神薙 さくら佐野 敦葛西 倫神谷 裕貴

君を好きだといっても、君はそれを信じない。

次は 葛西 倫


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交換日記レンタル - nikkijam

2017/04/24(月) 佐野 敦
タイトル 0204


俺とさくらの付き合いは浅い。
神谷さんに比べれば断然。
だけど俺は「今のさくら」を知っている。

東京を離れて、大学生になって、京都で生活を始めたさくらは、きっと東京での様子と違うはず。
少なくとも「良い子ちゃんを演じていた」というさくらとは、絶対違うはず。

アナタの知らないさくらを、俺は知ってるんです。
そして俺は「今のさくら」が好きなんですよ、神谷さん。

2017/04/24(月) 佐野 敦
タイトル 0203


この人は、京都に来てからずっと俺とさくらを見ていたに違いない。
そして俺とさくらの様子を見て、俺がさくらを好きなことに気づき、もしくは、いい関係であることを目の当たりにして、キスシーンを見せつけたのだ。
あるいは、見せつけたことで俺が動揺するかどうか(動揺すれば俺の気持ちが知れるというもの)試したに違いない。

なるほど。
そうか、そういうことか。
さくらは神谷さんのことを「すごく優しい人」といつも言っていたけど、なかなかどうして意地が悪いじゃないですか。
でも、ま、それなら俺も遠慮しなくていいってことですよね?

「神谷さん、知ってます? さくらってばさ、よくその店で1人飲みしてんですよ」
俺がにやりと笑ってそう言うと「え?」という神谷さんの驚きと、「あっちゃん!」と焦ったらしいさくらの声が重なった。

「さくらちゃんが居酒屋で一人飲み……?」
「そうそう。一人で店に入って飲んでんですよ」
「なんか意外。想像できないな」
「ちょッ……あっちゃん……!」
さくらがばらされたくない、とばかりに止めようとするが、お構いなしに俺は続ける。

「でしょ? 俺と待ち合わせしてるのにですよ?」
「君と?」
「ですよ。なのに一人で勝手に入ってんの。で、“ひとりでオヤジみたいに飲み始めるなよ”って言ってるんですけど、全然やめないんですよねー、コレが」
「そうなんだ……」
「さくらが東京に居る時はそりゃ高校生だから酒は無理だけど、でもそういう感じじゃなかったでしょ? たぶん。 さくらも京都に来てから変わったんだよなー。 だろ?」
「もう! あっちゃんのイジワル!」

完全に頬を膨らませたさくら。
ひひひ、と笑いながら俺がその頬をつつくと、さくらは俺の手をぺしぺしと叩いた。

2017/04/24(月) 佐野 敦
タイトル 0202


いや、違う、と俺はさくらを間にして隣に座り、珈琲を口にしながら思った。
嫉妬からくる怒りを、知られたくないのだ。
誰に?
もちろん、神谷さんに、だ。

この人は、明らかに、俺が戻ってくることが分かっていて、彼女にキスした。
はっきりと肯定できる材料はないけど、それでもそうだ、と思った。
試しているのか、牽制なのか、理由は分からないけど、俺に見せつけることがこの人にとって意味のあることだったに違いない。
だからこそ、怒りに煽られていることを、この人に知られたくないのだと思った。

意地だろうがなんだろうが構わない。
この人の思惑に乗ることだけは絶対にしたくない、と思った。



「────と思うんだけど、いい? あっちゃん」

しまった。
全然、話聞いてなかった。

「悪ィ、なんだって?」
「何か考え事でもしてたのかな?」
さくらの向こう側から神谷さんが、綺麗な微笑でそう言った。

──こいつッ!

