語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/06/05(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~128 今日の気分次回更新は26日(水)予定です



 カズマはしばらく無言でいたが、暫くの沈黙の後、しかめた顔のまま深いため息を漏らした。

「見かけによらず賢いようだな」
「見かけは余計ですよ」

 不機嫌そうにアスレイは眉間に皺を寄せる。
 そんな彼を見遣り苦笑を見せるカズマは突如、吹っ切れたような表情を見せ、それから静かに語り始めた。

「…手っ取り早く皆に警戒心を与えるため口にはしていたが、俺自身、魔女の存在を一切信じてない」
「やっぱり…」
「魔女と言う偽りの衣で逃げ隠れしている犯人に、これ以上の人攫いは絶対にさせない…だからこそ、俺はこうして見回りをしている」

 無意識にカズマの指先は、携えている剣の柄を握り締める。
 アスレイはそれを見逃さない。

「…こんな話をしたのはお前が初めてだ。これも何かの縁、お前が鍵になるという女神の助言なんだろう…わかった、同行を許可しよう」
「本当ですか!」
「ただし、無茶なことは決してしないと約束してくれるならばな」

 アスレイは得られた許可に表情を明るくさせ、大きく頷く。
 と、カズマは腕組みしながら「それと」と付け足す。
 その言葉にアスレイは思わず強ばる。が、次の瞬間、カズマは笑みを零して言った。

「敬語はなしだ。タメ口で話せ、良いな?」
「あ……うん、喜んで!」

 意外な付け足しに呆気を取られたが、アスレイは直ぐに破顔一笑する。
 それから二人は同じタイミングで自身の手を差し出し、堅く握手を交わした。








2019/06/05(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~127



 カズマはそう言って握手の為、自身の手をアスレイの前へと出そうとしている。
 しかし、ふとあることを思いついたアスレイは、其れを交わす前に尋ねた。

「でも一つだけ条件があります」
「条件?」

 カズマの手が止まる。

「俺も見回りに同行させてください」


 その言葉にカズマは即答で「駄目だ」と否定する。
 先ほど見せていた笑みが嘘のように消え、しかめた表情に変わる。

「魔女に襲われる危険性があるんだぞ」

 だがアスレイは直ぐに引き下がらない。
 彼にはある確信があった。

「でも――カズマさんはこれが魔女の仕業だとは思っていないんでしょ?」

 その言葉の直後、カズマは目を大きく見開かせる。

「本当に魔女のせいだと思っているならこうして夜一人で見回りなんてしない。それに、魔女退治って言うよりは人間の犯罪者を退治してやろうって感じに見えたんで」




 魔女という不可思議な存在を相手に、一人で巡回しているというカズマ。
 一見無謀な行為だと思うが、それは裏を返せば『自分ならば相手を退けられる』という自信の表れのようにも見えた。
 しかし彼の性格は自信過剰とも無鉄砲とも思えない。
 となれば、カズマは魔女の存在を否定している。だからこそ、人間相手ならば一人でも犯人を退けられると確信して、こうして巡回をしていると考えられた。



 ―――と、そこまで推測出来ていたわけではないが、アスレイはカズマの言動に何となく矛盾を感じ、そう思っていたのだ。

2019/06/05(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~126










 スレーズ領はアウストラ大国南部の山脈部に位置しており、その大部分は未開拓の地となっている。
 酪農と畜産が主に有名であるが、基本的には自給自足の生活を送る者が殆どである。
 地方によっては未だ、物々交換でやり取りをしている場所もあるという。
 それ故に、他の領からは田舎と呼ばれることの多い領地であった。


「俺はエダムの村なんですがカズマさんは?」
「俺はイセの方だ」
「あ、じゃあ近いですね!」

 思わぬ同郷者との出会いに二人はいつの間にか足を止めてしまっており、故郷の話に花を咲かせていた。
 先ほどまで寡黙であったカズマも、懐かしげな顔で思い出を語っていた。
 何でも、彼は故郷に歳の離れた妹がいるらしく、今でも手紙のやり取りをしているのだという。

「まさかこんな所でスレーズ出身者に出会えるとは思わなかったな」
「俺もですよ」

 しばらく話に耽っていた二人であったが、そんなこんなでようやく宿前へとたどり着いた。
 が、久しぶりにした故郷話が名残惜しいのか、カズマは直ぐに立ち去ろうとはしない。
 会ってまだ二回目であるものの、通常のカズマとは違う一面をアスレイは目撃している気分であった。

