少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/06/19(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は357〜 今日の気分次回更新は26日(火)予定です




「メリッサッ!!」

 一瞬にして干上がるような涙を流しながら、ミレットは叫んだ。
 と、彼女の手は止まる。

「真に助けたいならばそうではない!」

 差し伸べようとしたミレットの手はバーンズによって掴まれ、止められた。
 全身に火傷を負っているその身体は動くだけでも激痛が走っただろうが、しかし彼は痛む身体を強引に動かし、残っている力を振り絞るようにして娘を制止したのだ。

「お、父さん…?」

 痛々しいその姿と見たことのない剣幕にミレットは驚きと動揺を隠せない。
 だが彼女の動揺に構わず、バーンズはその掴んでいる手を強引に動かす。
 ミレットの掌は暴走しているパイロープへと向けさせられた。

「お前なら出来る。メリッサを止めるんだ!」

 そう叫ぶ父の言葉。そして翳された掌。
 それが何を意味するのかは、以前タルクスとパイロープの戦いから悟った。

「お父さん、私は…キエじゃ…」

 キエ(能力者)じゃない。
 ミレットはずっとそう思っていた。
 キエ(能力者)として目覚めたという自覚もなければ、才能があると言う感覚を抱いたこともなかったはずだった。
 だから能力を見たのはビオ=ランのが初めてであり、タルクスの能力には驚愕した。
 そう思っていた。

「お前は忘れているだけだ。思い出せ、二年前のあの日、あのときのことを!!」






2018/06/19(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は356〜








「メリッサ…メリッサ!」

 意識がないらしく、パイロープは肩を落としぐったりとしており、かろうじて立っているといった様子であった。
 だがエナは止め処なく全身の皮膚から溢れ出しているようで。
 輝く蒸気は彼女を守るように包み込んでいく。

「叫んでも無駄だ。意識は、おそらくない」

 バーンズの言葉にミレットは振り返り、彼を見つめる。

「でも…でもっ!」

 やっと思い出した。全てを思い出した。たった一人の大切な姉。
 自分の分身とも言える、忘れてしまっていた大事な存在。
 それを目の前で諦めることなど、できそうになかった。

「それ以上は近付くな。全身が焼け溶けるぞ」
「それでも!大切なお姉ちゃんなんだよ…家族なんだよ!」

 バーンズの制止も聞き入れられなかった。
 自分はどうなっても良い。今度こそ彼女の、姉の手を掴まなくては。
 ミレットはそう思っていた。

「それに…泣いてたの。名前を呼んでくれて泣いていたんだもん…!」

 父の言う通り辺りは一気に蒸し風呂どころか灼熱の窯の前に立っているかのような状態に変化していた。
 汗は流れるように落ち続け、呑み込む息は焼けるように痛い。
 ジリジリと、焼ける匂いが漂い始める。溶けるように身体は熱による痛みを訴えている。
 だが、そんな状況でも怯えることはなく。ミレットは一心に姉へと、メリッサへと手を伸ばす。

2018/06/12(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は355〜 今日の気分次回更新は19日(火)予定です



 そう言うとタルクスはアドレーヌを押しのけ再度その手をパイロープに向けて構える。
 そうこうとしている間にも彼女の暴走はより悪化していき、放熱により地面は歪み草花は枯れ始めていた。
 傍に居るミレットたちもそこは既に灼熱の場と化しているはずであった。

「だめ!お願い、止めて!」

 しかしアドレーヌはそれでもタルクスの手を掴み放そうとしない。
 先ほど彼女の言っていた“可能性”。それがまだ残っているからこそ足掻こうとしているのか。それともパイロープに何か特別な感情を抱いたのか。それはアサにはわからないことであった。
 故に彼は取り乱すアドレーヌを止めることしか出来ない。

「仕方ないんだってアドレーヌ!」

 説得する暇ももうなく。アサはアドレーヌを羽交い締めにする。
 パイロープの放熱は背後の大河にまで及んだらしく、気付けば周囲は熱気を帯びた霧によって見え辛くなっていた。
 咽を焼くような蒸気は蒸し風呂のそれ以上で、自然と汗が流れ落ちていく。

