少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/10/16(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は349〜 今日の気分次回更新は23日(火)予定です



 タルクスでもなく、彼女――ミレットでもない。アドレーヌの心からの言葉。
 アドレーヌは無意識に胸元を押さえる。
 締め付けられるような苦しみ。ズキズキと痛むような錯覚を押し込めながら、彼女は強くかぶりを振った。

「私には…そんな資格がないの…!」

 そう言って彼女は逃げるように部屋を飛び出てしまう。
 扉さえ閉めることなく出て行ってしまった彼女を当然タルクスは追いかけることが出来ず。
 誰もいなくなった部屋をただただ見つめる。

「あらら…まさか彼女までひねくれちゃってるとは…やっぱり女心ってのは中々読めないものだなあ」

 タルクスは独りそうぼやき、本も投げ出したまま、ベッドへと寝転がる。
 それから開きっぱなしの扉から、視線を自然と窓の外へと移し、ため息交じりに空を眺めた。
 いつも見ていた白い空とは違い、此処から見上げる空は何処か黄土色の混じった灰色で。
 太陽さえ見えない空を眺めながら、彼はまた独り言を呟いた。

「だけど…君は絶対アサくんを救ってくれる。そんな直感がするんだよね」







2018/10/16(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は348〜






「もう何度も行った。けど、虚ろで何を言っても聞いてくれなくて。きっと私じゃ彼を立ち直らせることは出来ない。だからそれ以降は部屋に行ってもいないの」

 アドレーヌはタルクスを見下ろすように立ったまま、口を開く。

「私の言葉じゃダメだったの」

 俯く彼女の表情もまた、アサと同じく曇っており、そこに笑顔はない。
 暗く重い瞳には、光さえ感じられない。
 アドレーヌの言葉は、此処にはいない“彼女の言葉”でなくては彼を動かせない、駄目なのだ。と言っているようにも聞こえた。



「それは本当に君の心からの言葉だったのかな」

 が、タルクスは驚いた顔を直ぐに戻し、真っ直ぐにアドレーヌを見つめながら、そして言う。

「君が彼に言ったのは、君が思うままの言葉じゃなくてさ“彼女が言うだろう言葉”だったんじゃないの。君の言葉じゃない、上っ面の言葉だったんじゃない?」

 彼の言葉に、アドレーヌは更に眉を顰める。
 違う、そんなわけがない。とは、即座に否定できなかった。

「私は…ちゃんと話した。訴えたし語り掛けたわ。彼が…心を閉ざしてるだけ…だから私は何も――」
「悪くないのは判ってるよ。俺だってこの痛々しい身体でアサくんに沢山激励を飛ばしたんだけど…随分とひねくれちゃったみたいでさ」

 ははは、と軽く笑って見せるタルクス。

「けどさ…多分、あんな現実逃避してるアサくんを今立ち直らせることが出来るのはアドレーヌ嬢しかいないと思うんだ。俺やミレット嬢じゃない、君の心からの言葉なら、彼の心を開けると思うんだよ」


2018/10/09(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は347〜 今日の気分次回更新は16日(火)予定です



 直後、アドレーヌは僅かに顔を顰める。

「目覚めてからずっと、食事もまともに手をつけてなくて…もうかれこれ五の日。そろそろ色々と限界なんだよね」

 穏やかな口調ながらもその双眸は至って真面目で、冷静で。

「このまま立ち直りそうにないならば、アサくんは此処に置いていくことになる」

 淡々と冷徹に告げていく。

「知っているかもしれないけどミレット嬢救出…そして王城に反旗を翻す作戦は、後は実行するまでに至った」

 ミレット救出の作戦は未だ決行されていなかったが、そのための準備は着実に進められていた。
 彼女の、というよりは王国へ革命を起こすための準備であったが、その作戦にミレットの救出も加えられたのだ。
 ゆっくりと、長い年月を掛けて進められ、整えられていた作戦は、決行まで、もう秒読みという段階にようやく辿り着いたというわけだった。
 だが、作戦決行に対し、タルクスにとって気掛かりであったのはアサの存在だった。

「この策は俺のものじゃなく…此処の“組織”のものだから先延ばしには出来ない。だからアドレーヌ嬢には決行までに何とか火を付けてやって欲しいんだよ」
「私には無理よ」

 と、アドレーヌもまた淡々とした口調でかぶりを振って、即答する。
 その返答自体は想定済みであったが、此処まで淡白な言動で返してくるとは思わず。タルクスは目を丸くする。




2018/10/09(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は346〜










 荒野の中にポツリと建つこの集落は恵まれた環境に無く、緑や池どころか植物に動物といった生き物さえ見掛けられない。
 ほぼ毎日と吹き荒ぶ風は砂埃を舞い上がらせ、視界を遮り、建物や人々へとまとわりつくせいだ。
 しかしそんな砂嵐に紛れ続けているお陰でこの集落は、此処にあり続けて居られるのだと。此処に住まう者の一人が言っていた。
 『この集落は我ら“組織”が身を隠すにはもってこいなのだ』と。
 とはいえ、その砂嵐のせいでアドレーヌの白いワンピースも、その美しい膝まである金の髪も埃によって汚れてしまっている。身体を洗おうにも水の使用は最低限に抑えられており、まともに入浴することも許されていない。
 だが、そんな生活ももう十の日と経っており、アドレーヌも徐々に慣れ始めていた――もとい諦め始めていたところだ。



