やりしてあげないと…せっかくこんな綺麗に咲いているんだし…」

 侍女の一人はそう言うと、手にしていた如雨露で花壇の花たちへ水を与え始めた。
 他二人もバケツ並みに大きなブリキの如雨露を、大事そうに両手で抱え持っている。

「だったら、急いでやらないと…」
「傭兵と出くわすなんて怖いもんね…何されるかわからないって噂だし…」

 他の二人も続けて、如雨露を花壇へと傾けていく。
 その急いた様子では花に与えているのか、水を流したいだけなのかといった具合だが。
 ロゼとしてはそんな侍女たちの様子をこのまま静観していても構わなかったのだが、それでは花たちが――花の手入れをしていた彼女が不憫でならない。
 仕方なく、ロゼはため息を洩らした後、侍女たちへ声を掛けた。




「そんなに傭兵連中が怖いなら、私が見守っていてあげる。だから安心して手入れしてあげなさいよ」

 突如聞こえたロゼの声に肩を大きく揺らし、小さく悲鳴を上げる侍女たち。
 直ぐに逃げ出さなかったのは恐怖故に竦み上がったせいなのだろう。
 まるで幽霊にでも遭遇したかのような蒼白顔に変わった侍女たちは、恐る恐るロゼの方を振り返った。
 此方に向けられる視線を感じながらも、ロゼは気にせず読書を続ける。
 本来ならばこの時点で、悲鳴を上げ逃げても可笑しくはなかった。
 だが、一人の侍女がある事に気付き「あっ」と声を上げ、突然恐怖顔を解いたのだ。

「この前リーリエの植え替えを頼んだ人…」
「え、あの人が…?」

 如何にも怪訝な声色を出す他の侍女に、ロゼの眉が僅かに顰められる。

「そう。悪い人―――じゃないと思うから。大丈夫だと思うよ」
「うーん…確かに、かなり個性的な格好な人だけど…他の傭兵たちに比べたら、ちょっとはマシよね」
「うんうん」






2017/05/10(水) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華185〜









 アドレーヌ城。先の建国祭を終えたそれは、相変わらずの堅牢っぷりであり、未だ人々からは難攻不落と謳われ続けている。
 その城内一角にひっそりと存在する小さな庭。
 エントランスホール横にある中庭とはまるで違い、手入れは全く行き届いておらず。
 暫くと放置されたそこは、庭と呼ぶよりは少々荒れた野と呼ぶ方が近いくらい。
 そんな場所の小高い丘に佇む木。
 その下で一人の青年が読書に更けていた。



 黒く腰まで長い髪を一つに束ね、全身黒くコーディネートされた衣装に、これまた黒色のコート。
 白い肌とその唇にはワインレッドよりも濃い口紅が引かれており、青年と呼ぶには少々戸惑ってしまう様な美麗とも奇抜とも取れる風貌をしている。
 と、彼の視線が文面から前方にある花壇へと移動する。
 何処からともなく、足音と人の声が聞こえてきたからだ。

「―――ねえ、この辺に本当に花壇なんてあるの?」
「本当だって。しかも驚くことにちゃんと手入れされてたんだから」
「でもでも、執事長様はこんな場所のお世話まで一言も言ってなかったよ?」

 その足音や声からして侍女のようであり、察した彼は直ぐに文面へと視線を戻す。
 間もなくして、三人の侍女が恐る恐ると言った様子で姿を現した。
 青年の存在には気付いておらず、三人は見つけた花壇へと駆け寄るなり騒がしい声を上げる。

「ああ!本当だわ、手入れされてる!」
「でしょ?どうやら傭兵部隊の誰かが手入れしていたみたいなんだけど…」
「じゃあその人にこの花壇は任せておけばいいじゃない。何で私たちが今やる必要あるのよ…?」

 そう言って侍女の一人は怯えた表情を二人に向け、口篭もる。
 怯えた様子でいるのは何も彼女だけではない。
 三人とも、まるで肝試しをしているかのように震えた姿で何度も周囲を気に掛けている。





