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シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/08/07(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~30 今日の気分次回更新は21日(火)予定です




「あんな話、信じる馬鹿いるかよ普通!」
「あーほんとうけるぅ」
「天才魔槍士の居場所なんか俺たちが知ってるわけねぇだろ、ばぁか」

 腹部を抱えて笑い、大きく口を開き、暴言を吐く。明らかなる挑発的態度。苛立ちを掻き立てるその言動は先ほどの仕返しとばかりにわざと誘っているようにも見えた。
 少年に対しての侮辱だとしても、その目障り耳障りな姿にネールの顔には陰りが生まれる。

「なるほどな…やはり彼には見極める目はなかったという訳か…」

 一人納得したように、その口元は僅かに笑みが零れる。
 男たちの挑発とは裏腹に、至って冷静な態度を見せるネールが気にくわなかったらしく、彼らの目から直後、笑みが消えた。

「んじゃそろそろ良いだろ?」
「俺たちに何されようが」
「後悔すんなよな」

 そう言った次の瞬間、男達は各々が持っていた武器を掲げながら、ネール目掛け駈け出していく。
 人目がないとはいえ、女性一人に男三人が一斉に飛び掛かる姿は最早、醜態以外のなにものでもないと、ネールは呆れたため息を漏らし、そして言った。

「お前たちこそ―――魔道士を相手にした事、後悔しないようにな」









2018/08/07(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~29



 念のためであろうケビンへと釘をさす男達だったが、彼は腕を組んだまま微動だにせず。
 既に何が起ころうとも静観する構えを見せていた。
 むしろ、ケビンが内心心配しているのは男達の方に、であった。

(やり過ぎなければ良いが…)


 そう思う脳裏には、先ほど敗北したあの少年の姿が浮かぶ。
 恐らく、この男達はあの少年以上の怪我を負うことになる。
 ケビンはそう確信していた。

「――最後に一つだけ聞きたい事がある」

 と、男達へ突然ネールは口を開いた。
 直ぐにでも飛び掛かって彼女へ一発お見舞いしたい男達であったが、余裕の表れからか、素直に質問に答える。

「なんだよ」
「…先ほど、少年に『天才魔槍士』の居場所を知っていると言っていた…あれは、実際真実だったのか…?」

 予想外の質問に目を丸くする男達。
 そして同様にケビンも驚きを隠せず、目を見開きネールを見つめる。
 男達はきょとんとした顔を見せ、暫くと沈黙した後。
 大きな声で笑った。

2018/08/07(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~28



 だが、男達の形相に驚きも怯える素振りもなく。ネールは淡々とした口調でそうぼやく。
 ネールもケビンも、彼らが後をつけて襲撃してくるだろうことを予測していたのだ。
 そのため、このような人の来ない通りを選んで歩いていたという訳だった。

「随分と余裕だな…さっきは店の中だったから手を抜いてたけど、今度はそうはいかないぜ?」
「謝るなら、今のうちだが許してやんねーけどな」

 男達三人よりも屈強な体格を持ち合わせているケビンがいるとはいえ、数的には二対三。
 それ故に男達は何処か勝ち誇っている様子で、言葉も先刻よりも強気であった。
 と、ケビンが前へ出ようとするよりも先に、ネールの腕がそれを制止した。

「待て、お前が出る必要はない。これは私の責任だ」

 そう言ってネールは一歩、前へと出て行く。

「だから、ここは私一人で片付ける」

 その言動は武装している男達に対して侮辱とも取れるものであったのだが、ネールを倒せればそれで良い彼らにとっては、最早プライドや手段などは関係なくなっていた。
 むしろ一人で相手をすると言ったネールへ感謝さえしたいほどだった。

「ありがてぇなあ。俺たちの為に一人でボコボコにされてくれんのかぁ」
「おい、後ろの野郎!何があってもされてても絶対に手ェ出すんじゃねぇぞ!」


2018/08/07(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~27



「そういう訳ではない」

 強めの口調でそう言いながら、ケビンに顔を見せない様、歩き出していく。
 そんな言動に再度ケビンは苦笑を浮かべ、ネールの後へと続き歩く。

「とにかく、今後ああいう行動は慎め」
「わかっている。私たちの目的のためにも…目立つ行動は命取りなのだからな」

 カツカツと小気味よい足音を響かせ、路地裏を歩いていく二人。
 その会話は誰かに聞こえるわけでもなく、二人の姿は陰の中へ紛れようとしていた。




 が、しかし。
 人気がないはずの通りの向こう側から足音が聞こえ、二人はその場で止まった。
 二人は敢えて、人の通らないような道を選んで歩いていた。
 通るとなれば猫かネズミか。それとも―――。

「やはり来たか…」

 ネールはそう呟き、静かに吐息を漏らす。
 立ち止まる二人の目の前へ現れたのは、先ほど酒場で出会った、あの三人組の男達だった。

「さっきはよくも小バカにしてくれたな…」
「覚悟は出来てんだろうな?」

 男達の手には、それぞれ武器として持って来たのだろう木の棒や鉄パイプが握られている。
 完全に酔いの醒めた眼差しは、興奮気味に血走っており、見るからにそれらが威嚇や警告用のものではないと報せていた。

