少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/10/16(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は509~ 今日の気分次回更新は22日(火)予定です




「本来なら認知度の高いルーノ将軍に頼むつもりだった。彼に人々の先導者になって貰うつもりだった…だけど状況は変わって現状…彼女以外に適任は居なくなったんだよ」

 国王側の真実をただ暴いたとしても、誰もそう簡単に信用はしないだろう。
“若獅子の再来”、“アマゾナイトの異端児”と呼ばれているタルクスが語ったとしても、人々の重い腰は上がらないかもしれない。
 だが、“ルーノ家”という名は絶大だ。歴史にも謳われるその名があれば、間違いなく人々は英雄の方へと集い、立ち上がる。
 彼女を先導者として認めるだろう。

「…解ってはいるよ、彼女や君に恨まれるのは承知の上だ」

 彼の双眸は非情にも真っ直ぐで、今までに無い程真剣なものだった。
 アサ自身も解っていた。彼が自分を計画に利用しようとしているのと同じく、ミレットのことも利用するのではないかと。
 薄々と、悟っていたはずだった。それしか選択肢がないのだからと、タルクスの算段を呑んでいたつもりだった。
 しかし、彼女の声を聞いた途端。目の前が真っ白になってしまった。
 アサの覚悟とミレットの覚悟、その重さがこんなに違っていたことを、今さらになって思い知らされたのだ。








2019/10/16(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は508~




『それだけではありません。王国は罪のない人を罪人にして捕えたり、謎の計画のために数知れない人々を犠牲にしてきたりしていたのです。私も…つい先ほどまで王城内で幽閉され続けていました』



 絶対的存在、中心核であった王国の―――王の裏切りに民たちは信じられないと言った顔で虚空を見つめ続ける。
 「嘘だ」と叫び続ける者、訳が分からず心を閉ざす者、ただただ女神へ祈る者も出てくる始末。
 街中に轟く民たちの困惑と不安、恐怖は徐々に狂気めいた叫びへと変わっていく。



『これ以上、王の暴走を許してはいけません。だから私は…私たちは今こそ王に立ち向かわなくてはなりません。私たちは国の未来のために、立ち上がらなければならないんです』

 




 アサは此方を見ようとしないタルクスへと歩み寄り、その肩を掴む。
 力強く彼の肩を引っ張り、強引に此方を向かせる。

「どういうことだよ、答えろよ!」

 そう叫んだものの、その意図は重々理解出来ていた。
 タルクスは振り返りアサを見つめると、何とも言えないやるせない顔を向け、その口を開く。


2019/10/16(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は507~










『先ほど皆さんが聞いた声。聞こえた会話はイイヌとアマゾナイト軍タルクス・トロメンター北方支部総隊長のものです。信じられないかもしれませんが…今のは真実なのです』



 否応なしに何処からともなく聞こえてくる声。
 聞きたくもない事実を語る声。
 彼女の言葉に王都中の者達が動揺と困惑にどよめき、不穏の声を洩らす。

「なんだよ、これ…幻聴か?」
「やだ、聞きたくない…」
「こわい、こわいよ…」

 口々に出てくる恐怖と不安の声。
 ある者は空を見回し続け、ある者は耳を塞ぎ蹲り、ある子供は泣きじゃくる。
 先刻巻き起こった竜巻騒動に逃げ惑っていた者たち、元手配の罪人が街で騒いでいると聞き避難しようとしていた者たちも自然と足を止め、その声に耳を傾けている。



『王国は…王は、直属の部隊であるイイヌを使って…二年前から次々と女性たちを連れ浚っては捕えていたのです』



 暴かれた真実を民たちにもわかるように、皆にも伝わるように説明するミレット。
 連続婦女子行方不明事件。
 全ては二年前、自分が原因で起こってしまった事件。
 痛む胸元を押さえ付けながら、彼女は必死に平常心を保ち、語り続ける。

2019/10/08(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は506~ 今日の気分次回更新は14日(月)予定です



 アサは今回の計画の全容を聞いてはいない。
 聞いていたのは“ミレットを救い出す”ということだけ。
 その彼女の声が耳に届き、驚きを隠せずにはいられない。アサは即座にタルクスの方へ視線を向ける。
 だが彼はアサを見ようとはしない。



『私はアマゾナイト軍西方支部所属ミレット・ルーノ……東方支部総隊長バーンズ・ルーノの娘です』



 ミレットが“ルーノ”の名を名乗りたがらない事情はよく知っていた。
 今回の一件で父親への蟠りに何らかの変化があったとしても、その名を公に晒す事は―――彼女が表舞台に立つこととは別の話と言えた。

「これって…王都中に聞こえてるんだろ…名乗ったらアイツは…」
「このご時世でも英雄ルーノ家の名は偉大だよ。認知度の低い箱入り娘だったとしても、彼女の言葉に民の皆が耳を貸すに決まっている」



