語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/12/10(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~189 今日の気分次回更新は24日(火)予定です




「いや…少しだけ。その前に少しだけ確かめたいことがあるんだ」
「確かめたいこと…?」

 レンナは首を傾げながら目の前の彼を見上げる。
 しかしアスレイはそう告げただけでそれ以上何も言わず、彼女を置いて静かに歩き出していった。
 その横顔は『何か考えがある』と言っているようなのだが、レンナには全く理解出来ず。

「えー…もうこれ以上変に首突っ込んでくとさ、領主様の台詞じゃないけど、ホント後悔する事になるって!」

 そう投げかけてやることしか出来なかった。








 某時刻。暗がりの中。人影が僅かに動く。
 月光さえ注がれない暗闇の空間でワイングラスを傾かせ、その人影は独り晩酌をしていた。
 と、突然その手が止まる。
 指先が小刻みに震えだしたその直後、突然持っているワイングラスを地面へと叩きつけた。



 パリンという破壊音と共に、グラスはただのガラス片に変わる。
 粉々に砕け散ったその様を見つめながら、しかしその手は未だに震えが収まらないでいる。
 しかしこれは恐怖ではなく、怒りによる震えだった。


「クソッ…あのガキ…」

 ポツリと、憎しみの言葉が漏れる。

「馬鹿にしやがって…笑わせるな」

 指先は静かに、ゆっくりと目の前の空を掴む。
 まるで何かを捉えるかのような、握り潰すかのような仕草で、震わせている指先は力強い拳を作る。
 すると、その指先からポタリと鮮血が垂れ落ちていく。

「この魔女の毒牙で後悔させてやる……!」

 そう呟き、最後にその人影は静かに、不敵に笑った。







2019/12/10(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~188



 ティルダが重要視しているのはあくまでもこの『キャンスケット』という町の形だけであり、そこに住まう人たちが居なくなろうがどうなろうが気にしてはいない。 
『町』が無事ならばそれで良いと思っている。
 だから《事件》を《現象》として片付けられる。片付けてしまう。
 アスレイはそう確信する。

「確かに、あんな風に魔女のせいにしちゃってる時点で、もう話にもならないって感じだもんね」

 レンナもアスレイに同意し、何度も頷く。

「だったらこれ以上あたしたちが調査する意味って無いんじゃない?例え証拠突き付けたって、きっとあの領主様だもん上手くあしらわれて終わりだよ?」

 こうなってはもう、後はローディア騎士隊にでも頼んだ方が良い。
 レンナはそう提言する。



 ローディア騎士隊とは、国王に認可された傭兵部隊であり、領地・領主が持つ権限に囚われず自由な治安維持活動が許される自警部隊だ。
 だが、彼らを動かすには彼らに『依頼』を申し込まなくてはならず、場合によっては金額が発生することもあるため、一般民では中々手の出す事の出来ない部隊。
 とはいえ、この状況下ならばローディア騎士隊も安価、もしくは無料で動いてくれる可能性は充分にある。
 と、レンナは説明する。



 ――が、しかし。
 アスレイは彼女の提案にかぶりを振って答えた。


2019/12/10(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~187










「ちょっと待ちなさいって、アスレイ!」

 背後から聞こえてきたその声に、アスレイの足がようやく止まる。
 そこはカフェから暫くと進んだ先の小道であった。
 位置からすると、アスレイたちが寝泊まりしている宿とはもう目と鼻の先。という場所だ。
 レンナの呼び声に振り返ったアスレイは、すぐさま両手を合わせ、頭を下げた。

「ごめんレンナ!」
「え…?」

 先ほどまで見せていた怒りの様子から打って変わり、いつも通りのアスレイがそこにあった。
 その豹変とも取れる変わり様にレンナは思わず驚いてしまい、甲高い声を洩らす。

「せっかく領主と話せる機会だったのに、それを台無しにしちゃって…!」

 しかも開口一番に謝罪の言葉。その内容が自分に対してのものなのだから、流石の彼女も呆気を取られてしまった。

「べ、別にそれは大したことじゃないし。っていうか、あんな態度見せられたらマジ幻滅ものだし」

 そう言って首を左右に振るとレンナはアスレイの頭を強引に上げさせる。

「むしろアスレイってば相手は領主様だってのに食って掛かっちゃうんだから…そっちの方がハラハラさせられた」

 だからちゃんと謝ってよ。
 と、言われアスレイは素直にもう一度頭を下げて謝罪する。
 しかし、悪いことをしたと反省している反面、アスレイ自身はあの無礼と言える言動に対し、恥じても悔いてもいなかった。

「――でもおかげでわかったよ。あの人はこの町の人のことを何とも思っていないんだって」


2019/11/27(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~186 今日の気分次回更新は12月10日(火)予定です



