少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2020/01/21(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は531~ 今日の気分次回更新は28日(火)予定です




「あ、紅い…」
「まさ、か…ネフ族…!」

 つり上がったその紅色の眼。
 それはまさしく伝承に聞いていた『ネフ族』と呼ばれる一族の証であった。




「ネフ族って…昔にいた少数民族の一つだろ?」

 現在の歴史では蛮族として語られており、度々アドレーヌ国を陥れようとしていたと謳われている。
 彼の英雄王レイヤード・アト・リンクスの政策により少数民族の扱いは良くなったものの、ネフ族だけはその特徴的な外見と相まって人々から追いやられてしまい、そして人々の前から姿を消したとされていた。

「けど…ネフ族って髪は青いって聞いたのに…」

 伝承に聞く『ネフ族』は空のような青い髪と炎のような紅い瞳を持つと云われていたが、今目前にいる青年は黒色の髪をしている。
 驚きと困惑に眉を顰めるアサの一方で、そんな彼を嘲笑うかのようにビオ=ランは口を開く。

「髪の色なんてどうとでもなるんだよ。まあ目の色ばかりはどうにもならないからそもそもはこれを隠すための仮面設定だったんだけどさ…」

 彼はそう言いながら自身の髪の毛を撫ぜ、ため息を吐く。

「それにしても…その反応と呼び方、随分久々に聞いたよ―――本当に今でも大っ嫌いな反応だ…!」

 燃えるような紅い双眸がアサを睨みつける。
 始めて見るその瞳に対する驚きもそうだが、それ以上に今までとは違う憎悪の眼差しを向けるビオ=ランにアサは言葉を失った。






2020/01/21(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は530~







 予想だにしていなかったビオ=ランの隠し玉。不意を突かれたアサとタルクスに成す術もなく、彼は自分の血液―――液体を操り自身の仮面を引っぺがした。
 目元だけ隠していたその仮面は勢いよく弾き飛ばされ、彼の双眸を晒す。

「仮面を剥いだって…仲間に位置を報せるだけのことだろ? 何でそんな事…」

 拘束している縄を解くわけでもなく、アサやタルクスを狙ったわけでもない。
 以前プレナイトから『仮面を剥ぐという事は、イイヌに自身の位置を報せることになる』と聞いていたが、それをこの状況下でする意図が、アサにはよくわからなかった。
 何故なら、イイヌの本拠である王城は既にトオゼキの者達によって攻め落とされてしまっているだろうからだ。

「問題はそこじゃないんだな…『キエ』の真の力を制御する装置である仮面が剥がされた事が問題なんだよ…」

 そう言いながらタルクスはアサの腕を引き、自身より後方に引き下がらせる。
 身構えるその横顔は真剣そのもので、威嚇さえ見受けられた。思わずアサは息を呑む。

「あっははは…残念だけど目的はそうじゃないんだよ…!!」

 ゆっくりと起き上がりアサたちを睨むように見つめる双眸。
 その瞳の色に、二人は驚き目を見開いた。



2020/01/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は529~ 今日の気分次回更新は21日(火)予定です




「わ、わかった…」

 そして、男は流れのままに身を任せてしまった。
 人命には代えられない。彼の言葉を自身の想いを信じて。
 男は間違った選択をしてしまったのだった。



 恐る恐る男は手を伸ばし、ゼノタイムの仮面を外す。
 無意識に震える指先で外された仮面の下から、ゆっくりとゼノタイムの双眸が露わとなった。

「―――感謝する」

 直後、彼は落ち着き払った声でそう言って両目を開けた。











2020/01/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は528~




「おそ、らく…ッ…エナの暴走、だ……このままでは私は、消滅する…!!」

 消滅。その言葉に男は顔を青くさせる。
 イイヌのトップである彼が消滅してしまっては非常に不味いことは明らかだからだ。
 だがエナやキエについての知識がない男はどうすればよいか解らず。
 人手不足故に周囲には男の他に誰もいなかった。
 急を要する事態であるのに判断を委ねる相手が居らず、自身に知識がない以上、男が取れる選択肢は一つだった。

「ど、どうすれば良い…?」

 蹲るゼノタイムへ、男は尋ねる。
 彼は男の方へと顔を上げ、途切れ途切れに声を出す。

「早く、この、仮面を…取ってくれ…そ、すれば…私は…」

 男の手が、止まる。
 何があっても仮面を外してはいけない。それもまた組織の上司からきつく言われていたことだった。
 その理由や原理などは知らない。
 教えられたとしても男には理解出来そうにもなかったからだ。

