神薙 さくら佐野 敦葛西 倫早川 悠希

君を好きだといっても、君はそれを信じない。

次は 葛西 倫


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交換日記レンタル - nikkijam

2017/03/11(土) 佐野 敦
タイトル 0160


ちなみに俺が今したいことは、さくらを抱っこして寝る、ということかな。
それが出来ないのは、そういう場所ではないことと、単純にリクライニングではそれが無理、という理由。
こればっかりは一生懸命になって考えても無駄だよなー……。

そんなことをつらつらと考えているうちに、俺もいつの間にか眠りに落ちていた。



翌日、俺たちは京都へ向けて出発した。
さくらは元気がないわけでも、落ち込んでいるわけでもないが、何か深く考えるような様子を時々見せた。
昨日、話していたことを何かしら考えているのだろう。
それでも途中でサービスエリアによってご飯を食べ、土産を買う頃には、いつもの調子を取り戻し始めたらしく、京都に着くころにはいつもの会話に戻っていた。

リンはもう帰っているのだろうか。
今日帰る、とは言っていたが、何時ごろに着くのかは、さくらも分からないようだった。
部屋は一応片づけたから問題ないし、旅行に出ていることも、出掛けにさくらがR.I.N.Eしていたはずだから、問題ない。

マンションに着いたら、俺も一緒に一度リンの部屋に行って、リンがいたら部屋を借りたお礼を言って、でもってお土産を渡して、それからさくらと別れて(さくらはリンと同じマンションだから送りも必要ないしな)間瀬に車を返しに行って土産渡して、俺も自分の部屋に戻って、そして……。

そして────俺はこれから先、どうするつもりなんだ……?

2017/03/11(土) 佐野 敦
タイトル 0159


まあ、それはいいとして。

なんだ、さくらだって、ちゃんと一生懸命じゃん、と俺はさくらを見て思った。
出掛ける前にエクステしたり、ネイルを念入りにしたり、髪だって寝る前からアレコレ手入れしていたのを知ってる。
洋服を選ぶのだって、靴を選ぶのだって、一生懸命女の子しているじゃん、と。
きっと、さくらにそれを言っても「女の子なんだから、そんなのあたりまえ」なんて言うんだろうけど。

でもさ、それでも一生懸命には変わりないんだよ、さくら。
ファッションやメイクに拘らない女の子だっているんだしさ。
難しいこと、大変なことに挑戦することばかりが一生懸命になっている、というわけじゃないと俺は思うよ。
まあ、お前が言う、一生懸命になりたい、っていうのは、たぶんもっと違う感じなんだろうし、一生懸命女の子してるんだからいいじゃん、とは言わないけど。

だからっていうんじゃないけど、そんなに落ち込むなよ?
熱くなれることを探すのだって簡単なようで難しいし、実は探すそのこと自体が一生懸命になったりするし。
そうだな……さくらはもっと自由になればいいんだと思う。
俺が持つ、さくらのイメージカラーそのままに。

そういえば以前、言ってたな。
そう、ライブハウスのROXYに行った時のことだ。
自分の周りは、おとなしくて素直でかわいいさくらちゃんを期待している。
だからそういう役割を演じるのだ、と。

あの時は……そう、確か、役割を演じる方が楽だというさくらに、俺は素直になった方がいいことがある、みたいなことを言ったのだ。
それに対してさくらは、そんな風には思えない、演じる方が慣れて楽だから、というようなこと言っていた。

でもさ、さくら、やっぱりそれって楽なようで、少しずつさくらの気持ちを歪ませてしまっていたんだよ。
演じることに慣れてしまったのは確かなんだろうけど、演じているがゆえに一生懸命になれなかったんだよ。
それに今気づいたんだから、これからはもっと素直になろうよ?
自分の思うままに、自由に。
あ……もしかしてその片鱗が「キスして」だったのかな?

