語り手

シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2019/02/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~89 今日の気分次回更新は26日(火)予定です




「でも根は良い子なんです。ルーテルさんはみんな直ぐに音を上げてしまうこの仕事を文句ひとつ言わずにずっと続けてるんです」

 お世話になったモレさん親子のためにって。
 そう告げる少年の横顔は、まるで姉を思う弟のそれと変わらない。
 容姿から見てこの二人に血の繋がりはないと思われるが、それ以上の信頼関係があると思われた。

「うん。働いている姿を見ればよくわかる。仕事がって言うよりこの場所が生き甲斐っていう感じだから」
「はい、そうなんです」

 アスレイの言葉にリヤドは大きく頷き、言った。

「此処で働いてる人たちってみんな、家族みたいだなって思うんです」
「家族か…」

 そう誇らしげに話すリヤドを見やり、アスレイは自然と笑みを零す。
 先ほどから彼が見せていたその自慢げな様子はつまり、彼にとってルーテルは自慢の姉のようなものだからなのだろう。
 リヤドは視線をルーテルに向け、何かに気付いたのか突如彼女の方へ歩き出す。
 アスレイの元から去る際、最後に彼は一礼してから彼女の方へと向かって行った。

「その荷物はこっちですよ」

 遠くから見るとその光景はより一層姉弟のように映った。

「あっ―――それで俺は何をすればいいんだっけ?」

 そんな二人のやりとりに笑みを綻ばせていたアスレイであったが、本来の目的を思い出すなり慌てて彼はリヤドたちの方へと駆け寄っていった。





2019/02/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~88




「隣はルーテルです。彼女はここの一番の古株なんですよ」

 そう丁寧に説明する少年だが、何故か彼の方が鼻を突き出して得意げな顔をして見せている。
 一方でアスレイは、意外な古株に目を丸くさせた。

「こういった力仕事の場所で女の子が古株なんて、意外だな」

 それを聞いた途端、ルーテルは不機嫌そうに眉を寄せる。

「女性が古株で悪いってのかよ」

 突如、男勝りな口振りで彼女はアスレイに近寄り、睨みつける。
 ぐっと近付けてくる彼女の威圧感に、思わずたじろぎ冷や汗を浮かべるアスレイ。
 どうやら今のは禁句だったらしいと内心そう後悔する。
 このまま胸倉をも掴みかかってきそうな勢いであったが、此処で丁度良く助け船がやってきた。

「そこまでですよ、ルーテルさん」

 よく見るとリヤドはルーテルの背後で彼女の腕を引っ張っていた。
 ルーテルはリヤドを一瞥してからため息を吐き、謝罪も何もなくアスレイから離れる。
 そして、彼女は再び黙々と作業を始めた。
 呆気に取られているアスレイ。と、そんな彼へリヤドは、彼女に代わって深々と頭を下げた。

「すみません。ルーテルさんは“女が”って言われるのが好きじゃなくて…」
「いや、俺も偏見で物を言ったところがあったから。ごめん」

 素直にそう言って謝罪するアスレイは、不意にルーテルへと視線を移す。 
 彼女は悪びれる様子もなく、淡々と果物の詰まった木箱を威とも容易く運んでいく。
 確かに“彼女が古株”と言ってしまうのは偏見であったとアスレイは胸中反省した。

2019/02/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~87







 カレンに案内された仕事場は事務所らしき建物の隣にあった。
 木造の倉庫内には沢山の積み荷が置かれており、それを数人の人間が忙しそうに馬車内へと乗せているところだった。

「今は大体クレスタ行きばかりでね。そこらにある荷物をあの馬車に積んでくれりゃ良いよ」

 積み込みが終わった後は運搬専門の御者が目的地へ荷物を運んでくれるとのことだ。

「後の詳しいことはそこのルーテルとリヤドに聞いてくれ」

 じゃあ頼んだよ。そう言い残すとカレンは慌ただしくその場を立ち去ってしまった。
 いきなり中途半端な形で置き去りにされたアスレイは、仕方なく周囲を見渡し、それらしき人たちに声を掛けた。

「あの…短期で働きに来たアスレイ・ブロードですけど」

 アスレイの声を聞くなり、二人の人物がおもむろにアスレイを見遣る。
 茶色髪のショートヘアーの女性と、金髪を結っている少年だ。

「ああ、そうなんだ。よろしく」
「こちらこそよろしく」

 淡々とした口振りでそう言うと女性は社交辞令とばかりにその手を差し出す。
 握手を求められたアスレイは、慌てて自分の手を出し、彼女の手を握った。

「僕はリヤドです、よろしくお願いします」

 と、彼女の隣にいた少年が今度は自己紹介をし、深々と頭を下げる。
 にっこりと笑うと八重歯が特徴的な子で、それによって更に幼さを感じられた。

2019/02/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~86




「なんだいこれくらいでビビって」

 呆れ顔でため息を漏らす女性。
 と、アスレイの持っていた用紙に気付くなり、彼女はその顔色を変える。

「ああ!もしかして働きに来てくれたんだね」

 満面の笑顔に表情を変えた女性は、アスレイに近付くなり、その背中をバンバンと力強く叩いた。
 咽せてしまうような威力であったが、貧弱だと思われたくないためアスレイはそれをぐっと堪える。
 そんな様子から察した女性は口を大きく開けて笑った。

