少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/04/23(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は457〜 今日の気分次回更新は30日(火)予定です




 そもそも、その格好ではまともに走ることは無理だろうし。そう付け足された言葉にミレットは更に顔を紅くしてしまう。
 望んだわけではないにしろ、ドレス姿で“お姫様抱っこ”をされているこの現状を、意識しないでいられるほど彼女は乙女を捨ててはいなかったからだ。

「ごめんなさい」

 思わず小声でそう呟きながらミレットは顔を隠すために俯かせる。
 と、そのときだ。
 歩き出した彼から漂う空気に、なぜだかふと、彼女の心が動いた。
 ドクンと高鳴る鼓動は緊張感のそれとは全く違う。まるで懐かしさにより心が躍るときのような高揚感に近かった。
 ミレットは思わず顔を上げ、彼の横顔を見つめる。
 目元を隠しているため確証は得られないが、やはり懐かしい気配がする。
 彼女の勘がそう言っていた。

「あの、何処かで…会った事がありませんか…?」

 気付けばミレットは無意識に彼へそう尋ねていた。
 視線こそ彼女に向く事はなかったが、明らかに彼は一瞬だけ、その仮面の下で動揺を見せていた。
 が、直ぐに彼は破願し、含んだような言葉と微笑を浮かべて答えた。

「さあ…ね」








2019/04/23(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は456〜











「貴方は…もしかしてプレナイト、さん…?」

 アサから聞いていた、彼と最初に出会った結晶体に閉じ込められたアドレーヌの傍にいたというイイヌ。
 だがその裏ではタルクスと繋がっていて、国とイイヌの不正を暴こうとしている人物。
 度々彼らからその名を聞いてはいたが、彼女自身はこれまで彼と出会ったことがなかった。

「説明は追々する。今は信じて付いて来てくれ」

 始めて会ったはずのイイヌの男。
 が、何故かミレットは彼に対して不思議と恐怖や不信はなかった。
 むしろこれまでの緊張の糸が切れ、自然と安堵感に包まれるくらいだった。

「兵士たちが気付く前に…早く!」

 そう言って手を差し伸べるプレナイト。
 しかし立ってその手を掴もうとするも、ミレットは立ち上がることが出来ず、バランスを崩して地面へと座り込んでしまう。
 心身の疲労やまともに食事を取っていなかった故の栄養失調もあるが、何よりも助けが来たのだという安堵感によって腰が抜けてしまったのだ。

「ごめんなさい…上手く、歩けなくて」

 震える足を懸命に前へ出そうとするが一向に動こうとはしない。
 だが涙だけは見せたくないと、込み上がってくるそれを必死に拭い、気丈に振る舞う。
 そんな彼女の姿を見ていたプレナイトは軽く吐息を洩らすと、おもむろに片膝を付く。
 そして、躊躇う様子もなく彼はミレットを抱きかかえた。

「あ、え…あの……!?」

 突然の状態に思わず動揺してしまうミレット。

「一時も無駄には出来ない…悪いけど我慢してくれ」



2019/04/16(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は455〜 今日の気分次回更新は23日(火)予定です



 轟音と共に突如、目の前の扉が開かれた。
 否、開かれたというよりは破壊されたというのが正しい。
 突風と共に勢いよく開かれた扉の錠は見事にへしゃげており、吹き飛んだそれは重厚感のある音を立てて床に転がっていく。
 だがそもそも、相当頑丈であったはずのそれはそう簡単に壊れるものではないはずだった。
 蹴破るにしても、大人複数人の力は必要だと思われていた。
 それをこんなにも容易く破壊してしまうことが可能なのか―――。

「ま、さか…」

 可能なのだ。
 能力を使えば。ちゃんと扱うことが出来れば。
 こんなにも簡単に扉を壊す事が可能だろう。
 そしてこのような突風を巻き起こす能力が使えるキエ(能力者)と言えばミレットの中では一人しかいない。

「タルク―――」

 が、彼女の声はその名の途中で途切れてしまう。
 何故なら、扉の向こうから現れた人物は、彼女が予想していた彼とは全く違う容姿だったからだ。

「お望みの騎士様ではなくて悪かったな」

 深緑ではなく、白色の軍服。
 結い上げられた黒髪に目元を覆う白い仮面。
 その衣装は間違いなくイイヌのものであったが、その様子からして計画のため連れ出しに来たようには見えない。
 そもそもミレットは目の前に現れたイイヌを今まで見たことがなかった――初対面であった。
 しかし、その特徴からこのイイヌに心当たりがあった。
 静かに喉を鳴らし、ミレットは尋ねた。








2019/04/16(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は454〜





「時間がない…どうすれば良いの…?」

 誰に問うわけでもない台詞。
 ミレットは座り込むベッドへと拳を強く振り下す。
 しかしそれは何かを破壊するわけでもなく、勢いを殺され虚しく跳ねるのみ。
 


 どうすれば良い。
 だが答えは単純で簡単だ。目の前の扉を開けて逃げ出せば良い。
 施錠されているとはいえ、自分に備わっている能力さえ使えばいとも容易く扉を破壊することが出来るはず。
 しかし。逃げ出したいと強く願えば願う程。自身の持っていた知られざる力への恐怖が増していくのだ。
 
