るい栞愛

しあわせになれ

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/09/24(火) 栞愛
タイトル 6-01 会えた日、会える日(4) 今日の気分終わります


きちんとしていると感じたのは気のせいではなかった。栞愛と会うために、栞愛に喜んでもらうために吟味を重ねてるいはこの店を選んだのだろう。
会える時間を大切にされている気がして、それはそのまま栞愛を大切にしているのと同義に思えて、栞愛は人知れず胸が高鳴るのだった。

「夜景の見えるレストランとかのほうがよかった?」
「それは……嫌いじゃないけど、プロポーズされるかと勘違いしそうになるからやめとこ?」
るいの表情が固まった。
「え。どうしたの? 本当にプロポーズするつもりだったとか……今のなしにする?」

2019/09/24(火) 栞愛
タイトル 6-01 会えた日、会える日(3) 今日の気分続きます


程なくしてスケジュールを聞かれた理由がわかった。食事の誘いだった。メッセージアプリに日時と一緒に待ち合わせの場所が記してあるが、店の名前はない。
るいのほうが先に来ていた。栞愛は駆け寄りたい衝動を履いているヒール靴のせいにして抑え、るいと合流した。
『待った?』でも『お疲れさま』でもなく、こんばんはと声をかけた。街明かりの下に立つるいの格好が普段より小綺麗にみえた。

「走らなくていいのに」
「走ってないよ!」
「そんなに待ちきれなかった?」
「待っていたのはるいのほうでしょ」
「確かに。あ、でも今来たとこだし」

改まった空気を感じたのは気のせいだったのかもしれない。軽口を叩きながら夜の人の流れに沿って歩くこと数分、目的の店に着いた。


店の看板を読み終えぬうちにドアをくぐる。るいが名前を告げると、奥のテーブル席へ案内された。落ち着いた木目調の棚にはガラスのオブジェやワインが並び、席はひとつひとつがゆったりと配置されている。照明も明るくて、料理の彩りを目で楽しめそうだと瞬時にわかる。
この店に来たことは、と聞かれて栞愛は首を横に振った。るいがほっとしたように、そっかと言った。
「食通の栞愛サンはいろんな店を知っているだろうって思って、実は選ぶの結構迷った」
そんなことないのに、と栞愛は言いかけてやめた。
「ありがとう」
代わりにそう言った。

2019/09/16(月) 栞愛
タイトル 6-01 会えた日、会える日(2) 今日の気分後日続きます(メールお送りしました


るいと会うのは遊園地以来だ。衣食住が保証された家を出るくらいだからるいは自活するつもりなのだろう。アルバイトだってしているかもしれないし、探している最中かもしれない。大学生活が軌道に乗るまでは、下手に電話をして邪魔をするのは気が引けた。どうせするならいい報告をしたいに決まっている。

「あっ、ひょっとしてこの店、るいの住んでるとこからも近いの? 駅はここ、最寄りじゃなかったと思うんだけど」
「気づくの遅……まあ、そう」
邪魔するつもりないから続けてよ、とるいに促され、栞愛は迷ったものの、言われたとおりに参考書に向き直る。
切りのいいところでやめにしたのだが、帰りしなに予定のない日はいつかを聞かれ、手帳の空欄の日をいくつか伝えた。

「……あのさ。送ったほうがいい?」
「なにを?」
るいに指をさされて、栞愛は自分のことを言われているのだとようやく気づいた。
「いらないいらない! 帰れるし、酔ってないし! るいってそーいうの気にしてくれる人だっけ?」
思いがけない言葉過ぎて、今、私余計なひとことを言ったなと瞬時に悟る。こういうところがかわいくないんだろうな、と。甘えて頼りにすればきっと別の空気が流れるのに……。
「じゃあ、家に着いたら連絡して。心配だから」
「あ……はい」 
店を出て振り返る。ガラス越しにるいが小さく手を振っていた。るいってそういうことしてくれるんだ、と口の端が緩んだ。

2019/09/15(日) 栞愛
タイトル 6-01 会えた日、会える日(1) 今日の気分続きます


今日は調子がいいなと栞愛は思った。仕事絡みのセミナー受講のあと、同僚とは夕食を取って解散したのだが、駅近くにコーヒーチェーンの店舗があったのを思いだし、立ち寄ったのだ。試験が近いのか、パソコンや教科書を開いている客が多い。お陰で栞愛も気兼ねなく参考書を広げることができた。
マナーモードにしたままだったスマートフォンの画面にメッセージが立ち上がった。『隣、いい?』るいからだった。急いで返信しかけて途中でとどまる。隣?
スマートフォンをテーブルに押さえたままきょろきょろと辺りを見まわす。片手を小さく上げ、るいが店の入り口から合図をしてきた。