思わず珈琲のプラスチックカップを握りつぶしそうになるのを咄嗟に理性で抑えた。
俺が動揺していることを見越しての発言に決まっている。

綺麗な微笑が今は悪魔の微笑にさえ思える。
そう、悪魔ってのは綺麗な顔らしいから、人の心をもてあそぶ悪魔ってのは、まさにこんな感じなのかもしれない。

「そうっすね。こんなに暑いからビールでも飲みたいなーとか考えてましたよ」
つとめてにっこりと。

「あっちゃんもそう思ってたの。じゃあ、決まりだね」
「何が?」
「……本当に聞いてなかったんだね」
じとりと見てくるさくらに、ワリワリ、と苦笑いを見せる。

「夜に、いつもの居酒屋に行こうって話。裕貴さんも行ってみたいって言っているから、あっちゃんも一緒に。いいよね?」
「ああ、あそこ? いいけど?」

と、その時になって初めて気づいた。
神谷さんが、俺を見ている、と。
そうか、そういうことか、と今更になって気づいた。

この人がなぜ俺にキスシーンを見せつけたのか、合点がいった。
さくらに対する俺の気持ちをこの人が知るはずもないのにと思っていたけど、それが間違いだった。

2017/04/24(月) 佐野 敦
タイトル 0201


混んでいたのは本当。
でもいっそのこともっと混んで居れば良かった。
もしくは、すぐに戻ってこられるくらい、すぐに買えれば。

戻っていた時、その光景を見て咄嗟に足が止まった。
その後は、まるで凍りついたように動かなかった。
いや、動けなかった。

だってキスシーンの最中に、どうやって行けっていうんだ?
どうしろって言うんだ?

さくらが俺のカノジョだったなら話は別。
すぐにも飛び込んで、引き離して、神谷さんに凄むことも出来た。
でも実際はカノジョじゃなくて、どころか告白さえしていない。

だから俺は立ち止って、見て見ぬふりをして、二人が離れて、何事もなかったようなタイミングになるまで待つしかないマヌケになる以外なかった。

5分? 10分?
実際はそんなはずはなくて、おそらく20秒にも満たない時間。
2人が水面を眺めてからさらに数分。
その時間は、少しでも俺の心を落ち着かせるのに必要な時間だった。

だけどその時間は少し長すぎたらしい。
ぐっと握りしめた紙袋が、随分と濡れていることに気づいた。
この外気温で氷が解け、水滴で袋がびしょ濡れになっていたのだ。

怒りが溶けることはなくても、理性がなくなったわけではなかったらしい。
俺は来た道を戻り、珈琲を買いなおした。
何故なら、氷が解けているのが分かったら、俺がそれだけ戻らずにいたことが二人に分かるし、戻らなかったことを追及されたくなかったのだ。

「お待たせ」
「遅いよ」
「悪ィ。ちょっと混んでたから」

自分では、僅かに声が震えているような気がした。
珈琲を渡す時も、僅かに手が震えているような気がした。
2人の関係を改めて知った思いで、心が痛みに耐えるために必要な震えだったのかもしれない。

嫉妬しているのは明らかなのに、俺がこんな思いをしているのだと気付かれたくない、と思ったのは、何のためなのだろう。
わざわざ珈琲を買いなおして、時間のアリバイを作るほど。
さくらに知られたくないのか、神谷さんに知られたくないのか、それとも二人の隙間に入ることすらできないのだろうか、という恐れみたいなものに蓋をするためなのか。

2017/04/24(月) 神薙 さくら
タイトル 200


何度か繰り返したキスが終わり、わたしと裕貴さんが元の格好に戻った後、わたしたちは何の言葉もなく、ただ川面を眺めていた。

少し罪悪感がある。
それは、今、アイスコーヒーを買いに行ってくれている、あっちゃんのこと。
あっちゃんに買い物を任せて、わたしは裕貴さんとキスしてる事実。
こんなのをあっちゃんが見たら、どう思うだろう、わたしのこと。


「……ごめん」

しばらくそうしていたら、裕貴さんがふいにそう言った。
その言葉に、少しおかしさを感じてしまう。
それは……裕貴さんからこの「ごめん」を聞くのは、きっと、世界中の誰よりも多いから。

「いいですよ、別に。それに……裕貴さん、謝りすぎ」
「だけど……」
「ストップ。もういいです。それに、しちゃったことは取り返せないし」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、ごめんてなんで謝るの?」

