少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/08/07(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は488~ 今日の気分次回更新は21日(水)予定です



 
「…役に立ちそうもない弱風のアマゾナイトが…ボクと立ち会えると思ってるの?」
「ああ、思ってるよ。君と俺とは戦いの相性が良いみたいだからね」

 挑発的な発言に頭髪的な発言が折り重なっていく。
 しかし先に折れたのは、動いた方はビオ=ランであった。
 元より、彼は我慢などする気は毛頭なく始めから――—此処に以前まで指名手配犯だった青年が居るという情報を受けたときから―――アサを仕留めにやって来たのだ。

「あははっ…じゃあ試してみようじゃないか? どっちがより強いのかさあっ!!」

 水の渦はビオ=ランを中心に大きく速くうねり、その渦に触れた周囲の建築物は、まるで喰われたかのように抉られる。
 彼の水は只の水ではなく、何もかもを溶解する能力も込められている。言うならば溶解水の水蛇。
 水蛇は望むかの如く、建物を、草木を、全てを巻き込んでいこうとする。
 
「全部全部、ぜーんぶ、君ごと消えちゃえよ」

 その発言と歪んだ笑みは最早暴走そのものとも言えた。
 だが、そのビオ=ランの暴走こそがアサたちの狙いでもあった。
 







2019/08/07(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は487~





「あそこです、元指名手配されていた男…アサ・ブゴットです!!」

 仮面男の後方から聞こえてきた別の男の声。
 案内されてきたのだろうビオ=ランは彼へ「もう下がってていいよ」と、部下であろう男を引き下がらせる。

「あは、はははっ……ホント、君には驚かされるよ……此処に来てまさか生きてるなんて、さ…」

 額を押さえ笑う姿。しかしそれは歓喜のものではない。
 歪んだ口元は禍々しく、憎悪に満ち溢れている。

「お前たちが見逃してくれたおかげで、こうして俺たちは元気も元気だ、悪かったな」
「そんなはずはないよ…だって君は、あの中に閉じ込められたはず…なのに……」

 若干の挑発めいた台詞を織り交ぜ、ビオ=ランへ語り掛けるアサ。
 怒りを駆り立てていく彼は徐々に呼吸を荒げ、誰に言うでもない独り言を洩らす。
 彼の呟きの矛盾に人知れず眉を顰めるタルクスだったが、次の瞬間。その思考は打ち消される。
 ビオ=ランはアサへとその掌を向けたからだ。

「―――まあいいよ。今度こそちゃんと仕留めてあげればいいだけだからさあ…!」

 直後、彼の掌から放たれる水砲。
 一直線に飛ぶその水の一撃はアサへと目掛けられる。
 が、アサに当たるよりも早く、タルクスの放った突風がそれを防ぐ。
 巻き起こった旋風に呑み込まれたビオ=ランの水撃は空中に打ち上げられ、飛沫となって飛散していく。




2019/07/31(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は486~ 今日の気分次回更新は8月7日(水)予定です




「そうだねえ。アサくんの罪は意外に好奇心旺盛だったってことかもね」

 二人は顔を見合わせ、苦笑の様な笑みを浮かべる。

「一応聞くけど、後悔してる?」
「まさか」

 アサはそう言って水筒内のジュースを飲み干し、それを地面へと投げ捨てる。

「この好奇心がなかったらアドレーヌを見つけられなかったし、今此処にこうして、こんな大役も出来なかったさ」

 何処か吹っ切れたような、強気の笑顔。
 それはタルクスへ向けられたわけではなく。
 彼が見つめる視線の先へ、タルクスもまた目を向ける。
 と、直後。二人の目前に突如うねりを上げながら流水が現れた。
 まるで大蛇の様な姿の水の塊。その上部には見慣れた仮面男の姿があった。








2019/07/31(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は485~








「そりゃあ当然だろ。それに…ここに居る平和な日常を過ごしてる人たちを巻き込むと思うと…少し申し訳なくて」

 そう言いながらアサは受け取った水筒を口に付ける。
 濃厚な甘さの中に含まれた酸味。不思議な味わいに少しばかり心が落ち着く。

「仕方ないよ。俺の考えた計画において、彼らの存在は必要不可欠なんだし。絶対に巻き込まないよう努力もする。それにさ…」

 彼もまた手にしていた自分用のジュースを飲み、バルコニーの鉄柵へ頬杖をつく。

「知らないって事の方が罪だってこともあるよ」

 そう話す彼の横顔は至極真面目で、いつもとは違う雰囲気にアサは思わず静かにジュースを呑み込む。

「知らない事の方が罪…俺は知り過ぎたからこそこんな場所に居るわけだけど」

 この場所は嘗て、王族のみが使用を許されていた貴賓室で、歴代国王が王位継承された際のお披露目の場として利用されていたという。
 今でこそそうした利用はなくなってしまったが、そんな由緒正しき場所にこんな自分が居るということに、アサは不思議な縁を感じずにはいられない。

