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シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~149 今日の気分次回更新は21日(水)予定です



 確かによく見るとそのコンパクトミラーには『七色湖』の名にちなみ、よく咲く季節の花々七種が描かれてある。
 ちなみに、アスレイの故郷であるエダム村から七色湖はほど近い距離にあった。

「七色湖には季節の花が旬になる度、遊びに行ってたっけ」

 そう言うとアスレイは遠くへと視線を移し、七色湖へ遊びに行った日の光景を脳裏に蘇らせる。
 それは幼少のアスレイがいて、妹たちや幼馴染みと共に弁当を持って遊びに行ったという記憶だった。
 湖周辺に咲く花の採取は禁止となっていたのだが、それを知らずにもいでしまい大人に怒られたという光景から、その代わりにと花を模した髪飾りを土産物屋で皆にプレゼントしたという光景まで。
 まるで昨日のことのようにアスレイの中で鮮明に蘇っていく。
 痛い思い出でもあるが、勿論楽しかった記憶でもあり、その懐かしさからアスレイの口許は自然と緩んでいく。

「俺の住んでた村からじゃ七色湖は一日がかりだったからな…お前の村の近さが羨ましいな」
「そうかな? でも確かに七色湖は何度行っても最高の光景だと思うよ」

 それから二人は七色湖の話題を語り合い、更にそこから妹に対する自慢や愚痴へと変化していった。
 二人はそんな会話をしながら、この日の『見回り』と言う名の『雑談』は終わりを迎えたのだった。








2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~148



 アスレイはそう言って苦笑を零す。
 本当に自慢できるのは敷地の広さだけ、というくらい何もない村。それをどう話したら良いのやらと思考を張り巡らせていた。
 そのときだ。突然カズマが懐からある物を取り出して見せた。
 見るとそれは紅い円形状のもので、色鮮やかな模様の描かれた――。

「手鏡?」

 コンパクトミラーであった。




 しかもそれはどうみても女性が使うものであるのだが、カズマは迷い無く頷き肯定する。
 無骨な彼には不似合いのもの故に、その意外性に返す言葉が浮かばない。
 と、そんなアスレイを見遣りカズマは大きな声で笑った。

「勘違いするな、これは妹のだ」
「妹さんの?」

 それならば納得ができると理解する反面、更なる謎が生まれ頭に疑問符を浮かべる。

「故郷にいる妹さんのをどうしてカズマが…?」
「これは故郷を旅立つ際に、自分の代わりだと言って持たされたものだ」

 そっと丁寧に開けられた蓋の奥にはこれまた丁寧に手入れが施されている鏡面が現れ、夜空に浮かぶ月光によって美しく輝いていた。

「本当は俺が昔、七色湖へ観光に行った際買ってやった土産ものだったんだがな」
「七色湖の!?」

 アスレイが驚きの声を上げた『七色湖(ななしょくこ)』とは、スレーズ領でも数少ない観光名所となっている湖のことであった。
 三日月型の大きな湖で、その周辺では毎月、色取り取りの季節の花が咲き乱れており、その色鮮やかな光景はまさに空に浮かぶ虹の如しと称えられるほど。
 それ故、湖には『七色湖』という名前がついていた。

2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~147




「俺にとってこの町は第2のふるさとであり、俺とティルダを成長させてくれた感謝するべき場所でもあるんだ。だからこそ…俺はこの町のこの幸せを失いたくないんだ」

 アスレイから見えたカズマの横顔は、傭兵としてというよりは一人の男として憂いでいるようで、彼の熱心な思いがひしひしと伝わってきた。
 必死で熱い、純粋な想い。しかし彼の強い熱意とは裏腹に、事件は一向に解決の糸口さえ見えないでいる。アスレイは自然と表情を曇らせ、俯いてしまう。
 すると彼のそんな表情を見て察したのか、カズマは優しく肩に触れた。

「お前まで暗い顔するな。それに…俺がこうして見回りをしている限り、何かが起こることはないんだからな」

 白い歯を見せるその顔はまたしても自信に満ち溢れており、不思議とアスレイもカズマの言葉を信じてしまう。

「そっか…信じるよ、カズマの言葉」

 そう言ってからふと、先刻ネールに言われた言葉を思い出す。
『君は強い』。
 その言葉だけはどうにも信じられず、アスレイは自虐的な笑みを浮かべずにはいられない。

(どう考えても俺よりカズマの方が断然強いと思うな)

