Info館山 朱杜影浦 祈江晴海 奏古東 譲

穏涼奇譚〜穏やかな涼風の手折る常〜

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-6 今日の気分end



彼の言葉には答えずに、私は既に暗くなっている廊下の奥へ視線を向けた。
――暗がりの中で蠢く様なソレは、館山先生と古東君には見えていないだろうが、先程からずっとこちらを窺っているモノだ。
私がいるからなのか、生魂の彼が居るからなのか近づいてくる気配は今はないけれど…。

「――そうだといいけれど、ね。」

そうして呟いた言葉に、穏やかに笑っている彼は少しだけ困ったように笑ったけれど、肯定も否定もしなかった。
そんなやり取りに残された二人は、私と生魂の彼――晴海さんを見比べて首を傾げる。

「……帰ります。」
「え、あ…おい、待てって、ほら、譲、お前も帰るぞ。」
「え?あ、待ってよ…!」

暢気なものだ、と二人に深々と溜息を吐くと一言残し早々に踵を返す。
後ろから慌ただしい声が追い掛けてくる中――

「じゃ、じゃあね!奏くん!」
「気を付けてね。」
「うん!また明日!」

当たり前のように交わされた言葉が、何故か私の胸を突いた気がした。

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-5



「まぁ、詳しいことは日を改めて、だな。」
「えー!?」
「譲君、そうした方がいいよ。」
「奏くんまで…。折角僕以外に奏くんのこと視える人に会えたのに…。」

館山先生の言葉に不満そうな声を上げた古東君は生魂の彼の言葉にも不満を返すが、「また明日、ね?」と柔らかい声で諭されると渋々というように頷く。
その様子を見ながら古東君はなんともわかりやすくも危うそうだ、と改めて思う。――まぁ生魂と友達になるくらいだから相当なお人よしか、軽率な人物だろうという想像は残念なことにあまり外れていないようだ。

――人でないモノが視えることは良いことじゃないし、人でないモノに気を許すと痛い目を見る、と忠告したいところだが彼らのなんとも緊張感のない様子に水を差せずに口を噤んで、溜息に代えて吐き出した。
私のそんな反応に、一人は不思議そうに首を傾げ、一人はバツの悪そうな苦笑を零し、そして――。

「――そんな顔しなくても、何も悪いことはしないよ。」

確かに彼から害意は感じない。――だけど、人非ざるモノはそれ自体が害に成り得る。
仮に今はそうでなかったとしても、彼にその意図がなかったとしても、共に居れば、可能性は0にはなり得ない。

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-4



――というか、つい先刻も館山先生に名前を呼ばれたような気がするのだけど。
それに、"あの"と言われても――と言いたいところだけれども、心当たりだけは嫌という程にある。
碌でもない根も葉もあったりなかったりの噂のどれかのことだろう。
心無い噂――概ねが事実であることも否めないが――を思い出して、つい顔を顰めてしまった私に、少年は「あ、あの、ごめんなさい」としゅんと肩を落とすのに、私は短く「別に。」と言葉を返す。

「"あの"?」
「――館山先生。外、暗くなってます。」

少年の"あの"という言葉に引っかかったのか、反復するようにソレを疑問形で口にする館山先生の声に重ねるように口を開く。
掘り下げて楽しい話でもないし、確認せずとも察しくらいはつくだろう。
事実で在れ無かれに関わらず、その人の噂を当人を前にして話されるというのも居た堪れない。
私の言葉に、廊下の窓へと視線を向け既に夕陽が殆ど落ちかけているのを確認すると館山先生は「とりあえず今日は帰るか。」と口を開く。

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-3



――というか。そもそもの所、一番の害となり得るのは生魂ではないか、と思いはするが、館山先生の話では彼は生魂を"友達"だと思っているらしいから、初めて出会った私の方が怪しく思えるのかもしれない。だとすれば、なんというか友達思いというか、危機感のないというか…ああ、類は友を呼ぶのだろうか、と後ろに立っているであろう館山先生の顔を思い浮かべる。

「あ、あの…?」
「――影浦。」
「…っ?!」

取り留めなく思考を巡らせていると、困惑の視線と声に次いで後ろから宥めるように名前を呼ばれる。
そして、当たり前のように頭に感じる手の重みにハッとして、反射的に軽く首を竦めてその手から身を離す。
最近、よくよく頭に手を置かれる――恐らく頭を撫でる、というのが正しいのだろう――気がするが、目の前に居るのは館山先生の旧知の知人であり、制服を着ているから当然この学校の生徒だろう。
こんな様子を見られては、後で何を言われるかわかったものじゃない。