「おかげでスレーズの風景を思い出した…お前さえ良ければ、また話をしないか?」

 意外な言葉にアスレイは内心驚いたが、二つ返事で快諾する。

「町に滞在している間ならいつでも喜んで」
「そうか、ありがとう」


2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~125 今日の気分次回更新は6月5日(水)予定です



「“今は一人の弱い力だとしても、やがてそれは大きな強い力を生み出せる”。つまり、今は独りの見回りだが、いつかそれが他の衛兵たちの心を動かし、皆で町を守ろうとする時が来る。俺はその日が来るようにやり続けていたいんだ」

 彼が言った例え。それは大陸南部の山間地域でよく使われる諺であった。
 他の地域では滅多に使われない台詞のため、一般的には多くの者が困惑した様子で首を傾げてしまうところだ。
 が、アスレイは違った。

「え…カズマさんてもしかしてスレーズの生まれ?」

 アスレイの言葉を聞いた途端、カズマはアスレイを見遣る。 
 その顔はまさかと驚いているようであった。

「今の諺はそんなに有名なものではなかったんだが…」

 すると今度はアスレイが何処か誇らしげな顔をして答えた。

「俺もスレーズの生まれなんですよ」

 それを聞いた途端、カズマの足が止まった。

「そうなのか」

 喜びの含まれる声。アスレイも同様に喜びで思わず顔が綻んだ。








2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~124



その事実を領主ティルダに突きつけたが、彼は失踪者の捜索に乗り出さなかった。
 それどころか、彼もまたこう言ったのだと言う。
『これは紛れもない黄昏誘う魔女のせいなんだ』と。

「…奴は変わった。昔こそ領主らしくなろうと躍起になって町の一人一人へ親身になって接していたのに、今では町の外観ばかりを気にして――」

 そう言い掛けて、カズマは我に返ったように突然口を閉ざす。
 しばらくとまた沈黙が続いたが、後に彼は「少し喋りすぎた」とだけ小さく呟いた。
 アスレイはカズマを見遣り、再度尋ねた。

「カズマさんがこうやって見回りをしているのって、もしかして…被害者をこれ以上出さないためですか?」

 アスレイと視線を交えることはなく、カズマは「そうだ」と答える。
 二人の歩く速度は、次第にゆっくりと遅くなっていく。

「衛兵団が動かない以上、こうして一人で監視し歩き続けるしかない」
「一人じゃ危険ですよ」

 しかし即答でカズマは「大丈夫だ」と告げる。
 その目は自信に満ち溢れており、絶対に襲われないと確信しているようにも見えた。

「俺の生まれ故郷にこんな言葉がある」

 と、突然そう切り出したカズマは、何処か得意げな顔をして言った。



2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~123




「カズマさんはどうして夜の町を歩いてたんですか…移動中って感じには見えなかったんですが…?」

 不意にアスレイは尋ねた。
 夜道を淡々と歩きながら、カズマは答える。

「見回りだ」

 内心、やっぱりとアスレイは思う。
 確証はなかったがおそらくはと、そんな予感がしていたのだ。
 二人の足音が聞こえる中、静かにカズマは話を始めた。

「…以前にも話していたが、俺も知り合いだった奴がある日突然行方知れずになった」

 その言葉は今なら信じられると、アスレイは頷く。

「魔女のことは前々から噂話にはなっていた。俺も始めこそは昔話だと馬鹿にしていたが、知り合いが消えてからようやくそれが昔の話ではないと実感した」

 カズマは相変わらず冷淡な態度で端的に話しているようであった。
 が、その拳が僅かに震えていたのを、アスレイは偶然見つけた。

「領主様にそのことを訴えなかったんですか?」
「当然訴えた。俺が知っている中で3人が消えていた。後で知ったが他にも似たようにある日突然消えた奴が20人近くいるということがわかった」


2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~122




「お前の方こそその身なりでよく『夜道は危ない』などと言えたものだな」

 そう話すカズマの腰には護身用の剣が携えられている。
 一方でアスレイは何ら武装のない平凡な姿。
 どちらが無防備であるかは一目瞭然であった。
 そこでようやく自分の危うさに気付いたアスレイは、返す言葉もなく苦笑を浮かべ、頬を掻くことしか出来なかった。
 そんな彼につられたようで、カズマもまた苦笑を見せるとそれからアスレイへ言った。

「仕方ない、俺が宿まで送ってやろう」








 カズマの好意を受けアスレイは、彼に宿へと送ってもらうことになった。
 宿までの道のりはそれほど遠いわけではなかったが、静寂に包まれている街並みの中を二人きりで歩くというのは若干の気まずさを感じた。
 ましてやカズマはしかめた顔のまま、口を開く様子がない。
 しかし、このままでは流石に息苦しいと感じたアスレイは、とりあえず頭に浮かんだことを話すことにした。

