少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/08/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は377〜 今日の気分次回更新は21日(火)予定です




「ごめん、アドレーヌ…!」

 咄嗟にアサはアドレーヌの手を引き離すと、更に遠くへと突き飛ばした。

「アサッ!アサッ!!」
「君だけでも…逃げてくれ…!!」

 彼女の涙声の悲鳴が、直ぐに聞こえなくなっていく。
 頬から涙を流していたその姿も、間もなく見えなくなっていく。
 全身が硬直し、何か得体のしれない固体によって包まれていく感覚。
 冷たいとも熱いとも言えない感触。
 そこにあるのは何も無くなっていくような、暗く、閉ざされていく“無”だった。








 結局、何も出来なかった。
 役に立つどころか、終始蚊帳の外だった。
 ルーノ将軍やパイロープを助けることも、ミレットを救うことも、タルクスのために時間稼ぎをすることも、アドレーヌにも、何も出来なかった。
 悔しさも通り過ぎで呆れ果ててしまう。
 笑いすら込み上げてくる。
 涙など、出て来やしない。
 だから―――此処でこうして最期を迎えても仕方がない。
 手配犯にされて、こんなところまで五体満足に来られて捕まらなかったのは才能ではない。
 自分の運が、偶然があって良かっただけ。
 周囲が強すぎただけ。
 異能過ぎただけ。
 常人外れ過ぎなだけ。

 俺は結局、誰も助けられない。
 何も出来ない凡人なだけ。
 
 だけど、せめて――。
 君だけは…アドレーヌだけでも無事で助かっていて欲しい。
 何とか逃げていてほしい。
 それだけは切に願う。








2018/08/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は376〜



 ミレットを連れ去られた悔しさと虚しさに苦しむ暇さえも与えず。
 ゼノタイムは自身の掌をアサたちへと向ける。

「二人纏めて我らが計画の礎となれ」

 非情に、冷酷な声で彼はそう告げる。

「逃げて、アサ!!」

 構えた掌が何を意味するか即座に察したアドレーヌは急ぎアサの腕を引っ張る。
 が、彼は全く動こうともせず、ただその場に立ち尽くすだけ。

「アサ!!」

 覗き込んだその横顔には絶望感や悲しみと言ったものはなく、純粋に悔しんでいるようであった。

「しっかりして、アサ!!」

 大きく身体を揺すり、彼女はお腹の底から声を出した。
そこでようやく、アサは我に返る。が、しかしもう手遅れであった。
アサはゼノタイムに頭を掴まれた。


「ッ…!!」

 鷲掴みにされた頭部に痛みはない。そっと添える程度の力加減だ。
 だが、痛みよりも触れられたこと自体が重大であった。
これまで出会ったキエ(能力者)たちの行動を思い返せば、それが何を意味しているのか、考えずとも察することが出来た。


2018/08/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は375〜




 しかし、男はそれ以上アサの言葉に耳を傾けることはなく。

「もう直ぐグラファイトの能力が切れる…その前に彼らを片付けておくが、後は任せたぞ、ビオ=ラン」

 淡々とそう語り、また一歩とアサに近付く。
静かなる気迫にアサは気圧され、ゆっくりと後退る。
 が、背後にいたアドレーヌの気配に気付くとその後退を止めた。
 いざとなれば、せめて彼女だけでも逃がさなくてはならない。そこまで覚悟を決め、彼はアドレーヌを守るようにして両手を広げた。
 
「はいはい、了ぉ解。大切な女神様はしっかりとお届けするよ」

一方で、軽い口調でそう返すビオ=ランは、ミレットをその腕に抱きかかえたまま、再度大河へと向かおうとする。
 このまま先ほどのように水上を移動されては、ミレットを取り戻す事はほとんど不可能となってしまう。

「ミレット!!」

 しかしアサの声に彼女が目覚めることはない。
 手を伸ばし追いかけようにも、それを遮るようにゼノタイムが立ちはだかる。

「今度こそさよなら…元手配犯」

 小馬鹿にするようにそう告げると、ビオ=ランは大河の方へと姿を消していった。
 ミレットを抱えたまま。何も出来ないまま。
 胸の奥から込み上げてくる燃えるような悔しさに、声にならない叫びを上げ、アサは伸ばしていたその手で力強く、空を掴んだ。


2018/08/07(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は374〜




「アドレーヌって、計画ってなんなんだ…何故ミレットを探していた、必要なんだ!答えろ!!」

 近付く男へ、アサは次々と疑問を投げかける。
 そもそも、今の状況は謎だらけだ。
 ゼノタイムという男が使った能力にしろ、ミレットをアドレーヌと呼ぶにしろ。パイロープの正体がミレットの姉妹だったにしろ。ミレットが能力者(キエ)であったことさえ、アサたちは何も知り得ていない。分かってはいない。
 アサが叫んだ疑問は、心の中で抱いた言葉そのものでもあった。
 すると、アサの叫びを聞いたゼノタイムが答える。

