語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

次は 語り手


過去の日記
2019年03月(10)
2019年02月(10)
2019年01月(8)
全て表示


お気に入り
重複投稿先(小説家になろう)


メニュー
プロフィール


管理者用
パスワード



count

モバイル

交換日記レンタル - nikkijam

2019/04/23(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~114 今日の気分次回更新は5月8日(水)予定です



 アスレイは払われた手を下すと、苦笑にも似た笑みを浮かべてそう告げる。
 依然として視線を合わせないでいるルーテルだが、それでも先ほどより多少は和らいだ顔になっていた。

「だからルーテルはちゃんと明日から仕事に戻るように! いいね?」
「私に指図しないで…」

 不機嫌そうな言葉を吐くが、その声に棘はない。
 顔を背けたまま歩き出すルーテルは、去り際の最後に一言だけ返してくれた。

「……信じてくれて、ありがとう」

 直後、彼女は勢いよく地面を蹴り走り出す。
 その方角は間違いなくカレンたちの待つ仕事場の方で。
 走り去るルーテルの背中を追いかけながら、アスレイは安堵の息を漏らした。

「さて、と」

 彼女の姿が見えなくなると同時に、止めていた足を動かし、アスレイは今度こそ宿へと向かう。
 明日からはもう働く必要はない。
 が、明日からやるべきことは出来た。
 信じた少女のためにも、とアスレイは決意を胸に宿へ帰った。








2019/04/23(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~113



 一見冷血のように見えて、しかしその内面はとても直情的なルーテル。
 カレンは彼女を人一倍プライドが高いと言っていたが、それだけではないのだ。
 彼女は人一倍、仲間思いでもあるのだ。
 目の前のルーテルを見つめながら、アスレイはそう確信した。

「…どうせあんた何かが、こんな話、信じちゃくれないだろうけど…」

 自虐的にそう言って鼻で笑うルーテル。 
 隠すように顔を伏せたままである彼女を見つめながら、アスレイは答えた。

「信じるよ」

 そう言って彼はゆっくりと、ルーテルの傍に歩み寄る。
 そして、震える彼女の頭に、優しく自身の掌を乗せた。

「だって、君は嘘つくために泣くような子じゃないから」

 アスレイの言葉にルーテルは慌てて顔を上げる。
 彼を見上げるその大きな瞳には、薄らと涙が輝いていた。
 ルーテルは急ぎそれを拭い取り、それからアスレイの手を払いのける。

「馬鹿…っ!」

 しかしそこには先ほどのような冷血な様子はまるでない。
 頬を赤くさせる、何処にでもいるような少女の姿があるだけだ。

「王都に行くまでは日数も暇もあるし、俺も色々当たってファリナを探してみるよ」


2019/04/23(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~112




「…何」

 彼女の発した声はいつも以上に単調で低い。
 その言動から察するに、やはりファリナは見つからなかったようだ。

「皆心配していたよ?」
「わかってるって。今、機嫌が悪いの…だから話しかけないで」




 ルーテルはそう言うと再び顔を俯かせる。
 それは、これ以上私に関わるな。と、訴えているようだった。
 しかし、だからこそアスレイとしては彼女を何とかしてあげたい。助けてあげたいと思った。
 一歩も動かず、黙っているアスレイに対し、ルーテルもまた動く気配がない。
 と、俯いたままでいた彼女は突如、小さな呟くような声で喋り始めた。

「…ファリナは確かに、いつか王都で暮らしてみたいって言ってた。だから、カレンさんが言うように一人で王都に出て行ってしまったのかもしれない…」

 街頭に照らされている、彼女の震える拳。
 アスレイは真っ直ぐにルーテルを見つめ続ける。

「だけど……私に黙って居なくなるなんて、信じられないっ!」

 私には絶対、ちゃんと旅立つ前に話してくれるはずだ。
 だからきっと何かあったはずだ。
 何か事件に巻き込まれたんだ。
 彼女は徐々に強い口調となりながら、そう話す。
 更に深く俯くルーテルの、その髪の先さえも、小刻みに震え始めていた。