「もう…助けを待ってるだけじゃだめなのに…間に合わないのに……怖いよ……アサ…!」

 毎日と削られ続けてきた心身の疲労も、最早限界に近付いていた。
 答えが明確になる程に、選択が迫られる程に限界の精神は純粋な感情を突きつけてしまうのだ。

「怖い…」

 誰かがこの扉を開けてくれればどんなに良い事か。楽な事か。嬉しい事か。
 
「アサ……タルクス…アドレーヌ…父さん……誰か………」

 切なる願いを震える声で囁き、その掌は無意識に扉の方へと伸ばされていく。
 と、その時だった。


 ドォン。




2019/04/10(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は453〜 今日の気分次回更新は16日(火)予定です



 流れる涙さえ、なくなっていた。
 脳裏に過るパイロープの――姉の結晶体に包まれた姿。
 あれが自分にもと、いう恐怖感がじわじわと彼女を襲う。

「計画の実行は今日…新月の夜に行う。君とのやりとりもこれで最後ってことだよ」

 寂しくなるよね。と、心の二もない言葉を述べ彼は笑みを浮かべる。
 纏わりつく恐怖を振り払うように、気丈に振る舞いミレットはビオ=ランを睨む。

「そんな顔しないでよ。君みたいな子は国のためならなんでもできるんだろ?これはその国のための“計画”なんだからさ」

 不敵な笑みを見せつけ、ゆるりと踵を返すビオ=ラン。
 満足げなその背中に、優越感に浸るその男へ、ミレットは精一杯の心の叫びを口に出す。

「人を犠牲にすることが国のためなんてあってはいけない!貴方たちは間違っている!」

 その叫びは国の、王の、イイヌの、正義を否定し、決別を表すものでもあった。
 それまではずっと、心の何処かでは国やイイヌの正義を信じていた。が、その瞬間、彼女の心はようやく決まったのだ。

「ようやく気付いたみたいだね、アマゾナイトさん。けど、今更そんなことをこんなところで吠えて何になるっていうのさ?」

 ビオ=ランはわざとらしく肩を竦めて見せると、咽の奥を鳴らすような笑い声を零しながら部屋を出て行った。
 扉は無情に、バタンと音を立てて閉まる。






2019/04/10(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は452〜




 ミレットは目を見開き驚愕する。
 思わず閉口し、おもむろに俯く。
 下した視線の先には先ほど振り落されたナイフが不気味な輝きを放っていた。

「なんてことを…」
「別になんてことないだろ。そのちっぽけな命がお国のためになるんだからさ」

 ようやく絞り出せた言葉も、ビオ=ランの平然とした台詞にて一蹴される。
 悪びれる素振りもないその態度には恐怖さえ抱き、ミレットは彼を見る事さえ出来なくなる。

「それに君だってその礎になるんだよ」

 沈んでいた顔を上げ、睨むようにミレットは目の前の男を見つめる。
 弧を描く歪な笑みが、そこにあった。

「どう、いう…」
「そんなに言われたいのかい?」

 まともな呼吸さえも出来ない状態となっている彼女を、無情にも突き放すビオ=ラン。
 トンと肩を押された彼女はバランスを崩しながらベッドへと尻餅を付くように座り込む。

「その力が礎になることでボクらの計画は成功するんだよ――アドレーヌ様」


2019/04/10(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は451〜





 その言葉に彼女の顔は更に青ざめていく。
 絶対的な力を持つ国の重要存在――心臓部と呼んでも良いその国王に仕えるはずのイイヌ。
 それがまさか事件の主犯だったと、信じられず、信じたくなくてミレットの心は不安定に揺れていく。
 だが既にイイヌは幾度となく不審な行動を繰り返している。
 現に彼女自身がこの場に連れ浚われている時点で疑う余地などなくとも。彼女はどこかで未だ国の正義を信じていた。
 しかし、その疑心は、忠義は、彼――ビオ=ランによって崩れ落ちていくこととなった。

「そんな…じゃあ、連れ浚った女性、たち…は…?」

 動揺を隠せず、呼吸は自然と荒くなるが、それでも必死に冷静を保ちながら、ミレットは尋ねる。
 いつもならば此処で問答は切られる流れであったが、気分を良くしている彼は断る事なく彼女の質問に答える。

「イイヌの秘密を知ったんだからそのまま帰す訳にはいかないだろ?僅かだとしてもキエとしての才能もあることだし“国の礎”になって貰ったんだよ」
「国の礎…?」

 と、突如ビオ=ランはミレットの頬に当て続けていたナイフの向きを変えると、するりと手から振り落とした。
 彼女の胸元を掠めながら落ちていったナイフは静かに地面へと突き刺さる。
 赤い絨毯に突き刺さったナイフは銀色の無機質な輝きを放つ。
 彼の告げようとする“それ”を表すかのように。