それに対して、望まないことだったら、とか何とかかんとか。
こんな時の裕貴さんはまるで子犬みたい。これは変わらない。ずっと前から変わらない。

「望まないわけじゃないです。わたし、ずっと言ってるじゃないですか。裕貴さんのこと、好きですよって」

それは嘘じゃない。裕貴さんのことは好きだ。
ただ、「いちばん」じゃないだけだ。
同じくらい倫くんも好きだった。それだけだ。
少なくとも、これまでは。

「そう言ってくれてるよね、前から」
「そうですよ。それとも、疑っているんですか?」
「違うけど……」
「けど?」

ごめんなさい、裕貴さん。
わたし、あなたに隠してることがある。

たしかに裕貴さんのことは「好き」です。
でも、それはたぶん「愛」じゃない。
本当にあなたのことを「愛したい」けれど、わたしのこの気持ちは、「愛」じゃないんです。

わたしが愛してるのは……。


「お待たせ」

振り返らなくてもわかる、その声。
声を聞くだけで、うれしくなる、その声。

「愛してる」声。「いちばん好き」な声。


「遅いよ」
「悪ィ。ちょっと混んでたから」

振り返るとそこには、あっちゃんがいた。
少し困ったような、そんな複雑な表情で。

2017/04/24(月) 神薙 さくら
タイトル 0199


繰り返されるキスは、懐かしくて、そして久しぶりだった。
倫くんのそれとは違うし、あっちゃんのものとも、もちろん違う。
でも、ある意味誰よりも慣れた、「いつもの」ものだった。
常にわたしの周りにある暖かい空気。
それを体現するようなキス。

鴨川の、人通りが少ないとは決して言えないベンチの上で、わたしは裕貴さんのキスを受け止め、自然にキスを返していた。
その瞬間は、あっちゃんのことも倫くんのことも忘れる。いや、実際は忘れてなんかいない。いつも心にあるし、決して消えることもない。

でも、この瞬間はいつも裕貴さんだけのことを考える。
別に裕貴さんが特別なんじゃなくて、きっと倫くんでも同じこと。

受け止めるわたしの唇が震えて、それを敏感に感じ取るように、裕貴さんはさらに唇を重ねてくる。
熱くて、冷たくて、柔らかい感触。

いつしか目を閉じていたし、いつしかわたしは、わたしを抱き寄せる裕貴さんのTシャツの端を握りしめていた。

鼻孔をくすぐる裕貴さんの香水の匂い。
いつもとは違うけれど、いつも良い匂い。
裕貴さんを思わせる匂い。
いつでもずっと側にある匂い。

気持ちが伝わるっていうのは、あると思う。
だって、こんなにも裕貴さんの気持ちがわかるから。
昔から一度も変わらない、正直で、まっすぐな気持ち。

わたしを愛してる。

それがダイレクトに伝わると、まるでその感情が自分に伝染するように、わたしもやはり裕貴さんのことを愛している気持ちになる。

この瞬間だけは。
あっちゃんよりも、誰よりも。

柔らかく、暖かく、いつもわたしの側にある。
決して消えることはなく、どんなときも受け止めてくれる。

こんな存在は、裕貴さんを除いて――他にはいないから。

だから思うのだ。


神様。どうか。
どうか、わたしが、あっちゃんではなく、
裕貴さんを愛せますように。

世界で一番、裕貴さんのことを愛したい。
彼がわたしを愛してくれるのと、同じくらい。
わたしも彼を愛したいのです。

2017/04/23(日) 神谷 裕貴
タイトル 0198


「アイスコーヒーでいいです? この先にちょっと有名なお店あるんで」
「ああ。有難う。頼むよ」
「ありがとう、あっちゃん」
「へいへーい」

笑顔で佐野くんは歩いて行った。
俺に下心があって彼のことを観察するのでなければ、彼のことは好感さえ持てそうな良い男だと思う。
そうどこか……。

「なんか彼、少し隆一に似てるね。顔がとかじゃなくて、なんか……雰囲気っていうか」
彼の歩いていく背を見て、俺がぽつりと言うと「あ、なんか分かる気がします」とさくらちゃんは笑った。
「兄ぃなんかと比べたらあっちゃんに悪いけど、でもなんとなく、分かります」

そんなことを昔からいうけれど、口で言うほどさくらちゃんは兄を嫌っているわけじゃない。
むしろ無条件の信頼を寄せいていることは、ずっと以前から分かっている。

「そうは言うけど、さくらちゃんだって、ある意味、隆一に似てるよ」
「え、やめて下さい。どこがですか?」
くすくす笑って言うと、さくらちゃんは口を尖らせる。
そんな表情も、やっぱり好きで。