「あ、あの…朱兄と、えっと……?」
「……。」
「あー……影浦祈江。俺のクラスの生徒だよ。」
「そうなんだ…って、え、影浦センパイ!?ってあの…!?」

困惑した様子で生魂と顔を見合わせた後、古東君は恐る恐る、と言った様子で首を傾げて口を開く。
館山先生から此方へと移る真直ぐな視線から視線を逸らせば、仕方ないといわんばかりに館山先生が口を開く。
それを聞いて驚いたように此方に視線を戻す古東君に私は内心で溜息を吐く。

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-2



先程私とぶつかった、館山先生が譲と呼んだ少年の方が――古東譲、先生曰くの"旧知の知人"だろう。
そして、その背後に立っているもう一人の男子生徒――の姿をしているソレが、件の生魂、晴海奏だろう。

生魂の方は存在自体は認知していたけれど、接触したことこそなかったからこんなに近くでソレを見るのは初めてだ。
始めて感じる気配の曖昧さと反しての視覚の明確さの違和感に、自然と視線が惹きつけられるように其方に向かう。
私の視線に気づいたソレは、館山先生から私の方へと視線を移すとなんとも人間くさい曖昧な笑みを浮かべて見せた。
その姿を注視するようにじっと見つめてみる。やはり、というべきか、その姿が透けていたり、欠損している様子はない。
――朧げな気配は意識すればするほど、死霊なのか、生霊なのか、はたまた霊なのか、人なのか、わからなくなるほど曖昧だ。少なくとも私が今まで出会ったことのない種のモノだろう。
わかるのは元ある気配の上から、まるで何重にも薄い膜が掛かっているような感じだけ――。

と、視線だけは生魂に向けたまま思考に沈みかけたところで、不意に視界を遮るように古東君が立ち塞がる。
自然と視線は彼の方に流れる。生魂を庇おうとするようなその様子は、なんというか――主人を守ろうとする子犬みたいないじらしさと空回り感を感じる、気がするのだけど…。

2018/09/04(火) 影浦 祈江
タイトル 31-1



やっと行なわれた館山先生の補習の帰り道。
余談としてでなければ有意義な話が聞けたという満足感と、けれど補習という限られた時間で蛇足が多く要点を学びきれなかった不満を綯交ぜにしつつ、相変わらず危機感なく私の帰路に付き添うと申し出る館山先生に頭痛を覚えながら、果たしてどう振りきろうかと思考を巡らせ昇降口に向かっていると、階段脇から突然出てきた人影とぶつかってふらついた。
雑念に注意力散漫になっていたのか、近づいてくる気配にも気付かなかった。

そして、館山先生にその背を支えられていることに動揺することも忘れて、ぶつかった相手へと視線を向けて、階段脇から現れた二つの影に目を丸める。そこに居たのは遠目からは見知った顔だった。

「え。」
「……あぁ。」
「…ええっ!?」

――と三者三様に声を上げるのを眺めながら、内心で溜息を吐く。
どうやら、館山先生にも生魂の姿ははっきり見えているようだ。
以前に見たことがある、と聞いてはいたから驚きはしないが、今も視えているということは状況やタイミングではなく、先生と生魂の相性が良かった――というか、先生の視える"条件"を生魂が備えていたという方が近いかもしれない――のだろう。
でも、何も昨日の今日でエンカウントしなくてもいいと思う。タイミングがいいのか悪いのか…。
とはいえ、話を聞いてから、件の生魂の様子は早いうちに確認しておきたいと思っていたのは事実で、視線は自然と其方へ向かう。

2018/09/04(火) 古東 譲
タイトル 30-4



この状況、さっきぶつかった女の子には変に見えてるんじゃ…!と慌ててそちらへ視線を戻すと、彼女の視線も真直ぐと奏くんを捉えている。
――だけど、先程ぶつかって驚いたように目を丸めていた表情とはまるで別の、何かを探るような、何処か鋭利な視線で、背中がゾクりと粟立った。
反射的に奏くんを庇うように彼女の視線を遮るように前に出れば、一つの瞬きの後、今度は僕を無言で見つめてくる。
そこで、彼女が制服を着て三年生の色のタイをしていることに気付く。――そういえば、上の階は三年生の教室だ。先輩、なのだろう。

「………。」
「あ、あの…?」
「……影浦。」

じっと見つめてくるものの、何を言うでもするでもない先輩の反応に助けを求めるように彼女と朱兄を見比べれば、朱兄は呆れた様に彼女の名前を呼んで、宥めるように頭にぽんと軽く手を乗せる。

「…っ?!」

朱兄に触れられた瞬間、先輩は弾かれた様に素早く朱兄の手から身を翻す。
――まるで警戒心の強い猫みたいだなぁ、と緊張感のないことを考えながら、どうすればいいのかわからずに困惑と共に奏くんを振り返れば、困ったような笑みを返されて、不思議と緊張していた肩から力が抜けた。

