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シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/10/16(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~170 今日の気分次回更新は29日(火)予定です




「やる気かよ…!」
「道案内するとか嘘つきやがってぇ!」

 そんな彼らへアスレイは額を掻き、呆れたため息を吐きながら答えた。

「嘘をついて先に襲ってきたのはそっちなのによく言うよ。そもそも―――最初っから俺はアンタたちのことを信じてないから」

 アスレイの脳裏に過る、あの日の光景。
 ネールに軽々と吹き飛ばされ逃げ出していた三人組の男たちと、今目の前にいる彼らの顔は全く持って同じであったのだ。

「というよりも…この間あんなに派手にやられてたばっかりなのに…よく懲りないよね」

 吐息交じりにアスレイは言う。
 彼の言葉を聞き、男たちもアスレイ同様の記憶が蘇ったらしく、紅い顔を更に赤く染めていく。

「て、テメェ何でそれを…!」
「クソオォォッ!」

 すると男たちは雄叫びを上げるなり、二人がかりでアスレイへと飛び掛かってきた。
 だが、ただでさえ酔いが回っているというのに、怒りに身を任せた彼らの動きは、誰が見ても判りやすいものであった。
 突き出した拳は次々と交わされ、逆に男たちはアスレイに軽々と投げ飛ばされてしまう。
 いつしかのデジャヴの如く呆気なく負けてしまった彼らは、またしても安直な捨て台詞を吐きながら逃げて行く末路を辿ったのだった。








2019/10/16(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~169



 レンナはそうぼやきながら頭を抱える。
 するとその直後、一人の男がアスレイ目掛けて拳を突き出してきた。
 しかし地図を広げたことでアスレイの視点では彼の拳は死角となっており、気付いている様子はなかった。

「言わんこっちゃないっ!」

 瞬時に男の動きを察したレンナはそう嘆きつつも助けに入ろうとする。
 が、次の瞬間。
 殴りかかろうとした男は何故か足を縺れさせ、派手に転んでしまったのだ。
 一方のアスレイは、背後に居たユリごと寸でで避けたため無傷であった。
 何が起こったのかと一瞬驚く男たち。
 しかし遠目で目撃していたレンナには、彼の起こした一瞬の動きが見えていた。

「あの体勢から足払い…?」

 あの刹那、アスレイは後ろに居るユリを庇いつつ、不意打ちのように素早く差し出した足で男を払い退けたのだ。
 驚く仲間とは裏腹に、転ばされた当人は即座に起き上がると怒りの形相でアスレイへ飛び掛かろうとした。

「テメェ!」

 アスレイは持っていた地図を投げ捨てると、駆けてくる男の動きを一心に見つめる。
 そして突き出した拳を瞬時に見極め、それをひらりと交わす。
 と、同時にその腕を掴んだ。
 自身の体を素早く反転させ、掴んでいる腕を軸に男の勢いに被せて、彼を放り投げた。



 綺麗な一本背負い。
 男の体は宙を回転し、地べたへと落とされる。
 背中を強打した男は直後、「うぐっ」という呻き声を上げた。
 軽々と倒された仲間を見て酔いも醒めたのか、残りの二人も臨戦態勢となり、自身の拳を構え始める。

2019/10/16(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~168



 その証拠に、彼女は顔を伏せたままずっと硬直している様子で。随分としつこく絡まれ続けていたように見えた。
 アスレイは居ても立っても居られず、レンナを押しのけ四人のもとへと駆け寄っていく。






「こんな場所で女性を囲んで何やっているんだ」

 そう言ってアスレイは男たちと侍女ユリの間へ強引に割って入った。
 突然現れた助け舟にユリは驚き、目を見開いて彼を見つめる。
 そんな彼女を庇うように自身の後背へ匿いながら、アスレイは男たちに立ちふさがる。
 一方で男たちは当然の如く、睨むようなきつい目線を邪魔者であるアスレイへと浴びせた。