 集落の外れにある大きな石煉瓦の建物は病院と集会所を併せているもので、そこの一室にてタルクスは療養している。

「タルクス…呼ばれたから来たけど、良いかしら?」

 ノックをした後、返答も待たずにドアを開けるアドレーヌ。
 中では包帯でぐるぐる巻きになっているタルクスが、器用に顔を駆使して読書をしているところであった。

「ごめんごめん、ページめくってるときは声出せなくってさ」

 ベッドの上に座っている彼へとアドレーヌは近付きながら、「本当に器用ね」と呟く。

「単刀直入に、来て貰ったってのはさ…アサくんについて、話しがあるからだよ」


2018/10/02(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は345〜 今日の気分次回更新は9日(火)予定です



 子供たちの明るさに反比例するかのように、アドレーヌはその名を聞くなり表情を曇らせる。
 しかし子供たちは彼女のその変化に気付くことなく、それぞれが口々に語る。

「タルクスの兄ちゃんが!」
「用事あるから部屋に来て欲しいって言ってたよ!」
「言ってたの!」
「なんの用事かは教えてくれなかったけどね」

 賑やかに語る子供たちの姿を見やり、アドレーヌは笑みを零すと洗濯物の入ったタライから足を退ける。

「そっか。教えてくれてありがとう。じゃあ、代わりにお願いだけど…」
「わかってる!お洗濯しとくんでしょ!」
「お昼のうちに終わらせないといけないもんね」
「だから、だからね、終わった後にね」
「うん、ご褒美にこっそりお菓子作ってあげるね」

 お菓子という言葉に子供たちは目をキラキラと輝かせ、我先にと言わんばかりにタライの中へ入り込んでいく。
 大きな木製ダライの中に入った小さな足たちは、一斉に水に浸かっている洗濯物を踏んでいく。
 彼らが着ている服さえも濡れ始めているということも気に留めず、楽しそうに笑いあって、踏みあっている。
 そんな様子を眺めた後、アドレーヌは踵を返し、静かにその場を去って行く。
 古く荒んだ民家が並ぶこの小さな集落を、歩いていく。







2018/10/02(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は344〜










 アサが目を覚ましてから五日。
 それはミレットが連れ浚われてから十日という月日が流れたということでもあった。
 しかし、彼女を救うための作戦は未だ決行されてはいない。



 どこまでも白い空が続く中。その荒野の中に建つ数件の建物。
 石煉瓦や木製の家屋の合間を縫うように駆け抜けていく小さな人影たち。
 それらは家屋の最奥にある井戸の前で洗濯をしていた一人の女性へと集まっていく。

「アドレーヌお姉ちゃん!」

 その可愛い声を聞いた女性――アドレーヌは洗濯の手を止め、声の方へと振り返る。

「どうしたの、みんな?」

 振り返った視線の先には数人の子供たち。
 子供たちは笑顔を向けながらそれぞれがそれぞれの口で、声を出す。

「こんなところにいたのお姉ちゃん」
「アドレーヌお姉ちゃんはお客さんなんだから、おしごと手伝う必要ないのに」

 彼女は木製タライの中へ、井戸水を汲み入れながら苦笑交じりに答える。

「そうなんだけどね…お手伝いすると、色々気がまぎれるのよ」
「まぎれる?」

 アドレーヌの言葉に首をかしげる子供たち。
 彼らにはまだ、彼女の言葉は難しかったようで。
 アドレーヌはすぐさま「お手伝いが楽しいからしているのよ」と、言い換えた。
 と、子供の一人が「あ」と声を上げ、本来の目的を口にする。

「あのねあのね、そうそう!タルクスお兄ちゃんがね、呼んでたの?」
「タルクス…が…」


2018/10/02(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は343〜





 ビオ=ランはこの五日間。毎日部屋を訪ねてはミレットの心を削るような言葉を最後に吐いて去って行く。
 一つだけ質問に答えているのも、最終的には彼女の精神を削ぐために押しているだけ。
 そうして彼はミレットから希望を奪い、絶望を与えているのだ。
 現にミレットは随分と心を傷つけられている。
 姉を侮辱され、大好きな幼馴染みを、仲間を侮辱され、希望を削がれ、深く傷ついていた。
 