「私はカレン・モレ。ここの管理者のヤーグの娘だよ」

 ちなみに彼女の父であるヤーグ・モレは丁度ギックリ腰による療養中のようで。そのため人手不足で困っているところだったらしい。 
 彼女がころっと笑顔に変わったのはどうやらそんな理由があったからのようだ。

「猫の手も借りたいくらいだったから大歓迎だよ。期待させてもらうからね!」

 白い歯を見せながら、カレンはもう一度ドンとアスレイの肩を叩く。
 油断していたアスレイはその鈍痛に、思わず表情を歪めてしまう。
 
「ああ、ごめんごめん!」

 そうは言っているものの、カレンは全く反省している様子もなく。
 彼女は早速とばかりにアスレイの背を押し、仕事場へと案内した。





2019/02/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~85











 斡旋所で紹介されたヤーズ・モレという人物を訪ねるべく、アスレイは地図に記載されていた場所を目指す。
 地図上にあった○印の場所は、町外れにある大きな木製の建物であった。
 建物の隣には馬車が何台も止まっており、そこには配送所らしく出荷用であろう果物入りの木箱がいくつも積み重なっていた。

「すみませーん!」

 掛け声と共にアスレイはその建物のドアを叩く。
 が、返事はない。
 もう一度声を掛け、今度はドアを恐る恐る開けてみることにした。

「あのー、斡旋所の紹介で働きにきたんですけどー」

 屋内は机がいくつか並び、書類などの山が積み重なっていた。
 どうやらそこは事務所のようだが、何故か誰の姿もなく。しんと静まり返っていた。

「誰もいないのか…」

 おそらく仕事で皆出払っているのだろうと思い一旦出直そうとした、そのとき。

「いらっしゃい、荷物の宅配かい?」

 アスレイが踵を返した丁度目の前に、突然現れた女性。
 赤いバンダナが特徴的な茶髪の中年女性だった。
 突然登場した彼女に驚いたアスレイは、驚き目を見開いた。

「ウワアッ!」

 そして、思わず後退りながら悲鳴を上げてしまう。
 当然そんな化け物にでもあったかのような態度に、気分が良い訳もなく。
 女性は眉間に皺を寄せながら腰に両手を当てた。

2019/01/29(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~84 今日の気分次回更新は2月12日(火)予定です



 と、男性の手が止まりゆっくりとアスレイの方を見つめる。
 その眼鏡がギラリと光り、もしや禁句だったのではと、アスレイは自然と冷や汗を滲ませる。
 だが男性はさして気に留めていない様子で淡々と答えた。

「これは此処で斡旋され職に就いた者たちの経歴を記入しているんですよ」

 何でも彼の話によると、此処の斡旋所を通して職に就く者たちは、年齢・性別・身長体重・解る者は出身地や家族構成などを告げる規則らしいのだ。所謂履歴書を作成するというものだ。
 ちなみにアスレイのような短期での雇用は必要としないようで、そのためプロフィールを聞かれなかったというわけだ。

「領主様が緊急事に必要となるだろうからと義務付けているのですが…これが役に立った例がないので、全くもって時間の無駄な作業ですよ」

 皮肉めいた口ぶりで男性はそう漏らすと、眼鏡を押し上げて、再びその無駄と言っている作業を始めた。
 この町特有の規則に首を傾げるアスレイであったが、だからこそこの町は此処まで発展しているという事実と、男性がこんなにも人知れず苦労するのだろうという実態は、何となくではあるが理解出来た。

「…まあ、あの…頑張って、下さい」

 結局のところ、そんな言葉を掛けてあげることでアスレイは精いっぱいであった。
 これならば興味本位で聞かなければ良かったかもしれないと、若干の後悔を胸に秘めつつアスレイは斡旋所を静かに立ち去り、地図に描かれてある場所へと向かった。









2019/01/29(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~83



 丁度良い仕事はないかと文面を指先でなぞり、それを視線で追うアスレイ。
 いつの間にか室内の埃っぽさも消えていたのだが、そのことなどすっかり忘れている。
 と、アスレイはある文面でその指先を止めた。
 そこには『収穫した果物、野菜の配送手伝い……日当銀1枚』と書かれていた。

「銀1枚!結構な額だし、これに決まりだな」

 そう言うや否や彼はベッドから立ち上がり、軽い手荷物だけを持って外へと出かける。
 勿論行先は冊子に書かれてあった仕事の斡旋所だった。







 キャンスケットの町の中央通り、その一角に仕事の斡旋所があった。

「すみませーん。宿に置いてあった冊子の仕事募集を見てやって来たんですけど」

 そこを訪ねたアスレイは早速、受付にいた若い男性へ冊子に載っていた仕事をしたいとの説明をする。
 すると受付の男性は一枚のビラを取り出し、カウンターに置いた。
 その紙にはこの町の地図。そしてその一か所に○が記入されている。