「可能なの、私なら可能なの…!」

 羽交い締めされながらも取り乱しているアドレーヌが、無我夢中で口走った言葉。
 無意識に叫んでしまったのだろうか、直後彼女は我に返ったように突然抵抗を止めた。

「今なんて…?」

 自身が口走った言葉に動揺を隠せないでいるが、それ以上にアサは困惑していた。
 タルクスも解っているようであったがその『可能性』というのが一体何なのか。
 しかし、その答えを尋ねる暇も与えられず。
 蒸気の向こうで展開は更に急変していた。





2018/06/12(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は354〜








「あれは…」
「不味いね、あれはエナが暴走を始めたんだよ」

 迸る熱気と輝きはアサたちの居る場所にも届いていた。
 眩さに腕で目元を隠しつつタルクスはそう呟き、その手を静かに掲げようとする。

「まさかここからエナを使う気かよ」
「そうしないと間に合わないんだよ」
「ミレットもルーノ将軍もいるんだぞ!」

 構えているタルクスの手を掴み叫ぶアサ。
 だが彼も内心理解は出来ていた。
 この暴走がどれほどの威力のものか、破壊力なのか。それはわからなかったが、これを止められるのが今ここにいる中ではタルクスしかいない。彼の判断に任せることが一番なのだと。理解は出来ていた。

「わかってるよ。二人には当たらないギリギリのラインで一撃を当てる!」
「だめ!」

 が、今度はアドレーヌがタルクスを制止する。

「それじゃあ彼女の命がないわ!」

 エナの暴走は無意識下で行われる故、気を失わせたとしてもエナの放出は止まらない。
 命が尽きるまで暴走と破壊を見守るか、命を奪って暴走と破壊を止めるかしか、選択肢はない。
 タルクスがある人物から学んでいたキエ(能力者)の知識。それを何故アドレーヌも知っているのか疑問であったがいまはそれについて追及している余裕はない。

「君の意見は最もだけど、一刻を争う状態だ。君の言っていた可能性を模索するより今はこれしか手段はない」


2018/06/05(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は353〜 今日の気分次回更新は12日(火)予定です




「駄目、だめ…―――だめっ!!」

 悲鳴と同時に、突如パイロープの全身から光りが溢れ出す。
 彼女自身が輝いているというよりは、彼女から迸る蒸気のような何かが輝きを発しているようであった。
 そしてその蒸気が何か、ミレットは直ぐに察しがついた。

「暴走、か…!」

 ミレットの背後でおもむろにバーンズが口を開く。
 それはまぎれもないパイロープの熱――エナによる暴走であった。





2018/06/05(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は352〜




「けど間違いだった。私もお父さんもそんなことしなければ良かったの」
「ミレット…」

 ふらつきながらも上体を起こし、娘たちを見守るバーンズ。
 本当ならば起き上がり彼女たちに謝罪をしたい。目一杯抱きしめてやりたかった。が、全身に及ぶ痛みに身体が動かず、手を伸ばしてやることもできそうになかった。
 必死に意識を手放さないよう、二人の会話に耳を傾けることしか出来ない。

「失ってた記憶を無理やりにでも思い出してお父さんと一緒に家出した貴方を探してあげればよかった」

 やめろ。小さく、途切れながらに聞こえた声。
 だが彼女の言葉に気付かず、ミレットは彼女へと自身の手を差し出す。
 できるだけ、ありったけの笑顔を向けて、ミレットは言った。

「でも、今からでも間に合うよ…やり直そうよ。一緒に―――メリッサお姉ちゃん」

 止まっていたパイロープの手が、静かに、徐々に震え出していく。

「やめ、ろ…違う……ちがう………ミレッ、ト…」

 震えは全身へと代わり、父に向けていた手を額に当て苦しみ始める。
 頭を抱え、もだえ苦しみ出し、その様子は明らかに異様で。
 動揺するミレットを後目に直後。パイロープは大声で叫んだ。

2018/06/05(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は351〜







 刹那に蘇ったミレットの記憶。
 どうして今まで忘れてしまったのか。忘れたままでいられたのか。
 恐ろしいほどの――倒れてしまいそうなほどの後悔が彼女を襲う。
 頭痛と吐き気に立ってさえいられない。
 だが、必死にそれを堪え、彼女は前へと足を向ける。
 目の前で今まさに、家族による悲劇が繰り返されようとしていたからだ。
 
