少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

2018年07月の交換日記

2018/07/30(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は373〜 今日の気分次回更新は8月7日(火)予定です



 しかし、肝心のタルクス自体は、ビオ=ランからの一撃を受け吹き飛ばされて以降、どうなっているのか解らずにいる。
 絶望的な状況から何一つ、希望の兆しさえ見えてはいないのが現状であった。

「ホント、少ない手掛かりの中、二年間も地道に探し続けたかいがあったよ。お陰でどれだけボクが苦労したことか―――」
「それ以上は口外禁止だ、ビオ=ラン」

 勝者の余韻に浸りたかったのか自身の苦労話を語ろうとしていたビオ=ランであったが、ゼノタイムによって遮られてしまう。
 彼もまた目元を仮面によって隠しているため表情を伺い知る事は出来ないが、ビオ=ランの言動に苛立っている様子であることは見てわかった。

「まあ良いじゃん。どうせ彼らも“国の礎”ってのにさせるんでしょ。冥途の土産ってやつだよ」

 そう言ってふざけたような笑いを見せるビオ=ランに、ゼノタイムはため息に近い吐息を洩らす。
 無言で彼は抱き上げていたミレットをビオ=ランへと託し、コートを翻すなりゆっくりとアサのもとへ近付いてくる。



2018/07/30(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は372〜




「彼女はミレットだ!アドレーヌじゃない!」

 アサの叫びにビオ=ランが僅かな反応を示す。

「わかってるよ、そんなことは。彼女は“アドレーヌ”じゃない。僕の“アドレーヌ”でもない」

 更に低く、苛立ちを見せた声へと変わる。
 表情は隠れているが、確実に怒りを滲ませている。
 だが、次の瞬間。彼は表情をガラリと変え、口角を歪に吊り上げて見せた。

「だけど、ボクらの計画にとっては重要な“アドレーヌ”…女神様なのさ」

 両手を広げ、大げさに素振りを見せながらビオ=ランは答える。
 まるで子供のように無邪気にそう言って彼は笑う。
 しかしその行動に子供の様な無邪気さは微塵も感じられない。
 彼は自身が優位な状況を楽しんでいるのだ。
 二度も出し抜かれ見事に転がしてくれた相手が苦しみ、悔しむ顔を見て喜んでいるのだ。
 それが理解出来てなお一層とアサは屈辱とも言える敗北感と悔しさに奥歯を噛みしめる。
 だが、今のアサには何もすることが出来ない。手も足も出せず、まともな打開策さえも浮かばない。
  後のことなど何も考えずにビオ=ランを思いっきり殴られたらどれだけ気持ちが楽だろうか。そんな激情を押し殺しながらも必死にアサは、ただただ、僅かでも良いから時間を稼ぎ、たった一縷の希望――キエ(能力者)であるタルクスが復活してくれることを祈るしか出来ない。

2018/07/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は371〜 今日の気分次回更新は30日(月)予定です



「はいはい解ってるって…あーあ、散々人のこと言っときながらそうして無様な姿は晒すし、実は探していた“アドレーヌ”の血縁者だって言うんだからお笑い種すぎて涙が出ちゃうよ」

 そう言いながらビオ=ランは口元を弧に歪ませる。
 パイロープとは良い思い出などなかったが、仲間であったはずの彼女を侮辱しているビオ=ランにアサは心をざわつかせ、表情を曇らせる。

「ミレットを放せ!ビオ=ラン!」

 何より、ミレットの双子の姉であった彼女を小馬鹿にしている彼のあざけ笑う姿が許せなかった。

「はーあ…でもって、どうして君はこうして生きてるんだろうね。確実に底なし沼に沈んでたはずなのにさ」

 叫ぶアサに気付き、その方へと顔を向け、声色を変えるビオ=ラン。
 先ほどまでとは打って変わり、そこにはこれまで以上の気迫――殺気を感じた。

「ダメッ、アサ!」
 
 と、アサの隣に駆け寄ったアドレーヌが彼の腕を掴まえ、制止する。
 向こうはキエ(能力者)であるイイヌの人間が二人。
 一方でこちらは、バーンズは負傷し、タルクスも吹き飛ばされてしまい状態がわからない。一般人である二人では分が悪すぎなのだ。
 ましてやミレットを人質に取られてしまえば、身動きどころかこちらもどうなるかわかりかねない。