「カズマさんが忠告していた意味がわかりました…知り合いになった女の子の友人が行方不明になったんです」

 直後、カズマの表情が僅かに変わる。
 眉間に寄っていた皺が更に寄せられ、同時に鋭い気迫を放つ。
 ただ、そんな研ぎ澄まされた双眸をしているというのに、その横顔からは何故か哀愁のようなものをアスレイは感じた。



2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~121




「あ…」

 宿への帰路でアスレイは偶然人影を見かけた。
 ようやく見かけた人の姿だっただけに、思わず驚いたような声を出してしまった。
 下り坂突き当りの十字路に現れた人影は、アスレイに気付く様子もなく直ぐ横切ってしまう。
 特別気にする程のことでもなかったのだが、その人物は一人で歩いていた。
 今のこの町で夜の一人歩きは危険だと思っていたアスレイは、自分も同等であることも忘れ、その人へ忠告すべく後を追いかけた。
 急いで駆けただけあり、アスレイは直ぐにその者へと追いついた。
 その人は通りから更に危険だろう薄暗い路地裏へ入ろうとしていたところだった。

「夜道の一人歩きは危ないですよ!」

 と、呼びかけてから気付いたが、その者はアスレイよりも背の高い男性であった。
 更には逞しい体つきに、見覚えのある茶色の短髪。

「…誰に言ってるんだ」

 あきれた声で振り向く男性の顔を見て、アスレイは目を見開いた。

「あっ…カズマ…さん!」

 男の姿から蘇る記憶。
 間違いない、彼は数日前に出会った傭兵のカズマであった。
 ティルダに雇われている身である彼と、まさかこんな所で出会うとはとアスレイは驚きを隠せなかった。

「お前は確か…数日前に馬車にいた…」
「アスレイ・ブロードです」

 カズマもまたアスレイのことを思い出したらしく、アスレイを見つめながら「ああ」と息を漏らす。
 それから直ぐにその息は嘆息へと変わった。


2019/05/22(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~120






 その後もアスレイは屋敷前でティルダが帰ってくるのを待っていた。
 が、結局彼と出会うことは出来なかった。
 レンナの話では、おそらく今日は別邸に泊まったのだろうとのことだった。
 ティルダは町内や領地内のあちらこちらに別邸を設けている。
 という話は、レンナが何処からか仕入れた情報だ。
 やむを得ずアスレイは、この日は宿へと引き返すことにした。



 辺りは暗くなり、街灯が灯り始めていく。
 日が沈むと同時に町からは人の気配がパタリと無くなってしまう。
 例の噂のせいもあるのだろうが、大人はまだ楽しめる時間だというのにこの静寂さは異常とも思えた。
 そこには衛兵団の衛兵たちさえいないのだ。
 この町に来た当初は落ち着きのある平和な町だと思っていたアスレイであったが、今では町全体が何かに怯え侵食されていると錯覚してしまうほどだ。
 勿論、町の人々全てがそうというわけではないのだが。







2019/05/08(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~119 今日の気分次回更新は22日(水)予定です




「ティルダ様ってばかなりの多忙みたいでさ。朝から夜まで屋敷にはほぼ居ないみたいだし。移動中も最低一人ずつメイドと用心棒を付けてるし…隙がないんだもん」

 彼女の言葉から脳裏に過ぎるのは、先日ティルダと初めて出会った時のこと。
 確かに彼はその傍らにメイドと傭兵を連れていた。
 名前はユリとカズマだったよな、とアスレイは思い返す。

「おかげで二人きりになれる時間なんて全然ないんだから。あたしが知りたいくらいよ…!」

 ぶつぶつと独り言のように文句を言うレンナ。
 足先でドンドンと地面を叩く様は、少女とは思えない気迫を漂わせている。
 何か一言返すべきかと口を開けたアスレイだったが、それよりも先にレンナが喋り出す。
 彼女は握り拳を頭上へ高々と掲げた。

「でもそれも今だけよ。ティルダ様の行動範囲を毎日調べて…近いうち二人きりになれる時間を絶対手に入れるんだから!」

 まるで彼女の背中から炎でも出ているのではと思うような叫びと闘志。
 門番をしている傭兵たちに聞かれていたらどうするんだと一抹の不安を抱きつつ、アスレイはレンナの肩を叩いた。

「…本当、尊敬するよ」

 そう言ってから、彼は浅いため息を吐き出した。