「だめぇぇっっ!!」

 叫びながらミレットは二人の前へと飛び出して行った。

「だめ!止めて!」

 父へとその手を構えていたパイロープ。
 その彼女の前に、ミレットは立ちふさがるべく前へ飛び出る。

「お願い、もう止めて!こんなことをしてもお母さんは悲しむだけだよ!」

 父を庇うように両手を広げ、パイロープを見つめ、叫ぶ。

「今まで忘れていてごめん…忘れてちゃ駄目だった…悪いのは私とお父さんだった……」

 流れ落ちる涙を見つけ、パイロープの手が止まる。
 しかし彼女は我を失っているのかその反応は薄い。

「ごめん、ごめんね…あの時はただただ目の前の事を受け入れきれなくて…貴方を傷つけることを言っておいて、逃げるように記憶に蓋をしてしまった」

 幼いが故に犯してしまったか弱い過ち。
 そしてそんなミレットを守るために父は家中にあった思い出の品を全部燃やし、娘と距離を取った。
 娘が記憶を呼び覚まし、それによって再度傷つく事のないように。自分が全ての責任を負わんとするように。

2018/05/29(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は350〜 今日の気分次回更新は6月5日(火)予定です



 立ち上がるバーンズのその手には血の滴ったナイフが握られている。
 厳格なその姿は異様というよりも異常に映るほどであった。
 思わず息を呑み、騎士隊の誰も何も言えなくなってしまう。

「しかし、彼女は生きて拘束せよと命令を…」

 ようやくそう口を開いた騎士隊であったが、「国家反逆したも同然の大悪者に対し、これはルーノ家としてのけじめという処罰だ。他の者に意見される謂れはない」と一蹴されてしまう。
 そのままついには反論する者もいなくなり、その場は哀しき終息を迎えることとなったのだった。



 こうして、『血の制裁事件』はバーンズの言葉によって真実を塞がれ、偽られた。
 あの場で何が行われ、どうしてそんな結末を迎えたのか。その真実を知る者はミレットを含めた4人だけのものとなったのだった。





2018/05/29(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は349〜



 冷静な大人であればそんな考えなどには至らなかっただろう。
 しかし、幼い少女であるミレットにとっては、メリッサの持っていた刃によって母は倒れたという目で見てしまったのだ。
 信じられない、信じたくはない現実の光景。
 受け入れきれない現実は過度なストレスとなり、彼女を一瞬にして苦しめていく。
 呼吸は荒くなり、心臓も早くなる。涙は止まらず、嗚咽も繰り返す。
 それから間もなくして、ミレットは気を失った。
 見てしまった光景から、事実から逃げるために。幼い彼女の防衛手段としてその光景を抹消するために。
 彼女は倒れてしまった。



 それから間もなくして国王騎士隊が中庭へと到着する。
 だがその異様な光景に、罪人を捕えるべく突入した彼らでさえ、思わず躊躇してしまった。

「一体何が…」

 動揺を隠せず、思わずそう尋ねた騎士隊の一人。
 すると、事情を説明しようとしたアシュレイを遮り、バーンズは告げた。

「王国の重要機密を持ち逃げしたという大罪を犯した彼女はルーノ家の名をも汚した。よってその罪は命を持って償うべきとし、我がルーノ家が粛清した」


2018/05/29(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は348〜








「マリアンヌ…!」
「マリアンヌ様っ!!」

 バーンズとアシュレイは即座に倒れるマリアンヌへと駆け寄り、同時にその場にいた侍女の悲鳴が響き渡る。
 父より解放されたメリッサは呆然と立ち尽くし、目の前の光景を受け入れられないといった状態でいた。
 そしてそれはミレットもであった。

「メリッサが…お母さん、を…?」

 思わず出た言葉。

「違うっ!!」

 聞こえていたメリッサが直ぐにそう叫び否定する。
 強く何度もかぶりを振り、その場に崩れ落ち、何度も同じ言葉を繰り返す。

「違う、違う…あたしじゃない…だって、メリッサとお父さんが…じゃ、邪魔してきたから……」

 顔面蒼白し、全身を震わせ、涙さえ出て来ないほどの動揺を見せるメリッサ。
 徐々に呼吸は早くなり、苦しみへと変わっていく。
 そんなメリッサの姿を目の当たりにしたミレットもまた、同じように動揺を見せ、蹲っていた。

「お母さんが…メリッサの、せいで…お母さん…」