語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/12/11(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~72 今日の気分次回更新は25日(火)予定です




 促されティルダたちはレンナの隣へと腰掛ける。

「ありがとう」
「どう致しまして!」

 先ほどまでとはまるで違う猫撫で声を出すレンナ。その顔には満面の笑み。
 と、新たな乗客が席に座ったところで、馬車はゆっくりと進み出した。



 レンナによって席を奪われたアスレイは、仕方なく空いている他の席へと移動する。

「女性ってやっぱり、ああいう男性が好きなものなのかな…?」

 独り言としてぼやいたつもりだったのだが、隣にいたネールに聞こえてしまっていたらしく。
 彼女はアスレイに視線を向け答えた。

「それが女の子、というものなのだろう」

 その言葉は、昨夜アスレイが言った台詞に対する皮肉が含まれており、彼は閉口するしか出来なかった。
 その後、馬車が町に到着するまでの間。
 車中では終始レンナの甲高い声と領主の歯の浮くような台詞の雑談が繰り広げられ続けた。








2018/12/11(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~71




「領主?」
「そう。若くしてこのキャンスケット領を治める領主様。その容姿端麗に併せて穏和で器量良しの才色兼備!」

 人徳もあり、それゆえに領外からも人気が高いという。
 レンナは観光がてらそのイケメン領主を一目見ようと遙々やってきた。というのが、先程アスレイが上の空であったときにしていた話しだったらしい。



 と、そんな会話をしているうちに領主たちが馬車内へと乗り込んできた。
 華やかな香水の香りが車内に広がっていく。

「ご迷惑おかけしてすみません。そしてありがとうございます」

 爽やかな笑顔を浮かべながら煌びやかな衣装の男性が告げる。
 軽く頭を下げると、彼は続けて口を開いた。

「申し遅れました。僕はキャンスケット領領主、ティルダ・キャンスケットと言います」

 既にレンナから聞かされていた情報であったため、自己紹介をされても申し訳ないことにアスレイの反応は薄く。ネールとケビンも似たような反応を見せている。
 唯一、レンナだけが黄色い声を上げていた。

「それと彼女はメイドのユリ。そして彼は僕の用心棒をしているカズマ・カムラン」

 ティルダはそれから自分の両脇に立つ二人の紹介をする。
 丁寧に手のひらを向ける彼に合わせ、二人は深々とお辞儀をした。
 紹介が終わると、待っていましたとばかりに動き出したのはレンナであった。
 彼女は隣にいたアスレイを強引に突き飛ばすと、自分の隣へ来るように声をかける。

「ここへどうぞ、ティルダ様!」


2018/12/11(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~70




「あれってもしかして…」

 彼女は窓ガラスに顔を押し付けながら必死に男性を目で追う。

「知り合いか?」
「知らない…けど、ひょっとして…」

 尋ねるアスレイに彼女は明確な返答をしない。
 と、何か見つけたらしく、またもや声を大にして言う。

「やっぱり!」

 その声に驚きながらも、彼女の見つめる方向にアスレイも視線を向けた。



 林道の奥から出てきたのは、先程の男性。その後ろには若い男女の姿。
 ウェーブがかった金髪を一つに束ねた青年と、黒髪を三つ編みに結っている女性。
 先程の茶髪の男性とは違い、その二人は如何にも貴族とメイドといった容姿をしていた。
 馬車へと近付いてくる三人を眺めながら、レンナは歓喜の声を上げた。

「目的の人物にまさかこんな場所で出会えるなんて!」
「だから誰なんだよ」



 一人喜ぶレンナへ、突っ込む様に尋ねるアスレイ。
 するとレンナは呆れた顔を浮かべ、それからわざとらしく深いため息を吐いた。

「やっぱり…さっきの話、聞いてなかったんでしょ」

 予想外の返答に「え」と返すことしかできないアスレイ。
 彼女はもう一度ため息を漏らすと仕方なく説明を始めた。

「あの人はキャンスケット領、領主のティルダ・キャンスケット様よ」

 領主という言葉にアスレイは反応を示す。

2018/12/11(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~69










 馬車はキャンスケットへと進んでいた。
 このまま順調に進めば、昼前には町へ到着出来る予定だった。
 ――が、しかし。



 キャンスケットは目前、という道中。
 一本道の林道を進んでいた馬車は、突如静かに足を止めた。
 そこに休憩所があるわけでもなく。乗客――といってもアスレイたち4人のみであるが――たちはどうしたのかと窓の外を見遣る。