「妙に頑固なところとか。あ、でもそれはさくらちゃんの方が上かな?」
「頑固なのは父親譲りなんです」
「そういえば、この前こっちにご両親が来たとき、大変だったんだって? 話を聞いたら、隆一も相当気の毒だったけど」
「ああ、あれですか……。新しい部屋が早く決まったのは良かったんですけど、本当に大変だったんですよ? だってね、裕貴さん」

そう言いながらさくらちゃんはその時の出来事を色々と聞かせてくれる。
話の内容そのものよりも、彼女のその声や表情に気を惹かれる。
以前からずっとそうだったように。
彼女の笑顔や声を見聞きしていると、可愛らしくてついキスしたくなる。

やがて、ふとさくらちゃん越しの向こうの路地から、アイスコーヒーが入っているだろう紙袋を手にした彼の姿が見えた時、俺の中の醜い闘争心が浮かんだ。

だから、キスした。
話の途中でも構わずに、不意に彼女の肩と腕を引き寄せて。

「ゆ、裕貴さん……な、なんですか急に……こんなところで……」
「ごめん。でもどうしてもキスしたくなって」
いつものように、笑顔でそう言って俺はもう一度彼女にキスをする。

薄っすらと開けている視界の隅で、彼の足が不意に止まったことを十分に感じながら。

2017/04/23(日) 神谷 裕貴
タイトル 0197


「んー、おいしい! やっぱり裕貴さんは、あっちゃんと違って優しいな」
あてつけの様にそう言いながら佐野くんの方を見る。
俺のことを褒めてくれているセリフなのに嬉しくないのは、たぶん、セリフの宛てが俺ではないからだろう。



もうずっと、俺は彼女に惚れている。
高校1年の時からずっと。
彼女は俺のことを「好きですよ」とは言ってくれる。
その気持ちに嘘はないことは分かっているけれど、彼女の心を本当に手に入れたような気分にはならなかった。
そう一度たりとも。

やがて彼女は高校生になり、新たに葛西倫という人物が現れ、何度も彼女を取り合った。
つき合ったこともあるのに、どうしても手に入れたような気分にはなれなかった。

何度も諦めようとした。
そしてその度に彼女を諦めることなど出来ないと分かった。
大学生になって、別にカノジョをつくっても、やっぱりさくらちゃんを忘れることは出来なくて、そう分かっていて付き合ったのは、俺なりのさくらちゃんへの当てつけも含まれていた。
少しでも彼女に嫉妬させたいと思うほど。

そんな経歴を経ている俺にとって、今また新たに新しいライバルが出てきたところで、簡単に引こうなんて、思うはずもない。

だから、牽制させてもらう。
さくらちゃんには、もうずっと一緒に居る男がいるのだ、ということを示させてもらう。

それを示すことが出来たのは、かき氷屋を出て鴨川へ向かった時だった。



鴨川のほのかに涼しい風にあたりながら、ベンチに腰かけ、最近の出来事を互いに話ているときだった。

「なんか喉が渇いたね。何か飲み物でも買ってこようか?」
「あ、そうですね」
俺の言葉にさくらちゃんが笑顔で頷き、そして佐野くんの方を見て言った。
「あっちゃん、お願い」

その一言の意味は、俺にも分かったのだから、当然、佐野くんにも分かっただろう。
一瞬、佐野くんがさくらちゃんの後に俺に視線を走らせたのに気づいた。
普通なら分からない程度のものだっただろうけど、気にして見ていたからこそ、分かる。

「この辺りのこと、裕貴さんは分からないから」
だからあっちゃん、買ってきてくれない?
そんな言葉が続きそうなセリフ。
佐野くんにも十分伝わったのだろう。
「はいはい」と口にしながらも笑顔で腰を上げる。

2017/04/23(日) 神谷 裕貴
タイトル 0196


一般で考えるなら、腕を絡ませる方がより親密であるように見えるかもしれない。
けれど彼女に限ってはそれは違う、と俺は思っていた。
彼女は恋愛感情として見なしている相手にだけ、指を絡ませる、いわゆる“幸せ繋ぎ”をする。
現に、兄である隆一にも腕は絡ませるが、この繋ぎ方はしない。