「その印が書かれている場所に住むヤーズ・モレと言う方に、此処から斡旋されたことをお話しください。まあ、その紙を見せれば直ぐに理解すると思いますけど」

 淡々とそう説明すると、男性はそそくさと自分の持ち場に戻ってしまう。
 彼は所内奥の机に向かうなり、何やら書面に色々書いているようだった。
 さほど気にするべきではないと思いつつも、黙々と作業をしている様子が何となく気になってしまい、アスレイは興味本位に男性へ尋ねた。

「それってもしかして、何かの仕事ですか?」


2019/01/29(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~82




「何々…『キャンスケットが取り組んでいる様々な事業を紹介します』…か」

 どうやらキャンスケットという町についての案内書のようなものらしく、その内容はキャンスケットが現在行っている事業や活動、観光名所や名産品などが詳細に記載されているといったものであった。
 特に力を入れている事業というのが、先ほどティルダも別れ際に言っていた慈善活動のようで。未開拓地であった山林を利用し、果物畑を開拓。そこで働き先を失った者や孤児たちに職を与え、収穫した果物を収穫し売ることによって彼らに収入を与え、養うことが可能となっているのだという。
 同様の方法で領主が経営している職場はこの町にいくつも存在しているらしく、冊子の最終ページには働き手募集中の仕事一覧が掲載されていた。

「あ、これ―――日給制で金額も申し分ないし、この町でちょっと働いてみようかなぁ」

 と、思わずアスレイが呟くのも無理はない。
 故郷を出て早一月近く。ここまでの道のりで彼は所持金の半分近くを既に使ってしまっていた。
 大体が馬車移動での運賃。宿代。そして言われもない弁償代などで消えている。
 今まで溜めていた小遣いと家族から貰った貯金でここまで来られたわけではあるが、残金が少ない以上これから先はそういうもいかない。
 現地で稼ぐ必要性があった。

「製糸工場で服の裁縫、修復…収穫した果物の加工作業…こう言うのはちょっと俺には合わないかな」


2019/01/29(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~81










 山道が開通するまでの時間、アスレイには余裕が出来た。
 そのため彼は先ず、前回の経験から宿の確保へと走った。
 生誕祭が終わるまでは油断できない。またクレスタの二の舞になるわけにはいかなかった。
 案の定、キャンスケットにある二件の宿は既に生誕祭の影響で満室ギリギリの状態であった。
 何とか間一髪、部屋を取ることが出来たアスレイは、早速その部屋へと向かう。
 階段を上がった右手直ぐの扉、201と書かれた部屋が彼の宛がわれた部屋だ。
 扉を開け覗いてみると、一人用のこぢんまりとした室内はベッドと明かり用の燭台、机が置かれているだけで如何にもと言った簡素な造り。
 しかし彼にしてみればベッドがあるだけで充分にありがたかった。

「…と、これからどうしようかなあ…」

 おもむろにベッドへと横たわったアスレイは、天井を仰ぎながらぼやく。
 暫くこのまま寝ていようかとも思ったが、室内の埃っぽさに体を起こし、窓へと手を伸ばした。
 と、そのときだ。
 ふと机の方に視線を向けると、そこには一冊の冊子が置かれていた。
 その冊子は刷った用紙を紐で閉じているもので、表紙には『キャンスケットへようこそ』という文字が書かれている。
 アスレイは窓を開けた後、次いでその冊子を手に取ってみる。
 心地良い風が流れ込んで来る中、彼はベッドに座りながら一枚ページを開いてみた。

2019/01/15(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~80 今日の気分次回更新は29日(火)予定です




「ここまで不運続きだと、なんだか返って何をやっても駄目な気がしてきてさ。焦って行ったところで無駄足になりそうだし」
「無駄足って…今こうしてる間にも天才魔槍士が王都にいるかもしれなくても?」

 アスレイは強く頷き、そして笑う。

「『不運が続くときは幸運の女神が“立ち止まって周りを見るべし”と言っている』…ってね」

 俺の故郷に伝わる諺だよ。と、何故か得意げな顔をして説明するアスレイ。
 しかしそんな言葉を取り上げたとしても、レンナにとっては明らかに開き直った者の言い訳にしか聞こえない。
 内心同情していた彼女は即座にそれを撤回しつつ、呆れ顔で深いため息を吐いた。

「ホントに今、王都行かないくていいの?」
「行かないって言うか…今急いで行くのは止めたってことだよ」
「クレスタに戻って、王都に行くつもりもないの?」
「とりあえず山道が開通するまで待つよ」

 そう言うとアスレイは何処へ向かうわけでもなく、歩き出していく。
 その足取りは軽く、というよりも、まるで遠足を楽しむ子供のようにはしゃいでいるようだった。
 吹っ切れた彼はどうやら町の観光を楽しむつもりのようだ。
 そんな彼の後ろ姿を見つめていたレンナは、額に手を当てながらもう一度ため息を漏らした。

「もう…それで後悔することになっても知らないからね」

 それから後を追いかけて、レンナは走り出した。