栞愛が荷物をよけてできたテーブルのスペースにるいが冷たいカフェラテを置く。
「驚いた。なんでいるの?」
「仕事でこっちに来ててね。勉強してから帰ろうと思ったら、予想外に集中できて長居してしまって」
「ここ穴場なんだよ。駅にも店があるから、客が分散してくれて助かってる」
「あら、常連さん?」
「ってほどでもないけど。勉強の邪魔するつもりはないから、これ飲んだら帰るし」
るいは栞愛の開いているテキストを覗きこんだ。背表紙も確認する。IT関係の資格取得の書籍だというのはわかったが、内容は未知の領域だった。
「大変そうだね」
「大変。だけど、今のるいのひとことでやる気でた。労いありがと」
栞愛はテキストから顔を上げ、にこりと笑う。

2018/08/10(金) るい
タイトル 5-21 変わっていくもの(2) 今日の気分終?続?


「うち、見えないかなあ」
そんな風に呟いた栞愛が、たぶんほんの微かな揺れに気づいて顔をあげた。
広いとは言えないスペースで立ち上がったるいは、彼女の背もたれに片手をつく。

「…相変わらず、隙だらけだね」
「え、」
伸ばした手に一瞬視線を向けたあと、至近距離で戻ってくる視線。
それにむかって、るいはちょっと笑ってみせた。

「別に何もしないから、安心して」
ぎ、と小さな軋みを残して、るいは栞愛の隣に座る。
狭いベンチシート。肩が触れる距離のまま、先ほどまで栞愛が見ていた景色に視線を向ける。

「さすがに家はわかんなそーだな」
なんとなくの方角はわかっても、ミニチュアのような無数の建物の中からたった一軒をみつけるのは難しい。
少し前まで、るいと栞愛が暮らしていた場所。いまは、誠人と沙和と、ふたりだけの家だ。

「るい、」
「あ、そういう声で呼ばないで。俺、自分が思ってたより衝動的に動いちゃうタイプみたいだから、」
「…何それ、どういう」
隣で座ってる栞愛がるいを凝視してくるせいで、逃がれる場所は少ない。
るいは小さくため息を吐いたあとで、ぽんぽんと栞愛の頭をなでた。
「これだけあれこれしたあとで遅いかもしれないんだけど、ちゃんと誠意くらいは見せようかなって」

がこん、と観覧車が揺れる。
観覧車のいちばん高い場所。この景色を専有できるのはほんの一瞬なのに、るいと見つめ合ったままで、栞愛はあとで残念がらないんだろうか。
そんなことをるいはぼんやり思い浮かべていたのだけど、そのあと別れるまで、彼女がそれについて残念がることはなかった。

2018/08/10(金) るい
タイトル 5-21 変わっていくもの(1) 今日の気分続きます


「じゃあ、また連絡する」と別れたのは、もうだいぶ1日も終わりに近づいたころ。
帰りに実家に寄ってもいいなんて言っていたはずなのに、なんだかんだと閉園近くまで遊びつくしてしまって、さらに固辞する栞愛を無視して彼女の家の近くまで送ってきたせいだ。離れがたかったのだなんてとても口に出しはしないけれど、彼女のほうも、少しでもるいと同じように感じてたらいいとそんな風に思う。
かさばるポップコーンケースは、「さすがにるいがひとりでこれを持ち帰るのはいたたまれない」と苦笑した栞愛がひきとってくれた。
いくらか身軽になった身体に、まだどこか冬の残り香がする夜気が心地いい。


最後に乗った観覧車で「栞愛は茶化すかなと思った」と告げたるいに、彼女は不思議そうに首を傾けた。
説明不足の自覚はあったけれど、補足する部分を上手く伝えるのは難しい。

迷ってるあいだにも、ガコガコと決して耳障りの良いとはいえない音にあわせて、少しずつ見える景色が変わっていく。
地上で明滅する光を眺めながら、るいは「さっき」と結局ふたたび説明不足の言葉を発した。

「おばけやしきでさ、俺が怖がってるふりしてっていったとき」
「ああ…」
心当たりでもあるのか、正面に座っていた彼女はるいから視線を逸らして、先ほどまでるいが眺めていた地上へと顔を向けた。
「…いつもだったら、そうしてたかな」