「メリッサ姉さん…お父さん…アサ…辛いよ、怖い…」

 その場に蹲る彼女の瞳からは涙が零れ落ちる。
 タイルへと爪を立てながら、思わず胸の中の苦しみを洩らす。

「会いたい…助けて…」

 が、そう言った彼女は直ぐに涙を拭い、顔を上げる。

「ダメだ、泣いちゃダメ。絶対助けに来てくれるんだ。だから、こんなところであんな奴にくじけちゃダメだ」

 自分に言い聞かせるように、はっきりとした声を上げ、彼女は静かに立ち上がる。

「アサ…待ってるから。信じてるから…だからお願い…」

 そう言うと彼女はベッドに座り、祈るように両手を重ねる。
 泣き腫らした瞼を深く閉じ、彼女はただただ願い続ける。
 いつかこのドアを開け放ち、助けに来てくれるだろう仲間を想い、信じて。







2018/09/25(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は342〜 今日の気分次回更新は10月2日(火)予定です



 その言葉に、ミレットは身体を震わせ、瞬時のその掌をひっこめる。
 触れたものを別の物質に変化、放出させる異能の力。
 それが自身の中にも存在していた事実を、彼女は未だ受け止めきれていなかった。信じられるはずがなかった。
 他人事だと、神の御業だと思っていたものがまさか自分にも扱えるなんて。
 もしかするとその力を使えばこんな場所など直ぐに脱出できるのかもしれない。
 目の前の青年も倒せるかもしれない。


 だが、使えることを知ったばかりの力はどう扱えば良いのかわからず。下手をすると暴走しかねないこともあってミレットは出来ずにいた。
 否、出来なかった。
 異能の力を暴走させてしまったパイロープ――姉メリッサの光景を目の当たりにしてしまい、彼女は怖れてしまったのだ。
 手にしている力は決して簡単に扱えるものではない。命の危険と隣り合わせである凶暴な力であると。
 姉の結末が脳裏に過っては、もう、彼女はその手を掲げる気力も削がれていた。

「そうそう、ちゃんと扱ったことないうちは下手に使おうと思わないことだね」

 キエ(能力者)は選ばれた人間じゃなきゃ、使えるはずもないんだから。
 そう言ってビオ=ランは見下すように、勝ち誇ったように高らかに笑い声を上げる。
 その手を乱雑に振り払い、彼は地面に座り込む彼女を残し、部屋を後にした。
 
「じゃあ、後で侍女に食事運ばせるから…変な気だけは起こさないでね」

 という言葉を最後に言い残して。





2018/09/25(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は341〜






「ホント残念だったね。こんな場所にわざわざ突撃してまで君を連れ戻すことは…あの風雲児軍人でさえ不可能なんだよ」

 ま、王城内部の人間に裏切り者が出れば話しは別だろうけどね。
 そう付け足しながらビオ=ランは目の前の窓を開け放つ。
 入り込んでくる風は強く、冷たく、ミレットの整われた髪を靡かす。
 窓からは王城が一望でき、と同時に思わず手に汗が出てしまうほどの高さにこの部屋があることを実感する。
 塔の下に立つ見張りだろう兵士がとても小さく見えた。

「それと、此処から飛び降りようなんてのも考えないことだね。そもそも落ちる前にボクが助けちゃうわけだから」

 落ちる勇気があるのなら落ちて見ろと言わんばかりの言動。
 高らかと笑うその声に何処か悔しさのようなが感情が込み上がり、ミレットは拳をきつく握り締める。
 思わず、彼へと、自身のその拳を突き出し、ゆっくりと指先を広げる。 

「へえ…そういうことすんだ。良いよ。できるもんならやってみれば?」

 悠然と、平然とした様子で冷酷な笑みを見せつけるビオ=ラン。
 一歩ずつと近付き、彼は自身の胸元に、彼女の掌を押し付ける。

「けど注意しないとね。今のその感情じゃあ失敗して暴走するかもしれないよ。無様に結晶漬けになっちゃった君のお姉さんのようにね…」




2018/09/18(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は340〜 今日の気分次回更新は25日(火)予定です



 それ故にミレットは慎重に、質問の内容を考えなければならない。
 息を呑み込み、彼女は口を開く。

「では、質問をします。此処は何処ですか…?」

 ビオ=ランは彼女の言葉を聞いた直後、わざとらしいため息を一つ漏らす。
 それは本当にそれでいいのか、と聞きたそうな態度であった。
 だがどの道かれはこの程度の内容でなければ結局は答えてくれない。
 ミレットは静かに、しっかりと頷く。

「…どうせわかってんでしょ?ここが何処なのか…つまんない質問するなあ」

 椅子から立ち上がり、彼はゆっくりと歩き出す。
 ミレットを通り越して、その奥にあった窓の前へと足を止めた。

「部屋の内装、それにこの窓から見える景色から…想像は付いていると思うけど。ここは離宮――以前はどう使われてたか知らないけど、今は罪を犯した王族を閉じ込めておくための懲罰室の塔だよ」

 煌びやかな衣装。客人としての扱い。室内も綺麗に飾られており、置かれている家具の細部にまで細やかな装飾が施されている。
 そして窓の向こうに見える光景――その街並みには位置こそ違えど昔に見たことのある広場や通りが見えた。
 そう、間違いなく此処は王都で、此処は王城であった。