 いつになく怒りを表している彼に、レンナは思わず叫ぶ。
 先の彼女の言動は単なる戯言と笑って許してくれた。が、アスレイの的を射た言葉は、流石に笑えはしないだろうと瞬時に悟ったからだ。
 彼女の推察通り、直後、殺気立った気配がアスレイたちに突き刺さる。

「今の失言は聞かなかったことにしよう。が…次からは言葉には気を付けた方が良い」

 これまで見せていた笑顔も忘れ、鋭い眼光でティルダはアスレイを睨みつけた。
 振り返り、それを睨み返すアスレイ。 彼に謝罪する素振りはない。
 むしろアスレイに代わって、侍女ユリが何度も頭を下げ謝っていた。

「すみません…すみません…!」

 ティルダが見せた憤慨は他の女性たちも動揺を隠せず、言葉なく彼から一歩引き下がってしまったほどであった。
 アスレイはその様子を一瞥し、何も言うことなく歩き出す。
 慌ててレンナも彼の後に続き走って行き、二人は領主のいるカフェから立ち去っていった。








2019/11/27(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~185



 レンナのせいで中断してしまった雑談の続きと言ったところだ。
 アスレイはそうした彼らの様子を見る事もなく、さっさと踵を返しカフェテラスを去ろうとする。

「ちょっと、アスレイ…?」

 いつになく無表情な横顔が気になったレンナは、思わずアスレイを呼び止めようとする。
 しかし、彼女の心配そうな声に答えることもせず、アスレイは歩いていく。
 その態度には此処まで案内して来たユリでさえも、動揺を見せるほどだ。
 と、そんなアスレイを突如、ティルダが呼び止めた。

「単なる好奇心なのか記者志望なのかは知らないけれど……これ以上、現象の詮索は止めた方がいいんじゃないかな。でないと…次は君が醜悪な魔女の毒牙にやられることになるよ」

 足を止めるアスレイ。
 彼はティルダを見る事なく、答えた。

「俺は俺が見て信じた友人の為に、出来る限りのことをしているだけです―――上辺でしかものを見ていないのに信じていると語る貴方とは違う…!」
「アスレイ!」


2019/11/26(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~184



 再び椅子へ腰を掛けながら、ティルダはその視線をアスレイから町の情景へと移す。
 故郷愛を語るその穏やかな態度とは裏腹に、張り詰めた空気は一向に消え去らないでいる。
 一心に見つめたままでいるアスレイを横目にティルダは悠長にティーカップの紅茶を啜り、そして告げた。

「だからね、この町から望んでもいないのに消える人たちがいるという現象は――どう考えても不気味で悍ましいあの『黄昏誘う魔女』のせいでしか表せないんだよ」

 これは『事件』ではなく、『現象』。
 そう言いきった彼の言葉がアスレイの耳に張り付いて離れない。
 口元に微笑みを浮かばせているティルダを見つめながら、アスレイは理解した。
 もうこの領主には何を言っても無駄なのだと。
 カズマが独りで奮闘してしまう気持ちがわかったと。




「…わかりました、ありがとうございます」

 アスレイはそう言うと、律儀にティルダへ向けて頭を下げる。
 だがその口振りは先ほど以上に不愛想さを含ませており、機嫌の悪化を表している。
 一方アスレイの言葉を聞いたティルダは、少年の不満足さとは真逆に満足げに笑ってみせた。

「そうかい、君の質問にきちんと答えられたのならば良かったよ」

 それから彼はもう一度優雅な手振りで紅茶を啜る。
 話に区切りがついたと察した取り巻きの女性たちは、そんな彼へ我先にと口を開き始めた。


2019/11/26(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~183




「お礼の品は要らないんで、その代わり…一つだけ質問させてください」
「ふうん。構わないよ、なんだい?」

 手っ取り早くこの場を収束させたいその心情をアスレイの微笑みから察し、ティルダは彼の提案を受け入れる。
 アスレイはその承諾を聞いた直後、吊り上げていた口元を解き、尋ねた。

「領主様は今この町で起きている失踪事件を、本当に魔女のせいだと思っているんですか…?」

 彼の質問に、ティルダもまた笑みを消す。
 が、笑顔を解いた彼は、直ぐに口元へ自身の指先を当てて見せ、困惑顔を作る。

「魔女のせい以外に何があるのかな?」

 その素振りはまるで恍けていると言った様子だ。 
 だがアスレイもそれで引き下がるわけもなく、更に核心へと近付く言葉を投げかける。

「どう考えても、これは賊による失踪事件だと俺は思っているんです」

 口元では微かに笑みを作っているものの目は据わっており、ただじっとティルダはアスレイを見つめている。
 アスレイも負けじと彼を見つめ返し続ける。
 ティルダは暫くの沈黙の後、口を開いた。