2017/04/25(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華184〜 今日の気分次回更新は5月9日(火)予定です







「それにしても…何故シュヴァルツにはこれだけの力があったのだろうな。権力者との繋がりがあったとしても、そもそもどうやって繋がることが出来た…?」

 セイランの背後で思案顔を浮かべ、おもむろにそう呟き始めるジャステン。
 彼の言葉にセイランは肩を竦め「流石にそこまではわからないかな」とだけ返す。
 ジャステンの言葉にもある通り、今回の騒動にはまだ、不可解な点が残っている。
 セイランもまた思案顔を浮かべ、脳裏で彼の最期を蘇らせた。
 彼――ローゼンナハトが遺したあの言葉が、彼にとって気掛かりであったのだ。


(『根の底に住まう神』、あの方……今回の事件、真の首謀者はおそらくその人物だろう。そうなるとローゼンナハトの死因である拒絶反応も“あの方”とやらがそうなるべくわざと仕掛けていたとさえ考えられる)


 シュヴァルツの力をあそこまで増大させたのも、存在自体禁止とされているエナ兵器の組み立て方を教えたのも、ローゼンナハトの手にしていた力も。
 全てはローゼンナハトが『あの方』と呼んだ人物の計画――筋書きであったに違いないとセイランは推測する。
 そして――これはあくまでもセイラン個人の見解であるが――『あの方』にとって今回の計画は、遂行されようとも失敗であろうとも、どちらでも良かったのだろうと思えてならない。
 『あの方』が重要視していたのは、計画が実行され人々が混乱に陥ること。それかもしくはエナ兵器の発動、またはローゼンナハトの力の暴走自体にあったと、セイランは考えている。
 何せ彼の死は『あの方』にとって、とても都合の良い最期であった。
 お陰で此方側には何一つ、証拠どころか『あの方』の情報さえ残っていないのだから。


 しかし、あらゆる憶測を立てたところで、それ以上の確証に至ることはない。
 ならば今は、『あの方』については、頭の片隅に残す程度としておくしかないのだろう。
 セイランはそう結論付け、窓の先からゆっくりと視線を室内に戻した。
 窓の外では雲一つない真っ青な空が、何処までも広がっていた。








2017/04/25(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華183〜










 ジャステンへ告げたようにセイランの動機の全ては『大切な妹や親友たちのため』である。
 そのためならば、どんな尻拭いも裏仕事も喜んで出来ると彼は自負している。
 そう。今回の騒動も“そのため”であったのだ。



 妹たちが楽しみにしていた祭を守りたい。という第一の理由は間違いない。
 だがそれとは別の理由もあるにはあった。
 今回の『騒動』がもし『事件』になってしまっていたら、事件の抜け穴であった傭兵部隊の存続は当然危うくなる。
 もしかすると他にも疑わしい人間がいないかと、傭兵部隊の者達を徹底的に調べる惧れもあった。そうなればロゼがレイヤードだという正体もバレかねない。
 それだけは絶対に、何が何でも回避しなくてはならない。
 そのためセイランは解決に動くべく、部下を動かし自らも動いたのだ。



 そして『動く』という点についてはもう一つ。セイランには小さな思惑もあった。
 彼はロゼとアーディにリックと言う天真爛漫な人間を接触させることで、二人の心変わりを狙っていた。
 シュヴァルツに属しているアーディの変節。そうなれば騒動収束への説得がしやすくなる。
 実際アーディについては成功と言える結果を残せた。
 だが、ロゼについては満足な結果とは余り言えるものではなかった。

(今頃、仲間なんてやっぱ必要ないとか言ってそうだからなあ…)

 孤高であろうとするロゼの、友情の自覚。
 それをセイランは狙っていたわけなのだが。
 ロゼのそう言った点での頑固さは、セイランの策を持ってしても簡単に解きほぐせるものではないらしく。
 こればかりはゆっくりと腰を据える覚悟が必要だった。