「今は…逃げないと…!」

 もう、今の二人ではこの選択肢しかないと見えた。
 しかし感情を、怒りを露わにしているアサはそんな現状が見えていない。掴まえられたアドレーヌの手を振り払い、尚も果敢にビオ=ランへ挑もうとする。





2018/07/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は370〜







 前回も今回も、ビオ=ランは襲撃時に水を大蛇のように扱っていた。
 その点から彼が水を操れる第一段階の能力者(キエ)であることは理解出来た。
 しかし、まさか水上から現れるとは、とアサ驚きを隠せなかった。

「けどまさかそれが“アドレーヌ”だったとは…予想外だったけどね」

 そう言うとビオ=ランは手にしていた木の板を投げ捨てながらミレットを一瞥する。
 どうやらその板を利用して水面を移動して来たようで、衣服は濡れているどころか水滴一つついているように見えない。
 一方でミレットは意識を失ったまま土塊の男に抱えられているが、全く持って目を覚まさないでいる。

「我らは目撃者の語っていた外見にばかり囚われ過ぎて重要な要素を欠いてしまっていた。ルーノ家も金髪碧眼であったことにな」
「で、目的のそれをどうやって運ぶのさ、ゼノタイム」

 悠長に語り合う二人。その様子はまるでアサたちは眼中にないというほど。

「聞かずとも解っているだろう。その為にお前にはわざわざここに来て貰ったんだ」

 ゼノタイム、と呼ばれた男はため息交じりにビオ=ランを一瞥する。
 土塊から生まれたはずのその男はビオ=ランと同じ白服の軍服に身を包み、仮面で顔を隠している。ただ、彼らとは違い、その背には同色の外套が羽織られていた。
 見た目は金色の長髪、長身のその出で立ちは20代後半から30代後半の壮年と思われた。


2018/07/18(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は369〜 今日の気分次回更新は24日(火)予定です




「ミレット!!」

 アサとアドレーヌもまたミレットを救出するべく、男目掛けて駆けて行くが、彼らにも容赦なく水蛇の一撃が放たれる。
 と、その気配を察したアサは、寸ででアドレーヌを庇いつつ水蛇を避けた。
 大きく飛び退けた二人は地面を何度か転がる。

「また見事に転がって…けど、よくもまあボクも“転がして”くれたよね」

 聞き覚えのある声が、もう二度と聞きたくなかった声が聞こえてきた。
 元より、アサはこの水蛇の如き水鉄砲を以前体験していた。体験していたからこそ、その攻撃を交わすことも、彼が居るということも察することが出来ていた。

「ビオ=ラン…!」

 起き上がりながら、アサは大河より現れたその青年を睨み、言った。





2018/07/18(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は368〜



 その予想通り、犯人はいたのだ。
 今、目の前にいる男。それがアドレーヌを水晶体に閉じ込めていた犯人と思われた。
 と、そんなことを考えていた次の瞬間。

「だがパイロープ。お前は良いもの残してくれた…散々探していたアドレーヌをこうして見つけ出してくれた」

 そう言って男は迷いなく、素早くその手を翳した。ミレットとタルクスに。

「ッく!!」

 即座に反応したタルクスは自身の手を男に向け返した。が、顔を顰めた彼は何故か得意の能力を――旋風を発動させようとはしなかった。
 それが一瞬の隙となった。
 男の背後――大河から、タルクスたち目掛けて突然、大蛇の如く水の塊が噴き出した。
 水の塊は抵抗させる間も与えず、タルクスたちを一瞬にして呑み込み、押し飛ばしす。
 だが、水圧によって吹き飛ばされたのはタルクスのみ。
 ミレットは地面から盛り出た手形の土塊により捉えられ、水圧の一撃から逃れていた。
 しかしそれは『助け出された』のではない。『捕えられた』のだ。

「しまった…!」

 水蛇の一撃を喰らったタルクスは直ぐに体勢を整えたが、既に遅く。ミレットは手形の土塊に捕まったまま男の傍へと運ばれていた。
 気を失っている彼女は抵抗する事さえ出来ない。

2018/07/18(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は367〜







 
「暴走することは目に見えていた。だからこそ家族との接触は禁じていたというのに…愚か者よ…」

 そう淡々と、冷徹に告げる男の声。
 やがてその声が聞こえていた地面から、ぼこりと、何やら塊が這出てきた。
 不気味に這出てきた土塊は人の形と成っていき、色や質さえも人のソレそのものと変貌していく。

「こうして暴走したからには最早エナの結晶体にて閉じ込める他、生かして止める手立てはない。まだ利用価値があっただけに惜しい人材であったが――そこで己が愚行を悔いながら我らが計画の礎と成れ」

