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シキサイ奏デテ物語ル
黄昏の魔女と深緑の魔槍士

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交換日記レンタル - nikkijam

2018/06/19(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~8 今日の気分次回更新は26日(火)予定です



 つまり、そんな店主たちから見れば、先ほどの少年が田舎から出てきたばかりの青二才であることは、容易に想像できるというわけだ。
 と、女店主――おばさんは眉尻を吊り上げながら「人聞きの悪いこと言わないで頂戴」と答える。

「軽い冗談のつもりだったんだよ。そもそも、こんなに大きく看板に値段書いてんのに、疑いもしないあの子が悪いのさ」

 と言って、女店主は背後に掛けられている看板へと目配せる。
 木製の看板には「自慢の特製ジュース2ゼニー!」という文字が躍っていた。

「まあ、あたしの冗談なんてのはまだまだ可愛いもんさ。でも、あの調子じゃあ…今日中には財布が空になってるかもね…」

 自身が騙したことはすっかり棚に上げ、反省する気もなく女性はケラケラと笑う。
 見かねて男は溜め息混じりに「あんたが言える立場じゃないだろ」とぼやき、それから再度遠くを見つめた。
 田舎から出てきた少年が、社会の厳しさを目の当たりにするだろう未来に哀れみ同情を抱きながら。





2018/06/19(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~7



 おばさんは銅貨を受け取ると最初に見せた笑みをまた作って見せる。
 彼女の満足した様子に安堵の表情を浮かべた少年は軽く一礼し「ありがとう」と言いながら踵を返し、また軽快な足取りで立ち去っていった。



 青年の後ろ姿が人混みの彼方へ完全に消えたと同時。
 待っていたとばかりにおばさんを呼ぶ声が何処からか聞こえてくる。

「おい」

 それはおばさんの店の隣の店主であった。
 その壮年男性店主は、眉間に皺を寄せながら告げる。

「あの少年、田舎もんだったんだろ?」

 男はそう言って少年が消えていった方向へと視線を移す。
 今はもう見えなくなった彼の背中を憐れむように目を細めさせ、そして再度男はおばさんを見やる。

「あんな田舎丸出しの少年をぼったくるとか…良い商売してんぜ、アンタ…」

 その口振りは呆れと少年への同情が含まれていた。
 この町の大体の商人たちは目利きが鋭く、客を見極める観察眼を持っている。
 それはこの町が様々な人の行き交う、流通盛んな商業の町であるが故に身に付く技術であるが。
 そのため彼らはその人物がどこ出身で、どんな手練れであるかも直ぐに見抜くことが出来るのだ。

2018/06/19(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~6




「へえ。じゃあ一つ貰おうかな」

 呼び止められた少年はそう言って人差し指を突き立てながら店主の女へ笑みを浮かべる。
 余裕のある表情でいたが、実際は丁度喉が乾いていたところだった。
 ジュースを受け取るなり彼は喉を鳴らしながら、一気にそれを飲み干した。味わっている素振りもないほどにだ。

「ごちそうさま。すっごい旨かったよ!」

 満足げな表情でそう言うと少年は空になったカップをおばさんに返す。
 が、しかし。おばさんは彼とは真逆に不満な顔で少年を見やる。
 笑顔を浮かべながら立ち去ろうとする少年へ、おばさんは先ほどより低めの声色で言った。

「あのねお兄さん…代金まだ貰ってないんだけど」

 顔を顰めさせながら、彼女は片手を少年の前へと突き出した。
 その一変した態度に少年は驚き、目を丸くさせる。
 てっきりサービスだと思い込んでいた彼は、静かに乾いた笑みを浮かべた。

「あ、え、そうなの?」

 少年は慌てて懐から麻袋を取り出し、そこから数枚の銅貨を自分の掌に乗せつつ尋ねた。

「えっと、いくら?」

 するとおばさんは暫く間を置いてからほくそ笑むと掌で四の数字を表した。

「4ゼニーだよ」

 それを聞いた少年は躊躇わずに、しかも何度も枚数を確認しながら丁寧に、店主へしっかりと銅貨四枚を手渡す。
 そして満面の笑みを浮かべて「これで良いんだよな」と、言った。