(けどまあ、根は断れない優しい子だから…お手上げというわけでもない、か……)

 セイランとしては『ロゼ』であれ『レイヤード』であれ、彼には出来ることなら復讐心を捨て平穏に暮らして貰いたい。たった一人の親友として、そう願っている。
 そのためにも彼には“復讐”ではなく、それ以上に大切な者――“仲間”という存在を知ってもらいたいと思っているのだ。
 それが、今のセイランが持つ動機だ。






2017/04/18(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華182〜 今日の気分次回更新は25日(火)予定です







 言い返そうにも返す言葉も浮かばず、口をへの字に噤むジャステン。
 が、直ぐに気転が利き、彼はへの字の口を真逆に傾かせる。

「そ、そういうお前こそどうなんだ、セイラン。今回の件を全て牛耳ることが出来て、一番良い思いをしたのはお前ではないのか?」
「まさか。祭の後始末を全部一人で任せられて、それをおいしいと思う人間はいないよ」

 と、淡々とした口振りでジャステンへ返すセイラン。
 確かに彼の言葉の通り、セイランは今回の件で何か得をしたわけではない。
 大きな被害が出る前に事件を防ぐことは出来たものの、代わりに事後処理を全て任され、依願退役とは言え優秀な部下を手放すことにもなった。
 彼の手に残った、手柄と呼べるものは何一つないのだ。
 だが、そう解ってはいても、ジャステンは考えずにはいられない。
 セイランが求めていた目的、その成果は、今回の騒動とは別のところにあったのではないか、と。
 これはジャステンが持つ勘というよりも、彼と腐れ縁であるが故に抱く直感に近かった。
 すると、疑念の眼差しを察したのかセイランは椅子から立ち上がり、おもむろに背後の窓際へと移動していく。

「まあ…強いて言うなら、妹や友人たちが楽しみにしていた祭を守りたかった。それだけだよ」

 そう言って彼は窓向こうの空を見上げながら、意味深な微笑を浮かべてみせた。

「…結局そこにいくのか、お前の思考は…」

 おそらく彼のその言葉に嘘はない。
 が、核心からは上手くはぐらかされてしまったと、ジャステンはため息と共に眼鏡を押し上げた。








2017/04/18(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華181〜







 今回の事件でシュヴァルツによってかどわかされていたのは何も国王騎士隊だけではなかった。
 アマゾナイト軍の一部にも彼らと繋がっていた者がいたと、後に発覚したのだ。
 その為、アマゾナイト上層部は同族の裏切り者狩りや断罪に追われるといった、大騒動にまで発展してしまった。
 王城襲撃事件が大事にならず未然に防がれたこともあり、今回の件はシュバルツたちの罪と罰を表沙汰にはしない代わりに、アマゾナイト軍や国王騎士隊で起こった失態という事実も全て闇に葬るつもりなのだ。



 つまりは大人の事情――もとい、幹部たちの事情によって『事件』は『祭の一騒動』として処理されたというわけだった。
 当然その言葉で納得しきれないジャステンは「正義の名の下に働く者たちの所業とは思えんな」と悪態を洩らしながら眼鏡を押し上げる。
 そんな憤りを隠せない彼へ、セイランはにっこりと微笑みながら口を開いた。

