少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/06/05(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は470〜 今日の気分次回更新は19日(水)予定です



 拍子抜けしてしまうくらいのその変わり様に、思わずプレナイトは笑みを漏らす。

「…意外だったな、そんなに熱く想ってくれていたなんて」

 すっかりと忘れていた微笑み方。プレナイトはタルクスへと歩み寄り、彼に向けて自身の手を差し伸べる。

「知らなかったの?アサくんも言ってたでしょ、こう見えて俺は貴方の仲間なんだよ」

 かつて、彼らが自分をそう呼んでくれた言葉。
 プレナイトは短い吐息を洩らす。


 本当は柄ではないし性分でもないのだけれど、片時も忘れたことなど無かった言葉。
 が、どうやら長い時間の中で、すっかりとその意味合いをすり替えてしまっていたようで。
 『失いたくない大切な者達』。彼はそれを仲間だと思っていた。
 間違ってはいない、が、そうではないのだ。彼が知る『仲間』と言うのは―――。

(ズカズカと人の領域に入り込んで、強引に引っ張って惹きこんでしまう。だけど、そんな無礼を何となく許せてしまう相手たち…)

 そうだ、これが“彼ら”の言う仲間だったのだと、彼は再認識する。
 と、再確認ができたところで、彼は深いため息を吐き、それからおもむろに口を開いた。



「―――わかった。貴方たちを信じてあげる。だからしっかりと役を担いなさい。私もしっかりと暴れてきてやるから」

 差し伸べられていた彼の手を握り、力強く立ち上がるタルクス。満足げなその笑顔は出会った当初の、無邪気な少年のそれそのもので。
 そんな懐かしさも相まって彼もつられるように、かつての――素顔の笑顔を浮かべた。
 
 





2019/06/05(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は469〜




「人聞きの悪い言い方だなあ。彼らの後押しがあれば貴方は俺の計画を使ってくれるんじゃないかって……思ってはいたけど。アサくんをこんな形で使うことになったのはあくまで不本意だし、ミレット嬢についても申し訳ないと思ってるんだよ」

 仮面の奥に隠しているプレナイトのそれを想像しつつ、彼は見つめたまま言葉を続ける。

「だけど、だからこそ。独りで戦おうとはしないでよ。隠し事をするならするでも構わない、けど…俺や彼らのことをもっと利用すれば良い、信じて欲しい…」

 常に飄々とした態度で、爽やかな彼とは違う。いつになく真面目なその顔に、プレナイトは閉口する。
 彼との付き合いも長い方であるが、こうして真正面から向き合って言葉を投げかけてくるのは随分と久しぶりのような気がすると、プレナイトは思う。

「そうさ。貴方も遂に変化のときが来たんだ。彼らみたいにさっぱりと、その偽りの面を脱ぎ捨てて。なんだったら奴らへ宣戦布告でもして暴れてくれた方が良い」

 それで何が起こったって、俺たちは自分の身を守るくらい出来るし、貴方を助けることだって可能だ。それくらいの力はあるんだよ。
 タルクスは力強くそう言ってみせる。
 真剣な眼差しに、プレナイトはおもむろに唇を開こうとする。
 が。彼が口を開くよりも先に、タルクスが盛大に息を吐き出し、その場に座り込んでしまった。

「あー…やっと言えた…ずっと言いたかったこと」

 先ほどの真面目とは打って変わって、空を仰ぐように座り込んだその様はまるで力の抜けた子供のようで。

2019/06/05(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は468〜









 去って行った二人の背を眺め、佇むプレナイト。
 と、そんな彼へとおもむろに近付くタルクス。
 プレナイトの隣へ並ぶと彼は飄々とした様子で笑みを浮かべて見せた。

「どうだった?彼の変化は」

 その笑みが何処か嫌味っぽく、プレナイトはわざとらしいため息を洩らして告げる。

「驚きしかないな。あんなにも心変わりが出来るなんて」

 アサはこの短期間で随分と変わった。
 凹んでいた――塞ぎこんでいたあの日の影は最早なく、真っ直ぐに前を向けている。
 
「まったく、愛は偉大だよね。愛故に変化することを躊躇わず、前へ進むことだって、自らを犠牲にすることさえできるんだから」
「…言いたいことがあるならはっきり言え」

 爽やかな微笑みを見せ、タルクスはプレナイトをゆっくりと横切る。
 いつもより低い声で尋ねるプレナイトに視線を戻し、一呼吸置いた後、口を開いた。

「―――俺はただ、貴方にこれ以上独りで全てを背負って欲しくないだけなんだよ。周りを利用しようとしてる風で、結局大事なことは秘密裏にして…俺にも何も教えてくれず、自分だけを犠牲にしようとしているのが気にくわない」

 笑みの消えた、切ないともやるせないとも言える眼差しをタルクスは向ける。

「だからこうして…彼らを巻き込んでまで、お前はこの計画を立ててねじ込んで来た、と」


2019/05/29(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は467〜 今日の気分次回更新は6月5日(水)予定です