2018/09/04(火) 古東 譲
タイトル 30-3



視界の端に長い黒髪が揺れたのが見えて、ぶつかった相手が女の子で、ぶつかった拍子に身体がよろめいたのに気付いて手を差し出そうとする――より先に、その背後から大きな手が伸びてその背中を支えた。
慌てて謝罪の言葉を口にするのと同時に、その女の子を支えたのが朱兄だったことに気付いて、目を丸める。


「譲……お前は少し落ち着いて行動を――」

そして、支えた女の子から僕に視線を移しながら、僕を窘めるように口にした朱兄の言葉が不自然に途切れたのを不思議に思って朱兄を見上げれは、僕に移したはずの視線はそのまま逸れて――って。

「え。」
「……あぁ。」
「…ええっ!?」

朱兄と僕のちょっと後ろに居た奏くん(あれ?さっきまで並んで歩いてたはずだったんだけど)と僕の声が重なり合うように人気のない廊下に続く。
え、てか、朱兄、奏くんを見て…え、見えてる!?
慌てて奏くんを振り返ると、奏くんは何故か朱兄たちを見てまるで悪戯が見つかったような表情で苦笑してる。

――たち、ってそういえば…!

2018/09/04(火) 古東 譲
タイトル 30-2



「ねえ、奏くん。」
「うん…?」

奏くんの言葉に促されるように帰り支度を済ませて鞄を手にして、奏くんに向き直り口を開くと、そんな僕を見ていた奏くんがなあにとでも言うように首を傾げる。

「やっぱり僕、奏くんと友達になれたんだって、友達に自慢したいんだ。」
「……譲君。」
「だから…だからね――」

――奏くんがもう一度生きようと思ってくれるなら。
そして、それが叶ったのなら、その時には――。

「いつか、二人にも奏くんが見えて話が出来るようになったら。
奏くんに二人を紹介して、二人に奏くんのこと自慢するんだ!」

大好きな人が一緒に笑い合う未来は、想像するだけで温かくて楽しくて幸せなものだと思うから。
僕はそんないつかを望まずにはいられない。だから、出来るなら、どうか、奏くんも同じ未来を視て欲しいなって思っちゃうんだ。

驚いたような表情できょとんと目を丸くした奏くんに、つい頬が緩んだ。
いつも驚かされるのは僕の方だから、奏くんのこの表情はちょっとだけ珍しくて見れると嬉しくなってしまう。

「譲君…。」
「じゃ、帰ろうか。」

返事を聞かずに立ち上がって廊下に向かって歩き出す。
そして、教室の扉に手を掛けたところで、窓際に佇んだままの奏くんを振り返る。

「ほら、奏くん。――一緒に帰ろう?」

校門までだけど、と奏くんに向けて差し出した手に、感触のない手は、けれど確かにしっかりと重なった――。



――のが、嬉しくて浮かれて廊下を歩いていたら、階段のところで誰かとぶつかった。

2018/09/04(火) 古東 譲
タイトル 30-1



『話せるようになったら話す、嘘は付きたくないから……で良いんじゃないのかな?』

そう言った奏くんの言葉に、揺らいでいた気持ちがストンと落ちた。

――そっか、それで良かったんだ。
僕を心配してくれる和泉たちに、何も話せなかったことはやっぱり申し訳ないなぁと思う。
でも、"話せないこと"と"嘘をつかないこと"は別のコトで。
"話せないこと"は後ろめたくはあるけど、それを素直に伝えることで少なくとも"嘘をつかない"でいられる。
やっぱり気持ちの何処かに、大好きな奏くんのことだから、大事な友達である二人に話したい、わかって欲しいと思う気持ちは消えないけど…。

「そろそろ帰らないとあっという間に暗くなってしまうよ」
「…うん。」

翳り始めた夕陽の柔らかな橙色の光の中で、淡く微笑むように目を細める奏くんの姿をこうして視ることは、二人には出来ない。
柔らかくて耳触りの良い穏やかな声を聞くことも、多分、出来ない。
もし、奏くんがホントに幽霊だったなら、多分、一生。
――でも。実際はそうじゃない。奏くんは生きてるんだ。今は無理でも、姿を見ることも、声を聞くことも、きっといつか出来る。…奏くんもそれを望んでくれるなら。
なら、その時まで。もう少し待っていて貰えるようお願いしよう。
「今はまだ話せないけど、話せるようになったら話す」と奏くんが提案してくれた言葉に、「だから、二人に話せるように僕も頑張るね」って――。