2017/03/11(土) 佐野 敦
タイトル 0158


……いや、違う。
そうじゃない。
別人に見えたのは、そんな見た目のせいじゃない。

別人のように見えたのは、あんな大勢の注目を浴びるような、そんな中心にさくらが立っていたから、なのだ。

あの瞬間、確かにさくらは別人だった。
それが、さくらの望む「変わりたい」姿のであったかどうかはわからないけど、あの場所、あの状況は、確かにさくらの「変化」だったに違いない。

「まずは、ジュリエットになってみない?」と言った俺の一言が、変わりたい、変わらなきゃ、と願う彼女の一歩になったのなら、良かったと思う。

こんな俺でも、好きな女の子のためにしてやれることがあるのなら、それは幸せなことだ。



ふと、さくらが身じろぎをした。
寝てしまったことで力なく繋がっていた手は離れ、代わりにさくらがこっちを向いた。
その寝顔は、薄っすらと微笑んでいるように見える。
幸せな気持ちで眠っているのだろうことを想像できる程度に。

でも目についたのは、表情よりもむしろまつ毛で。
それを見て、俺は思わず笑いをかみ殺した。
エクステってすごい。
こんな薄暗い中でもはっきり見えるくらい濃い。
化粧してないはずなのに、化粧しているように見えるし。

そして次に目についたのは、リクライニングから少しはみ出ている手の先。
水色と白、それに細い金のラインの入ったネイル。
夏っぽくて、さくらに似合っていると俺は思う。
朝、それを褒めたらさくらは嬉しそうだった。
そして言わなかったけど、足の爪も同じように色を揃えていることも、気づいてた。

ちなみに。
さくらのイメージを聞くと大抵の奴は「ピンク色」と答えるだろうが、俺なら「水色」と答える。
個人的意見だけど、ピンクは丸くて柔らかくて甘いイメージ。
まあ、確かにさくらのイメージが重なるのも分かる。
けど、俺にとってのさくらは水色だ。
水色と言っても「水」じゃなくて、どちらかというと夏空みたいに爽やかな色で、透き通った感じ。
違いが難しいかもしれないけど、なんかそんな感じ。
もっと言うなら、風の色、という感じかもしれない。
透き通ってて、自由で、広くて、柔らかくて、なめらかで、包まれる感じで、でも存在は確かにあって、放したくない感じで……って、ピンクよりイメージ広っ!
……まあ、いいんだけど。
とにかく、何故か俺にとって、さくらのイメージカラーは水色なのだ。

2017/03/11(土) 佐野 敦
タイトル 0157


正直なところ、俺は一生懸命なのか、良く分からない。
犯罪や他人に迷惑をかけること以外、やりたい事をやろうとは思っているけれど。
もっとも初めからそんな考えだったわけじゃなく、自分がゲイであることで体験した様々な結果、委縮している自分に気づいて、それが嫌になった、という切っ掛けは確かにあったが。
それ以来、興味のあることに挑戦しようとは思ってきたけど、さくらが言う様に全力で打ち込んできたか、自分では分からない。
ただ、以前とは自分が変わった、と自分で分かるくらいには変わったのだと、分かる。

そしてさくらは言った。
自分は一生懸命になれない、変わりたい、と。
その時、少しだけ以前の自分と似ている、と一瞬考えたことを、今、薄暗い休憩室の中で気づいた。
自分が一瞬考えたことを、後になって気づくっていうのも、何か変かもしれないけど。
でも、あの時確かにそんなことを考えたのだ。
だから俺はさくらを宥めるように背を撫でたのだと、自分の行動を分析した。
あれは、さくらの涙を宥めるためじゃなくて、変わりたいと願うさくらを、大丈夫だよ、出来るよ、と応援したくてやった行動だったのだ、と。

そしてもう一つ印象に残ったのは、ジュリエットさくら、を見た時。

周りの男連中が(隣に彼女が居る奴まで含めて!)バルコニーに立ったさくらを見て、感嘆ともうっとりとも言える、溜息やら独り言やらの呟きを耳にしながら(そうだ、あの瞬間は、そんな周りの音なんか聞いてなかったのに、今思い返すと、確かに周りはそんなだった)俺もまた、彼女に見惚れた。

さくらは、まるで別人だった。
衣装のせいなのか、それとも髪型のせいか、あるいは化粧のせいか、とにかくいつもと違って見えた。

2017/03/11(土) 佐野 敦
タイトル 0156


 「……キスして?」

薄暗い休憩室のリクライニングに横向きで互いに腰かけた時、さくらは不意にそう言った。

リクライニングはだいたいがペアと言う感じで配置されていて、横向きに腰を下ろして互いに向き合うと、膝がくっつくというか、交わるくらいの距離。
近いとも離れているともいえない。
そんな距離で聴いたさくらの小さな声──でもはっきりと聞き取れる──に、俺はなんの抗いも抱かなかった。
さくらがどうしてそんなことを急に言い出したのか、疑問すら抱くことなく。