2019/07/24(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は484~ 今日の気分次回更新は31日(水)予定です




「―――はい、覚悟はあります」

 深呼吸をした後、真っ直ぐにロゼを見つめ力強く頷き、差し出された手をしっかりと掴むミレット。
 彼女のその気高い微笑みに、優しい眼差しにロゼは内心眉を顰める。
 それから、彼女へ聞こえるか聞こえないかの小さな声で、呟いた。

「…ごめんなさい」


  




 
 そして時は再び遡る。
 雲一つない、快晴の空の下。
 王都内のあらゆる通りが交差する、最も大きなその広場にアサの姿はあった。
 彼は今、広場に面した宿の二階。広場を見下ろす事の出来る広いバルコニーで、そこからの景観を眺めている。
 久しぶりに嗅ぐ街並み特有の匂い。人の行き交う、食べ物や商品の行き交う匂い。
至って平和な日常の、その光景を思い描きながらアサは深く息を吐き出す。

「もしかして緊張してる?」

 と、彼の隣でそう尋ねるタルクス。
 彼は気晴らしにと、近くの露店で売っていたフルーツジュースが入った水筒を手渡した。






2019/07/24(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は483~









『今回の騒乱はもうミレット嬢もとっくに巻き込まれて舞台の中心核にいると言っても良い。だからこそ、これから起こる事一つ一つの事実に動揺してその結果足手まといになる。なんてのはしてほしくないんだよ』

 まるでこの瞬間のことを言っていたかのようなあの台詞。
 すっかりとそれまで忘れていた、今更蘇って来た彼の台詞にミレットは胸元を押さえ、深呼吸をする。

(あのときは確かに父から逃げていた、姉を忘れていた。それを大丈夫って言葉で隠していた―――でも今は違うよ)

 父のことも姉のことも母のことも。
 何も未だ理解出来ていない。未だ逃げている途中なのかもしれない。
 だが、これからは違う。
 弱っていたミレットの心が、強く、堅く研ぎ澄まされていく。

(もう逃げたくない、我慢なんかしない、迷わない。私が“やりたい”って決めた事をするの)

 ミレットは静かに正面を――ロゼを見つめる。
 父から聞いていたおとぎ話だと思っていた人。
 吸い込まれるような漆黒の双眸。
 仮に幼少の頃出会っていなかったとしても、未だ全ての疑問が無くなったわけではないとしても。
 彼の事は絶対に信じられると、ミレットは心から思えた。
 何せ―――おとぎ話だと思ってこそいたが―――彼女は心のどこかで願っていたのだ。
 叶うのであれば彼と出会ってみたかった、彼の仲間になりたかったと。
 そう結論が出た瞬間。
 最早、彼女に迷いは微塵もなくなっていた。

2019/07/17(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は482~ 今日の気分次回更新は24日(水)予定です



 そう言ってロゼはミレットへとその手を差し出す。
 彼の瞳もまたいつの間にか、碧色から黒色へと戻っており、その顔は初めて出会ったあのときの姿を彷彿とさせる。
 
「わ、私は…」

 差し出された掌を見つめ、思わず狼狽えてしまうミレット。
 直ぐにその手を掴められなかったのは、彼女に迷いが過ってしまったからだ。


 苦しめる可能性。
 計画に必要な力。
 その言葉の意図にミレットは思い当たるものがあった。
 それは彼女が最も嫌いな力と、今最も恐れている力。
 正直に言えばミレットは怖かった。嫌だという気持ちもあった。拒否できるのならばそうしたかった。
 だが、生憎と彼女には迷う暇さえも、臆する余裕さえも与えてはくれない。
 アサたちの身が危険に冒されている状況で、一刻を争う状況で、彼女の出来る選択肢は一つしか用意されていなかったのだ。



「私は…大丈夫―――」

 と、その言葉を言いかけたところでミレットは口を噤む。
 ふと脳裏に、彼の台詞が浮かんできた。






『……なんて言うかさ、『大丈夫』って我慢する言葉に聞こえない?』

 大丈夫。
 また、その言葉に逃げようとしていた。

(違う、そうじゃない…私は我慢なんかしていない、逃げたいわけじゃない)

 今になって、以前彼の言っていた言葉がミレットの心に突き刺さっていく。








2019/07/17(水) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は481~







 知ってしまった以上、興奮しないわけがなく、ミレットは自然とロゼへ詰め寄る。
 言いたい事、聞きたかった事。やりたかった事はいくらでもあったしこれまで想像もしてきたのだ。
 が、口を開きかけたところで彼女は静止する。
 高まる気持ちはあるものの、それらを口に出している時間はなかった。
 それよりも今は重要な事が、大事なことが彼女にはある。