「俺たちはただ道に迷ったから通りがかったその子に聞いてただけだ」
「邪魔すんじゃねぇよ」
「お呼びじゃないんだよ」

 絡みつくようにアスレイへ顔を寄せる男たち。
 彼らから酒の匂いが漂ってくる。
 定まっていない焦点に真っ赤な顔色といった具合から見ても、彼らが酔っ払いであることは明確。
 ため息を一つ吐き、アスレイは言った。

「わかった。道に迷ったって言うなら代わりに俺が目的地に案内するから。丁度地図も持ってるんだ」

 そう言ってポケットから取り出した地図を広げて見せ、呑気にも彼らの目的地を尋ねる。



 と、そんな様子を傍から見ていたレンナは彼の言動に呆れ、眉を顰めた。

「ったく、何やってんのよ。どう見てもそんなの口実に決まってんじゃん」


2019/10/16(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~167









 建物と建物の隙間、抜け道とも言えるその通りを歩いていくアスレイとレンナ。
 日光さえ射し込まないその日陰道は確かに人気もなく、人を浚うにはうってつけの場所と言えた。

「こんな通りがあるなんて気付かなかったな」
「近道っちゃあ近道だけど…あんま好き好んで通りたいって道じゃないね」

 この道を推した当人であるレンナが思わずそう言ってしまうほど、そこは独特の陰湿な空気を漂わせていた。
 と、突然レンナが足を止める。
 その後ろを歩いていたアスレイはそれに気付かず、彼女の背中へとぶつかってしまった。

「おわっ。何かあった?」

 彼女の顔を覗き込むようにして尋ねるアスレイ。
 しかしレンナの視線はアスレイにではなく、前方へと向けられている。

「あんなんまで居るんだから、ホント最悪の道じゃん」

 アスレイはレンナの見つめる視線の先へと目を移す。
 するとそこには三人の男と一人の女性の姿があった。



 それは典型的な、困った様子の女性を取り囲んでいる男たちといった図式で。更にアスレイが驚いたのは、その人物が顔見知りであったということだった。

「あれってキャンスケット領主のメイドの…ユリさん…?」
「ティルダ様の侍女が何でこんな場所に…?」

 以前出会った時同様の――如何にもメイドといった風貌である彼女は、人通りの多い場所だったならば、直ぐ様衛兵に助けて貰えていたことだろう。
 しかし人通りの全くないこの場所では、いくら領主のメイドであろうとも、悲鳴を上げていたとしても、誰も気づけやしない。

2019/10/01(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~166 今日の気分次回更新は16日(水)予定です



 アスレイより頭二つ分も小さく体つきも華奢な彼女は、どう見ても“か弱い女の子”にしか見えない。
 意外だといった様子で驚きを隠せないアスレイを見やり、レンナは一瞬だけ思案顔を見せた後、腰に携えていたナイフを取り出した。
 それをクルクルと手慣れた手つきで回転させてみせながら、彼女は言う。

「こう見えてアンタよりも長く旅してるんだもの。賊でも獣でも楽勝なのよ」

 と、レンナのウインクに合わせるかのように、僅かな光を浴びてナイフにはめ込まれているトパーズが輝く。
 よく見るとそのナイフは以前彼女と初めて出会ったときに見せて貰った魔道具だった。
 グラスの水を土へと変貌させた現象を思い出し、そういえばとアスレイは理解する。

「そっか、レンナは魔道士なんだもんな」
「ま、そういうこと。か弱いなんて扱いされる必要ないってことよ」

 そう言ってレンナはアスレイを残し、さっさと裏通りを歩き出していく。
 もしや機嫌を損ねさせてしまったかと一瞬肝を冷やしたが、足取りからしてそうではないようなので一安心する。



 彼女を追いかけるべくアスレイも歩き出しながら、ふと思う。
 使い方さえ学べば幼子でも使えるという魔道具。
 そしてそれを扱えば女性でも大の男を軽く吹き飛ばす事が出来るのだ。