「たの、む…自分じゃ、外せない…早く…!!」

 肩を大きく揺らし、苦しんでいる彼を見つめる男。
 委ねられた選択肢に動揺を隠せず、男は呼吸する事さえ忘れてしまうほど。
 時間がない。早く。その言葉が男を焦らせ、冷静な判断能力を鈍らせる。


2020/01/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は527~








 場所は移り、王城内。
 騒然とした先ほどまでとは打って変わって、今は静寂とした空気がこの通路には広がっている。
 というのも、現在この反乱計画は次の段階―――ミレット・ルーノの言葉によって民の心を動かすというもの―――を実行中の合間に、組織の者たちは王城内の完全制圧。占拠を命じられているからだ。
 トオゼキの者たちは各々宛がわれた場所を制圧すべく、王城内を廻っているのだ。

「……トオゼキという組織がこんなにも力を蓄えていたとは…油断したものだな」

 ぽつりと、独り言のようにそう呟くゼノタイム。
 しかし彼は一人というわけではなく。傍らには拘束中の彼の見張り役として、トオゼキの男が立っている。

「このまま国を落とすつもりか…それは愚かなことだ」

 しかし、ゼノタイムの嘆きにトオゼキの男は耳を貸そうとしない。
 決して耳を貸してはいけない。そう言われているからだ。

「我らが行っていたことは悪行ではない…これは国を思うが為の計画なのだ」

 男の心内など知る由もなく、ゼノタイムは構わずに語り掛け続ける。
 と、突如ゼノタイムは呻き声を上げて蹲る。

「うああ、ぐあッ!!」

 突然の変動に思わず男は動揺し、ゼノタイムへ視線を向ける。

「目が…焼けるように熱い…!!」
「目が? な、何があったんだ…?」

 苦しみ出し呻き声を上げ続ける彼へ、男は堪らず片膝を付き尋ねた。
 後ろ手に拘束されまともな身動きが取れず、呼吸を荒げながらゼノタイムは答える。

2019/12/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は526~ 今日の気分次回更新は1月7日(火)予定です




「いや違うね、もうおしまいだよ! だけどこれは敗北じゃない…勝利なのさ!」

 理解の出来ない彼の台詞に、アサとタルクスは困惑顔を浮かべる。
 しかし先ほどまでの言動も含め、彼には情緒不安定な部分がある。故に、二人は今の彼をさほど脅威に感じなかった。
 彼のこの言葉を深く受け止めず、油断してしまった。

「最後にさ教えてやるよ…ボクはさ、イイヌに忠誠を誓ったことなんかなかったよ……ボクが唯一誓ってたのはアドレーヌだけ、なんだからさあ!!」

 そう叫んだ直後、ビオ=ランは自身の、親指の爪で指先を引っ掻いた。
 刃のように鋭く尖らせていたその爪は力強く引かれたことにより指先の皮を裂き、鮮血を滴らせる。
 有事の際、奥の手にしろと彼に―――グラファイトに教えて貰った方法だった。
 
「しまった…!」

 タルクスがその行動の意図に気付いたときには、既に手遅れであった。
 僅かながらに滴る鮮血―――液体はビオ=ランの能力によって操られる。
 拘束され動かせない両手の代わりに鮮血は紅い糸の如く、しかし針のように鋭く尖り、一瞬にしてビオ=ランの仮面を貫き、剥いだ。

「これでもうおしまい…タトミ計画は実行される!!」

 剥がれた仮面の下から晒されたその紅き双眸で、彼は空を見上げ笑う。








2019/12/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は525~










 ああ、コイツはこんなにもつまらないのか。
ビオ=ランは内心そう思う。
 あの日。結晶体の中に閉じ込められていく間際、ちょっと言葉で揺さぶっただけで、彼はあんなにも動揺し絶望したような顔をして閉ざされていったというのに。

(またあの日のように、自分の感情を爆発させながら顔を歪め、そして絶望した後に最期を迎えてくれれば良かったのに、な…)

 そもそもあの日、本来ならば彼はゼノタイムの力によって、結晶体の中へ永遠に閉じ込められたはずだった。
 どんな御業を使って抜け出したのか。此処に平然と立っているのか。
ビオ=ランには見当もつかない。が、それも最早どうでも良い話だった。
 時は満ちたのだ。
 後はこの身を以って発動させれば、計画は―――遂行される。
 ビオ=ランはゆっくりとほくそ笑む。







「あっはは…もうおしまいだよ、おしまい。何もかもが、なくなる」

 突如、けたたましく笑い出すビオ=ラン。
 一瞬驚いたものの、二人は互いに見合った後、彼の吐いた言葉に返答する。

「終わりじゃないさ。君にはこれから罪の告白やその償い…暴走からの責任が待ってるんだよ」

 重く言い放つタルクスに、しかしビオ=ランはその騒々しい笑いを止めない。
 狂ったように拘束された身体を揺らし、叫ぶ。


2019/12/17(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は524~ 今日の気分次回更新は24日(火)予定です