「…ああ、毎度あり!」


2018/06/19(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~5








 アウストラ大国。
 アウストラ大陸を統治する世界唯一の王国。
 気候は地域により様々であり、政治体制は王政であるが、各地の治安や政は領主に一任されている。
 これという大きな争い事もなく、至って平和な国であった。



 そんなアウストラ大陸西部に位置する町、クレスタ。
 物語はここから始まる。





 クレスタはキャンスケット領にある流通の町。
 各地からの物品が行き交う地であるため、商業が主に賑わいを見せている。
 大陸の台所とも言われる有名な町だ。
 週末ともなると町の大通りには露店が並び、祭のように人が集まり賑わう。活気あふれる町である。
 そんな町並みを、一人の若者が軽快に歩いていた。



 年齢は十代後半辺り。
 中肉中背に鳶色の髪。若者らしくハーフパンツにパーカーという、至って健康的な普通の少年だった。

「ちょっとそこのお兄さん、なんか買ってかない?」

 と、大通りの市場内で、少年は突然呼び止められる。
 視線を向けたその先には、手招きをしている果物屋のおばさんの姿。
 彼女の片手には色鮮やかな赤葡萄色の液体の入ったカップが握られていた。

「クレスタ名物搾りたて葡萄ジュースだよ。一杯いかが?」

 木製カップに注がれている濃い赤紫のジュースからは、甘く芳醇な香りが漂っている。

2018/06/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~4




「百年に一度の逸材…史上最年少で“魔道士”となり、“魔槍士”の称号を得た…大陸最強と謳われる天才魔槍士…」

 華麗な槍捌き。
 それにより圧倒される竜。
 彼自身は何一つ素性の説明をしていなかったのだが、そこで傍観していた誰もが疑うことなく確信した。
 間違いなく、彼こそが噂の天才魔槍士であると。



 素早く薙ぐ槍が風を生み出し、その烈風がドラゴンをまた切り裂く。
 と、けたたましい程の叫び声を上げた直後、ドラゴンはその場に力無く崩れ落ちた。
 それが勝利の合図となった。
 動かなくなったドラゴンと時同じくして、うねりを上げていた溶岩流は静まり、赤々と燃えていた大地はゆっくりと冷えて黒くなっていく。
 地獄絵図のようだった灼熱の光景は消え失せ、そこには寂しげな荒野だけが残された。
 世界の終わりだと嘆き悲しんでいた民たちは目の当たりにした光景に、一変して青年の勝利に歓喜の歓声を上げた。感激の余りに泣き崩れる者さえいる。
 喜び沸き立つ皆の中で、巫女の瞳にもまた溢れ出るものがあった。
 予見していた未来だったとは言え、内心不安でたまらなかった巫女。
 流れる涙をそのままに、震える両手を口元に添え、彼女は小さく呟いた。

「本当に、ありがとう…」







 -――天才魔槍士が封印されていた伝説の怪物を倒す―――



 この出来事は瞬く間に噂となり、直ぐ様大陸中へと広がっていった。
 こうして『天才魔槍士』の名は更に有名となり、今や大陸の誰もが知る、最強の魔導士となっていったのだった。







2018/06/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~3




「…しかし巫女様、彼一人で何が出来るというのだ」
「相手は伝説の怪物! 抵抗するだけ無駄だろう!」

 本来、巫女様とは神聖な者であり崇められるべき存在のはずなのだが、冷静さを失っている彼らにとって今や彼女はただの少女と変わらない。
 彼女の言葉を受け入れられず、怒声さえも浴びせるほどだった。
 しかし、それでも巫女は至って冷静に、静かに一人の青年を見つめ続ける。
 彼が大陸を救う救世主であると信じて。

