語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/10/16(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~53 今日の気分次回更新は30日(火)予定です




 苦笑するケビンに対し、両手を腰に当てながら即座に突っ込むアスレイ。

「…成る程な、アイツが気になるのもわかるな…」

 それからケビンは口元を押さえながら、アスレイに聞こえないような小声でポツリと呟いた。
 と、アスレイが不満げな表情を見せたことに気付く。恐らく嫌味か皮肉を言われたと思ったのだろうと解釈し、ケビンは笑みを零した。

「すまない、気を悪くしたなら謝る」

 そう言いながらケビンは席を立ち上がると、そのままカウンターへ向かった。
 懐から食事代である銅貨を取り出し、それをカウンターに置く。
 だが、よく見るとその銅貨は二皿分の金額で支払われていた。

「え、それ…」

 ケビンの後ろで支払いの準備をしていたアスレイは枚数の多さに気づき、彼を見遣る。

「気にするな。これは昼間連れが迷惑を掛けた分だ」
「けど昼間も奢ってもらったみたいだし…」
「昼のはアイツからの奢り、今は俺からの奢りだ。こういうものは勘ぐる必要はない。素直に受けとけ」

 それだけ言うと彼は麻袋を両手に持ち、アスレイを一瞥してから酒場を出て行く。
 一人取り残されたアスレイは暫くぽかんとしていたが、直ぐに慌ててケビンを追いかけ酒場を飛び出した。

「ありがとうケビン!」

 夜中だと言うのにケビンどころか周辺一体にまで聞こえるような、そんな大きな声を出しながら。







2018/10/16(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~52




 思わず声を大にして聞き返してしまったほどに驚愕するアスレイ。
 ケビンは驚き過ぎというくらいに驚く彼を苦笑交じりに見つめながら、丁寧に答える。

「借りた部屋の都合で丁度一人分のベッドが空いているんだ。折角だから誰か寝てくれた方が助かる」

 無論強制ではないし、嫌ならば断ってくれても構わない。そうケビンは付け足す。
 威圧感を与えがちなその双眸だが、今は何処かアスレイを試している様にも見えた。
 アスレイはそんな彼の瞳を少しだけ眺めた後、大きく頷いて言った。

「いや、願ってもない話だよ。ケビンの言葉に甘えて、お世話なります」

 そう言ってしっかりと頭を下げる。

「…もしかすると君を騙すつもりかもしれないんだぞ。ちゃんと見極めたのか?」

 ケビンの表情が何処か意地悪めいた笑みへと変わったことで、内心やっぱりかと確信しつつ。
 アスレイは曇り一つない眼差しで、ケビンを見つめた。

「ケビンは騙すようなことはしない人だよ。それに、俺を本当に騙すつもりならこの時点で疑わせるような事を言うはずがない。だろ?」

 推察された彼の台詞にケビンは瞳を僅かに大きくさせる。
 確かにアスレイのような信じやすい人間を騙すならば、わざわざ動揺させる言葉を投げかける必要はない。

「意外と賢いようだな」
「意外と、は余計だろ」


2018/10/16(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~51




「いや、アイツ――ネールとはただの旅仲間と言ったところだ」

 アスレイはそうなんだと、片手を顎下に添えながら吐息を漏らす。
 その流れで「どうして二人は旅をしているのか」と尋ねようとしたが、それよりも先に今度はケビンの方が尋ねてきた。


「アスレイは何故こんな時間まで町中を歩いていたんだ。情報収集という風にも見えなかったが…?」

 彼の質問にアスレイは途端、照れ隠しの笑みを浮かべ、それまでに起こった経緯をケビンへ話す。
 王都に向かう馬車は満車で明日、別の地から王都へ行く事にしたこと。そのためクレスタで一泊する事になったわけだが、何処の宿も満室であったこと。結果泊まる場所がないため、酒場で閉店時間まで過ごそうとしたことをアスレイはかいつまんで説明した。
 本来ならケビンにそこまで説明する必要もないのだが、余りの不運な境遇を誰かに愚痴りたくなったことと、ケビンの気さくさについ話してしまっていた。



 話を終えた頃には二人とも食事も終えており、テーブルには空の皿が二枚重なっていた。
 ケビンはグラスの水を一口飲み込むと、アスレイへ視線を向け、口を開いた。

「宿がないのなら俺たちの泊まっている部屋に来ないか?」

 その意外な提案にアスレイはきょとんとした顔でケビンを見つめる。

「え?」


2018/10/16(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~50



 商店街通りから数分ほど歩いた先にあった酒場。そこにアスレイは案内された。
 この酒場は、昼間は食堂として営業しているらしく、店内は簡素で落ち着きのある雰囲気を醸し出している。
 ちなみにこの店の人気メニューは塩レモンと旬野菜のチキンピラフとのことで、昼夜問わず必ず注文されるメニューらしい。
 アスレイもそのピラフを頼み、丁度運ばれてきたところだった。