「―――でも、今回の件で君は“違う方面”で良い成果があったと思うんだけどな…?」

 直後、ジャステンは目の色を変え、セイランを見下ろす。
 次いで動揺を隠しきれていない顔をジャステンは慌てて背けて隠した。

「ッ…な、なんのことだ?さっぱりわからんな」




 何度も眼鏡を押し上げながら恍けてみせるが、これが彼の出来る精一杯の返答であり、それがセイランに通用しないことは重々承知であった。
 何せセイランの言っていることは、図星だった。
 アドレーヌ城は上界民や登城を許された人間でなければ足を踏み入れることが出来ない機密の宝庫。
 故にそこへ侵入することだけでも、ジャステンが秘密裏(本人はそのつもり)に属している組織にとっては生唾ものなのだ。
 しかもそんなジャステンが今回の件で与えられた任務は、秘密の更なる宝庫である王城地下研究施設に設置されていたエナ兵器の解体。
 祭と騒動を利用してこの機密施設へ侵入出来たことは、ジャステンにとって最大の成果であったのだ。
 それも全てはセイラン様様というわけなのだが。
そこがまた、ジャステンしてみれば釈然としない。

「部下から聞いているよ。エナ兵器解体の指示を出した後、君が何処かへ度々姿を消して何やらしていたようだったと…」
「そ、それは―――」





2017/04/18(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華180〜










 扉の向こう、通路の奥から聞こえてくるドンドンという足音。
 それが徐々に近付いてくると察すれば、セイランはため息を洩らしながら腰掛けている椅子を僅かに動かした。

「おいセイラン、一体どういうことだ…!」

 間もなくして扉から乱雑なノック音が聞こえ、返答するより早く彼はドアを開け放った。
 書面から目を移したセイランは、嵐のように現れた想像通りの来客にわざとらしいため息を洩らす。

「…その前にジャステン、一応礼儀なんだからせめて一声言ってから開けないと」

 しかしそう諭したところで彼――ジャステンは「そんなことはどうでもいい!」と一蹴し、セイランのいる机へと歩み寄る。
 酷い剣幕である表情は、彼が近付くと更に気迫が強まり、セイランにも嫌と言う程伝わってくる。

「それじゃあ、何の用かな?」

 睨むような眼差しを向けるジャステンに対し、セイランは眉一つ動かさず、変わらずの爽やかな笑みを浮かべて尋ねる。

「先の事件のことだ。あれだけ部隊を無断で動かしておきながら、実行犯の中心核は監視付きの王都追放止まり、組織の部下たちについても同様のぬるい処罰……いや、それどころか事件すらなかった事にしようともみ消しに掛かっているらしいな!」

 ジャステンの言葉に、セイランは笑顔のまま肯定する。

「国王騎士隊側との利害の一致って奴だよ」
「何が利害の一致だ。向こうの思惑に此方が妥協しただけのことだろう!」

 そう言って眼鏡を押し上げるジャステン。
 彼の怒りはご尤もと、セイランも内心は理解している。
 本来ならば今回の事件解決という成果は、階級昇進に繋がる程であったと言っても過言ではない。
 しかしそれをなかったことにする。ということはつまり、昇進に繋がる成果もなかったということになる。
 上の階級を目指しているジャステンにとって、この棒に振る結果は納得のいくものではないのだ。

「…まあ、そうとも言うね」

 セイランは手にしていた書面を机の上へ置くと、頬杖を付きながらジャステンを見やる。

「だけど今回の件で、上層部の方でも予想外の事態があったみたいでね。国王騎士隊としてもアマゾナイト軍としても、今回のは『事件』ではなく『祭』の一興として処理したいってことになったんだよ」




2017/04/11(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華179〜 今日の気分次回更新は18日(火)予定です







 では、どの顔が『彼』にとって最高の――幸福の素顔となるのだろうか。
 残念ながらその答えを導くのはアーディの役目ではない。彼女はそう確信している。
 仲間であるとは言え、ロゼから離れることとなる自分では最早『彼』を助けることが出来ないからだ。


(自分ばかり助けて貰って……私は結局ロゼに何もしてあげていない…)

 その歯がゆさから、アーディはせめて最後にロゼへ何か言いたかった。
助言のような言葉を残したかった。
 しかし公言しないと誓いをした以上、今この場に居るリックの前でそのことについて話すわけにもいかない。
 彼女に残された言葉の選択肢は、もうこれしかなかった。
 足を止め、ロゼへと振り返ったアーディは、精一杯の笑顔を浮かべて言った。