「お願いします魔道士様…貴方のその力で、民を…大陸をお救いください…」

 巫女は両手を合わせ、強く祈った。
 と、そのときだった。



「…すげぇ」





 一人の男がそう呟いた。
 それを聞いた巫女は急ぎ祈りを中断し、前方を見やる。
 すると巫女もまた驚愕し、思わず目を見開いてしまう。
 周囲を焼き尽くし、破壊し続けていたドラゴンの両腕、両翼が一瞬のうちに切り落とされていたのだ。
 片や魔道士の青年に怪我はないようで。まるで舞うが如く槍を振るい続けている。
 まさかの一方的な戦力差に民たちは口を大きく開けたまま、閉口せざるを得ない。
 しばらくしてから、思い出したように一人の男が口走った。

「そういや、あの噂は本当であったと言うのか…」

 初老の男の言葉が耳に入り、巫女もまた瞼を伏せ、自身の記憶を巡らせる。



2018/06/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~2



 彼らは口々に絶望を漏らし、最悪の結末を受け入れ、ただただその時が来るのを呆然と傍観していた。
 それは、彼らがこの竜を代々監視してきた一族だという由縁にもあった。
 伝説の怪物に対する恐怖の伝承と監視の使命を妄信し続け、受け継ぐことが彼ら一族の役目。
 だからこそ彼らはドラゴンの目覚めが“時の終末”だと信じて止まなかった。
 そこにいる誰もが皆、全てがこれで終わるのだと思い込み、絶望を受け入れざるを得ないでいた。




「――まだ全てが終わったわけではありません」

 そう告げる声は、絶望に打ちひしがれる民たちの背後から聞こえてきた。
 一同が振り返った先には、一人の女性の姿。
 顔以外を分厚いローブによって包み隠している神秘的な雰囲気を放つ女性。彼女を見るなり民たちは「巫女様」と叫んだ。

「私が受けた神託は、竜の復活を告げてはいました。ですが、大陸の終わりまでは告げられていません」

 凛と澄まされた声。
 巫女はドラゴンのいる方を指差し、ゆっくりと歩き出す。

「何故なら、竜の復活と同時に現れる彼が……大陸を救うと告げていたのですから」

 彼女の指すその先――ドラゴンと対峙するその場所には一人の男性が立っていた。
 流れる金色の髪は緩く三つ編みに編まれ、深緑のコートが熱風により緩やかにはためく。
 普通ならば一分一秒と居られないはずだろうその場所に、男は汗一つ流すことなく涼しげな顔でいた。
 切れ長の双眸には恐れの色さえない。
 片手に槍を持ち、その時を待つかの如く静かに佇んでいた。

2018/06/12(火) 語り手
タイトル 黄昏の魔女と深緑の魔槍士~1











 大きな怒号は遠くの山まで轟き、その気迫は他の生き物たちを畏れさせた。
 鋭い牙を見せる口から零れ落ちる灼熱のマグマ。羽ばたく翼は熱風を生み出し、大地を焼く。
 ――それは朱い鱗の巨大な竜、ドラゴン。
 ドラゴンの周囲一帯は地面が溶け、やがて溶岩流となっていく。
 それ故に誰もそいつへと近付くことは叶わず、そこに居るだけでそれは恐怖を与える、絶対的な存在であった。
 伝説のドラゴンが最強の怪物と謳われる所以だと、誰もが疑いさえもしなかった。



 そんなドラゴンを遠目に――ドラゴンを見下ろせる遠方の崖上から――静観していたのは、この地で暮らしている部族たちであった。
 彼らは秘境とも言うべきこの山間で静かに暮らしていた。
 だがそんな平穏はドラゴンの復活と共に一瞬にして奪われる。
 大事なものを奪った忌むべき怪物。だが、民たちはドラゴンに手出しが出来なかった。
 圧倒的な力量さも当然ながら、彼らは目覚めたドラゴンが暴れることを「運命」なのだとし、諦めていたのだ。

「目覚めた竜を止めることは出来ない…」
「終末の時がきた」
「…神託の通り、これから大陸の全てが終わる」



2018/06/12(火)
タイトル シキサイ奏デテ物語ル オープン


シキサイ奏デテ物語ル がオープンしました