「――って、そういえばタルクスはプレナイトの仮面を外した顔を知ってるのか?」
「あれ言ってなかったっけ?ごめん」

 恍けたように微笑む彼の顔を見つめ、冷やかな視線を向けるアサ。
 言いたい事も文句も諸々あるところだが、それらを口に出す事がなく静かに呑み込む。

「…まあ良いさ。外せない理由があるなら、いつか見せてくれれば」

 アサは呑み込んだ息の代わりにため息を吐き出しながらそう答える。
 そしてそのままアドレーヌを引き連れ、旅支度のために施設へ戻ろうとする。
 が、その前にと。
 アサは静かに足を止めた。


「絶対に…ミレットを助けてくれ――約束だからな」

 プレナイトに背を向けたままそう言うと、アサは再度歩き始め、逃げるようにしてその場を去っていく。
 彼の後へと続くアドレーヌ。彼女は対照的に踵を返すとプレナイトに近付き、囁くような声で彼へ告げた。

「…私も、もう逃げない。覚悟を決めたから」

 強い覚悟の眼差しは、痛い程プレナイトに伝わると同時に何処かアサとは違うその双眸に一抹の不安を抱かせた。
 しかし彼が何か言おうとするよりも早く、彼女は複雑な笑みを見せ会釈をすると、背を向け颯爽と去ってしまった。





2019/05/29(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は466〜







 イイヌたちが付けている仮面の意は、その素顔を隠し捨てることで国王への忠誠を誓うというもの。
 が、真の意味と目的はそれだけではない。
 彼らイイヌが付けている仮面には特殊なエナ石が取りつけられており、彼らの力を吸収し続けることで彼らの能力を制御・管理している。
 仮面は言わば、彼ら自体を制御するための装置という役割を担っていたのだ。
 エナの暴走による過度なエナの吸収や、仮面を外しエナの供給がなくなると、仮面のエナ石は特殊なエネルギーを発し、他のイイヌへその位置を感知させる仕組みとなっている。
 それは暴走したキエを食い止めるための対処の他に、素顔を晒す裏切り行為を犯した者への粛清の為。という目的も含まていた。

「…それについて云々は実際にパイロープの件で、お前たちも体験済みだろう」

 プレナイトの言葉を聞いたアサは、クリスタルに体が取り込まれ、包まれてしまったパイロープの姿を脳裏に過らせる。
 確かにあのとき、その原理等は不明だったが、パイロープの暴走に合わせたかのように突然イイヌの男が現れ、それからビオ=ランまでもが姿を見せた。

「つまりは仮面を外してしまうことで、あのイイヌがその場所に現れるようになっているから、この居場所がバレちゃわないためにも今は止めとこってことだね」

 食指を立てながら陽気な面もちでそう補足するタルクス。
 なる程と、相づちを打つアサ。隣のアドレーヌもまた理解したと訴えかけるように頷く。
 と、アサはある事に気付き目を見開きながらタルクスを見やる。

2019/05/22(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は465〜 今日の気分次回更新は29日(水)予定です




「そうだったけど…今はもう前とは状況が違う。前みたいな敵対心もないし…だから、その仮面を外して本当の名前であんたを呼びたい。ミレットを助けて貰うんだし、ちゃんとした仲間になりたいんだよ」

 今見せてくれるならその方が嬉しいけど、今も外さないでいるには理由があるみたいだしな。と、付け足してから、アサは苦笑を浮かべた。
 随分と切り替えの早い彼の思考に驚きを隠せないプレナイト。
 だが同時に呆気にも近い感情を――懐かしい感覚を抱き、プレナイトは破願し、思わず声を出して笑ってしまった。




「お、可笑しいか?変なこと言ったか、俺?」

 まさかの笑みに今度はアサの方が驚愕し、恥ずかしさに顔を紅くさせながら尋ねる。
 プレナイトは顎下に指先を添え、湾曲描く口元を隠しつつ答えた。

「いや…まさかそんな要望をしてくるとは思わなかっただけだ」

 そう言うとプレナイトは自身の仮面に手を掛ける。
 此処で外すのかと、思わず息を呑んだアサたちだったが、そう言う訳ではなく。
 直ぐにその手は静かに放されていく。

「確かに今この仮面を剥ぐことは出来ない。その仕組みについて説明すると難しくなるわけだが…掻い摘んで話すと、この仮面を外すことで、此処がイイヌにばれてしまう可能性があるからだ」







2019/05/22(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は464〜




「―――ミレットを救い出す作戦については単純なものだ。特別説明する必要はないだろ?」

 そう言いながらプレナイトは視線をタルクスに向ける。
 彼は深く頷き「任せてよ」と言って微笑みを浮かべた。

「ちょっと…最後に一つだけ、良いか?」

 と、説明を終えるなりアサはそう言って一歩前へと乗り出す。
 踵を返そうとしていた足を止め、アサの方へ振り返るプレナイト。

「なんだ」
「質問と言うか…頼みなんだけどさ。もしこの作戦が成功したら……その仮面を取ってくれないか?」

 意外な頼みにプレナイトは黙って彼を見つめ続ける。

「どうして…?」

 思わず、素のままで彼はアサへ尋ねる。
 するとアサはバツの悪い顔を見せてから頬を掻き、答える。

「だって、ほら……あんたを仲間だって認めたからに、決まってるだろ」

 プレナイトの見せる僅かな硬直。
 仮面の中では恐らく目を丸くしていることだろうとタルクスは窃笑する。
 
「好きな奴ではないんだったんじゃないのか?」

 好きな奴じゃない。
 それは以前アサがプレナイトの印象として漏らしていた言葉。
 彼に直接言った訳ではなかったのだが、聞こえていたのかとアサは内心彼の皮肉に眉を顰めるも、気持ちを切り替え、口を開く。