俺や葛西くんにはするけれど、少なくとも俺に対しても“幸せ繋ぎ”をすることはそう多い方ではない。
俺の方から繋げば嫌がりはしないけれど……そう、彼女自身の方から繋ぐことはあまりないことなのだ。

そして極めつけが、南禅寺での出来事。
俺が近づいていることに気づいていないからこそ、なのだろうけど……。
どうみても、あれでは恋人同士の逢瀬だ。
彼女の腕がしっかりと彼の背にまわされているのを見て、思わず足を止めたほど。

俺が見ていたことに、気づいていたわけではなさそうだった。
だってその後、何事もなかったように現れた俺を迎え、そして俺の腕を取って彼女は歩き出したから。
少なくともさくらちゃんはそうだった。
佐野くんの方がどうかはわからないけど、少なくとも見た目では、気づいては居なそうだった。
だけどもし気づいていて彼女を抱きしめていたのだとしたら……それは牽制されたのと同じこと。

“俺はさくらのこと、好きだから”

もしそう言っているのだとしたら。
いや、もしそう言っていなかったとしても、俺も牽制させてもらおうか。
彼女の髪に触れることを許されていて、そして背に腕を回してもらえる人物には。

俺にそう決意させたのは、それからさらにかき氷屋での様子を見たから。
さくらちゃんはお気に入りという、宇治金時白玉のせ氷。
佐野くんは新たに挑戦という、柑橘氷。

「あっちゃん、それ、一口ちょうだい?」
「えー、やーだー」
「いいじゃない、ひと口!」
「白玉と交換なら、考えてあげてもいーけどぉー?」
「数少ない白玉と?! あっちゃんのケチ!」

そんな軽口の応酬が続く、気軽で気安い会話と関係。
昔からずっと望んでも、なかなか出来ない、ある意味俺が憧れている関係。

「裕貴さんのもひと口くれます?」
「いいよ」
そう言って俺が“自分のスプーンで”ひとすくい、彼女の口に運んであげたのは、ごく小さな反抗心。

2017/04/23(日) 神谷 裕貴
タイトル 0195


彼女は彼のことを「ゲイのお友達がいてね」と言っていた。
それを初めて聞いたのは、5月ごろ前のこと。
だから特に気にしては居なかった。

あれ? と初めて思ったのは、彼女が東京に帰省した時。
彼女とのR.I.N.Eの中で「あっちゃん」という名前が良く出てきていたけれど、東京で会った時も、やはり良く名前が出てきていた。

少し前、彼女の家に泥棒が入ったと聞き、友人である隆一がご両親と京都へ向かい、そして帰ってきた隆一と話をしているときに出てきた言葉は、俺を不安にさせた。

「佐野ってヤツ? あいつは俺が見るにゲイじゃないね。さくらは否定してたけど」

だから京都に来ることにした。
何故だか確かめずには居られなかった。

彼女の周りの恋愛に関しては、高校時代からいろいろあって、良くも悪くも俺は鍛えられたと思う。
人より少し早い誕生日で二十歳を迎え、大人としての節目を迎えた気分もあった。
だから事実を目の当たりにしても、昔のように動揺して、感情にまかせるような行動をしないと思っていたし、しないようにしようとも思っていた。
事実、それはたぶん、ある程度は出来た……と思う。

確かめに来た現実は、予想に反してほしいという気持ちとは裏腹に、予想どおり、と言っていいかもしれない。

最初に認めたくないものを見てしまったのは、佐野くんがさくらちゃんの頭に手を置いているのを見た時。

これは、かれこれ5年もの間、彼女のことが好きだからこそ分かっていることだけれど、さくらちゃんは、頭に手を置かれることをあまり好まない。
俺が知る限り、彼女が頭に触れることを無条件に許しているのは、おそらく両親と兄である隆一だけ。
俺が触れるのもあまり好きではないことを知っていたし、長い間ライバルである葛西くんにも、おそらく気安く触れさせては居ない、と思われる。

それだけのこと、と言われればそれまでだけれど、彼女に惚れている俺としては、結構重要なこと。
それを許している、ということは彼女がこの「佐野敦」という人物に、兄の隆一並みに気を許している、という証拠なのだ。

その次に見てしまったのは、彼女が佐野くんと指を絡ませるように手を繋いでいる姿。
俺に腕を絡ませ、彼と手を繋いでいる、姿。