「…凄いよな。やっぱ俺も魔道士になろうかな」

 思わずぽつりと、そんな言葉をアスレイは洩らした。








2019/10/01(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~165



 そう話すアスレイを、今度はきょとんとした顔で見つめるレンナ。
 不思議そうに目を丸くしている彼女の視線を察し、アスレイは思わず首を傾げた。

「俺、何か可笑しなこと言ったかな」
「いや、そうじゃないけど…アンタもしかしてあたしのこと心配してくれてんの?」
「当たり前だろ。か弱い女の子に危なそうな道を先には行かせられないよ」

 彼女が呆気に取られていた理由を知ったアスレイは、当然といった態度を見せて答える。
 と、その直後。
 通りがかる人が思わず立ち止まってしまうほどの大声を上げてレンナは笑い出した。
 まさか大笑いされるとは流石に想像していなかったアスレイは、怒りを通り越して驚きの眼差しで彼女を見つめた。

「え、そこ笑うところ…?」
「だって、だって…そんなこと言われるなんて、思わなくって…アンタってホント面白いよね!」

 “面白い”という予想外の表現に、彼女の笑い声に負けないくらいの素っ頓狂な声を思わず上げてしまうアスレイ。
 目を見開き、恥ずかしさからか無意識に頬に熱がこもっていく。

「面白いって…どうしてそうなるんだよ」

 腹部を押さえながら声を押し殺して暫く笑い続けていたレンナだったが、ようやく落ち着きを取り戻すと、彼女は顔を静かに上げ、目に浮かぶ涙を指先で拭いながら答えた。

「ごめんごめん…か弱い女の子なんて暫く言われた事なかったから、もう可笑しくて…」
「そうなの?」


2019/10/01(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~164



 そこで二人はとりあえず、この二つの道に的を絞り、証拠探しをすることとした。



 先ず二人はアスレイが見つけた大通りのみ経由する道のりを歩いてみる。
 やはり町の大通りというだけのことはあり、人の通りは多く、朝から日中にかけては人の行き交いが止むことはないほど。
 夜は夜とてカズマが見回りを毎日している道のりであったため、人攫いが出来るような道ではないと推測された。
 そのため、今度はレンナが見つけた道のりを歩いてみるべく移動する。






 ファリナが住んでいたアパートの、表通りに面した玄関を出て直ぐ横。そこに例の裏通りはあった。
 だが、そこは通りと呼ぶにはあまりにせまい裏路地だった。
 大人4人並んで歩けるか程度の幅で、街灯は一つもなく。まだ昼下がりだというのに奥の奥まで真っ暗といった具合だ。
 近道だと言われても、そこを通るにはそれなりの度胸が必要と思われた。

「まさに裏道って感じ。でもここなら浚われた可能性はありありって感じするし、証拠の一つや二つ落ちてそうじゃない?」

 そう言ってレンナはその通路へ入っていこうとする。
 が、直ぐにアスレイはそんな彼女を引き止めた。
 腕を引っ張られ、強引に足を止めることとなった彼女は不機嫌そうに口先を尖らせながらアスレイを睨む。

「何よ急に」
「一人で突っ走ったら危ないだろ? 俺が先行するから、レンナは後ろから離れずに歩いて――」


2019/10/01(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~163




「それで行方不明にならないんだったらどの段階で行方不明になるんだって話だよ」

 そんな不満を漏らしながらアスレイは次に自身の仕事場でもあったカレンの仕分け所の倉庫を指さす。
 地図上で見る限り、仕事場からアパートまでの道順は大通りを経由していくとコの字で繋がり、距離はそれなりにあるようだった。