『この声は…私が持つ特別な力を介して話しています。皆さんの耳に届けています』



 彼女の言葉を聞き、思わずロゼは眉を顰める。それは彼女が、人々に信じて貰うべく『自身の能力だ』と嘘をついたからだ。
 すると、彼の表情の変化に気付いたミレットは穏やかに笑顔を見せながら頷く。
 力強いその眼差しに、ロゼは静かに顔を逸らすことしか出来ない。







2019/10/08(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は505~








 

「だ、大丈夫なのか…?」
「心配ないよ。彼は何としても拘束したいところだから」

 鈍い音を立て地面へと落ちたビオ=ラン。思わず彼の身を案じたアサだったが、タルクスの言葉通り、彼と共に落ちた木の葉と溶解されて泥と化した地面によってその衝撃は思ったより弱くなっていたらしく。
 倒れているビオ=ランからは辛うじて漏れ出る苦痛の声と、浅い呼吸が聞こえていた。

「意識はあるようだけど暫くは動けないだろうね…一応彼のこと、心配してあげるんだねアサ君は」

 確認するべくビオ=ランへと近付くタルクスは心配げな表情を見せるアサを一瞥し、ふと抱いた疑問を投げかける。
 ビオ=ランはアサを手配犯にし、居場所を奪い、この地まで追い込んだ元凶とも言える相手だ。しかし勝利に喜ぶことなくその相手を案ずるとは意外と思ってしまったのだ。
 するとアサは苦笑交じりに答える。

「何かあったら夢見が悪いし…それに、恨むようなこともされて無いからな」

 彼の言葉にタルクスは一瞬目を丸くさせたが、直ぐに破願し「そうなんだね」とだけ言った。
 と、そのときだ。
 突然何処からともなく―――自分たちのものとは違う声が辺りに響き渡る。
 

『私の声が聞こえますか…?』



 聞き覚えのある声に思わず瞳を大きくさせるアサ。
 誰がいるわけでもない空を見上げ、無意識に彼女の名を口にする。

「ミレット…?」


2019/10/01(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は504~ 今日の気分次回更新は9日(水)予定です



 と、タルクスは頭上へと手を翳し、勢いよく振り下す。
 生き物の如く彼の喉元へと飛びつこうとする泥蛇。
 しかし、直後。彼の身体に蛇が咬みつくより早く、上空から落ちてきた無数の木の葉が泥蛇を襲う。
 渦を巻く木の葉は泥蛇に溶かされ、泥蛇を打ち消していく。
 そうして最後には跡形もなく泥蛇は消滅し、落ち葉の塊だけが地面へと散った。

「くっ…小賢し―――」

 そう言いかけたビオ=ラン。その周囲に突然木の葉が再度巻き上がる。

「それ(単調)が強みでもあるんだけど、ね」

 タルクスがそう言い終わると同時に頭上へと振り上げる隻手。直後、地面から凄まじい旋風が生み出された。
 散っていた木の葉を吸い上げていき、中心にいたビオ=ラン共々巻き込む。
 疲労と油断によってビオ=ランは成す術もなく、膝を付いていた彼ごと浮き上がらせ吹き飛ばした。

「ぐあっ!!」

 呻き声を上げながら吹き飛んだビオ=ランは上空に打ち上げられ、直後地面へと叩きつけられた。

2019/10/01(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は503~



 彼の説明に納得しつつも、アサは何故か余裕を見せるタルクスへ声を荒げる。

「そんなことより前!!」
「解ってるよ」

 タルクスはいつもの調子とも言える穏やかな口調でそう返しながら前方のビオ=ランを見つめている。
 対峙しているその仮面の青年はというと、地面に伏せて飛散してしまった武器を急ぎかき集めていた。
 ホールの地面が、石の席が、じわりと熱を受けたチーズのように溶け落ちていく。
 
「だけど対象物を操るってのは結構集中力使うし疲れるんだよね…だからその点は君を尊敬するよ」

 そう告げるタルクスの言葉の通り、確かにビオ=ランは肩を大きく揺らし呼吸をしている。
 王都中心部大通りから外れのこの公園まで水の蛇を使って追いかけ続けていたことが、どうやら彼の異常な疲労と関係しているようで。
 更には此処へ辿り着くまでに受けた挑発やプレナイトの裏切り行為によって精神的な疲労も重なっているとみられた。
 壁にぴったりと張り付く事しか出来ないアサは祈るように二人の戦いを見守る。

「なんせ俺は第二段階に辿り着けないから単調な攻撃しか出来ないからね」

 次の瞬間。
 ビオ=ランは地面から先ほどよりも随分と小さくなった―――本来の蛇に近いサイズの―――泥色の蛇を無数に生み出す。
 泥水の蛇たちは素早い動きで一斉にタルクスを目掛けて襲い来る。