「あの―――私に何か出来ることはありませんか。このまま何も出来ないのは…嫌なんです!」

 無意識にロゼへ迫りながら、ミレットは語尾を強め彼に尋ねる。
 彼女の言葉には一刻も早くアサのもとへ、自分のために囮となっている彼らのもとへ行きたいという意思が込められていた。

「…心配しなくとも、彼らのところへは後で連れて行ってあげる。でもその前に…貴女には重要な役目があるわ」
「重要な、役目…?」

 困惑顔をするミレットに微笑みを向けた後、ロゼは別の組織仲間が持ってきたコートを受け取り羽織る。
 ファー付きの灰色コートを纏った彼は手慣れた様子で素早くその髪を一本結びに結い直す。と、直後、その髪色はみるみるうちに金色から黒色へと変色し、戻っていく。
 まるで手品のような見たことのない現象に、開いた口が塞がらないままでいるミレット。
 片や着慣れた出で立ちにようやく戻った彼は、未だ紅の引かれていない唇で、笑みを浮かべてみせた。

「私たちの計画にとって貴女の力が必要なの。でもそれは貴女を苦しめる可能性もある…それを受け入れる覚悟はあるかしら?」


2019/07/11(木) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は480~ 今日の気分次回更新は17日(水)予定です




「ええ、頼んだわ。けど、無茶だけは絶対にしないで」

 プレナイトではない、ロゼの顔を―――その微笑みを見たのは随分と久しぶりで、トオゼキの女性は込み上げる感情を押し殺しながら、勝気な笑みを返す。
 そんな弱気を見せない彼女へ、ロゼは優しく頭部を撫ぜた。


「あ、あの…」

 彼らのやり取りを暫く傍観していたミレットであったが、耐え切れず、思わず声を出す。
 彼女の声を聞いたロゼと女性は視線を彼女へと向ける。
 重なる双眸に息を呑んだミレット。
 思わず硬直してしまう彼女よりも先にロゼが口を開く。

「もう少し驚いたり動揺したりするかと思ってたわ」

 彼の言葉に目を見開くミレット。
 彼女は慌てたように素早くかぶりを振って答える。

「いえ! …だって、あの……初めまして、じゃ…ないですから…」

 半信半疑の言葉。
 彼は微笑を浮かべ、肯定する。

「そうね。“私”と貴女は小さい頃に会っているわ」
「じゃあ…ロゼ、さんは父さんから聞いていたあの…」
「自慢するような話じゃないけど、その通りよ」

 その言葉を聞き、胸が高鳴る。
 間違いなく、それはかつて幼少の頃に出会っていた“ロゼ”。
 あの時と今は髪と瞳の色が違うものの、この声とこの口調を聞き間違えるわけがない。
 ミレットの確信は確実に変わり、胸の内は徐々に熱くなっていく。その高鳴り続ける鼓動を抑えようと、必死に深呼吸を繰り返す。
 父が語ってくれた物語の登場人物。その張本人。







2019/07/11(木) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は479~










 国王騎士隊の鎧を纏っていた者たちは生気が失われていくゼノタイムを見るなり、今だとばかりに手早く彼を拘束していく。

「絶対に彼の手に触れちゃ駄目よ」

 ロゼの忠告通りに彼らはゼノタイムの両腕を後ろ手に、透明色の特殊な手枷を掛ける。
 腕を組み、見下すように見つめるロゼを見上げたゼノタイムは、その怒りに奥歯を噛みしめながら、憎悪の籠った低い声を上げる。

「貴様…貴様はッッ…!!」

 拘束された両手を強引に動かし、臍を噛む彼は無理やりにでもその手枷を外そうとする。
 だが、どう足掻こうともその手に異能の力は発動さえせず。
 怒りの籠った呻き声だけが其処で響く。

「本当に醜いわね。その手枷は彼の女神様に覆われていたエナ石と全く同じもので出来ているの。女神様が解けなかった代物を貴方が解けるわけがないでしょ」

 淡々とそう話し、ロゼは静かに踵を返す。
 憎悪の込められたプレナイトの名を叫び続ける怒声を背にしながらも、彼は振り返ることなく直ぐに次の準備へと向かう。
 一時でも仲間という体であったゼノタイム。その虚しい彼の叫びを聞いてやっても良かったのだが、生憎と今のロゼにはそんな暇はなかった。

「ロゼ。後のこと、この城の制圧についてはあたしたちに任せとくれよ」

 と、白色の軍服を脱ぎ捨てる彼に駆け寄ってくる一人の騎士―――もとい、トオゼキの女性。妙齢の彼女は無邪気な笑顔を見せながら誇らしげに胸を叩き、そう告げる。