「そこの軍人も、彼を止めたりなんかしないよ。何せ軍の異端児何だから…目をつぶってくれるさ」

 ビオ=ランの視線は軍服の男―――タルクスへと向けられる。
 彼の言葉に反論するべきなのだろうが、タルクス本人は何も言わず。沈黙したままアサへと視線を送る。
 それはまるで、アサの意思に任せると言わんばかりに。

「俺は……」

 あの時被害に遭った者として、遭った人たちの代表として。彼に一発だけ鉄槌を下しても、罰は当たらないはずだ。
 それどころか、理不尽にも罪を着せられたのだ。
 その怒りを、この憎しみを、あの恐怖を。彼にぶつければ。
 もしかすると黒幕の一人の罪を暴き倒した英雄として。人々に感謝歓迎されるのではないか。
 罪人だった汚名をすすぐことが出来るのではないか。




「…俺は何もしてやらない、仕返せと言うならこれが仕返しだ。それに俺が一発殴るより、もう一度罪を告白させて罰を受けさせた方が人やこの男のためだ」

 深く息を吐き、それからアサはそう告げる。
 息を洩らしながら、酷く後悔をした。
 震わせていた握り拳は解き、奴へと吐きかけた言葉を、何故か呑み込んでしまったからだ。
 静かに呼吸を繰り返すアサへ、それまで静観していたタルクスがようやく口を開く。

「…アサくん、君って案外人が良過ぎだったんだね」
「案外は余計だ。それに…ただ人を殴るのが怖かっただけなんで」

 予想外の返答にタルクスは破願し、アサの肩を少し強めに叩いた。





2019/12/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は523~ 今日の気分次回更新は17日(火)予定です








「アサくん―――」

 タルクスは流石に不謹慎にも聞こえるその返答を諌めようと声を出す。
 しかし彼の言葉を遮るかの如くアサが先に話す。

「今此処でコイツを恨んだところで何かが変わるわけじゃない。逆にその言葉で喜ばせるだけだ。それに……ようやくあの事故の謎に合点もいった」

 二年前の事故直後。ずっと気になっていた疑問点。
 行方不明者捜索の早い打ち切り。国王騎士隊の介入。非公開となっていく事故の情報。
 それらの腑に落ちなかった点がようやく、彼の簡単な点によって結びついた。
 ただ、こんなにも偶然的で、他愛のない、純粋な悪意が原因だったとは流石に予想もしていなかった。



「はは、は…何腑抜けたこと言ってんのさ…ここで民たちを代表して一発殴れば君は英雄になれるかもしれないのにさ…ほらほら、諸悪の根源に…正義の鉄槌を落とせば良いじゃないか」
「…ッ」

 ビオ=ランの吐く言葉にアサは思わず拳を握り締める。
 脳裏に、あのときの光景が過る。
 大河へと叩きつけるように落ち、仄暗い底へと沈んでいく感覚。
 何も出来ない恐怖。助けられなかった人たちへの後悔と、助けた少女の言葉が、鮮明に蘇ってくる。
 死の恐怖、その憤りが頭を過っていく。






2019/12/03(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は522~ 今日の気分次回更新は10日(火)予定です









「二年前…ちょっとした息抜きというか、賑わいの腹いせにね橋の一部を溶解したんだよ。そしたらまさかあんなにも凄い崩壊が起こるなんて思わなくてさ」

 大傑作だったけどね。そう付け足して笑うビオ=ラン。
 その笑みはとても愉悦のようで、歪だとタルクスは人知れず息を呑む。

「ただ後始末が大変だったみたいでさ、情報操作とかもみ消しとか…お陰で恐ろしい程あの人に怒られちゃって。まあそれが切っ掛けで『アドレーヌ』の反応が見つかったんだから感謝して欲しいくらいなんだけどね」

 淡々とそう語るその口振りに嘘偽りは感じられず。事実だったとしてもまるで娯楽のように面白おかしく話す彼に、少なからずタルクスは具合が悪くなるようだった。

「ラッハタ水祭の大橋崩落事故―――あれは沢山の人が亡くなり、行方不明となった痛々しい事故だったんだよ…それを、君は……」
「ああそうだよ、やったんだよ、この手で。ボクが! それでも…君はボクを恨まないのかい…?」


 時は、もう直ぐ満ちる。
 間もなく計画は、始まる。
 後は彼から憎悪の、嫌悪の、厭悪の言葉を聞けばもう、満足だ。
 ビオ=ランの口元が、僅かに緩む。

「恨まない」

 またしても想定外の返答に、彼の口元から笑みが消えた。







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