もう少しだけ浅く腰かけて、そっと顔を近づける。
さくらが目を伏せたのを見て、俺も目を伏せる。

触れるだけのキス。
ベッドの中のような絆を感じるキスではなかったのは、まばらとはいえ人がいて、公共の場所だったからか。

抱き合いながらではない、唇が触れるだけのキス。
近いとも離れているともいえないリクライニングの微妙な距離は、まるで今の俺たちみたいだ、と頭の片隅に浮かんだ。

それから暫くして、さくらは眠りについた。
昨日と同じように手を繋いだまま。

遊び疲れたのだろう、と思う。
それは俺も同じ。
温泉に入ったことで余計に、けれど何か心地よい疲労感に包まれている実感がある。
にもかかわらず、俺の目は冴えていて、目を閉じることすらいっそ億劫だった。

微かな寝息が聞こえる。
辺りからも同じような寝息が聞こえる。
今日一日の疲れを癒すために、眠りにつく。
けれど俺は眠れなくて、一日の疲れを癒すのではなく、その日一日のことを振り返っていた。



思い出に残るような事がたくさんあった。
どれも楽しかった。
でも、そんななかで特に印象的だったことがふたつ。

ひとつは、カートレースの後の出来事。

「なにかに一生懸命になって、熱くなって、燃え尽きたような、そういう思いをしてみたいの」
俺に抱きついて不意に泣き出したさくらは、ベンチに座っても落ち着くことはなく(いや、ある意味落ち着いてはいたが)そんなことを言った。

どんなことにも俺は一生懸命になれる、とさくらは言った。
それが羨ましいのだ、と。

2017/03/05(日) 神薙 さくら
タイトル 0155


と、そこでわたしのスマホがR.I.N.Eの着信を知らせた。それは倫くんからで、短く一言だけ。「明日帰る」と。
ほっとするような、ものすごく寂しいような。そんな気がするのはなぜだろう。
「倫?」
「そう。明日、帰ってくるって」
昨日のあの場所に座ると、わたしたちは短く会話した。
「そうか、明日……帰ってくるのか」
あっちゃんの声がいくぶん、ほっとしたようにも聞こえる。
「そうみたい。もうバカンスも終わりだね」
わたしが答えると、そうだねとあっちゃんが笑った。

「ねえ」
わたしは、あっちゃんを見つめた。そして言った。
「……キスして?」

たとえそれが、何の前触れもない言葉であっても、
たとえ自分たちが、どんな関係であったとしても、
たとえあっちゃんが、ゲイだったとしても。

わたしは今この瞬間、思ったことを口にした。
それは熱情に浮かされたような感情だった。
今はじめて気がついたわけじゃない、感情。
ずっとずっと心に眠っていて、それに気がつかないふりをしていたのかも。