すでに地上は遠い。
ふたりをのせたまま、がこがこと揺れる密室はもうすぐ頂上へたどりつく。

2018/07/23(月) 栞愛
タイトル 5-20 来るとわかっていても(2) 今日の気分おわります


計算された流れのはず。なのにるいの声の近さにどぎまぎして、肩や背中の触れられている部分に意識が向いてなんだか熱くなった気がして、栞愛はどうしていいかわからなくなる。
「よくできました」
笑いを含んだ声でそんなダメ押しまでもらって、熱を帯びた顔がさらに熱くなった。

2018/07/23(月) 栞愛
タイトル 5-20 来るとわかっていても(1) 今日の気分続きます


扉をくぐる。斜め後方から声を掛けてきたのは青ざめた顔の使用人だ。何年ものあいだ行方不明だった館の主の姿を見たというが、新たな設定自体よりも物陰から急に現れたことに驚かされた。
「い、今のが一番怖かった」
「へえ。ああいうのが苦手なんだ」
余裕綽綽の声が聞こえて、栞愛は不思議な思いでるいを見あげる。待たれているように思う。さっきのあれだ。
『怖がってみてよ。計算でもなんでもいいから』
行こ、と小さく先を促す。同じ速さで歩みを進める。
茶化したくて茶化しそうで仕方ない。けれどもそこを踏みとどまって、相手の思うほうに転んでみたらどうなるのか――。


距離ができたようで、前のグループの姿は見えなくなっていた。
「行きどまり?」
「いや、どっちかに折れるっぽい……」
るいが言いかけたとき、先のほうから悲鳴が上がった。思わず足が止まる。
壁の向こう、曲がってすぐのところだ。なにかが仕掛けられているらしい。前を行く客の半泣きの声が完全に遠ざかってから、栞愛とるいは歩きはじめた。
あったのは主の無残に変わり果てた姿だった。縋るように手を伸ばして倒れこんできて、来るとわかっていたのに今度のはさすがに戦慄が走った。
「ひっ……!!」
飛びのいた栞愛の肩に腕が回され、るいに抱き寄せられて、
「うん、平気。……俺がいるから大丈夫だよ」
ささやきが耳に届く。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(6) 今日の気分終わります


「怖いふりをすれば、それに乗じてくっつけるとか、男の子が可愛いと思うのはきっとそういう子なんだろうなとか、…うん、私も、それなりに経験はあるから、わかるんだけど、」
栞愛の唇が、困ったように笑う。その笑みは、やっぱりいまの環境にはあまり合わないけれど、るいは「うん」という短い相槌で先を促した。
「本当は、やっぱりちゃんとそういうの、したほうが良かったよね。…楽しくて、うっかり忘れちゃってて」
「…栞愛、楽しいの?」
「え?るいとふたりで遊園地だよ?楽しいに決まって……あ、るいはもしかして、あんまり楽しくな――」
「ねえ栞愛」

たぶん、楽しくないの?と続くはずだった言葉をさえぎって、るいはつないでいる手をちょっと揺らす。

「怖がってみてよ。計算でもなんでもいいから」
「え?」
「ほら、順路的にもちょうどあやしい部屋に入るみたい」
「…そういう風に言われるとなんだかすっごくやりにくいんだけど」
「栞愛が悲鳴あげたらさ、すかさず肩抱いて、俺がいるから大丈夫だよって言うね」

大きく開いた栞愛の瞳が、るいを見上げた。
るいはその瞳を見返して「リアクションの準備できた?」と笑う。

鉈だとか斧だとか、その手のものでつけられたと思しき傷と、いくつもの血のあとがついた重々しい扉に手をかける。扉の向こう側で、また甲高い悲鳴が聞こえた。

2018/07/07(土) るい
タイトル 5-19 それらしいリアクション(5) 今日の気分続きます


「これってこの部屋に入れってことかな?」
「うーん、どうだろ。開けてみようか」
栞愛とつないでいないほうの手で、るいは開閉したドアノブをガチャガチャとまわす。ノブは一応動くものの、鍵がかかってるみたいで開きそうにない。
「違うみたい」
「そっか」
頷いて、ふたりはまた薄暗い廊下を歩きだす。

「こんなシチュエーションだけど、さっきの話、続けていい?」
「ん、でも、もうちょっと詳しく説明して」
「わかった。えっとね…できないっていうのは、さっきのほら、あの子みたいな、」
栞愛が廊下の向こうに視線を向ける。
追いかけた彼女の視線の先に、血に濡れたスーツ姿の男がたっていたけれど、たぶん彼女が言っているのはそれではなく、さっきのカップルの女のことだ。
たとえば、いまこのシチュエーションで高くてするどい悲鳴をあげるような。

スーツの男が霧の中に消えるのを待ってから、栞愛がのんびりと首を傾けた。