2019/05/22(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は463〜








「…わかった。ただし身の危険を感じたらすぐに逃げろ」

 それからタルクスを一瞥し、「責任もって守ってやれよ」と語彙を強め忠告する。
 タルクスは再度肩を竦めた素振りを見せて答える。

「わかってるって。何があっても彼の身の安全は保障するよ」

 笑みを浮かべる彼から視線を逸らしたプレナイトは不意にアドレーヌと目を交える。
 苦労していたのね。そう告げているような苦笑を見つけ、彼は静かに顔を背けた。
 背けた先で、人知れず彼もまた小さく、無意識に苦笑を洩らしていた。


 
 
 反乱組織『トオゼキ』の計画決行に参加する事となったアサたち。
 彼らの計画―――と言っても発案はタルクスらしいが―――について、その具体的な内容を聞かされてはいなかったが、アサはそれで構わなかった。
 彼にとって最も重要なことは“ミレットを助ける”作戦であるということ。
 その作戦が成功するためならば、自分はどんな目に遭おうと厭わない覚悟がある。彼はそれで充分だった。
 これ以上難しく考える事を、深く考え過ぎていた自分を、彼は止めたのだ。
 相手を見て、自分を見つめて考えることにしたのだ。
 彼の認める仲間たちが、そう諭してくれたから。





2019/05/14(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は462〜 今日の気分次回更新は22日(水)予定です




「…まさか、彼をこの計画の囮として利用するため、此処まで連れてきたのか…?」

 静かなその声には憤りが、苛立ちが含まれている。
 仮面越しに射るような眼差しを受けながらも、タルクスは相変わらずの飄々とした態度で苦笑を浮かべ返す。

「俺にそんな先見の明はないよ……だけど、もしもの――最悪の場合として彼は何かに利用できると思っていたのは事実だよ」
「タルクス、お前は…!!」

 今にも掴みかかっていきそうな剣幕。
 が、それを制止するべく、アサの手がプレナイトの行く手を塞ぐ。

「タルクスは悪くないんだ。俺のような立場で…こんな非力で何が出来るのか、役に立つのか、ミレットを救えるのかって……この何日間か自分で考えて、考え抜いて決めたんだ。だからこれはタルクスが悪いわけじゃない」

 利用されたと解っていても、利用されるのだとしても。

「辛い役割だとしても、これは俺の決めたことなんだ。プレナイトが反対しようとも俺はやるよ」

 堅く強い意志。その眼差しを一心に向けられ、プレナイトは思わず顔を背けてしまう。
 単純とも思えるくらいに真っ直ぐで純粋な――懐かしささえ抱く青年の双眸を見つけ、プレナイトは折れる他なかった。



 その顔が遠いあの日の彼女の顔と重なってしまった。
 その彼女が訴えているように見えてしまい、これ以上、何も反論する事が出来なくなったのだ。
 暫くの間を置いた後、彼は静かに握っていた拳を解いた。





2019/05/14(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は461〜







 予感通りであったアサの言葉に、プレナイトは即答で否定する。

「駄目だ。お前では足手まといだ」
「力不足なのも足手まといなのも充分わかっているさ。だけどこれは…この計画はミレットを救う計画なんだろ?それなら尚更だ」

 反論するアサの台詞もまた想定内のものではあった。
 が、想定していたからこそ、プレナイトは閉口する。



 この計画の要は、実のところミレット奪還とは別にあった。
 しかし、彼女はイイヌにとって重要な鍵であると同様に、此方側にとっても計画の最重要存在だった。
 それゆえに、彼女の奪還は必要不可欠なものとなっているわけだ。

「ミレットを助けるために最も難関な存在…イイヌのビオ=ランを引きつけるには俺以外にはいない」
「駄目だ!」
「あんただってもう考えついてるんだろ? 俺以外に適任はいないって!」

 プレナイトは人知れず更に拳を強く握る。
 アサの言い分は正しく、ビオ=ランと再三衝突してきた彼は、誰よりも最高の囮となる。
 

「三度に渡る交戦で逃げ切られて、それで四度目の登場となっちゃあ…流石の抑止も効かなくなっちゃって、ビオ=ランは間違いなくアサくんを狙うよ。それこそ暴走ギリギリの状態でね」

 肩を竦めるタルクスをプレナイトは無言のまま見つめる。
 表情こそ読み取れは出来ないが、彼からは殺気にも近い気迫が放たれる。