わたし。
あっちゃんが――好きなんだ。

2017/03/05(日) 神薙 さくら
タイトル 0154


ふと気がつくと、周囲のカップルはみな、同じように寄り添い合っていた。わたしとあっちゃんの距離は、カップルに比べればずいぶん離れていたけれど、それでもつないだ手は離れなかった。そっとあっちゃんに指を絡ませると、あっちゃんは驚いた様子もなく、ぎゅっと握り替えしてくれる。
ただそんな時間が、たまらなく愛しく思えて、わたしはわき上がる笑みを押さえられなかった。
20.夢の終わり。
花火が終わると、閉園。
わたしたちは、別に追い立てられているわけでもないのに、追い立てられたように車に戻る。「どうしようか」とあっちゃんが言うが、わたしは「昨日のところに泊まろう」と応える。まだ帰りたくなかった。まだ一緒にいたかった。まるで夢がつづいているかのように。
「いいよ」といって、あっちゃんは車を出す。昨日の寂れた健康ランドに。
チェックインして、昨日と同じように温泉に入り、汗を流す。遅い時間に感じるがまだ9時前だ。それに夕食もまだだった。お風呂を終えてからレストランに入り、わたしたちは軽い夕食をとった。
「ずいぶん無口だけど……なにか考えてんの?」
「ううん、まあ考えてるっていえば考えてるけど」
「そうなんだ」
あっちゃんは、深く尋ねてこない。それが有り難くもあるし物足りなくもある。マジになることがあまり好きではなさそうで、深い話しもあまりしたがらない。
踏み込んでこないのは有り難いけれど、やっぱり、それが物足りないこともある。どうしてだろう。どうして物足りないと思うのか。
「ねえ」
二人して席を立ったあとで、わたしが言うと、あっちゃんはなに、と短く尋ねてきた。
「わたしのこと、どう思ってるの」
いけない。こんなに直球で尋ねるつもりなんて、なかった。でももう口から出てしまったことばは取り消せない。あっちゃんは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「ごめん。変な質問だったね。答えないでいいよ、っていうか……答えないで」
そう言うと、あっちゃんは小さく肩をすくめた。
「あんまり深く聞いてこないから、どうしてかなって思っただけ。まあ、あっちゃんは面倒なこともシリアスなことも嫌いだから……それはそれでしょうがないかもしれないけど」
あっちゃんは、なぜ無言だった。まあ、それはそれで仕方がない。すたすたと二人で、申し合わせたように休憩室にむかう。昨夜と同じ場所に。

2017/03/05(日) 神薙 さくら
タイトル 0153


バルコニーにたって下を見下ろすと、結構たくさんの人がわたしを見上げていた。けれど、正面の一番目立つところにあっちゃんが立っていて、わたしにむかって手を振った。そしてがんばれよ、と口だけ動かしてくれる。そんなあっちゃんを見て、わたしは気持ちを決めた。
「では、お願いします」
そう言われたスタッフに軽く頷いて、わたしはバルコニーに手を掛け、目を閉じた。そしてゆっくり開いてから、あっちゃんを見つめた。
「ロミオ。……あなたはなぜ……ロミオなの?」
そして目を伏せる。
「ありがとうございました」の声を待った(他の人にはそう言ってたから)が、しばらく声がかからなかった。言い忘れたセリフでもあったか、と思ったけれどそんな訳はない。
目を開けると、惚けたようにこっちを見ているあっちゃんが居た。
19.ファイヤーワークスというよりも花火といったほうがいい
結局、わたしは優勝できなかった。現役中学生の女の子が優勝。若さだけが持てる情熱というのは、どうにも大人には真似のできないものらしい。でもまあ、それはそれでよかった。
コンテストが終わる頃には日も暮れていて、そろそろ花火の時間だとあっちゃんが言った。あっちゃんは、わたしの演技については一言もいわなかったけれど、どう思ったのかが全然わからない。
でも聞く気にはなれなかった。仮にどんな回答であっても、聞いてしまうのが嫌な気がしたから。
わたしたちは、ただなんとなくお互いに手をつないで園内をぶらついた。少しでも花火がキレイに見える場所を探すつもりだったのだ。そして観覧車のわきに、ちょうどよいと思われる場所を見つけ、そのベンチに腰掛けた。遊園地は昼間の熱気を失い、どこかロマンチックな雰囲気が漂う。それは花火が打ち上がるというせいではなく、そこかしこがイルミネーションしているせいかもしれない。
やがて、有名なクラシック音楽が流れはじめ、花火が上がり始めた。色とりどりの花火が、音楽にあわせたタイミングで打ち上がるその様は、本当にロマンチックだった。