2019/04/23(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~111




「ああ、もう行くのかい?」

 黙って去ろうとするアスレイの姿に気付き、慌ててカレンが呼び止めた。
 アスレイは振り返り、それから軽く頭を下げる。

「はい、色々とお世話になりました」

 笑顔でそう言うアスレイに、カレンもまた口角を吊り上げて笑う。
 彼女の隣に並んだリヤドが手を振り始めると、他の者たちもまた、大きく左右に手を振り回し始める。

「気をつけてな」
「またな」
「いつでも遊びに来いよ」

 そんな声を背に受け見送られながらアスレイは歩き出し、お世話になった仕事場を後にした。





 辺りはすっかり日も暮れ、魔道製の街頭が通りを照らす時刻となっていた。
 街頭は煌々と街並みを明るく照らしているが、一歩路地裏に入り込めばその先には灯りなどなく、不気味な雰囲気を漂わせている。
 それまでは何も気に止めず歩いていた道のりであったが、多数の人を闇へと誘い呑み込んでいるかもしれないと知った今では、恐怖を感じずにはいられない。
 人の気配さえ感じられない、こんな通りでもしも魔女が本当に突如現れたら、どうしたものか。
 そんなことを考えながら歩いていたそのときだ。



 アスレイが歩く、通りの対面から現れた人影。
 一瞬ドキリと心臓が高鳴ったものの、直ぐに見知った顔だと気付き、それは次第に収まっていく。

「ルーテル」

 人影へ、アスレイは呼びかける。
 と、彼女は足を止め、俯いていた顔を静かに上げた。
 アスレイを見つめるその顔は、出会った当初のような鋭く冷たい眼孔を放っていた。

2019/04/23(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~110










 結局ルーテルはこの日、仕事場に戻って来ることはなく。アスレイの仕事は終わりを迎えた。
 カレンたちには既に前日に話してあり、本来ならばこの後皆でカレンの手料理をご馳走になりつつ盛大なお別れ会を開く予定であった。
 しかし、ルーテルの件もあるため、皆そんな雰囲気ではないだろうとアスレイの方からパーティを断った。

「すまないね。本当ならお別れ会をするつもりだったのに…」

 頭を下げるカレンへ、アスレイは笑みを浮かべながらをかぶりを振る。

「良いんですよ。それにお別れといってもまだしばらくは町に滞在するつもりだし」

 そう言ったアスレイに、もう一度カレンは頭を下げる。
 するとリヤドもまた、申し訳なさそうな顔でカレン同様謝罪の言葉を告げた。

「本当にすみません…僕、この後彼女を探しに行って―――」
「それは止めとけって。夜になろうって時刻なのにガキ一人を町に放り出せねえよ」

 言いかけたリヤドの言葉を、朝方彼に絡んでいた男が遮る。
 眉間に皺を寄せている彼の脳裏では、例の魔女が想像されているのだろう。
 不服そうな少年の一方で、他の作業員たちも止めとけとリヤドを囲い始めた。

「ルーテルは俺らが探しとくから」
「…はい」

 作業員たちは中途半端な気持ちで忠告しているわけではない。
 彼らもまた、ルーテルとリヤドを家族のように思い心配している。だからこその言葉なのだ。
 そんな様子を黙って眺めていたアスレイであったが、そのうち静かに踵を返す。



2019/04/10(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~109 今日の気分次回更新は23日(火)予定です



 正直半信半疑であったが、この実態を目の当たりにしては可能性も捨てきれなくなったとアスレイは考える。

「こうなったら領主様に直談判して、魔女討伐してもらって来いよ」

 と、男は親しげにリヤドの肩を組んで言う。

「って、えええっ!僕がやるんですか?」

 男の言葉に無理無理と素早く首を左右に振るリヤド。

「ほら、そこの三人。早く仕事しな!」

 そんなやり取りがカレンの耳に入ってしまったらしく、彼女は眉間に皺を寄せながら、アスレイたちを怒鳴りつけた。
 普段は温厚である彼女だが、その怒る様は鬼の様だ。というのをアスレイはこの3日間で既に何度も体験している。
 カレンが鬼となり雷が落ちる前にと、三人は慌てて作業へと向かい走り出した。
 その最中、ふとルーテルの去る姿を思い返し、アスレイは人知れず眉を顰める。
 しかし、今はどうすることも出来ないため、仕方なく仕事をこなしていった。









2019/04/10(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~108



 そう言いながら彼女は両手をパンパンと力強く叩く。
 それが合図となり、一同はそれぞれの持ち場へと散っていった。
 と、不安げな顔を浮かべたままのリヤドへ、仕事仲間の男が話しかける。
 リヤドよりも倍以上も年上であろう中年の男は、ひっそりと少年へ耳打ちをした。

「なあ…もしかして、ファリナも噂のアレに浚われたんじゃねえか?」

 “噂のアレ”という単語が耳に入り、アスレイは彼らの方へと視線を向けた。

「でもそれはあくまで噂じゃ…」
「いやいやいや。最近ファリナのようにある日何も告げずに忽然と消える奴が少なくないって話しよ。だから衛兵団もどうしようもなく失踪扱いにするしかないんだとか」