「ロゼもいつか―――本当に本当の、『貴方』が望む花を…見つけられると良いね…!」

 彼女の言葉の意味を察し、ロゼは一瞬目付きを変える。
 が、直ぐに元通りになると彼は穏やかに微笑みながら答えた。

「…ええ。そうね」

 アーディとリックはロゼへ軽く手を振りながら、順に馬車へと乗り込んでいく。
 名残惜しさから窓ガラスの向こうに姿を見せる二人は更に手を振り続ける。
 二の腕を組みながら見送っていたロゼであったが、必死に手を振る二人に根負けし、最後は小さく手を振り返してみせた。
 そうして、馬車はゆっくりと動き出す。
 門を潜り、王都を抜け、道なりに歩みを進めていった。





 馬車の姿が小さくなり、見えなくなったところでロゼは深くため息を洩らす。

「―――最後の最後で痛い所を突いてきて…やっぱり、美しくても花には棘があるってことね」

 ロゼはそうぼやきながらコートを翻し、馬車が消えた方とは逆の方向へ歩き出していく。
 もう彼女たちと会う事はないだろう。
 仲間と認めた、認めることの出来た数少ない――気の良い者達だった。
 だが、これ以上共に居たならば、何時の日か、仮面の奥に隠している『本当の醜い一面』を二人に気付かれてしまうかもしれない。
 だとすればやはり、彼女たちとはここらで別れるが潮時であったのだ。
 ロゼはそう思い、そして人知れず導き出した答えを、自分に言い聞かせるように呟いた。

「やっぱり、私に仲間なんて必要はないのよ」








2017/04/11(火) 語り手
タイトル 第四幕間〜紺桔梗に咲く火の華178〜







『―――貴女らしい花を見つけて』

 リックは言ってくれた。
 どんなことがあったってアーディはアーディだと。
 穢れきってなんかいないと。そう言ってくれたことが純粋に嬉しかった。
 しかし、もう自分はあの花にはなれないと、この花に憧れてはいけないのだろうと思っていた。
 そう思い込むようにして、帽子に飾っていたリーリエを捨てたつもりだった。
 だが。今こうしてリーリエを目の前にして湧く思いは、諦めや拒絶ではなかった。
 懐かしくも美しいこの花を、純粋に想う強い憧れだった。

「―――ロゼ。私は…この花のようになれると思うかな…?」
「何言っているの。私から見れば貴女なんてまだまだか弱い蕾よ。貴女はこれから強くて美しい花を絶対に咲かせることが出来る。だから、自分を信じてあげなさい」

 そう言ってロゼは口端を上げる。
 アーディはぽたぽたと涙を止めることなく流しながら俯き、受け取った鉢植えのリーリエを大事に抱きしめた。

「うん…ありがと……」




 それから間もなくして、出発の時間を告げにリックが姿を見せた。
 アーディはまだ言いたい事があったようだったが、その両手に重い枷が付けられている彼女にこれ以上の自由時間は許されない。
 渋々と言った様子で納得し、リックの背に付いていく。
 が、別れる前にアーディはどうしても、ロゼへ言いたかった事が、一つだけあった。





 騒動のあったあの日。
 ロゼの素顔を見たときから、彼女の胸には引っかかっているものが残っていた。
 彼は兄の言葉を受け『偽りの仮面で苦労こそしているが、これは覚悟の証であるから否定はしない』と答えていた。
 つまり、言い換えればロゼは今の『ロゼ』と言う姿を好いてはいないということでもある。
 それは前々からアーディも、彼の言葉の節々から感じ取ってはいた。
 が、しかし『レイヤード』という素顔を目の当たりにしても、彼女はそれが『彼』にとって本当の素顔とは思えないでいたのだ。
 彼は『ロゼ』という仮面だけでなく、『レイヤード』という素顔にさえ、何処かで拒絶しているように思えてならなかった。