「追いかけてくるとは思っていたが、こんなにも早く出て来るとはな」


2018/08/07(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~26



 



 酒場を後にしたその歩調は早く、人気の多い通りから裏路地へ、颯爽というよりは忙しなく移動する。

「おい…ネール!」

 と、後方からそう呼びかけながら追いかけてきたのは長身の男性。
 ネールと呼ばれたそれの連れであった。
 が、名前を呼んでも返事はせず、立ち止まる素振りも見せない。
 仕方なく彼はもう一度、大きな声を出して呼び掛ける。

「ネール!」

 そこでようやくネールは足を止めた。

「あれ程目立つ行動はしないようにしていたというのに…一体どうしたというんだ…?」

 呆れた声を出しながら、駆け寄って来た男性はため息を吐き出す。
 額に手を当てた姿はいかにも頭が痛いと言った様子で。
 ネールは振り返ると男性を見つめ、言った。

「すまない、ケビン」

 そう言ってネールもまた、吐息を漏らす。
 その眉尻を下げている表情を見遣り、男性――ケビンは苦笑を見せた。

「それほど天才魔槍士の名を利用されていたのが嫌だったのか?」

 するとネールは彼に返すよう苦笑を作って見せ、「そうかもしれない」と答える。
 傍らに並ぶケビンから視線を外すと、ネールはポツリと呟いた。

「それに…ああいったもの珍しい人間を見るとつい、放っておけなくてな…」

 独り言のような小さな声であったが、それを耳にしたケビンはフッと笑みを零し、なるほどなと脳内で思う。

「確かにお前はああいった性格の人間には弱いからな」

 からかう様なケビンの口振りにネールの表情は変化し、僅かに眉を顰めさせる。

2018/07/24(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~25 今日の気分次回更新は8月7日(火)予定です




「ぐわっ!!」

 想像通りの結末。
 少年は女性の腕を捕まえようとしたがするりと交わされ、逆に少年の方が掴まえられてしまった。
 その直後。彼の身体は見事に振り上げられ、宙を飛んでいく。
 まるでボールのように投げ飛ばされた少年は、見事というほどの勢いで壁へとぶつかった。

「次からはしっかりと人をよく見て行動することだ」

 崩れるように倒れていく少年に、女性は淡々とそう告げる。
 当人にその台詞が聞こえていたかどうかは定かではない。

「お前はな…少しは手加減って言葉を知ったらどうだ…」

 連れの男は嘆くようにそう漏らす。
 その頭を抱えた表情は、ぐったりと倒れたままの少年への同情も組まれていた。
 と、女性は視線を連れの男からマスターの方へと移す。
 一体何かと内心身構えてしまうマスターであったが、その瞳には先程まで見せていた冷淡さが無くなっている事に彼は気づいた。

「再度迷惑を掛けてすまなかった…それと、先程の金でそこの彼に何か一品作ってやって貰えないだろうか」

 相変わらずの無表情ではあったが、そう告げた彼女からは何処か、暖かみのあるものをマスターは感じ取る。
 解りました。とマスターが返答すると、女性は踵を返し、今度こそとばかりに颯爽と酒場を去っていった。

「あ、おい…!」

 置いていかれた男も慌てて後を追いかけ、二人は酒場を出て行く。
 まるで嵐が過ぎ去ったかのように、酒場内には静寂な空気と騒動の痕跡――壁に寄りかかり座り込んだままの少年だけが残されたのだった。





2018/07/24(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~24



 試すような女性の言葉を聞き、『これは嘘だ』とマスターは率直に思う。
 否、彼だけではない。
 この場にいた誰もがそれは嘘だと確信した。 仮に真実だったとしても、つまりは彼女を倒さなくては情報が手に入らない。
 華奢な見た目にもかかわらず、大の男を軽くあしらったあの力量だ。
 一般的な少年と見受ける彼では、その結果は目に見えているようだった。
 少年は暫し沈黙し彼女をじっと見つめる。
 真っ直ぐに、純粋な双眸を彼女のそれと重ねる。
 と、彼は大きく首を縦に振りながら口を開いた。


「―――うん、わかった。信じた」


 予想外の回答に静観していたマスターは思わず「ああ」と言葉を漏らしてしまった。
 彼の目はどうやら相当な節穴らしい。
 女性でさえも少なからず驚いた様子で、その大きな瞳を更に大きくさせていた。
 しかし、そんな周囲のリアクションを余所に少年は両拳を前方に突き出し構えて見せる。
 そのやる気に満ち溢れた気迫が、戦闘態勢にあることを告げていた。  
 予想外の問いかけに対し予想以上の答えを示した少年に、女性は短くため息を吐き出し、それから改めて少年を見つめた。