 早く自身の持ち場に付かなくてはいけないのだが、どうにも彼らの話しが気になってしまい思わずアスレイは踵を返す。
 そして、リヤドたちの傍に近寄り、尋ねた。

「噂のアレって…?」
「そりゃあ―――黄昏誘う魔女だよ」

 予想通りの回答にやっぱりかとアスレイは眉を寄せる。
 同時に、先日カズマから受けた忠告が脳裏を過ぎる。


『今この町は魔女に狙われている』





2019/04/10(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~107




「昨日の夜、ルーテルが町中探して回ったらしいけど…何処にもいないみたいで」
「衛兵団に相談したんですか?」

 アスレイの問いにカレンは「勿論したさ」と即答する。
 しかしその曇った顔色を見る限り、衛兵団から良い返答は貰えなかったようだった。

「この町の特性でね…移民が多いために住民とそうでない人たちとの区別が難しいからね」

 このキャンスケットの町は住民や移民以外にも、出稼ぎで来ているだけの者やただの観光客も多くいる。
 そのため、昨日隣にいた人間が明日にはいなくなっている。という話はよくあることなのだそうだ。

「ある程度金を貯めて町を出て行く孤児も少なくはない…だからファリナも―――」
「だからって、何も言わず居なくなるなんて有り得ない!」

 カレンの推測を強引に遮り、ルーテルは怒声を上げる。
 そして、その場から逃げるように突如走り出していく。
 呼び止める皆の声も聞かず、彼女は何処かへと去っていってしまった。
 残された者たちには気まずい空気が漂っていく。
 が、それを打ち消すようにカレンが突然大きなため息を吐き出した。

「しょうがない子だね…とにかく、ルーテルのことは放っておいて、みんなは仕事に戻っとくれ」


2019/04/10(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~106



「それがね…ルーテルの友達が突然居なくなったんだって…」
「居なくなった?」

 するとカレンの双眸はアスレイからルーテルへと移る。
 つられるようにアスレイも彼女を見遣ると、ルーテルは顰めた顔をしたまま黙って俯いていた。

「ルーテルさんの話では一昨日からファリナさんが家に帰っていないみたいでして…」

 ルーテルに代わり事情を説明するリヤド。 
 しかし、彼女の代弁者であるはずのリヤドも、流石に今回は困惑した表情を見せている。

「ファリナって…確か俺よりも1日前から働きに来てたっていうあの子か」

 と、思案顔を浮かべるアスレイにリヤドは「そうです」と目を大きくして答える。





 ファリナというのは、ルーテルの紹介で数日前からここへ働きに来ていた女性だ。
 ルーテルと同じ孤児院出身で同世代ということもあり、彼女にしては珍しく特別気にかけていた人物だった。
 だが、一方のファリナ本人は仕事の苛酷さからか、全く働こうとはしていなかった。
 性格もルーテル以上に寡黙であったため、仕事仲間からも浮いた存在になっていた。
 カレンやリヤドでさえ、彼女とはほとんど会話をしていなかったというのだから相当なのだろう。
 アスレイも記憶に浮かぶ彼女の姿は、いつも倉庫隅で見学者のようにぼう然と立っているだけ。というイメージであった。





2019/04/10(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~105









 それからアスレイは3日間、カレンの職場で仕事をし続けた。
 始めは筋肉痛と戦いながらの作業であったが、3日目になると多少は楽に動けるようになっていた。
 体力が付き、給金も得られ、更に昼夕食はカレンの手料理もご馳走になれた。
 まさに至れり尽くせりで最高の職場と言えた。
 これで人手不足だというのだから不思議な話しだと、アスレイは思ったくらいだった。
 しかし、アスレイの本来の目的は此処で仕事をすることではない。
 旅の資金は十分に貯まった。
 どんなに素晴らしい仕事場とはいえ、これ以上長居は出来ないと思った。
 否、素晴らしい場だからこそ長居は止めようとアスレイは思ったのだ。
 これ以上、カレンたちと一緒に居ては別れが辛くなってしまうと考えたからだ。





 4日目。
 アスレイはこの日を最後の仕事と決め、慣れた足取りで倉庫へとやってきた。
 だが、倉庫前に辿り着いたところで、アスレイはいつもとは違う雰囲気を感じとる。
 恐る恐る倉庫内を覗き込んでみると、そこには皆が作業もしないで人だかりを作っていた。
 その中心にはルーテルの姿がある。

「何かあったんですか?」

 状況が掴めないアスレイは、人集りの方へと歩み寄りながら尋ねた。
 皆の視線を浴びつつ近付くアスレイに、困った表情を浮かべているカレンが答えた。