少女語り手

そしてアドレーヌは眠る。
『第五幕 眠る女神は』〜そして未来に〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/04/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は337〜 今日の気分次回更新は5月1日(火)予定です




「何故、それを…」

 そう洩らしたバーンズはミレットから視線を後方にいたタルクスたちへと向ける。
 が、視線の合ったタルクスは、自身は何も言ってないとばかりにかぶりを振って見せる。
 一方でパイロープは明らかに動揺を隠せない様子でいる。
 それは宙に浮いている彼女の揺らぎからも表れていた。
 今にも落ちてしまいそうなくらいに、アサの位置から見てもわかるほどにパイロープはぐらついているようであった。

「何も解ってないくせに、思い出せてないくせに…煩い…うるさい、うるさいうるさい!」

 呟くような言葉は徐々に大きく叫ぶ声と代わり、最後には悲鳴に近い声を張り上げた。
 と、パイロープは両手をミレットとバーンズに向けて構える。
 
「わかってないくせに、何も知らないくせに!」

 彼女の叫びと動揺に対し、ミレットは冷静に身構えている。
 が、突如彼女は腕を引っ張られ、代わりにバーンズが前へと身を乗り出す。

「駄目だ、お前には関係ないことなんだ」

 庇おうとするバーンズの服袖を引っ張り、負けじとミレットは父に向けて声を張り上げる。

「関係ないなんてことないよ!だって家族なんでしょ?一緒に暮らして楽しく笑ってたんじゃないの?」
「うるさいうるさいウルサイッ!」

 ミレットは父と、パイロープへと心から叫び訴える。
 しかしパイロープ本人は聞く耳を持とうとはせず、叫び声を上げ続ける始末。
 構えていた両手を解き、身振り手振りと混乱した様子を見せ始めた。





2018/04/24(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は336〜







 そして、現在に至る。
 エナカーは二人のいる公園の広場へと向かい石畳を走り、強引に階段を上り進んでいく。
 ガタガタと大きな音を立て揺れながら、エナカーはバーンズの直前で反転した後、停まった。

「気持ち悪い…」

 揺れ動き続けたエナカーにより脳を揺さぶられたような感覚となり、アサは口元を押さえながらエナカーから降りてくる。
 ぐったりとしているアサの一方で勢いよくエナカーを下りたミレットはよろけながらも走り出しバーンズの前へと――パイロープの前に立ちふさがるように駆け寄った。

「待って、お願い待って!」

 両手を広げ、ミレットはパイロープの前へ立つ。
 宙に浮く彼女を見上げながら、真っ直ぐにその双眸をミレットは向ける。

「どうして…こんなことを、するの…?」

 迷いが含まれたその瞳にパイロープの表情は歪む。

「やめろ、言うな…」

 ぽつりと、八重歯を剥き出し、ミレットを睨みながら呟く。
 しかしパイロープの言葉はミレットには届かず、彼女は続けて言う。

「私たち、家族なんでしょう?」

 未だ信じられない半信半疑の言葉。
 ミレットはまだ記憶が戻ったわけではない。
 だがそれでもアサから語られた推測を聞き、受け入れるしかないのだと覚悟を決めていた。
 ミレットの言葉を聞いた直後、パイロープとバーンズは張り詰めさせていた空気を変えた。

2018/04/17(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は335〜 今日の気分次回更新は24日(火)予定です




 鳥にしては羽ばたき一つせず、また鳥にしては巨大である故、警備の者が念のため報告してきたのだという。
 
「半の刻前…町の南方に向かって行ったとしたら今はもう町の外れか、更に南…それなりに名の知れた場所でありながら人目のない場所」

 落ち合うに最適な場所。そこに二人は向かったに違いない。
 そう推測するタルクス。
 するとミレットがそうした条件に合うある適所を思い出し、目を大きくさせながら口を開く。

「展望公園跡地…今は立入禁止だったよ!」

 二人が会うのはそこしかない。というより、そこのような予感がした。
 大体が単なる“女の勘”だとも言えたが、しかし他に思いつく場所もなく、イチかバチかアサたちはそこへ急ぎ向かうことにしたのだ。






2018/04/17(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は334〜



 だからこそ理屈はわからなくとも彼女が空を飛べていたのなら、彼女は常にそうした移動をしている可能性があると思ったのだ。
 現にパイロープはその空中移動を主な手段としていた。

「確かに彼女が空中から現れたところを何度か目撃した。熱と爆発の能力を駆使して空中を飛んでいるのだと思うけど…いつもそうして移動しているなら」

 と、アサの仮説を察し、タルクスが思案顔を浮かべ呟く。
 二人の仮説を未だ理解出来ていないミレットとアドレーヌは困惑した表情を浮かべるが、そんな二人を後目にタルクスは全員に指示を出す。