「どうしたんですか?」

 うたた寝状態だったアスレイも開いていた口元を拭いながら御者へ尋ねる。
 前方に設置されている窓の方を覗き込むと、馬車の前には一人の男性が立っていた。
 二十代から三十代と思われる男性だ。
 軽装とはいえ鉄の胸当てや肩当て。腰には剣が携えられている。
 ケビン同様の傭兵スタイルであるが、たくましいその体つきはケビン以上と思われた。
 止まった馬車に近づく彼は、すまないと頭を下げて見せる。

「我等の乗っていた馬車が故障してしまってな…なので、同乗させて頂けるとありがたい」

 突然の申し出に困惑気味でいた御者であったが、車内にはまだ客を乗せられる余裕もあり、金なら出すとの言葉に乗車を許可した。

「ありがとう」

 そう言ってもう一度頭を深く下げた男性は何故か直ぐには乗車せず、林の奥へと駆け出していってしまう。
 一体どうしたのかとアスレイが首を傾げていると、その隣で窓を覗き込んでいたレンナが声を上げた。

2018/11/27(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~68 今日の気分次回更新は12月11日(火)予定です



 レンナの視線も自然とネールの胸元へと向けられる。
 次いで自分の胸元に視線を移し、思わず顔をしかめた。

(別にあたし負けたわけじゃないし、そもそも胸が総てなわけじゃないし…!)

 そう思い、再びアスレイを睨む様に見つめ、その頬を引っ張った。

「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「いだだっ!」

 突然の痛みに我に返ったアスレイは、慌てて視線をレンナへと戻し「聞いていた」と即答する。
 が、実際はほとんど聞いてなどいなかった。
 そのことを悟ったレンナは白い目で彼を見つめる。

「あーあ、あたしもああいう風だったら無視されないのかなあ…」

 そうわざとらしくネールの方を一瞥しながら、皮肉を込めるレンナ。
 彼女にとってそれは外見的な意味で言ったものであったのだが、アスレイにとっては違う意味で聞こえていた。

(ああいうって…性格がってことか?)

 それまでアスレイはネールの性格に対して考えていたため、勘違いをしてしまった。
 レンナの顔を見つめたアスレイは、彼女の肩を掴み、そして力強い口調で言った。

「多分レンナには合わないから止めといた方が良いって」

 当然その台詞は胸元に対してのものだと、レンナも勘違いしていたわけで。
 急速に顔を赤くさせた彼女は、声を大にして言い返した。

「大きなお世話よっ!」







2018/11/27(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~67



 が、しかし。アスレイは何故だか彼女に好感を持てなかった。
 初対面での印象が悪かったせいという理由もあるのだろうが、どちらかといえば嫌悪というよりは苦手意識の意味合いが強い。
 そもそも根本的に、彼女には愛嬌――性格面での乙女らしさといったものを感じられない。
 そのクール過ぎる性格のせいか、アスレイは彼女を厳格な父のようだと恐れ始めていた。

(うーん…妹たちや村の女性たちとはどうにも全く違う雰囲気なんだよな。勇ましいっていうか冷静っていか、そういう性格のせいだからなのかなぁ…)

 よくよく考えれば取るに足らないことであったものの、ついアスレイは首を傾げ、本気で悩み込んでいた。



 一方でアスレイへ話し続けていたレンナは、彼が上の空であることに気づき、会話を止める。

「…で、領主の中でも1、2を争うくらい―――って……」

 彼の視線の先を追いかけ、そこにいたのが例の女性だと知り、レンナは唇を尖らせる。

(何々、あたしの会話よりあの子の方が気になるっての?)

 と、レンナはアスレイの視線が向いてしまう原因は、彼女の胸元にあるのだろうと思った。
 男は皆、豊満な曲線に弱いものだと確信していたからだ。

(これだから坊やは…そりゃ確かにあたしよりは、あるみたいだけど…)


2018/11/27(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~66




「あ、そっか。そういや王都行きって今めちゃくちゃ混んでるんだったっけ?」

 と、会話に割り込んできたレンナは思い出したような顔を浮かべ、アスレイにごめんと謝罪する。

「生誕祭とか興味なかったからその辺すっかり忘れてた」

 そう言ってまたごめんと告げる彼女であるが、その態度は軽く謝罪の気はまるでない。
 アスレイも特別気にしているわけではなかったため、気に留めることなくレンナへ笑みを返した。

「いいって。それよりレンナはどうしてキャンスケットに?」
「観光。何もないって言われてるけど静かで良いとこだって言うし、それにどうしても行ってみたい理由があるんだよねぇ」

 レンナは楽しげな顔を浮かべ、それからその理由についてを語り始める。
 途中までは彼女の話をしっかりと聞いていたアスレイ。
 だが、不意に前方へと視線が向いてしまい、気付けば意識はそちらへと――ネールへと移っていた。