「後悔はするなよ」

 その台詞を聞いたと同時に、少年は地を蹴り出す。
 少年の手に武器といった類のものはない。相手の女性も素手であるとはいえ、余りにも直情的な、無謀な突進だと誰もが思った。
 そして次の瞬間には――。

2018/07/24(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~23



 腕組みしながら少年を叱りつけるその姿は母が子にする“それ”と言うよりは、さながら新人に叱咤する上官といったところだった。
 女性の言葉は確かに的を射ており、自身に非がある少年に反論の余地はない。
 しかし、彼は眉を顰めながら食い下がった。

「だけど…どんな人であろうと信じてみたいって思うし、それじゃあダメなのかな?」

 その口振りは彼女の言葉に何故か納得できないと訴えているようで。

「ダメとは言っていない。ただ、信用の置ける相手を見定めなくては駄目だと言っている」

 純粋すぎる少年への苛立ちなのか、彼女の口調は徐々に強いものへと変わっていく。
 賑わいを取り戻しつつある酒場であったが、また人々の視線は少年達へと向けられ始める。
 一方で蚊帳の外となっていた連れの男は額に手を当て、女性へ聞こえるか聞こえないかの声でぼやいた。

「お前の場合は言うことが突然に率直過ぎなんだよ…」

 が、彼の嘆きは女性の耳に届かず。
 少年の方も一向に引き下がろうとはせず、彼は自身の胸に手を当てながら言った。

「さ、さっきはちょっと冷静になってなかっただけで…こう見えても人を見極める目くらいは持っているよ」

 心なしか自信なさげにも聞こえる台詞。
 すると女性は静かに吐息を漏らし、告げた。

「ならば……もしも私を倒すことが出来たなら、君が探している魔槍士の居場所を教える―――と、言ったら君は信じるのか?」


2018/07/24(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~22







 一人の男が「もう行こうぜ」と促し、腕を掴まれていた男は舌打ちを漏らしながらその手を乱暴に振り払う。

「くそっ…」
「覚えてろよ」

 彼らはそう言い残すと女性に危害を加えることなくすり抜けていき、そのまま逃げるようにして酒場を去って行った。
 最後の最後まで女性の意外な言動に驚かされたマスターや客達であったが、これでようやく事態は終わりを迎えたと安堵に胸を撫で下ろした。
 ――が、しかし。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 ひと段落つき、今度こそ店を出ようとしている女性を、慌てて呼び止める声。
 それは今回の事態を生み出した原因である少年だった。
 彼は女性へと歩み寄るなり、言葉を濁らせる。

「…その、えっと…」

 大方、迷惑を掛けたことへの礼を告げようとしているが、照れくささに口ごもっているのだろうとマスターは推測する。
 頬を掻きながら俯く姿勢がそれを裏付けている。
 すると足を止めていた女性が、ゆっくりと彼へ振り返った。
 だが、その表情は穏やかではない。
 先程から見せつけている冷淡な眼差し。それを彼にも向けた。

「君は少し相手を見た方が良い」
「え…?」

 思わぬ一言に少年の動きが止まる。
 彼の動揺にはお構いなしに、女性は冷たいとも取れる言葉を浴びせる。

「夢を抱くも人を信じるも自由な事だ。がしかし、時として一歩身を引き冷静に相手を見極める能力が無ければ、全てが無駄に終わる事もある。先ほどの様な生温い態度が身を亡ぼすということを、君は知った方が良い」


2018/07/10(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~21 今日の気分次回更新は17日(火)予定です




 酒に酔って染まっていた顔を更に紅くさせながら、男の一人が怒りに身を任せ、女性へ殴りかかろうとした。
 掲げられた拳は女性目掛け、繰り出される。
 一瞬の出来事であり、連れの男でさえ「しまった」と言うような顔で反応が遅れたことを後悔していた。
 殴られると、誰もがその瞬間。思わず息を呑んだ。



 ―――だが。
 直後、男の体は半回転し、女性を殴る事も叶わずその場に転がり倒れた。
 ドスンという音と振動が、静まり返っていた酒場に響く。
 気が付いた時には男が仰向けに倒れていた、と言った状態であり、当人でさえも何が起きたのか理解出来ていない様子。
 ただ解ることは、彼女が男を倒したという事実だけ。
 一瞬の出来事に口を開けたまま、呆然としていた男達であったが、直ぐに状況を理解し他の二人が倒れている一人を起き上がらせる。
 再度女性の胸倉へ掴みかかろうとした男だったが、今度はその寸でで、彼女の連れの男によりその手を止められてしまった。
 掴まれた腕が痛むのか表情を歪ませる男へ、微塵も動かなかった女性が静かに口を開く。

「更に恥を晒したいのならば…今度は容赦しない」

 先ほどまでとは違う、僅かに低くされた冷酷な声に、男はぞくりと背筋が凍る感覚を抱いた。
 それから彼らは周囲に目を向け、酔いも醒めきったのだろう、ようやく自分たちのみっともない状況に気付いたようだった。