「君のお姉さんと同じ目にあったって言ったらわかるかな?」


2019/04/02(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は450〜 今日の気分次回更新は9日(火)予定です




「才能をって…どうやって探したの?」

 ミレットの言葉に彼はひくついた笑い声を上げて、答える。

「まったく、察しが悪いなあ」

 その刃先がミレットの頬へ当たる。
 小さくとも鋭いナイフの刃はミレットの頬に紅い筋を生み出す。
 僅かに眉を顰めるが、それでも彼女は臆する様子も見せず、真っ直ぐに目の前の男を見つめる。

「アドレーヌとして目覚めているのなら、微弱な能力程度は簡単に相殺できると思われたのさ。それでゼノタイムは特注品のロム石を作った」
「ロム、石…」

 ミレットがその言葉に違和感を覚えたのも当然だ。
 ロム石とは、エナの力が凝縮され結晶体となったものの総称だが、それはかつて――古くに使われていた名称であり、現在は主に“エナ石”と呼ばれているからだ。

「そのロム石はキエ(能力者)としてある程度の才能があると反応するっていう仕組みでさ。要は特徴と一致して尚且つロム石の反応があった人間を片っ端から連れ浚ったんだよ」
「連れ浚った…金髪碧眼の女性を……貴方が…ビオ=ラン…!

 そう呟いた直後、ミレットはようやく彼の言葉の意図に気付き顔を蒼白させる。
 その青ざめた表情を満足げに見つめている彼は口角を吊り上げ、くつくつと喉を鳴らして笑う。

「そうだよ、巷で噂されてた連続婦女子行方不明事件だっけ?あれはボクらイイヌがしていたんだよ」








2019/04/02(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は449〜









「二年前、ある都市の祭の最中に橋が崩れ落ちちゃったという哀しい事故…あのときに僕らは“アドレーヌ”の力を感知した」

 そう語る仮面男を前に、ミレットは真剣な眼差しで彼を見つめ続ける。
 何処か心労による疲弊を思わせるような顔付きなのは、此処何日間と目の前の彼による精神的攻撃を受けているせいだ。
 今もこうして彼女に情報を与えながら、彼女を責め、精神的な苦痛を与えようとしている。

「行方知れずとなっていたアドレーヌの力を感知した僕らは、直ぐにその力の出処を探したのさ…そして事故の目撃者から、異様な光景を目にしたっていう情報を仕入れてね」

 彼はそう言うと近くにあった料理のナイフを手に取る。
 宙へと浮かばせてはまた手に取って弄びながら、彼は情報提供という遊びを続ける。

「それが何と、一瞬だけ、しかも一か所だけ川の水が干上がったっていうんだよ…摩訶不思議な現象…奇跡の御業か偶然か目の錯覚か…まあ普通はそう思うだろうけど。僕らは間違いなく“アドレーヌ”だと確信した」

 と、手に取ったナイフの先端を突如ミレットへと向ける。

「僕らはその現象の中心に居たって言う特徴を聞いて探していたんだよ…金の髪に碧眼の女……そう、君をね」

 向けられたナイフの刃先がギラリと輝き、その反射にミレットは目を細める。

「僕らは目撃証言にあった金髪碧眼の女を片っ端に探していったのさ。勿論ホントに虱潰しってわけじゃないよ。それなりにキエとしての才能がありそうな娘を見つけては確認していったのさ」


2019/03/26(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は448〜 今日の気分次回更新は4月2日(火)予定です




「…計画」

 アサはポツリと、その単語を呟く。
 彼の言葉を耳にしたタルクスとアドレーヌ。二人はほぼ同時に困惑に近い顰めた顔を見せる。

「計画って?」
「あのとき、イイヌが言っていたんだ」

 あのとき――イイヌの二人と対峙した際にビオ=ランたちが言っていた言葉。
 それだけではない。彼らはいくつも気になる単語を残していった。

「この何日間か…たまにではあるけど、でもずっと考えてはいたんだ」

 計画のこと、ミレットのこと、二年前の事故のこと、アドレーヌという意味のこと。
 自暴自棄になっていたが、それでも彼は何もかも投げ捨てていたわけではなかった。
 頭だけは動かし、彼らが残していった言葉について、考えていた。
 そして、一つの推測に辿り着いた。

「二年前の―――ラッハタで起こった事故と二年前から始まったとされている連続婦女子行方不明事件…この二つはミレットによって繋がっていたんだと思う」
「二年前の事故と二年前から続く事件が…?」

 アサの言葉を聞き、困惑顔を浮かべるアドレーヌ。
 一方でタルクスは彼の推測を察し、「なるほど」と呟く。

「確かにその推測は間違いないと思うよ」

 納得し合う二人の中に入れず蚊帳の外状態のアドレーヌは顔を顰め、二人を交互に睨むよう見つめる。
 そのちゃんと説明してと訴えるような眼差しを受け、アサとタルクスは苦笑を洩らし、その推測について説明を始めた。