2019/10/01(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は502~





 



 
 明らかに歪んでいくビオ=ランの口元。
 ギリリと奥歯を噛みしめている様子で、彼はその牙を目の前にいるアサとタルクスへ向ける。

「貴様らッ…プレナイトとグルだったのか…!?」

 先ほどまでとはガラリと変わる口振りには怒りが込められている。
 と、ビオ=ランは次の瞬間。向けられていた手を大きく動かす。
 泥水の蛇は大きく波の如くうねりアサたちを襲う。
 背後の石壁によって逃げ場のないアサは思わずその場で強く目を閉じた。




「さて、ここからは俺の出番だな」

 竦むアサの傍らでそう言ったタルクスは直後、自身の前方へ両手を構えた。
 直後。両手から生み出され渦巻き、巨大な竜巻と化する疾風。
 それは先ほど街中で見た竜巻よりも更に大きなもので、勢いよく前進した竜巻はビオ=ランの水蛇とぶつかり、相殺された。
 巻き起こる疾風に衣服ははためき、散った水蛇の泥飛沫が降る。

「こうして飛沫になると溶かすことは出来ないんだな…」

 泥の雨に当たりながらふとした疑問をアサは呟く。
 身体は泥水によって濡れ汚れていくが、溶解する様子はなく。思えば街中で相殺していた際も飛び散った水飛沫は何も溶かしてはいなかった。
 するとアサの独り言を耳にしていたタルクスが口を開く。

「基本キエの能力は対象に触れないと始まらないからね。だから彼も水に触れたり地面を溶解させ泥水にさせたりしないと操れないんだよ」


2019/09/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は501~ 今日の気分次回更新は10月2日(水)予定です



 と、彼女の様子に気付いたロゼは苦笑を浮かべ、彼女の傍へと歩み寄る。

「やっぱり怖い…?」
「怖くない、と言えば嘘になります…怖い、怖くて怖くて堪らない…」

 “この全て”が終わったとき、そこからもう今までの自分ではいられない。
 これまで過ごして来たあの日々にはもう、戻れないかもしれない。
 だからこそ、思わず漏れ出る本音。

「―――でも」

 彼女は熱くなる目頭をそのままに、目の前のロゼを見つめ、声を大きくして告げる。

「もう逃げないって決めましたから」

 真っ直ぐに輝く双眸と、強気の笑顔。
 その顔を見やるロゼは懐かしさを抱き、優しく微笑み返す。

「それじゃあこれ以上の心配はしないわよ。迷わずにミレット・ルーノの―――貴女の想いの声を、王都の民たちへ届けなさい」

 彼はそう言うとその笑みを勝気なものへと変え、ミレットの肩にもう片方の手を乗せた。
 肩口から伝わって来る冷たい感触。しかし、何処か背中を押されるような、勇気付けられるような感じがして、ミレットは口元を緩める。

「ありがとうございます…」

 静かに伏せた瞼から零れ落ちる涙。
 次に目を開けたとき、彼女は先ほどよりも強く輝く眼光で目の前の景色を見つめる。
 何処までも真っ白く広がる空色と傾いている太陽の下、ミレットは眼下の街並みへ向けて口を開けた。







2019/09/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は500~








「全く、せっかくかの英雄王が建てたホールなんだから…もう少し大切に扱われても良いと思うのよね…」

 嘗ては月に一回の頻度で演奏会や演劇が行われていたという森林ホールの現在の状況を、嘆くような言葉と共にため息をつく黒髪の青年―――ロゼ。
 彼は今、アドレーヌ城屋上の庭園を抜けた先にあるバルコニーにいる。
 王都中を見渡すことの出来るその場所から臨む城下町の光景。
 見つめるその横顔に風が流れ、黒髪がゆっくりと靡く。

「あ、あの…それって、疲れはないんですか…?」

 その声が背後から聞こえ、ロゼはゆっくりとコートを翻し、片手を上空へと掲げた状態のまま、彼女の方へと振り返る。

「ええ、問題はないわ」

 彼の背後にいた少女、ミレットにそう答えると彼は穏やかな笑みを浮かべる。



 至って平静でいるが、実際彼がそう容易な状態ではないことを、ミレットは以前の体験で実感している。
 雲一つないこの空に響き渡っている声。何処からともなく聞こえてくる、聞き覚えのあるその声たちを―――アサたちの会話を皆のもとへと反響させ届けているのは全て、ロゼの御業なのだから。

「この力って…どこまで届いているんですか…?」
「そうね…無理をしない程度にって言われてはいるから、王都内には留めているけど」
 
 本気では無いと言うが、国民の半数が集まる王都中に拡声されているのならば充分過ぎるといったところだ。
 その範囲の大きさにミレットは静かに息を呑み込む。自然と震える指先。それを誤魔化すべく強く、拳を握る。