「じゃあ急いで空中を飛んでいた人影…もしくは物体の目撃者とその行方について聞き込んで探そう」

 鳥しか空を飛べないと言うこの国において、鳥以外に飛んでいる物体は何よりも目立つ。
 ならば誰かがそれを目撃しており、行方も見ている者がいるかもしれない。という訳だ。

「あの、それでしたら…先ほど警備をしていた一人が空飛ぶ巨大な鳥らしき物体を見たと報告がありました」

 そう言ったのはアサたちの話しを聞いていたバーンズの部下であるアマゾナイトの者だった。

「それっていつ?どこに行ったって?」
「半の刻前ほどだったと思います…町の南方へと飛んでいったと…」


2018/04/17(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は333〜



 ぽつりとそう独り言を洩らすバーンズ。
 元よりパイロープからそう言った要求を書かれていたため、彼は一人、誰に教える事もなくこの場所に来たのだ。
 と、驚愕しているバーンズへ、エナカーの運転席から顔を覗かせたタルクスが叫ぶ。

「まあこの俺の直感でピピーンとね!」

 そう言って見せる爽やかな彼の笑みはどう見ても冗談だと言っているようにしか見えない。

「直感って…しっかり聞き込みながらの運転だったけどね」

 タルクスが叫ぶ隣席でアサは冷静にそう突っ込む。
 冷静に、というよりは彼の荒い運転テクニックによって具合が良くないため、気分が優れないと言う方が正しい。




 アマゾナイト軍東方支部に駆けこんでもバーンズの行方は知れなかった。
 それどころか彼はここ何日か分の仕事を終わらせ、残っていた他の仕事も部下に頼んでいたのだという。
 まるで自分が暫く軍には戻らない――いなくなるということを予見しているかのように。
 時間がない。しかし手掛かりも全くないと言う中で、アサは半ば匙を投げたつもりで空を仰いだ。
 そのときだ。アサはある記憶が脳裏を過った。

「そういえば…北方支部でパイロープは空を飛んでいた。もしかして彼女は能力で飛行が出来るのか?」

 キエたちのしくみについては、未だよく理解出来ていないアサだったが、選ばれた者のみが扱える人知を超えた力。ということは既にその身で充分体験している。


2018/04/17(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は332〜








 やっと解放される。
 心のどこかでそう思いながら、パイロープは熱を帯びた石を手に、もう片手を地面へと向ける。
 その手から熱が放射されると彼女の体は浮き始め空中へと飛び立っていく。
 そしてある程度の上空で停まり、爆弾と化している石をバーンズの頭上に向けた。

「サヨナラ―――」

 石を持つその手を彼女はゆっくりと傾けた。






「待って!」

 その声は何処からか聞こえてきた。
 パイロープ、そしてバーンズは驚きその声がした方へと視線を向ける。
 と、そこには凄まじい速さで近付いてくるエナカーの姿。

「それだけは駄目!」

 エナカーから聞こえてくる叫び声。それは窓から身を乗り出す彼女の叫び。

「ミレット…何故ここが…」

 呆然と、驚きにバーンズは思わず差し出していた手を下し、そう呟く。
 出掛けるとしか言わず出てきたものの、タルクスやアシュレイからその思惑を悟られ追跡されるとはバーンズ自身も予測はしていた。
 しかし、この場所まで知られることはないと思っていた。
 
「何故だ、ここには誰にも言わずに来たというのに…」



2018/04/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は331〜 今日の気分次回更新は17日(火)予定です




「ならばお前の望むまま、私が一人全て引き受けよう。だからもう終わりにするんだ…メリッサ」

 彼女の手が一瞬、反応を示す。
 強張り、僅かに震えるパイロープの指先。
 しかし、それを振り払うように拳を力強く握り締め、彼女はバーンズを改めて睨んだ。
 その正面には穏やかな顔を浮かべて見せる彼が、両手を広げ立っていた。
 よく見るとその腰には携帯するべき軍の剣はなく、丸腰であることが伺い知れた。
 軍支部のトップがするべき姿とは到底思えない。だが、そもそも彼は軍の人間として此処を訪れたつもりは毛頭なかった。

「わかってるって、あんたは終わりにしてあげるよ」
 
 そう言うと彼女は近場に転がっていた石ころを拾う。
 全身から迸る熱をその石へと集中させていく。
 と、拳ほどもない石はみるみる紅く染まり、禍々しいものへと変貌した。

「あたしの最大熱量で作った爆発の球…当たればただの爆発じゃすまない」

 パイロープはその石を軽く弾ませてはキャッチを繰り返し、話しを続ける。
 
「巻き添えはなりたくないからあんたに渡してあたしはさっさと逃げる。けどあんたも逃げたら承知しないから」
「わかっている」

 無抵抗に彼女の復讐を受け入れたからか、先ほど見せていた怒りも叫びもそこにはなく、パイロープは至って冷静でいた。
 バーンズは静かに瞼を伏せ、自身の胸元を掴むその手を差し出した。