2017/03/05(日) 神薙 さくら
タイトル 0152


18.'Cause you were Romeo, I was a scarlet letter
うまくのせられただけな気がする。すべてがあっちゃんの策略な気も。でもそれでもいい、と自分でも思う。たとえこの茶番のようなジュリエットの劇っぽいやつが、わたしの人生になんら影響を及ぼさなかったとしても、そんなことはどうでもいい。今わたしができうる、一生懸命になれることが、とりあえずコレなら、これに全力投球するだけ。
エントリー者は全部で20名。順番にバルコニーで、例のセリフを言うだけ。美しさとか、しぐさtか、セリフの言い方とか。まあそういうことを審査するのだろう。
わたしは、一番後の登録者だったらしく、演技も一番最後らしかった。控え室のようなところでメイクと着替えをした。裾が長くて、袖が膨らんでいる中世イタリアのドレス。
ジュリエットは当時14歳。中学二年生。わたしがはじめて裕貴さんに出会った年齢。
あの頃の自分は化粧気もなくて、ただ毎日が過ぎ去るのを待っていたような気がする。裕貴さんに出会って、わたしの人生は動き出したような気もする。
ああ、そうか。
なんだか、ちょっと分かった気がする。
裕貴さんも、倫くんも……大好きだし、本当に大切だけれど。わたしの運命の相手ではなかったんだ。でも、あの二人はわたしを運命の相手のように扱い、愛してくれている。今もきっと。
わたしはわたしなりに、あの二人に応えているつもりだったけれど、そうではなかったのかも。
もっと全力で、あの二人にぶつからないと、きっとあの二人との関係は変わらないまま。それじゃイヤだから、まずはわたしが変わらないと。変わるきっかけになるかもしれないし、ならないかもしれないけど、今はジュリエットにならなきゃ。
アイラインを引いて、うすくグロスをはく。だって14歳。そんなにメイクが濃いのはおかしい。チークはすこし多めにはたく。大丈夫、うん、わたし、とってもキレイ。
自分でそう思わなきゃ、やってられない。こんなばかげたこと。
次々と名前が呼ばれて、バルコニーで同じセリフを吐く。ロミオ、あなたはなぜロミオなの。
そういう名前だから、というのが応え。でもそうじゃない。ジュリエットはこのセリフに、彼女の思いをすべて込めたんだ。このたった一言に、幼い彼女の持てるべき情熱をすべて込めた。
名前が呼ばれた。わたしの番になったらしい。

2017/03/05(日) 神薙 さくら
タイトル 0151


17.決断
しばらく、あっちゃんに抱きついていたけれど、あっちゃんが小さく、額にキスしてくれたのをきっかけに、わたしは離れた。涙が出たままだったけど、あっちゃんは気がつかないふりをしてくれた。
「俺のカッコよさを、倫に見てもらえなかったのが残念だあ」って、冗談めかして言った。
でもね。あっちゃん、わたし今なら思うんだよ。
たしかに倫くんも、裕貴さんもかっこいいし、何でも出来るけど……あっちゃんとは違うんだよ。そうやって、どろどろになってでも、なにかに夢中になれるパワーって、あの二人も持ってるんだろうし、わたしにもきっとあるんだろうけど……でもあっちゃんが今、一番、かっこよく見えるよ。ゲイなのに。でもね、ゲイじゃないよ、あっちゃん。ゲイだけど。
今、ほんとに、わたし、あなたを心から尊敬するし、大好きだなって実感するんだよ。
涙は止まらなかった。どういうわけなのか。
あっちゃんはわたしを導いて、近くのベンチに座らせてくれて、あっという間にビール(ジュースじゃない!)を片手に戻ってきて、わたしの肩を、ゆっくり抱いてくれた。
「どうかしたの」
「……どうもしない。でも、なんかね……」
「うん?」
「わたし、あっちゃんみたいに、なにかに一生懸命にならなきゃって思って」
「俺みたいに?」
「レースとか、ジュリエットとか。どうでもいいことにも、あっちゃんって一生懸命になれるじゃない? わたし、ダメなの。どうしても。何に対しても一生懸命になれない。恋愛もそう。倫くんにも裕貴さんにも一生懸命になれない。どんな小さなことでも。本当に、一生懸命になれない」
「そうかな、さくらは一生懸命だと思うけど」
「熱くなりたいの。恋愛でもいい、なんでもいい。なにかに一生懸命になって、熱くなって、燃え尽きたような、そういう思いをしてみたいの」
わたしが言うと、あっちゃんは、なにかを察したのか察しないのか。肩に載せていた手をゆっくり、わたしの背に滑らせて、なんども背中を撫でてくれる。
「……わたし、変わらなきゃ。変わりたい。このままじゃ絶対だめ。人生、もっと有意義に楽しく生きたい。たとえ辛い思いでも、全力でなにかに打ち込んだ後のつらさなら、それもまた人生を楽しむためのものだって思える」
「じゃあさ……」
あっちゃんは、わたしの話をきいたあとで、短く言った。
「まずは、ジュリエットになってみない?」