「部外者のお前にこれ以上話すことはない」

 淡々と、冷徹に、低く威圧的な声で男は言った。
 その言葉はアサの胸の奥に深く突き刺さり、思わず眉を顰める。
 無関係、蚊帳の外、第三者、除け者。そんな言葉が嫌でも脳裏を過っていく。

「部外者じゃない!ミレットは大切な家族だ!」
「彼女の事情を何も知らず…家族とはよく言えたものだな」

 吐き捨てるような台詞。アサの表情は更に歪む。
 心を抉られる気分は目頭が熱くなり、眩暈さえ感じられるほどだった。
 だがそれでもアサは彼らを引き留めるべく会話をし続けなければ、と躍起になっていた。
 会話をすることで、相手が語り続けることで時間稼ぎをする。タルクスが目覚めてくれるだろうその時まで。
それだけがアサにとっての、重大な使命となっていた。



2018/07/30(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は373〜 今日の気分次回更新は8月7日(火)予定です



 しかし、肝心のタルクス自体は、ビオ=ランからの一撃を受け吹き飛ばされて以降、どうなっているのか解らずにいる。
 絶望的な状況から何一つ、希望の兆しさえ見えてはいないのが現状であった。

「ホント、少ない手掛かりの中、二年間も地道に探し続けたかいがあったよ。お陰でどれだけボクが苦労したことか―――」
「それ以上は口外禁止だ、ビオ=ラン」

 勝者の余韻に浸りたかったのか自身の苦労話を語ろうとしていたビオ=ランであったが、ゼノタイムによって遮られてしまう。
 彼もまた目元を仮面によって隠しているため表情を伺い知る事は出来ないが、ビオ=ランの言動に苛立っている様子であることは見てわかった。

「まあ良いじゃん。どうせ彼らも“国の礎”ってのにさせるんでしょ。冥途の土産ってやつだよ」

 そう言ってふざけたような笑いを見せるビオ=ランに、ゼノタイムはため息に近い吐息を洩らす。
 無言で彼は抱き上げていたミレットをビオ=ランへと託し、コートを翻すなりゆっくりとアサのもとへ近付いてくる。



2018/07/30(月) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は372〜




「彼女はミレットだ!アドレーヌじゃない!」

 アサの叫びにビオ=ランが僅かな反応を示す。

「わかってるよ、そんなことは。彼女は“アドレーヌ”じゃない。僕の“アドレーヌ”でもない」

 更に低く、苛立ちを見せた声へと変わる。
 表情は隠れているが、確実に怒りを滲ませている。
 だが、次の瞬間。彼は表情をガラリと変え、口角を歪に吊り上げて見せた。

「だけど、ボクらの計画にとっては重要な“アドレーヌ”…女神様なのさ」

 両手を広げ、大げさに素振りを見せながらビオ=ランは答える。
 まるで子供のように無邪気にそう言って彼は笑う。
 しかしその行動に子供の様な無邪気さは微塵も感じられない。
 彼は自身が優位な状況を楽しんでいるのだ。
 二度も出し抜かれ見事に転がしてくれた相手が苦しみ、悔しむ顔を見て喜んでいるのだ。
 それが理解出来てなお一層とアサは屈辱とも言える敗北感と悔しさに奥歯を噛みしめる。
 だが、今のアサには何もすることが出来ない。手も足も出せず、まともな打開策さえも浮かばない。
  後のことなど何も考えずにビオ=ランを思いっきり殴られたらどれだけ気持ちが楽だろうか。そんな激情を押し殺しながらも必死にアサは、ただただ、僅かでも良いから時間を稼ぎ、たった一縷の希望――キエ(能力者)であるタルクスが復活してくれることを祈るしか出来ない。

2018/07/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は371〜 今日の気分次回更新は30日(月)予定です



「はいはい解ってるって…あーあ、散々人のこと言っときながらそうして無様な姿は晒すし、実は探していた“アドレーヌ”の血縁者だって言うんだからお笑い種すぎて涙が出ちゃうよ」

 そう言いながらビオ=ランは口元を弧に歪ませる。
 パイロープとは良い思い出などなかったが、仲間であったはずの彼女を侮辱しているビオ=ランにアサは心をざわつかせ、表情を曇らせる。