「いただきます」

 持ったスプーンでピラフを口にかき込み、確かに人気メニューと言われているだけあると納得に口元を緩める。
 と、向かい合わせの席でアスレイと同じメニューを堪能していた男が静かに口を開いた。

「ところで君は…」
「あ、俺はアスレイ・ブロードって言います」

 男は「そうか」と呟いてから自己紹介をする。

「俺はケビン・ウォードだ。それと会話はタメ口で構わない」

 そう言うとケビンは自身の掌を差し出す。
 アスレイはそれを一瞥した後、控えめながら自分の手を差し出し、二人は握手を交わした。
 
「…ちなみに一つだけ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「ケビンって、彼女とどういう関係かなって…?」

 握手が解かれて早々、抱いていた疑問を単刀直入にぶつける。
 外見的に兄妹といった親族関係でないことは明らかで、しかし恋人や夫婦といった雰囲気のようにもアスレイには見えなかった。
 するとケビンは一瞬目を見開いていたが、直ぐに苦笑に変えて答えた。


2018/10/02(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~49 今日の気分次回更新は16日(火)予定です



 それから苦笑を浮かべ、指先で頬を掻き続けて話す。

「…それに、信じて手合いを申し込んだ俺に対して彼女はちゃんと戦ってくれたわけなんだから、むしろありがたい……です」

 これで戦ってくれなかったら逆に不満だった。と、白い歯を見せアスレイは笑って見せる。
 釣られるように男も微笑み、それから軽く首を傾げた。

「ところで、どうして君はこんな所に――」

 男は『何故未だこの町にいるのか』、もしくは『夜なのに町中をふらついているのか』といった疑問を投げかけたかったのだが、それは途中で遮られてしまう。
 アスレイの腹の虫のせいだった。



 羞恥心に顔を赤くし、ごまかしに笑うアスレイ。
 と、男は苦笑しながら突然、何処かへと向かって歩き始めた。
 アスレイを通り過ぎ、それから振り返り口を開く。

「近くに飯の旨い酒場があるんだ。案内するぞ」

 その意外な言葉に目を瞬かせるアスレイ。

「もしかして昼間の酒場ってことは…」
「安心しろ、違う店だ。しかもその店よりも旨いときた」

 そう言って笑う男を見つめ、アスレイも笑顔を返し、軽く頭を下げた。

「はい、是非案内お願いします」
「よし、ついてこい」

 こうして二人は近くにあった酒場へと場所を移すことにした。







2018/10/02(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~48




「それじゃどこに行こうかな」

 昼間訪ねた酒場に戻る手もあったが、再度あのマスターと顔を合わせるのは気まずいからと除外する。
 とりあえず別の酒場へ行ってみようとアスレイはおもむろに歩き出した。
 そのときだった。





「先程の少年じゃないか」

 突然聞こえてきた声にアスレイは思わず足を止める。
 慌てたように振り返り、声がした方向を見遣ると、そこには両手に麻袋を抱えた男の姿。
 金の短髪に三白眼。逞しい体つきにマントを羽織った、アスレイよりも年上らしき男。

「え、えっと…?」

 互いの視線が合い、相手の顔をじっと見つめたものの、アスレイは彼に見覚えがなかった。
 すると男はそれを察したのか、苦笑混じりに口を開いた。
 
「昼間酒場で会っただろ。まあ君には連れの――女の方が印象に残っているかもしれないがな」

 という男の言葉でようやくアスレイは思い出し、目を見開く。
 確かに彼とは昼間酒場で出会っていたのだ。

「あの女性の連れ!」

 蘇った記憶による驚きのせいか、自然と声が大きくなる。
 男はアスレイを見つめながらもう一度苦笑を漏らした。

「昼間は色々とすまなかったな」

 そう言って軽く頭を下げる男。
 慌ててアスレイは首を左右に振る。

「いやいや、お兄さんは何も悪くないんだし、謝る必要はないって……そもそもあれは俺が発端なわけなんだし」


2018/10/02(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~47




「取り乱してしまい、すみません…とにかく、魔女には充分お気をつけ下さい。お客様」

 必死な声で彼女はそう言って、もう一度深く腰を折り曲げる。
 アスレイは「わかった」とだけ返し、今度こそ宿を後にした。

「黄昏誘う魔女、か…今日の運勢を考えると、天才魔槍士に会うより先に遭遇しそうで嫌だなあ…」

 宿を出てから、アスレイはそんなことを不意にポツリと呟いた。







 宿屋を出た後、アスレイは商店街通りを宛てもなく歩いていた。
 気付けば既に日は落ちており、店のいくつかには『閉店しました』の看板が掛けられている。
 しかし未だ開いている店からは暖かな風と共に食欲をかき立てる匂いが流れており、何度も鼻先を擽っていく。
 と、アスレイの腹の虫がぐるぐると鳴いた。