 そう思いながら彼の横顔を見つめていると、突如カズマは何か閃いたような顔をしてアスレイへと視線を向けた。

「そう言えば、お前の故郷はエダムと言っていたな。今日はエダム村の話をしてくれないか?」
「…と言っても、カズマのとこと同じで何にもない村だけど…?」


2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~146




「だがスレーズを出て直ぐに己の未熟さを痛感した。それについてはお前もよく判るだろうが…」
「あー…うん。村を出て早々に色々勉強させられたよ」

 何度も頷きながら、アスレイは思わず苦笑を零す。
 自身の愚行を思い出してのこともあるのだが、カズマのような人も自分と同じ経験をしていたのかと、可笑しくも喜ばしく思えてつい笑ってしまったのだった。
 とても厳格に見える彼が、とても身近に感じられた。




「田舎者ながらがむしゃらに旅を続けた矢先、たどり着いたのがここキャンスケットだった」

 カズマがたどり着いた頃のキャンスケットは、居心地の良い町とはお世辞にも言えなかったという。
 大した観光地があるわけでもなく、名産品にしても大抵は流通の町クレスタへと流れてしまう。
 故にキャンスケットは『領主が住むだけの土地』として廃れる一方だったという。

「今よりも荒んでいた町を誰よりも憂いでいたのが…領主になったばかりのティルダだった」

 領主として初心者のティルダと田舎出の傭兵カズマ。
 未熟者という境遇の2人はこの町で偶然に出会い、そして自然と意気投合していった。

「社会を何も知らない俺を雇い、更には親友だと言ってアイツは接してくれた。だから俺も誠心誠意アイツをサポートしようと誓い、そうし続けた」

 互いに互いの不足分を補うように、頭を使い、足を使い、そうして二人は今のキャンスケットを作り上げた。

2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~145



 カズマはそれだけ呟くと口を閉ざしてしまい、暫くの沈黙が流れ静寂とした空気に包まれる。
 周囲は暗がりに包まれており、点々と街灯の明かりが続いている。
 と、不意にアスレイはカズマへ尋ねた。

「そういえば、どうしてカズマはこの町に来たんだ?」

 彼はたった一人でこのキャンスケットを守ろうと動いている。その原動力は一体何なのか。ただ純粋にアスレイはそれが気になった。
 しかしカズマには意外な質問だったのだろう。
 彼は目を丸くさせてアスレイを見つめた。
 が、すぐに破顔させると「大したことじゃないさ」と答えたのだった。



「昨日も言ったが…俺はスレーズ領の片田舎で、牧場主の両親や妹と暮らしていた。が、暮らしは楽な訳じゃなく少しでも家計の足しになればと出稼ぎに出ることにした」
「…俺も似たような家族構成だからわかるよ」

 スレーズ領は大半が未開拓地であるが故に、他の領より劣っている点が多々ある。
 更に自給自足では家計が成り立たず、貧しい暮らしをしている者も少なくはない。
 そのためスレーズ領の男手は他の領地へ出稼ぎに行くことが一般的となっていた。
 『スレーズの女は男より逞しく育つ』と揶揄された言葉があるが、それはこのことから来ていると言われている。

2019/08/07(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~144










 まさかネールとこんな風に会話出来る日が来るとは。ましてや自分が『強い』と言われるなんて、と、彼女との距離が多少縮まった事をアスレイは素直に喜んだ。
 しかし反面、彼女の告げた推測を考えてしまうと、なんともやるせない複雑な気持ちが何時までも拭えない。



 ネールとの会話を終えてアスレイは宿へと戻ると、何をするわけでもなく、ただ呆然と時間を潰した。
 そしてカズマと約束していた見回りの時刻が来るなり、彼は開口一番そのことを話した。
 するとカズマは苦笑を浮かべながら「鋭い女だな」と呟いた。

「やっぱりそうなんだ…」

 自然と肩を落とすアスレイに対し、カズマは気に病むなと返す。

「全ての者がそう思っているわけではない。ただ、そんな風に思っている輩も中にはいる、ということだ」

 仲間を疑いたくないからこそ魔女を信じる者。
 本当に魔女の仕業だと信じている者。
 そもそも失踪者がいるという事実自体、信じていない者。
 大体がこの三者に分けられるのだという。
 中にはカズマのように山賊を疑う者もいるだろうがそれはあくまで少数派であり、故に未だ具体的な手が施されてはいないのだ。

「この町は恐らくこのまま、何も変わらないのかもしれない…」
「だけどそれが根本的に間違っているから…そう思っているからカズマはこうして一人で見回りをしているんだよね?」
「…まあな」


2019/07/31(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~143 今日の気分次回更新は8月7日(水)予定です




「それに―――皆、君の様に強くはない」
「俺が…強い?」

 突然言われた予想外の言葉にアスレイは驚き、目を大きく開かせる。
 目の前の少女にさえ勝てない。
 町を歩けば知らぬ間に騙されてしまっている。
 そんな自分が果たして強いのか?
 アスレイがそう首を傾げるのも無理はない。