 土塊から人間と化したそれは、冷静にそう結晶体に包まれている少女へと語る。
 しかしパイロープに彼の声が届いているとは到底思えない。
 結晶と化したことにより仮面が剥がれたそこには、パイロープ――ミレットとまるで同じ顔の少女が、眠るかのように閉じ込められているのだ。意識がそこにあるともとても思えない。
 そして、そんな状態にアサは見覚えがあった。

「アドレーヌと同じ…」
「え…?」

 その小さな呟きに思わずアドレーヌが声を出す。
 
「アドレーヌもああやって水晶体に閉じ込められていた。じゃあ…アドレーヌを閉じ込めたのは…」

 結晶体に人を包み閉じ込めるなど、到底理解の出来るものではない。そう思っていたときからそれがキエ(能力者)の仕業である可能性をアサは抱いていた。

2018/07/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は366〜 今日の気分次回更新は17日(火)予定です



 口元が結晶体に覆われる寸前。パイロープは何か言っていた。
 それが何かは聞き取れなかったが、その動いていた唇は間違いなく言っていた。

『ミレット…お父さん…』

 頬には結晶とは違う輝きが、伝って零れていた。
 助けを求めるように、そう動いていた。
 助けなきゃ。今すぐに。今度こそ。そう思ったミレットだったが、彼女の意思に反し指先は静かに、力無く落ちていく。
 伸ばした姉妹の手は互いに取り合う事は叶わず。
 やがて姉の方は結晶体に呑み込まれしまい、妹の方は意識を失ってしまった。






2018/07/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は365〜



 意識が朦朧とする最中、突如聞こえてきた男の声。
 その声は何故か大地から聞こえていた。
 と、男の声に次いで今度は突然、パイロープの仮面が光り出した。
 目元を覆い隠していた白色のそれは、同色の眩い閃光を放つ。

「なに、これ…」

 おもむろに呟くようにミレットはそう言うとパイロープの仮面へと手を伸ばす。
 が、しかし。

「駄目だッ!!」

 叫び声と同時に駆け寄ってきたタルクスによって遮られてしまう。それどころか彼女は抱きしめていたパイロープからさえも強引に引き離されてしまった。
 抵抗しようにもそんな気力さえも最早ない彼女は虚ろげに放されてしまったパイロープを呆然と見つめる。
 その直後だ。
 力無く転がったパイロープの、輝く仮面はパキパキと音を立てて、結晶を生み出していく。
 仮面はやがて透明の結晶体に成り代わり、その勢いはとどまらず。パイロープの全身へと、まるで彼女を包み込もうとするが如く呑み込み、みるみると成長していく。

「メリッサ…」

 力無く伸ばしたミレットの手。その指先は結晶体に呑みこまれていくパイロープへと向けられる。
 すると、気を失っていたはずの彼女の指先もまた、求めるかのようにゆっくりとミレットに向けて伸ばされていた。

「……」


2018/07/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は364〜







 パイロープの暴走を止めたミレット。そしてバーンズ。
 三人が次々と倒れていく様を見ていたアサは居ても立っても居られず駆け出していく。

「ミレット!」
「このままだと三人の命が危ない!急いで運ばないと!」

 続いてそう叫びながらタルクス、アドレーヌもまた三人へと駆ける。
 キエ(能力者)の力は永久のものではない。
 触れた物を変化させたり特殊な属性を放射したりするにも彼らは体内のエナを変換して行っていると云われている。
 そして、その体内に宿しているエナが尽きるとキエ(能力者)は水を失った魚のような虚脱の状態となり、やがて命を落としてしまう。
 人体に毒と云われているエナというエネルギーは、キエ(能力者)たちにとっては欠かすことの出来ない命の燃料なのだ。



 暴走していた熱風こそ止んではいたものの、未だ周辺はまるで熱帯の様な熱気が残っていた。
 だが、乾く喉、滴り落ち続ける汗もそのままにアサはミレットへと駆け寄ろうとした。

「ミレット!」

 三人とも顔色が良くない。まるで土の様な血の気のない色をしており、アサは不安に駆られた。
 心臓が締め付けられていくような感覚に襲われるも、彼女の傍に寄り添い、抱きかかえようとした。
 そのときだった。

「そうか…そういうことだったのか。やっと見つけたぞ―――アドレーヌ」

 その声は突然、何処かから聞こえてきた。


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