「ミレットを放せ!ビオ=ラン!」

 何より、ミレットの双子の姉であった彼女を小馬鹿にしている彼のあざけ笑う姿が許せなかった。

「はーあ…でもって、どうして君はこうして生きてるんだろうね。確実に底なし沼に沈んでたはずなのにさ」

 叫ぶアサに気付き、その方へと顔を向け、声色を変えるビオ=ラン。
 先ほどまでとは打って変わり、そこにはこれまで以上の気迫――殺気を感じた。

「ダメッ、アサ!」
 
 と、アサの隣に駆け寄ったアドレーヌが彼の腕を掴まえ、制止する。
 向こうはキエ(能力者)であるイイヌの人間が二人。
 一方でこちらは、バーンズは負傷し、タルクスも吹き飛ばされてしまい状態がわからない。一般人である二人では分が悪すぎなのだ。
 ましてやミレットを人質に取られてしまえば、身動きどころかこちらもどうなるかわかりかねない。

「今は…逃げないと…!」

 もう、今の二人ではこの選択肢しかないと見えた。
 しかし感情を、怒りを露わにしているアサはそんな現状が見えていない。掴まえられたアドレーヌの手を振り払い、尚も果敢にビオ=ランへ挑もうとする。





2018/07/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は370〜







 前回も今回も、ビオ=ランは襲撃時に水を大蛇のように扱っていた。
 その点から彼が水を操れる第一段階の能力者(キエ)であることは理解出来た。
 しかし、まさか水上から現れるとは、とアサ驚きを隠せなかった。

「けどまさかそれが“アドレーヌ”だったとは…予想外だったけどね」

 そう言うとビオ=ランは手にしていた木の板を投げ捨てながらミレットを一瞥する。
 どうやらその板を利用して水面を移動して来たようで、衣服は濡れているどころか水滴一つついているように見えない。
 一方でミレットは意識を失ったまま土塊の男に抱えられているが、全く持って目を覚まさないでいる。

「我らは目撃者の語っていた外見にばかり囚われ過ぎて重要な要素を欠いてしまっていた。ルーノ家も金髪碧眼であったことにな」
「で、目的のそれをどうやって運ぶのさ、ゼノタイム」

 悠長に語り合う二人。その様子はまるでアサたちは眼中にないというほど。

「聞かずとも解っているだろう。その為にお前にはわざわざここに来て貰ったんだ」

 ゼノタイム、と呼ばれた男はため息交じりにビオ=ランを一瞥する。
 土塊から生まれたはずのその男はビオ=ランと同じ白服の軍服に身を包み、仮面で顔を隠している。ただ、彼らとは違い、その背には同色の外套が羽織られていた。
 見た目は金色の長髪、長身のその出で立ちは20代後半から30代後半の壮年と思われた。


2018/07/18(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は369〜 今日の気分次回更新は24日(火)予定です




「ミレット!!」

 アサとアドレーヌもまたミレットを救出するべく、男目掛けて駆けて行くが、彼らにも容赦なく水蛇の一撃が放たれる。
 と、その気配を察したアサは、寸ででアドレーヌを庇いつつ水蛇を避けた。
 大きく飛び退けた二人は地面を何度か転がる。

「また見事に転がって…けど、よくもまあボクも“転がして”くれたよね」

 聞き覚えのある声が、もう二度と聞きたくなかった声が聞こえてきた。
 元より、アサはこの水蛇の如き水鉄砲を以前体験していた。体験していたからこそ、その攻撃を交わすことも、彼が居るということも察することが出来ていた。

「ビオ=ラン…!」

 起き上がりながら、アサは大河より現れたその青年を睨み、言った。





2018/07/18(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は368〜



 その予想通り、犯人はいたのだ。
 今、目の前にいる男。それがアドレーヌを水晶体に閉じ込めていた犯人と思われた。
 と、そんなことを考えていた次の瞬間。

「だがパイロープ。お前は良いもの残してくれた…散々探していたアドレーヌをこうして見つけ出してくれた」

 そう言って男は迷いなく、素早くその手を翳した。ミレットとタルクスに。

「ッく!!」

 即座に反応したタルクスは自身の手を男に向け返した。が、顔を顰めた彼は何故か得意の能力を――旋風を発動させようとはしなかった。
 それが一瞬の隙となった。
 男の背後――大河から、タルクスたち目掛けて突然、大蛇の如く水の塊が噴き出した。
 水の塊は抵抗させる間も与えず、タルクスたちを一瞬にして呑み込み、押し飛ばしす。
 だが、水圧によって吹き飛ばされたのはタルクスのみ。
 ミレットは地面から盛り出た手形の土塊により捉えられ、水圧の一撃から逃れていた。
 しかしそれは『助け出された』のではない。『捕えられた』のだ。

「しまった…!」

 水蛇の一撃を喰らったタルクスは直ぐに体勢を整えたが、既に遅く。ミレットは手形の土塊に捕まったまま男の傍へと運ばれていた。
 気を失っている彼女は抵抗する事さえ出来ない。