(…こうして見ると、美人なんだけどなぁ)

 心の中でそんな事を思いながら、アスレイはネールを見つめる。
 窓向こうの景色を眺めるその横顔はさながら一枚の絵画のようで。
 可愛い、というよりは綺麗という言葉が似合うほどの容姿端麗な顔立ち。
 更には昨日酒場で見せた度胸の良さ。彼女自体も悪い人間ではなく、それは既にアスレイ自身経験済みだ。
 全てを兼ね備えているかのような彼女を、嫌う男はなかなかいないだろう。

2018/11/27(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~65



 





「…で、なんでケビンたちがこの馬車に乗っているんだよ」

 まさかの再会に驚愕したアスレイであったが、なんとか落ち着きを取り戻したところで、彼は二人へと尋ねた。
 とは言え、彼の視線はケビンだけを捉えており、隣のネールには一瞥したのみ。
 彼女に尋ねると正論に棘を付けて返してくると思われたため、アスレイは無意識に敬遠していた。

「ちょっとした私用といったところだ。そもそも行く宛てのある旅ではないからな」
「そ、そうなんだ」

 予想通り丁寧な説明で返答してくれたケビン。
 しかしアスレイはてっきりネールが答えてくるだろうと思っていたため、思わず拍子抜けしてしまう。
 当の彼女はというと、自分には関係ないとばかりに視線を窓の向こうへと向け、景色を眺めていた。

「別の地を経由して王都を目指すとは聞いていたが…その経由地がまさかキャンスケットだったとはな」

 ケビンの言葉を聞き、アスレイは記憶を辿ってみたが、確かにキャンスケットに行くとは言っていなかった。
 もし言っていたならばケビンのことだ、馬車まで同行しようという話になり、宿に置き去りにはしないはず。こんなに慌てて乗車することもなかったことだろう。

2018/11/13(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~64 今日の気分次回更新は27日(火)予定です



 そう返されるのは当然の流れで。
 アスレイはようやく呼吸が落ち着いたところで、昨日の一連の流れについてを彼女に説明しようとした。
 と、その時。

「―――まさか君がキャンスケットに行くつもりだったとはな…」

 直後、アスレイの動きが止まる。
 動きだけではない。あれだけ乱れていた呼吸や心音さえもその瞬間、間違いなく停止したとアスレイは感じた。
 それほどまでに彼が驚いたのは、またしても聞き覚えのある声が聞こえてきたからだった。
 しかもその声は昨夜聞いたばかりの声であり、今もアスレイの記憶に鮮明に残っている声。
 無我夢中で乗り込んだため周囲に気付かなかった彼は、ようやく斜め向かいの席へと視線を移した。
 まさかと思っていたが、そこには予想通り、あの二人の姿があった。

「わ、わ、わーぁッ!!」

 条件反射のように出された叫び声。
 その声は車中に響き渡り、外にいる御者にまで届いたほどだ。

「ちょっ、ちょっと、どうしたってのよ?」

 突然の大声に困惑した顔でアスレイを見るレンナ。
 一方でネールは額に手を当てため息を漏らし、隣のケビンは引きつったような笑みを浮かべていたのだった。

「また君は…そこまで驚かなくとも」
「はは…」









2018/11/13(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~63



 何とか馬車に乗り込む事に成功したアスレイは、車内に入るなり早速空いていた近場の席へと腰掛けた。
 木製の馬車内は両端で向かい合うような席になっており、10人程度が乗れるような造りであった。
 しかし疲労からそれどころではないアスレイは周囲を見渡す力もなく。そのまま項垂れるように背もたれへ寄りかかった。
 両手で頭を抱えながら上下に肩を揺らし、呼吸を整えていく。
 体が左右に揺れ始め、馬車が出発したことを知るとアスレイは更に深く、静かに息を吐き出した。

「ったく、情けないわねー」

 と、突如聞こえてきた、聞き覚えのある声。
 記憶を辿りながらアスレイは顔を上げ、声のした方向――隣席を見遣る。
 そこには見覚えのある少女の姿があった。
 結い上げられた茶髪を揺らしながら、彼女は顔に笑みを浮かべた。

「まるで一山越えてきたって感じの疲れ方しちゃってさ。意外と体力ないんじゃない?」
「あ、っと…レンナ?」

 手繰り寄せた記憶から彼女の名前を思い出し、声に出す。
 すると彼女はにこっと笑って「覚えててくれたんだ」と答える。
 余談ではあるが彼は相手の名前は絶対に忘れないように心掛けている。
 名前を呼ばれた方が人は喜ぶから。というのが彼の幼馴染の格言だったからだ。

「っていうかアンタ何でこの馬車乗ってんの。王都に行けって言ったじゃん」