るい栞愛

しあわせになれ

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(6) 今日の気分終わります


「怖いふりをすれば、それに乗じてくっつけるとか、男の子が可愛いと思うのはきっとそういう子なんだろうなとか、…うん、私も、それなりに経験はあるから、わかるんだけど、」
栞愛の唇が、困ったように笑う。その笑みは、やっぱりいまの環境にはあまり合わないけれど、るいは「うん」という短い相槌で先を促した。
「本当は、やっぱりちゃんとそういうの、したほうが良かったよね。…楽しくて、うっかり忘れちゃってて」
「…栞愛、楽しいの?」
「え?るいとふたりで遊園地だよ?楽しいに決まって……あ、るいはもしかして、あんまり楽しくな――」
「ねえ栞愛」

たぶん、楽しくないの?と続くはずだった言葉をさえぎって、るいはつないでいる手をちょっと揺らす。

「怖がってみてよ。計算でもなんでもいいから」
「え?」
「ほら、順路的にもちょうどあやしい部屋に入るみたい」
「…そういう風に言われるとなんだかすっごくやりにくいんだけど」
「栞愛が悲鳴あげたらさ、すかさず肩抱いて、俺がいるから大丈夫だよって言うね」

大きく開いた栞愛の瞳が、るいを見上げた。
るいはその瞳を見返して「リアクションの準備できた?」と笑う。

鉈だとか斧だとか、その手のものでつけられたと思しき傷と、いくつもの血のあとがついた重々しい扉に手をかける。扉の向こう側で、また甲高い悲鳴が聞こえた。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(5) 今日の気分続きます


「これってこの部屋に入れってことかな?」
「うーん、どうだろ。開けてみようか」
栞愛とつないでいないほうの手で、るいは開閉したドアノブをガチャガチャとまわす。ノブは一応動くものの、鍵がかかってるみたいで開きそうにない。
「違うみたい」
「そっか」
頷いて、ふたりはまた薄暗い廊下を歩きだす。

「こんなシチュエーションだけど、さっきの話、続けていい?」
「ん、でも、もうちょっと詳しく説明して」
「わかった。えっとね…できないっていうのは、さっきのほら、あの子みたいな、」
栞愛が廊下の向こうに視線を向ける。
追いかけた彼女の視線の先に、血に濡れたスーツ姿の男がたっていたけれど、たぶん彼女が言っているのはそれではなく、さっきのカップルの女のことだ。
たとえば、いまこのシチュエーションで高くてするどい悲鳴をあげるような。

スーツの男が霧の中に消えるのを待ってから、栞愛がのんびりと首を傾けた。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(4) 今日の気分続きます


じ、とるいを見上げていた栞愛が困ったように首を傾けた。
「そういうことか」
「ちなみに、”逆にるいのほうが怖がってくれても大丈夫だよ”ってのはないから」
「え、なにそれ」
「なんか栞愛って俺が絶対思いつかないこと考えるからさ。るいが怖いなら私が守ってあげる、とか言われるかなって」

扉が開いた。
青白い化粧のスタッフに無言で促されるままに、るいと栞愛は扉の奥へと歩き出す。
スモークで作られた人工的な霧。壁に散った”血”の跡、誰かの悲鳴。

「足元気をつけてね」というるいの言葉に、栞愛が頷いた。
先ほどからつなぎっぱなしの手をひいて、るいはのろのろと歩き出す。
どこかでまた悲鳴が上がって、恐怖をあおる演出なのか薄くかかったBGMにはさまざまな効果音が溶けあう。

「…私ね、」
いまいち見通しの悪い廊下を進みながら、栞愛がぽつりとつぶやいた。
「できないんだよね。…うーん、違う、たぶんちゃんと考えればできるんだけど、」
「まった、これ、なんの話?」
栞愛が顔をあげたのと同時に、ドォンと大きな音が鳴って、彼らのすぐ近くの扉が開閉した。
一瞬そちらに向けた視線を、栞愛に戻す。ちょうど同じような反応をしたらしい栞愛と目が合った。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(3) 今日の気分続きます