「…僕としては、どう考えても今回の連続失踪は事件じゃないと思うんだけどね」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「僕はこの町を信じているからね。この町の仕組みのことも、防衛のことも、働き暮らす人々のことも」


2019/11/26(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~182



 彼はそう言うと席から立ち上がり、ユリ同様にレンナへ頭を下げて見せた。
 予想外の行動にレンナは目を丸くし、同じく取り巻きの女性たちもまた目を白黒させている。

「え、いやその…」

 素直に自分の非を受け入れ謝罪するティルダの姿に、言葉を無くすレンナ。
 動揺する彼女を後目に、彼は頭を上げ、そして告げた。

「これだけでは足りないかな…では、是非とも何か礼をさせてくれないか?」

 何が良いだろうか。アクセサリー、それとも年代もののワインかな。
 レンナが何も言わない事を良い事に、ティルダは次々と話しを進めていく。
 彼女の意見も聞かず、気付けば彼は「指輪が良いよね」と勝手に決めてしまっていた。
 が、彼の独壇場はここで終わることとなる。

「お礼の品はいりませんよ」

 そう言ってアスレイが突如、彼の前へ割り込んだからだ。



 顔色を伺うかのようにレンナを覗き込んでいたティルダの前へ、アスレイは強引に割り込んできた。
 だが、三度目の乱入者に対しても予測が付いていたのか、ティルダに驚く様子は微塵もない。

「ああそうか、君には指輪は不必要そうだからね」

 レンナから顔を引かせ、ティルダはアスレイと真正面から対峙する。
 穏やかな表情のティルダに対し、真顔で見つめ返すアスレイ。
 再度、周囲には不穏な空気が流れる。
 しかし、此処で突如アスレイが破願した。


2019/11/26(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~181



 
「…ふうん」

 しんと静まり返った空気の中、静かに口を開いたのはティルダであった。
 彼は『どういう神経の持ち主なんだ』と感服したくなる位落ち着いた声でそう言うと、視線をメイドに向けて微笑を浮かべる。

「君が謝る必要はないよ、ユリ。君を助けてくれたという方々なら僕は彼らを恩人として迎えなくてはならない。ならば、多少の無礼も非礼も目を瞑ろうじゃないか」

 それは寛大なお言葉。と取るべきなのだろう。
 現に周囲の女性たちは大らかな彼の答えを聞くなり、目をハートに変え、黄色い悲鳴を上げている。
 だが、アスレイは逆に不気味さを募らせていた。



 領主ティルダの言動には、何ら違和感を抱く余地もないといういのに。
 一瞬だけ向けた彼の流し目に、アスレイの直感が訴えているのだ。
 明らかにティルダの雰囲気が変わった、と。




「ありがとうございます」

 そう言ってユリはもう一度、丁寧に腰を曲げ、頭を下げる。
 ティルダはそんな彼女の頭を軽く撫でてから、次に視線をレンナへと向けた。

「確かに君が怒るのも無理はないね。己の侍女が危険に晒されたらしいというのに、僕はこんなところで現を抜かしていたのだから…本当に愚かだった。すまない、それと彼女を助けてくれてありがとう」


2019/11/13(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~180 今日の気分次回更新は26日(火)予定です



 当然売り言葉に買い言葉の如く。女性たちの怒りは急速に沸点へと達し、揃ってレンナを睨み返していた。

「ちょっと何このガキ」
「ティルダ様に構って貰えないからって私たちに奴当たりするんじゃないわよ!」

 喧嘩腰となった両者は、今にも取っ組み合いになり兼ねない険悪な雰囲気となってしまう。
 そんな事態の一部始終を目撃していたアスレイは、何故レンナがあそこまで激怒しているのかと思いつつも、急ぎ渦中へと向かって駆けて行く。
 が、そんなアスレイを後目に、ユリは突如、驚くほど俊敏な動きを見せた。
 音もなくアスレイの前を駆け抜けて行き、彼女はあっという間に領主たちの元へと辿り着く。

「え…早っ…!」




 ユリは憤怒するレンナの前へ立ちふさがるように立つと、主人であるティルダに向けて深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。この方は私めを助けてくださった方でして、是非お礼がしたくお連れしたのです。故に彼女が取った非礼は私めが犯したも同然。何卒ご慈悲を…」

 静かに深く、丁寧に腰を折り曲げているその様子はまさにメイドの鑑といったところだ。
 だが、彼女の登場により、何故かその場の空気が一瞬にして凍り付いた。
 それは彼女が刹那に、無意識に放った凛としながらも冷たい、殺気にも似た気配のせいなのだろうか。
 思わず足を止めてしまい遠目で目撃していたアスレイから見ても、突然言葉を無くしたかのように黙り込む彼女たちの姿が、異様に映ったのだった。