「ルーテルと別れたその日の夜、彼女はこの道の間で浚われたってことか…」

 アスレイが一人納得していると、突如隣にいたレンナが地図を覗き込みながら否定する。

「っていうか、どう考えてもこっちの道の方が早く着くんじゃない?」

 彼女が指さす順路は地図上ではほぼ一直線のもので、確かにこれならアスレイの選んだ道のりよりも時間短縮が出来る。
 が、アスレイは直ぐに同調しない。

「でもこれって裏道だろ? 最近独り暮らしを始めたばかりの女の子がこんな道を通るなんて危なすぎるんじゃないか?」

 レンナが指し示した道は大通りや表通りではなく、所謂裏通りと呼ばれるような細い道通りであった。
 夜に女性一人で通ろうと思うような道ではないだろうとアスレイは力説する。
 しかしレンナも一向に譲らない。

「女の子だとしても、遠回りする表通りじゃなくって近道になる一直線の裏通りを行こうって思うんじゃないの?」

 しかも自宅から作業場までは一本道。だからこそ、覚えやすくて通ってしまうはずだ。
 そうレンナに詰め寄られては確かにと、否定も出来なくなってしまうアスレイ。

2019/10/01(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~162










 アスレイたちは近くの雑貨屋に行くとこの町の地図を購入し、早速それを広げてみた。

「こうして見るとやっぱり結構複雑だな…」

 キャンスケットの地図はとても精確に作られており、つい一月ほど前に作り替えられたばかりだという。
 町の造りは大通り数本を軸にいくつもの裏通りが網目状に交錯しているといった具合だ。
 領主の屋敷から町の玄関口までには高低差もあり、この町の複雑さをアスレイは初めて知る。

「ちょっと密集し過ぎ感はあるけど…大抵どこの町もこんなもんでしょ。っていうか、町中見回りしてるのに知らなかったの?」
「昼と夜じゃ見え方が違うからわかりにくいんだよなぁ…」

 僅かに眉を顰めそう言うとアスレイは地図上の一点を指さす。
 そこは居住区の一角といった場所だ。

「ここが行方不明になったっていう仕事仲間の友達が住んでる場所なんだ」
「何でそれをアスレイが知ってんの?」
「住所を聞いてきたんだよ」

 ちなみにルーテルは既にファリナの家へ、行方不明になってから何度か足を運んだのだという。
 しかし彼女の住んでいたアパートは家具もそのまま手付かず状態であり、他に人が来ていた形跡もないということだった。
 本来ならその時点で衛兵たちは不穏を抱くべきなのだが、あいにくこの町においてはその段階は『夜逃げ』という可能性で処理されてしまう。
 そのため、行方不明とは断定できないという話であった。

2019/09/18(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~161 今日の気分次回更新は10月2日(水)予定です



 そのときだ。

「―――もう、わかった」

 諦めの声を上げたのはレンナの方だった。
 まさかの返答に驚いたアスレイは、顔を上げるなり目を丸くさせる。

「その代わり、あたしの目的達成にも力貸して貰うからね!」

 と、強い口調でレンナは告げる。
 彼女の目的とはおそらく領主ティルダに関することだろうと推測しつつ、アスレイは快諾した。

「わかった。ありがとうレンナ!」

 大きく頷いてそう言うとアスレイは満面の笑みを浮かべた。
 するとレンナは彼から視線を反らし、大きな咳払いをする。

「…それで、どうやって証拠を探すっての? まさか犯人の根城でも探して突入する気?」

 アスレイは即座にかぶりを振る。

「いや、行方不明になった人が浚われただろう現場を見つけ出して、そこから証拠を探し出してみようと思うんだ」

 自信たっぷりな口振りで言うアスレイであるが、つまりは全く持って見当はついていない。雲を掴むような話だった。

「…あー、なるほど…」

 当然というべき感情のないレンナの反応。

「そ、そんな呆れることないだろ?」
「別に呆れてないって。ま、それで良いんじゃないの?」

 放任されたような言葉に何処か不安を抱き、アスレイの口角が痙攣する。
 が、そんな彼に構わずレンナは歩き出し始める。
 アスレイは慌てて彼女の後を追いかけた。

「もうアスレイのやりたいようにやってよ。後悔のないように、ね」

 歩きながら、アスレイとは顔を合わせずに、彼女はそう言った。