ギイイ、と大層な音をたてて扉が開いた。闇に閉ざされたその先の空間から白い煙とともにひんやりとした空気が流れ込んでくる。
ここから先は一組ずつ、時間差でスタートするらしい。友だち同士と思しき4人組の背中が見えなくなると、るいたちの前に並んでいた大学生くらいのカップルの女の子が、強張った表情で彼氏の腕にしがみついた。

「…なんかさ、」
るいは声をひそめて、栞愛の耳に口を寄せる。
「俺たちって、こういうアトラクションむかないよな」
「え?…あ、もしかしてるい、こういうの怖い?苦手だった?」
「……あー、そう見える?」
「ポーカーフェイスだからわからないけど、苦手なら無理しなくてもいいよ。ほら、あっちに非常口が、」
「ありがとう。でも、全然そういう意味じゃないから」

栞愛との会話は、こんな風に微妙にかみあってないところがしばしばあるのだけど、たぶん、るいにとってはそれが面白い。考えてることの斜め上。あるいは、るいにとって四次元の発想。

ギィとまた音をたてて扉があいて、件のカップルの番になった。
男の方が彼女に「大丈夫だよ」などと声をかけ、すでに泣き出しそうな表情の女は小さく頷く。そのふたりの背中も、やがて扉の向こうに見えなくなった。

「見てた?」
「ん?…ええと、いまの?」
いまの、と栞愛が扉の向こうに目をやったので、たぶんそう遠くないものを見ていたのだろうと踏んで、るいは頷く。
「栞愛にあの女の子の反応を求めはしないけど、…こういうのに向いてるリアクションってああいう感じじゃない?」

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(2) 今日の気分続きます


ゴシックホラー的な衣装に身を包んだスタッフにうながされるまま、おどろおどろしい音楽の流れる建物へ踏み込む。小広間のような場所で、列の前後にいた客たちと、『この館で起きた出来事』だとか『館にまつわる噂』だとかを逐一説明されたのだけど、主に別のことに気をとられてたるいは、ありがちなそれをほとんど聞き逃した。

「…なんか、すごい設定だったね」
「え?なに?」
「え、るい聞いなかったの?結構熱のこもった説明だったのに」
「あー…うん、一応聞いてた。館の主が殺されたんだっけ」
「惜しい。館の主は使用人や家族を殺して行方不明だよ」
やっぱり聞いてなかったと上目遣いににらまれて、るいは素直にごめんと謝る。

「別のこと考えてた?」
「うん、…考えてみたら昨年までは同じ家に住んでたし、誘う必要もなかったよなって」
栞愛の足が止まったので、るいも自然に足を止めた。
一緒に移動中だった家族連れやカップルがちらちらとふたりに目をやりながら、追い越していく。
「何の話?って思ったけど、ちゃんとつながった」
「説明する手間がはぶけてありがたいけど、とりあえず行こうか」
るいが差し出した手に、栞愛の手が重なる。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(1) 今日の気分続きます


「そうだっけ」と聞き返したら、「そうだよ」と栞愛の頬がふくらんだので、るいは記憶をさかのぼるのをあきらめて肩をすくめる。

「まあ、昨年は部活ばっかりしてたし、一応受験生だったし」
「受験生で部活ばっかりって、なんか矛盾を感じる組み合わせだよね」
「あー、言われてみれば、そうかも」

次の反応に、数秒の間があった。
アトラクションの順番でも気にしているのかと思ったらそうではなかったらしい。顔をあげた栞愛が「ねえ」とるいの目を覗き込んだ。
「いまのそれは、どっちに対する”そうかも”だったの?」
「どっちに対する…って…」
今度はるいが数秒黙り込んで、それから「ああ」と応じる。

「受験生で部活漬けって矛盾してるな、って意味だったけど、誘ったことなかった、ってほうについても異論はない」
「でしょ?いつも私ばっかり誘ってたよね」
「なんか古いドラマとか歌とかにありそうなセリフ」
「あれ、ちょっと聞き捨てならないな。これはもう人類永遠のテーマだと思うけど」
「じんるい」
「うん」
「えいえん」
「そうだよ」
「栞愛って面白いね、相変わらず」
「え、ちょっと、それどういう――」
「俺たちの番だって、いこう」