「なんか腹が減ったな…」

 そう言えば夕食はまだだったと、アスレイは弱々しく腹部を摩る。

「…こうなりゃ居座り作戦でもするかな」

 彼の言う『居座り作戦』とは、単純に閉店時間まで酒場に居座り続けて野宿を免れようという作戦だ。
 酒場は他の店よりも閉店時間が遅いため、深夜まで営業しているだろうという独自の推測であった。
 ちなみに彼の予想は当たっており、クレスタでは大体の酒場が深夜まで営業している。
 実は、その中には王都生誕祭による影響で宿泊出来なかった客のために、緊急処置として明け方まで開けている店もあったのだが。アスレイは残念ながらそこまでは知らなかった。

2018/10/02(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~46



 



 黄昏誘う魔女。
 十年程前から大陸の南地方を中心に有名となっていた神隠しの通り名だ。
 行方不明となった者は数知れず。その全てが若い男性ばかりであったという。
 数少ない生還者が『金色に光る目をみた』、『金色の輝きを放った女だった』と口を揃えて証言したことと、誘われた者は黄昏の向こう――宵闇へと連れて行かれ、二度と戻ってこないという比喩からその通り名が付けられたという。
 しかし、近年では偶然重なった家出騒動に尾ひれが付いた単なる逸話だと言われている。
 アスレイも子供の頃に『悪さすると黄昏誘う魔女に連れて行かれるぞ』と、妹たちへ言い聞かせるため持ち出したことがあったが、実在している存在とは全く思っていなかった。




「それって単なる逸話なんじゃ…」

 からかわれているのだと思い苦笑を浮かべたアスレイであったが、一方で受付嬢の顔色は青白く、真剣な表情を見せている。

「逸話ではありません。ここ最近キャンスケット領内では行方不明者が増えているんです!」

 私の知り合いも一月前にキャンスケットの町へ出稼ぎに行ったきり、連絡もなく帰って来ないのです。
 と、そう話す受付嬢の瞳には涙が溢れ、零れ落ちる。
 彼女の様子からして、どうやら嘘や冗談で言っているわけではないと信じたアスレイは、困った顔で頬を掻く。
 すると戸惑っているアスレイに気づいた受付嬢は、慌てて目許を拭い、深々と一礼をした。

2018/09/18(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~45 今日の気分次回更新は10月2日(火)予定です




「仕方ない。諦めるしかないか…」

 深いため息を吐き出し、落胆しながらアスレイは宿を出ようとする。
 と、踵を返したところで受付嬢が突然声を出した。

「あ、あの…」

 控えめに呼び止める声を耳にし、アスレイは足を止める。
 振り返って彼女の方へ視線を向けると、口元に指先を添えながら、言いにくそうに彼女は言った。

「もし、もしも…野宿するのでしたらお気をつけ下さい」
「えっと、何に…?」

 予想外の忠告に思わずアスレイは聞き返してしまう。
 町の外ならば夜盗や獣に気をつけろという忠告も頷ける。
 が、アスレイは町中で野宿する予定でいた。
 まさか町中で野宿したら捕まる、という条例でもあるのだろうかと一瞬不安が過る。
 しかし彼女が告げた言葉は彼の予想とは違った。

「――黄昏誘う魔女、です」

 その言葉を聞き、アスレイは目を見開いた。
 アスレイもその名前には聞き覚えがあった。





2018/09/18(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~44



 既に何度も説明しているが、ここは流通の町クレスタ。
 遠方から足を運ぶ商人や観光客も多く、そのためこの町には宿屋やホテルがいくつも存在している。
 安価で休憩が出来る集合仮眠所と言う施設もある程で、とにかく泊まることに関しては先ず困らない、と言われていた。
 ―――が、しかし。





「な、ないっ!?」

 またしても素っ頓狂な声を上げることとなったアスレイ。 
 彼はあれから場所を変え、今はとある宿屋のフロントにいた。
 目の前に立つ受付嬢の残念そうな顔と共に、予想通りの答えが返って来る。

「申し訳ありませんが現在全ての部屋が満室でして…」
「な、なんで…?」
「その、間もなく行われる王都生誕祭の準備に数多くの商人様が、現在この町で寝泊まりしておりまして…そのためで――」

 受付嬢の言葉に頭を押さえることしか出来ないアスレイ。
 彼が項垂れるのも無理はない。
 既にこの宿で十件目のことであり、その全てとも満室としてお断りされてしまっていたのだ。
 どの受付も口を揃えて言うのが『生誕祭のため満室』と、『昼に来てくだされば空いていた』の二つ。
 そもそも、そんな事情など微塵も知らなかったアスレイは、ようやく己の無知さを悔い、嘆いた。

「はぁ……本当、今日は厄日かも」

 アスレイの持ち合わせで宿泊できそうな施設は他にもう無く、野宿は確定となってしまった。