「ああ、君は強い」
「記憶を辿っても弱さしか見せてないけど…」
「いつか判る日が来るだろう……まあ、私と勝負で勝てた日が来たら、それについても教えても良い」

 ネールはそう言って、歩き出していく。
 何処か笑みの様な横顔を見せ、横切っていくネール。
 多少迷ってから、彼女の後を追いかけたアスレイは、しばらくしてポツリと呟いた。

「…勝負って腕比べ以外じゃダメ…?」








2019/07/31(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~142




「誰かを疑う位ならば、魔女という不確定の存在を信じた方が楽。という考えに皆は至ったのだろう」
「そんなの……ただ現実を考えるのが怖くなって逃げたのと何も変わらないのに…」
「しかしそう思った者が実際にいるからこそ、魔女の噂は今も広まっている」

 言い返す言葉もない。
 カズマの言っていた“信じたい理由”というのがまさかこんなことだったのかと、複雑な気持ちでアスレイは心が締め付けられていく。

「黄昏誘う魔女の名が浮上したのも、彼女が似たような事件で名の挙がった存在だからこそだろう。その方が信憑性も上がるからな」

 そう言ってネールは立ち尽くしているアスレイを見やる。

「疑うは容易いが信じることはそう簡単ではない。一度疑ってしまうと何もかもが信じられなくなる。だからこそ彼らは魔女と言う言葉を信じた…というよりは魔女を疑うようにしたのだろう」
「だけど…」
「それは単なる逃げにも見えるだろうが、それもまた彼らなりの決断ということだ」

 アスレイは静かにネールの方へと視線を向ける。
 相も変らぬ無表情で、冷たいと思える視線を向けていたが、いつもとは違いその双眸に何処か優しさのようなものを抱いてしまう。
 夕焼けの光のせいなのだろうかと、アスレイはふとそう思う。
 それからおもむろに視線を逸らし、呟くようにネールは告げる。

2019/07/31(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~141




「失踪事件の犯人を山賊説で疑うということは、この町の人々を疑わなくてはならないということになる。しかも容疑の対象者は町の住民ほぼ全てとなるだろう」

 それは新参者然り、古参の者でさえ、町に流れ着いた者たちにとってみれば疑うべき対象に違いはない。
 そもそも町に山賊が潜伏しているという可能性が有ること自体大問題であり、これを対処するには相当な労力と町の根底を覆すような改革が必要になる。
 それこそ『流民を町に受け入れない』という程の改革が。

「まさか、そんな…」


 そんな言葉しか、アスレイには出てこなかった。
 すっかり止まってしまった足先をただただ見つめている彼へ、ネールは言葉を続ける。
 彼女の胸元では、半月を象ったペンダントのモチーフがキラリと揺れ動く。

「流れ着いた者たちにとって、この町はようやく辿り着いた憩いの場だろう。同じような境遇の者も多く、共感し合う事も出来るだろうからな」
「けど、事件のせいで町の人々は同じ町の仲間を疑わなくちゃならなくなる」
「ああ―――だがそこで住民たちは有る噂を耳にする」
「それが『黄昏誘う魔女』…」

 ネールは静かに頷く。
 より一層と空は色濃く、黄色く朱く染まっていく。

2019/07/31(水) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~140



 何か言い返そうとし口を開いたが、アスレイは何の言葉も浮かばなかった。
 この町に潜んでいる山賊は何処の誰であるか。そう尋ねられて即答出来るはずがない。
 何故ならそれは、この町のほとんどの人間が怪しむべき容疑者となってしまうからだ。
 と、そこでアスレイはあることに気付き、足を止めた。



「気付いたか」

 その言葉を聞く限り、ネールは既にこの結論にたどり着いていたのかと察する。
 言葉が出ない彼に代わって、ネールは告げた。

「潜伏中の山賊だと思われる人物―――つまり人攫いの容疑者は、この町のほとんどの人々に当てはまってしまうということになる」

 何度も言うように、ここは流民の多い町だ。
 ある日ある時突然と町に住み着いた者が“山賊ではない”という保証は存在しない。
 斡旋所では登録書と言うものこそ存在するが、適当な嘘を並べれば山賊だとばれないし、町に住むだけならば登録する義務さえもない。
 そもそも潜伏している山賊――容疑者の数もいかほどなのかも、定かではないのだ。
 そうなれば何もかもが怪しく見えてしまい、隣人さえも疑うべき相手となってしまう。





「つまりはそういうことだ」

 ネールが言った。
 ゆったりと日が暮れ始めた空は、徐々に淡い黄昏色へと染まっていく。
 煉瓦調の街並みに差し込んでいる光に照らされながら、ネールはアスレイを見つめる。