2018/06/29(金) 栞愛
タイトル 5-18『離れてから気がついた』(7) 今日の気分終わります


るいからの食事の誘いなんて珍しい。もちろん返事はイエスだ。栞愛は笑みを抑えられない。
次の話題に移っても、目当ての乗り場に着いても、頬が緩みっぱなしだった。
「ニヤけすぎなんですが」
「それはだって、気づいてないと思うから言うけど」
るいの視線を感じながらも栞愛は正面を向いたまま指摘する。
「たぶん初めてだよ。理由もなしにるいから誘ってくれたのって」

2018/06/29(金) 栞愛
タイトル 5-18『離れてから気がついた』(6) 今日の気分続きます


栞愛はるいの数歩後ろで足を止めていた。園内ガイドで顔を覆っている。肩が震えていた。
なにそれ笑っちゃうような誤解! と言いたかった。だからるいはどこか冴えない顔つきだったのか。憂いをぬぐい去ってあげたいけれど、なにか答えたら、このるいの優しい声が途絶えてしまう。あと少し、もう少しこのまま……。
ためらいがちに一度、頭をぽんと叩かれた。
「顔、あげてよ」

栞愛は隠れるのを止め、言われたとおりにした。いつもと変わらぬるいの視線を真正面から受けとめる。ただそれだけのことにどきどきしている自分を感じる。
「パパのことは好きだけど、るいの想像するような『好き』じゃないよ」
「……そう」
「嘘じゃないよ」
「誰も嘘だなんて言ってない」
栞愛はるいの手を取り、指を絡ませる。
「私の好きはもっと別のところにあるんだから」
そうして、わかってよ、とばかりにるいの足を蹴る真似をした。あくまでも真似だった。
るいの反応はこうだ。
「あのさ」
「うん」
よさそうなアトラクションが視界に入ってきたが、るいの話を遮りたくない。まずは話を聞いてからだ。
「今度、ご飯でも食べにいかない?」

2018/06/29(金) 栞愛
タイトル 5-18『離れてから気がついた』(5) 今日の気分続きます(小間切れすみません


「ねえ、ごめん。よくわかんないんだけど。私、なにか悪いことした?」
「いや」
「そう。ならいいんだけど」
いっちょここらで激しいのに乗りましょうか、とガイドを開く。そう遠くない場所に手頃なものがあった。
「ねえ、これ――」
「栞愛は父さんのことが好きなの?」
急にるいが言い出した。
「聞き流してもよかったんだけどすっきりしないから。一応、確認入れとこうかなって」
親子としての親愛の話でないことは栞愛にもすぐに理解できた。が、わからない点がある。
「何故にそうなるの? 聞き流すって、なに?」
「さっき言ってたじゃん。『離れてから気がついた』とか恋愛の王道なのに実際はそうならないとか、身内がどうのとか。あれって父親とのことを言っているのかなあ、と思って。母さんとの再婚が堪えたから家を出たの?」
「……」
「言っていいよ。俺、誰にも言わないし」
「……」
「ていうか、俺くらいにしか言えないでしょ」
「……」
「……栞愛?」

2018/06/29(金) 栞愛
タイトル 5-18『離れてから気がついた』(4) 今日の気分続きます


「遊園地でデートする意味がわかった。男の子も女の子も、あれ乗っていい? これ乗りたくない? って聞いて、相手の小さな許可を繰り返していって、あわよくば一番大きいオッケーをもらおうという算段なんだ。だってそうでしょ? こんなことしてたら、『つきあうのくらいまあいっかなー』って思っちゃうじゃない?」
栞愛の言い分にるいが一瞬目を見開く。が、すぐに顔を背けた。
「そういうの……言う相手は選んだほうがいいんじゃない?」
「え」
どうしてそんな、窘めるようなことを言うのだろう、と栞愛は不審に思う。
「選んでるよ。相手がるいだから言ってる」
まっすぐに言ったつもりだ。
「るいにしか言わないよ」
それでもるいはこちらを見ようとしない。なにがるいの機嫌を損ねているのか、栞愛には皆目見当がつかない。
一緒にいて楽しかったのならもっと一緒にいようと口約束する、ただそれだけのことだ。それを告げる機会を、やんわりと閉じられたような気がした。この話題は引っ張らないほうがいいのかもしれない。