 


2018/04/10(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は330〜





「あいつと再会してわかった。我慢なんてもう絶対に出来ない!あんたとあいつを…ルーノ家を消し去ってしまわないとあたしは一生忘れる事なんて出来ないって!!」

 北方支部でミレットと再会してから彼女はその憎しみを強めていき、荒野でタルクスとミレットを取り損ねた際には覚悟を決めたのだ。
 先ずは全ての元凶であるバーンズから始末してやろうと。この身がどうなろうとも彼を仕留め、そしてミレットを絶望に苦しめてやろうと。

「愚かな考えだ…私を手に掛けたとして何も返っては来ないというのに」
「うるさいっ!!うるさいうるさい!!!全部全部全部お前のせいだッ!!お前が消えない限り、私は…私わッッ!!」

 彼女の叫び。奥歯を噛みしめ敵意をむき出しにした姿。
 その怒り狂っている様子にバーンズは眉を顰め、自然と自身の手を胸元へと当てる。
 あの日、あの時と同じ顔をして同じように憎しみをぶつけているのだと、直感する。同時にその憎悪により彼女の力は強大になり、増幅しているのだと察する。
 バーンズは以前、とある人物からキエというエナ能力者のしくみについて、聞いていた。



(私への憎しみがあの子の能力を増大させる…そして、それはやがて自我を失い暴走へと変貌する。これはつまりあの子の力が暴走しようとしているということか…)

 力が暴走した先に待つのは自我の消失。最悪の場合、自身さえも影形なく消滅するという。
 一層と彼は眉間に皺を寄せ、その胸を掴む手に力を込める。

2018/04/03(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は329〜 今日の気分次回更新は11日(火)予定です




「どっちもよ!どっちも…許さない、あんたも含めて…許したくない…!!」

 そう叫び続ける彼女は、時折何処かふらつく様子をうかがわせる。
 乱心によって体内のエナが呼応し、暴走しようとしていた。
 それはゼノタイムに散々忠告されていたものであった。

『エナは負の感情に反応し増加、強化することが出来る。だが度が過ぎると暴走をし、自身を滅ぼすこととなる』

 故に彼女はバーンズに会うことを禁止されていた。
 会えば必ず暴走するからと、ゼノタイムに忠告されていた。
 暴走の結果がどうなるかは“ビオ=ランの件”によって知っていた。
 だが、それでも彼女は会うと決めた。

「あいつは…ミレットは、何もかも、苦しみも悲しみ、本当に何もかも忘れて、のうのうと暮らしてた!!あんたが全部全部全部!忘れさせた、抹消させたからだッ!!」

 鳥の囀りもない、草木の揺れ動く音と、川のせせらぎしか聞こえないその跡地の中で。彼女の悲鳴にも近い声は轟き、辺りへと響き渡っていく。



2018/04/03(火) 語り手
タイトル 第五幕〜眠る女神は328〜 今日の気分次回更新は11日(火)予定です






 東方都市ラッハタの郊外。
 大河ケモチ川を眼前に置く展望公園跡にその人影はあった。
 かつては他町村に荷物や人を運ぶ運搬船の港として賑わっていたこの場所も、エナカーやエナバという次世代車の発展によって衰退・廃港してしまい、今は公園として形を残すのみ。
 だがその公園も今となっては廃墟と化し、人の姿は他に誰もいないものとなっていた。

「…そもそも、ラッハタ水祭の大橋崩落事故以降、此処は立入禁止だ。そのような場所に呼びつけるとは随分物騒なのだな、イイヌというのは」

 そう告げたバーンズ・ルーノの視界の先――彼の上空にはイイヌの少女がその悠然とした姿を見せていた。
 しかし悠然というよりもその姿は何処か物々しくあり、ただならぬ気配を発していることはバーンズの位置からでもひしひしと伝わってくる。
 と、彼女は両手からの放熱を解き、ゆっくりと下降する。
 同時に、鼻から息を洩らしかの英雄の子孫を見下す。

「物騒?部隊なんてそんなもんでしょ?いざとなれば武器と数で人を脅し黙らせる…だから国王騎士もアマゾナイトも未だ剣を手放さない」
「なるほど、耳の痛い言葉だ」

 もう一度鼻を鳴らしながら地面に降り立つ、イイヌの少女。
 彼女は静かに奥歯を噛みしめ、バーンズを指し叫ぶ。

「あたしが言いたいのはそういうことじゃないの!もう我慢できない、我慢しない!だから此処に来たの!」

 怒りを滲ませ叫ぶ彼女をバーンズは黙って見つめる。

「…それはマリアンヌの事か。それともミレットの事か」